(某社から発売されたヴァルキリーなプロファイルが元ネタなもののほとんど別物なRPG的ファンタジー)
(骸→れざーど・う゛ぁれす ツナ→う"ぁるきりー の位置なものの彼らの設定を生かす気が0な(…)ゲームパロです)

二度目の星




「あ。死んじまった」
 山高帽を頭に被り、むっつりとした顔で少年は手鏡を覗いた。
「あー、あー、あーあ。何人まとめて逝かせるつもりだか。おい、行ってやれ」
「へ?」貧相な麻のシャツと黒地のズボンで身を包み、少年は噴水のフチに腰かけているところだった。突如として頭に響いた声に、彼は眉を寄せて天空を見上げた。
  丸く広がる空に、煙幕のような形で薄いモヤが伸びている。
  誰からの声であるのかは知っている。現在の彼は、リボーンと呼ばれる二級神のパシリになることが運命付けられていた。リボーンは『水鏡』と称される、触れれば波紋を生みだす神の手鏡を持っているに違いなかった。リボーンはそうして、下界で動き回る綱吉とコンタクトを取るのだ。
「行けっつってんの。生者を冒涜する存在だ。……魔術師か?」
「お、おい。水鏡に何が映ってるんだよ。オレじゃないの、リボーン」
「無能なテメーの代わりに仕事してやったンだよ。オラ、行け。そこから南西、深明の森近くの村だ。壊滅してるがな」
「!」綱吉が緊張する。
  脳裏で、リボーンが鋭利な眼差しをやわらげた。
「せいぜい頑張れよ。この波動は、多分エストラーネオだ。錬金術師にして死霊術師。王立魔導アカデミーでは半年前まで主席だったが、邪道に手を染めたってコトで破門されてる」
「……人間なんだよね? なら、どーにかなるよ」
 豚肉の串刺しに横からかぶりつき、綱吉が咥内いっぱいをモシャモシャと動かした。ごくんと呑みこみ、勢い込んで立ち上がる。
「オレだってちょっとは自信ついてきたんだから! 生前のオレじゃないんだし、たかが人間なんかに負けるもんか!」
「は。ダメツナとは思えねーほど勝気な発言だな」
「この八年間、なかなかオレだって頑張ってるだろ? リボーンの言う通りにヴァンパイアだって倒したしハーピーだって殺したしドラゴンだって仕留めてみせた」
  ポケットから取り出したのはグローブだ。神の武器と称されるもので、中央にはペケ印がある。倭国で、まだ人間として生きていたころ、綱吉は森の奥深くで一対のグローブを見つけたのだ。
  そのまま、村に戻れずに不死者に殺された少年だったが、グローブが神の品であったために、死したあとには神の世界に足を踏み入れていた。沢田綱吉を最初に見つけたのがリボーンだ。リボーンは、綱吉を輪廻の輪に戻さなかった。地上の不死者を始末する存在を求めていた、と、面倒だからテメーがやってこい、代わりに六級神にしてやるから、と、そんなこんなで怪しいキャッチセールスに引っかかりましたのノリで、綱吉は新人の神さまになったわけである。
(そりゃ相手はドロドロのグチャグチャで、攻撃されると痛いしイイ役じゃないけど、でも今なら村のみんなもオレのこと認めてくれるはず。オレがやってんのは、人助けだもん)
  その事実が綱吉を誇らしくさせる。リボーンは、綱吉の成長に満足していた。
「人間のなかにも強力なヤツはいるぜ。注意してな」
「うん!」
  綱吉は人通りのない路地を探した。
  一つ、暗がりのうずまく場所を見つけて飛び込む。
  間をおかずに、天空目掛けて一筋の光が飛び出した。みすぼらしい姿が一転、綱吉の胴体と両足に鎧が絡み付いていていた。頭にはゴーグルをひっかけ、耳元には羽根飾りのワンポイントがある。羽根を除いた全てが蒼穹の色をして、人間ではありえない神気を全身に帯びていた。
 背中に羽根を生やしたその姿が、今の綱吉の真なる姿だった。
  リボーンからの通信は途絶えた。戦神は一直線に森をめざし、ふもとで控えめに佇んでいた山村へと着地した。目的の場所はすぐにわかったのだ。黒煙が空の高いところまで伸びている。
「うわっ。ひどっ」
  民家の壁が赤く染まっている。
  人間の血の色だ。綱吉は、着地したままの態勢でげんなりとした。
「これが人間のやること……? かなりイッちゃってるじゃん!」
(今回はラクできるかなとかちょっと思ったのに!)
  生来、田舎村でのんびりしていた綱吉なので、出来うる限り争いたくないのが本音だ。自分が怪我をするのは争うよりもイヤだったりする。
 二級神の言うとおり、村はものの見事に壊滅していた。
  村人が落ち重なるように倒れ、その中には手足が石化しているものがあった。手酷いのろいを受けたのか、両腕を紫に変色させているものもいる。女も、子供も老人も関係がなかった。家畜すらも含めて皆殺しだ。 悲惨な死があたりを取り巻いていた。
  綱吉は、胸元まで両手を引き上げた。戦いの場では、グローブが命綱だった。
「これだけのコトができる……。なら、オレにも気付いてるな? エストラーネオ、でてこい!」
  虚しく、壊滅した村に呼びかけが木霊する。
  何度か繰り返した後、諦めて、綱吉は民家を覗いてまわることにした。
「だーれか、いませんかー……」(まぁ、実際にいたら怖いんだけど)
  四軒目に足を踏み入れたときだ。綱吉は悲鳴と共に仰け反った。紫のマントに体を包めるようにして、一人の少年が倒れ伏していた。
「だ、大丈夫?!」
「う、うう」
  肩を抱き上げれば、真っ白い顔色が露わとなる。
  綱吉はぞっとした。まるで、死人のような顔だ。今すぐに死んでもおかしくはない。
「しっかりしてください。助けにきました。今、回復を――」
「…………」
  腰袋に手を伸ばす綱吉を、少年が片手で制する。
  薄目を開けた彼の瞳は、片側が赤色で片側が青色だった。
  信じられないように綱吉を見上げてから、自分の状態に気がついたようで、壁に手をつきながら起き上がる。混乱したように、気だるげに喉を震わせた。
「君は? どうしてここに?」
「沢田綱吉です。倭国出身だけど、今は神さまやってる。あなたは? 今すぐ、ここを離れた方がいい? リボーンなら怒るけどオレは人命優先だし――、町まで送るよ。きみって旅人?」
  マントはボロボロで、暗緑色の上着は着膨れしたように膨らんでいた。腰から紐をさげて、それだけで鈍器になりそうな二十センチほどの厚本をぶらさげているが、それが異様な以外は、たまたま立ち寄った旅人のような出で立ちだ。
「わたしも、倭国出身ですよ……」
「そうなんですか。なんで、こんな大陸の奥地にくるのは大変だったでしょーね――ああ、いや、今はそれどころじゃない。いきましょう」
  少年は首を振る。まだ、ショックから立ち直った面持ちをしていない。綱吉は痛々しげな思いで彼を見つめ返した。しかし、彼は再び首を振る。
「僕はここに大事なものを取りに来た。まだ、帰れない」
「でも、危険なヤツがいますよ。あなたも見たんでしょう。どんなヤツでした?」
「エストラーネオですか。巨大なカエルを連れてましたよ。そいつの唾で村人が石化した。ああ、あと、僕のことは骸と――、六道骸と呼んでください」
「骸さん。……変な名前ですね」
「僕もそう思いますよ」
  さらりと言い捨てて、骸は自らの襟首を口の上まで引き上げた。
  奇妙なスタイルだった。が、もう喋らないという意思は伝わって、綱吉は黙って骸にあとに続いた。しばらくして、民家の裏手を前に骸が足をとめた。うろうろと、屍のあいだを行ったり来たりした末の行動だった。
「ここですね。神気が漏れてる」
「そうなの?」
  綱吉が目を丸くする。
  薄目でチラリと、見返すだけで骸は腰紐を手繰り寄せた。
(なんも感じないんだけど。一応、神さまの端くれなのに)
  ぱらぱらとページをめくり、一箇所で止める。人差し指を当てながら、骸は早口で呪文を紡いだ。本が真白い光を放ち、他のページがドクドクと脈打ちだした。
「隠された道を晒せ。私の前に隠し事は許さない!」
  それが、魔力を帯びた言葉だと綱吉にも感じ取れた。
  地面が抉れて、地下へと続く階段が現れた。
「どうなってんですか、これ……」
「君もくるといい。エストラーネオが求めるなら、恐らく、わたしの目的と同じはずでしょうから。ここには神の器が封印されてるんですよ」
「かみのうつわぁ?」
「本のタイトルと聞きます。神になり得る体の、ホムンクルスの製造法を記した罪深き写本でもあると噂される」
(アーティファクト、かな)
  綱吉は目を細める。神の遺品とも言われる、類稀なる威力を込めた魔法の品をアーティファクトと呼称する。各地に散らばっているので、そのアーティファクトの回収も仕事の一部だった。綱吉が両手に嵌めたグローブ、それ自体がアーティファクトだ。
  しばしの沈黙の末に質問をした。
「それとエストラーネオと、何で、この村の人たちが殺されなくちゃならないんですか」
 階段の先に明かりは無かった。骸が五指を開いて壁を撫でる。すると、五指に光が灯った。地脈の力を借りたのだと、それくらいの知識はリボーンに叩き込まれていた。
「……エストラーネオの目的なんて僕は知りませんが?」
「はあ」
  やや、突き放された気がして綱吉が骸を見上げる。
  彼は前だけを見ていた。少し前まで、動揺していた面影はなく、足取りはしっかりとしている。綱吉が冷や汗を掻くほど、大胆に扉という扉を開けて、ひたすらに前へと邁進していた。
(この人、自分が死ぬかもって、それくらいの相手が近くにいるってわかってないんじゃ)
 



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