一次式人間ホイホイ
二次式人間ホイホイ
三次式人間ホイホイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


一次式人間ホイホイ






『…………』
 他に見るものもなく、彼らは、ただお互いを見つめた。
 青と黒を混ぜたような不可思議な毛色をした彼は大きく瞬きをする。
 向かい側で校門に背を預ける少年は赤と黒のストライプシャツの上にジャケットを羽織っている。それはいい。でもその頭の王冠は何だ。
(新手のコスプレ?)
 胸中で囁いて、腕時計を見る。
 彼が目的とする時刻まで秒針はまだ進まない。肩でため息をついた。
 一方、金髪を撫で付けながら少年は首を傾げた。
 向かい側で校門に背を預ける少年は他校の制服を着込んでいる。ジャケットの内側には迷彩柄のシャツ。それはいい。でもその髪型はなんだ。
(フルーツのパイナップル?)
 胸中で囁いて、校舎を見上げる。
 彼が目的とする時刻まで秒針はまだ進まない。
 足を組み替え、頭の後ろで両手を結んだ。
(……。どうでもいいが、いつまでいるつもりだろう)
(オンナと待ち合わせかな。ま、別にど〜でもいいけどお)
 そのままで三十分は過ぎた。やがて両目を閉じたが、、チャイムと同時にオッドアイが開いた。
 ほんの少しの間をおいて、生徒が校舎より溢れ出す。好奇心を帯びた視線を受けつつも、二人は校門の前から動かなかった。
「――でさあ。リボーンのヤツがまた変な遊びを開拓したみたいでさ」
 その少年の声音は決して大きくない。
 左右についた友人二人に語りかけるほどの声量だ。二人は、同時に息を吸いこんだ。
「今日、呼ばれてるんだよね。よければ二人とも付き合って……」
「いいですよ」「いいんじゃん?」
 同時、グラウンドへ足を踏み入れる。
 ギョッとして足を止めるのは沢田綱吉だ。
 右側に獄寺隼人、左側に山本武。少年ふたりはというと、驚きに目をむいお互いを見つめていた。
「む、骸にベル……?!」綱吉が後退る。
「ベルフェゴール」
 すかさず訂正をいれたのは本人だ。
 わずかに首を傾げたまま骸を見、しかし、やがて気を取り直して綱吉を見た。
「面白そうな話じゃん。付き合ってやっていいぜ」
「お、おまえがどうしてココに……?! ザンザスたちと一緒にイタリア帰ったんじゃ!」
「べっつにぃ? オレはオレの好きなように動くに決まってんじゃん。王子だし」
 悠長な喋り口だ。骸が再び腕を組んだ。俯き加減に、不機嫌な声をあげる。
「僕と綱吉くんの間に立つのはやめてくれませんか?」
「あれっ。王子にンなこと言っちゃっていいの?」
「王子って。バカですか君は。こんなトコを堂々と一人で歩いける王子様が存在するもんですか」
「おっ。今の発言はNG! 侮辱罪適用かもしんねェーな」
 王冠がきらりと光る。自信たっぷりに、ベルフェゴールが言い放った。
「王家に逆らうヤツは牢獄行き。クサいメシくって死にたい?」
「クフ。僕は、牢獄に一度も入ったことないのが自慢です」
 晴れやかな笑みを見せ、しかし言ってる内容はどす黒い。
 綱吉は、戦々として二人を見上げた。
 左右の二人が思い切り顰め面をしている。
「まー、とりあえず道を開けてほし――」
「シッ!! 山本、突っ込んじゃダメだ!」
(オレすらも突っ込んでないんだから!)
 引き攣り、コソコソと耳を寄せ合う彼らだが、骸は真っ直ぐベルフェゴールを睨みつけていた。自らの左手を差し出す。きらり、彼の指に光るのは銀製の指輪だ。
 ベルフェゴールはニヤリとした。唸るように問い返す。
「ボンゴレの暗殺部の仕事ってさ、たまに幹部の暗殺もあるって知ってるか」
「ただのクソガキが六道輪廻を経た僕に勝てるとでも……?」
「オレ、王子だもん。一般市民が勝てるワケないね」
「長く生きてみるものですね。修羅道でも君のような重度の妄想癖は見たことがない」
「王子だから会食も多いし知り合いも多ーけど、アンタみてーのは初体験だなぁ〜」
「ふ。クフフフ……!」
(電波対決っぽくなってきたな……!)
 静かな哄笑が響くなか、綱吉は覚悟を決めた。
 左右の少年とも示し合わせた。少年二人が言い合いを続けながら各々の武器をとりだす、ベルフェゴールがナイフを掲げた瞬間に綱吉が駆け出した。
 遠巻きにしていた生徒たちが悲鳴をあげる。
 ほぼ同時に、十本ものダイナマイトが破裂した!
「綱吉くん? 迎えにきたのに置いて逃げるってどういう了見ですか!」
 目を丸くするのは、爆撃を避けて校舎側へと飛び込んだ骸とベルフェゴールである。
「王子さまの出迎え蹴っちゃうわけぇ? おひめさーん!」
 綱吉は振り返らない。
 獄寺と山本と共に、ダッシュで逃げていく!
『ッチ』同時に舌打ちして、骸とベルフェゴールが顔を見合わせた。
「僕の邪魔すると本気で殺しますよ!」
「王子にたてつくと地獄をみるよ一般市民!」
 八重歯を光らせ、ベルフェゴールは王冠をずりあげた。
 爆風で頭から落ちかけていたのである。骸が赤い右目を瞬かせる。ヴッと羽音をたてて、『一』の文字が浮かんだ。綱吉たちの悲鳴が轟いたのは、その直後である。
「へっ。ヘビがでたぁああああ!!」
「これでも僕を一般市民呼ばわりしますか?」
 綱吉の背中から目を離さず、しかし駆け出しつつも骸が言う。
「当たり前じゃん。王子サマはお姫サマ以外は眼中にないもんだもん」
「ひめ……」さすがに絶句する骸をおいて、ベルフェゴールは両手を振りかぶった。
 ターゲットは綱吉である。スレスレに跳んでいったナイフの嵐に悲鳴があがった。
「なんなんだアンタらは! ぎゃーヘビが! ヘビが!」
「ふ。綱吉くんにはヘビの方が脅威みたいですね」
「王子を舐めるとイテー目みるぜっ」
「ぎゃあああ!!」
 ナイフがびぃんと民家の塀に突き立った。
 シャツの襟首を貫通した上である。
 涙目になって、綱吉はコンクリートを見下ろし体を捻った。ヘビの大群が迫りくる幻影が見えるのである。山本と獄寺はまっさきにヘビに雁字搦めにされていた。骸とベルフェゴール、及び周囲の生徒には、ただコンクリートの上をのたくっているように見えるが。
「じゅ、十代目――っ。お逃げください!!」
「無理っ。すっごいムリそれ!」
「二度と逃げる気が起きないようにしないとダメですね」
 にこり。晴れやかに骸が言う。
「王子さまはなー、晴れ渡るような心は持ってるけどシメるとこはシメるもんだ」
 ベルフェゴールはニヤニヤとしていた。その手にはナイフがある。骸が目を細くさせた。
(まあ、意外にイジめるダシには使えるかもしれませんが……。綱吉くんに近づきすぎるようなら抹殺ですね)
(幻影スキルか。なかなか遊べそうだけど姫さんをイジメすぎるようならぶっ殺し)
 ベルフェゴールが、前髪で隠された両目を密かに笑わせる。彼らは互いに顔を見合わせた。思えば校門の前で同じ少年を待っていた辺り、意外と気が合うかもしれない……。意外と。
「絶対にないだろうが」
 どちらからともなく呟いたが、彼らは、ともに深くは尋ねようとはしなかった。
 顔を見合わせたままニヤニヤとする。綱吉が不安げに囁いた。
「あの……。オレ、かえっても……。リボーンが」
「それよりもどうしてココにいるんだーとか言わないんですか」
「今更?! 骸さんに関しちゃ今更すぎるくらい今更ですよ?!」
「オレは? お姫さん。王子様、迎えにきてくれてありがとうーとか」
「ハァッ?! ひ、ヒメって何が誰が――?!」
 声を裏返らせる綱吉である。
 にわかに笑い、ベルフェゴールがナイフを掲げた。
 公開プレイ、と、うめいた声は骸のものに聞こえたが突っ込む気力は無かった。綱吉が絶叫した。ようやっとザンザスの一件が解決したと思った途端の惨事なのだ。
「か、勘弁してくださあああああい!!」
 しかし、悲しいかな。皮膚スレスレに飛んでくるナイフに、綱吉はキツく両目を閉じ合わせた。
「ザクっと刺しても平気ですよ少しくらい」
「あのな。お姫さんには、手荒なコトしねーもんじゃん?」
「手荒だからなっ? 今の時点で充分に手荒だからな――?!」
 綱吉の絶叫を無視して、ナイフが飛んだ。はらりと数本の髪の毛が切れる。
(な……っ。なんでこう、オレんとこにゃー日に日に変な趣味のアブナイヤツばっかり集まってくるんだよ――っ?!)
 あるいは、それは彼の人生においての命題かもしれなかった。






06.08.17

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