Shot Life! 『隣町ボーイズ現る!』
勝敗が決したのは十分後だった。画面がメラメラと燃え盛っていた。第四ステージのクライマックス、ヒロインの館が炎上するシーンだ。
「く、くっそぉ! テメー、回復アイテム横取りすんな!」
獄寺のプレイヤーキャラは、数十匹のバンパイアに貪り食われていた。
「ヘ。ノロいのがワリー」
射撃を続けつつ、犬が嘲った。
「黒曜一ポイント」
静かなカウントが響く。
千種だ。骸は鼻歌でも歌いだしそうだった。
「予想通りですね」
「さーてな。こっから、どうかな?」
獄寺からプラスチック銃を受け取り、山本が身構える。
綱吉は両手を合わせて祈りをささげた。(ごめんっ。山本、負けて!)
――、だが、プラスチック銃を置いたのは千種だった。チ、と、微かに舌打ちしてカウントを続ける。
「並盛一ポイント。両者、同点」
「ハハ。オレ、ここぞって言うときには負けたことねーんだ」
誇らしげに胸を張り、山本が引鉄をカチカチ言わせた。彼の黒目は、もの言いたげに骸を振り返る。近くのゲーム機によりかかり、コーヒー片手に観戦していた彼は、演技じみた微笑みを山本へやった。
「……千種は、僕の次にうまいんですよ」
「へえ。スゲーんだ?」
「まぁいい。大将戦が、事実上の決勝戦ですね」
(や、山本が負ければいくらか気が楽だったのに――!)
ダラダラと汗を流しつつも首を振った。勘弁してください。そんなメッセージだが、山本は、顔を引き締めてツナへと銃を渡した。
「死ぬ気でやればなんとかなるって」
「や、むり……! ムリだよこんなの!」
「十代目。お気を確かに。十代目にかかってますから!」
(プレッシャーを増やすなぁあああ!!)
頭を抱えるツナだが、骸はゲーム機の前に立っていた。
プラスチック銃のグリップを握り、人差し指を引鉄にひっかける。
「? いきますよ」
「あうあうあうー、ううっ」
声にならない喚きをあげて、骸の隣へと並ぶ。
と、その至近距離でなければ聞こえない声量で骸が囁いた。
「君は不思議な目の色をしている。どれほどの腕前か、じっくり見せてもらいますよ」
いっそ気絶したい。ツナが呆けた目をしたのと同時に、骸がタイトル画面を撃ち抜いた。
「いきますよ!」画面の向こうからバンパイアが殺到した!
(ぎゃああ! えーとえーと山本はあそこに駆け込んで、回復ドリンクは後でとってー!)死に物狂いだ。ガチガチと引鉄を引っかけつつ、ツナが身を捩る。
「十代目……」「さっすが!」
ツナの背後で、少年二人が感嘆をこぼした。
「? 肝心の攻撃がヒットしてないよう見えますが」
「初めてだもん! そりゃームリ!」
「は……?」
開けたところでは、空を飛んだバンパイアが待ち構えていた。
骸がオッドアイをぎょっとさせる。
「な、なにをしてるんですか」
プラスチック銃を放り投げていた。
ツナのプレイヤーキャラは屋根の下に飛び込んだ。敵から逃げたまま、動こうとしない。犬がつっけんどんに呻き声をあげた。
「おいおい、ゲームオーバーですらねーじゃん!」
ツナはブンブンと首を振った。
「ムリだよっ。やっぱ止める……――っ?」
ヒヤリとした冷気が隣に生まれる。見れば、骸が侮蔑を隠せずにツナを見下ろしていた。底が凍りつくような、見るものを封殺するような色をしている。
「なんですか、それ……」
「あー」「怒らせた」
黒曜生二人が顔を見合わせた。
首をのばし、後方の二人へ向かって両手をあわせていた。
「獄寺くん、山本! 勝負なのにごめんっ。でも勝てる気しなくて」
「ああ、……しようがねえよ。気に」
相槌を遮ったのは静かな声だ。六道骸である。
「そんなことは問題じゃない。君、醜態を晒した自覚があるんですか?」
詰問のように、鋭い声だった。すぐさま畳み掛けていった。
「恥かしいことですよ。負けるでもなく勝つでもなく逃げるでもなく、ただ捨てる――アナタは、それでも良いと。……、く、……クハハッ、そんなやつは今すぐにでも死ねばいいんだ!」
「てめっ?! 十代目になんつーことを!」
骸は憎憎しげにブラウンの瞳を睨みつけた。
ふっと濁った色が浮かぶ。僅かに食んだ下唇、そのスキマから絞り取ったような声音がツナには聞こえた。神妙な素振りで、この一時間の会話だけでも、普段の彼ならば取らない行動であろうことが理解できた。
「君なら、この、屍のような心に血を通わせ。て」
ツナの指先が冷たくなった。 何か、尖ったものが胸に刺さった気がした。
「僕に、『意味』を与えてくれるような気がしたんですけどね……」
「む、むくろさん……?」
「とんだ期待はずれだ」
(おれに、きたい?)ツナがうめく。
手酷いを裏切りをしたのだろうか? 無性に、両目を閉じたい衝動に駆られた。
眩しいわけでも痛いわけでもなかったが、骸を正面から正視できなかった。色を殺して見下ろす二つ目。左右で色が違う二つ目。酷く、傷ついたよう見える。
堪らずに視線を反らして――、丸く、見開かせた。
(えっ)
山本たちの足元、六人のカバンをまとめておいたところ。
違和感があった。一番下にあったはずのツナのカバンが上にある。見回せば、階段を降りていく影。最初に、自販機に行ったところで、道を阻んでくれたヒョロ長い男だ……。
(あの人、アイツらとグルだったんじゃないのか)
たしかに、襲撃に混ざっていなかったが。ツナが眉間を寄せる。
男は、ポケットに両手を突っ込み、そのポケットは膨らんでいた。
「僕らの勝ちですね」骸が冷淡に告げた。
「そうですね、サイフでも置いて、とっととどこかに消えてくださ」言葉が不自然に途切れる。サイフ、と、綱吉が呟いた。一番近くにあった体、骸の腕を握りながら叫んでいた。
「あれ……、スリだ!」
「は?」虚を突かれて、キョトンとした声だ。
突然に叫びに、居合わせた全員が呆気にとられていた。
叫び声にドキリと跳ねたのは、当のヒョロ長男だ! 彼が駆け出すのを見て、堪らずツナも駆け出した。掴んだ腕を思い切り引いて引き寄せる。自分一人でどうにかできるとは思えなかった。
「逃げる! はやく!!」
「ちょっと?!」
「みんなのサイフとられたんだ!」
「僕はポケットにいれてますけど?」
ツナも同様だ、先ほど、自販機にいくために制服の内ポケットへと移した。
「オレもそうだけどでも獄寺くんたちのが!」
「ええ……」階段を駆け下り、骸が面倒くさそうに眉根を寄せる。
ツナが驚いた。屍の異名を持った少年は足を止めていた。
「離してください。もう追いつけませんよ」
「む、骸さんっ?」
「そういう気分じゃない。千種と犬の小遣いくらいカバーできますから、大丈夫です」
「な……」ビックリしてツナが仰け反る。
「ダイジョーブじゃないでしょっ、トモダチがモノ盗られちゃったんだよ?!」
「代理が効くと言ってるんです」
疲れたように、骸。その両腕を掴んで、ツナが叫んだ。
「まるきり同じものは返ってこないんだから! 盗られたら悲しいだろ!」
男にしては長くてきれいな睫毛が、パチパチと忙しく上下する。夢中になってツナが両手を掴む、だんだんと力が篭もるその両手を見下ろす色違えの瞳は、驚きを明確に映しはじめた。
「獄寺くんたちのも犬さんたちのも取り返さなきゃ。走って。骸さん!」
バタバタと、階上から駆けてくる足音。
「――――……」赤と青の瞳が、ちらっと千種と犬を振り返る。
最後にツナへと視線を戻して、彼は溜め息らしきもので鼻腔を膨らませた。
ツナの腕を払い、店内を一瞥する。スポーツゲームが並ぶフロアだ。ゴールを備え付けたゲーム機を見初め、バスケットボールを奪い取った!
「骸さんっ?! 何を――っ、て、あ!」
投げたボールが、出て行こうとした背中に命中した。ツナがコブシを握る!
「なるほど。ナイスッ!」
だが、すぐさま骸が舌打ちした。
駆け寄ったツナが、あっさりと殴り返されて男を逃がしたからだ。
「なんか、君、多方面に弱そうですね〜〜」
「ううっ」頬を抑えつつ、ツナが呻く。
二人は並んで扉を蹴り上げた。獄寺たちの叫び声が後を追った。
ネオンライトがひしめく繁華街だ。若い女性にホストのような男に、あふれんばかりの人の波。まばゆさに目を細めて、骸が二度目の舌打ちをした。
「っ、見失ったんじゃ――」「あそこ!」
ほとんど勘で指差していた。
的中だ。道路へ向かう路地で、見覚えのある影が走っていた。ツナと骸が同時に駆けだしたが、しかしすぐに前にでたのは骸だ。彼は横目でツナを睨んだ。
「僕がいきますよ? 言っておくが、君を許したわけじゃないからな!」
「わ、わかったからアイツを捕まえてッ」
ぜえぜえええと、荒くつないだ呼吸で途切れながらも叫ぶ。
まったく君は……。二言、三言とうめく声が聞こえたが、骸は上半身を低くさせた。ぐいぐいと風を切っていって、一分も待たずに距離を縮める。ガッ! とタックル――、いや、タックルとは似て非なる一撃が決まる。
突き出した肘でもって首を鋭撃されて、男はアワを噴いて昏倒した。
「!!」車道を横切ろうとしたところで追いついていた。
辺りが白く照らされた、骸が顔をあげるよりも速い、街並みに戦慄が走った。
「っっ、――――っっ!!」背中しか見えていなかった。心臓が数秒だけ止まっていた。ツナが手を伸ばす――、そうして、撫でたものはザラついたコンクリートだった。自分でない誰かが、怒鳴り声のような罵倒をあげた。鼓膜を突き抜けるような声だ。
声の主が、這いつくばったまま動けないでいるツナの後頭部を鷲掴みにした。
ギギギギギィッッッ。
耳が曲がるような強声と共に、掠れた黒線が走る。四本だ。
道路の片隅で、折り重なって三人が倒れていた。一人は昏倒している。
一人が、ガバリと起き上がってもう一人の肩を掴んだ。右手の指の間に、ブラウン色をした髪の毛が数本、絡んでしがみついていた。
「ボンゴレ。生きてますか?」
「うっ……、うー」
半ば転ぶようにして二人に飛びかかったのだ、そうでないと体重の軽い綱吉には彼らを動かせる気がしなかった。涙を滲ませ、ツナは後頭部を抑えた。焼け付くように熱い。
「こ……。擦った。コンクリートに」
まぶたの上を、生暖かいものが垂れていた。
「……」骸が、伸ばした手を引っ込める。
ベットリ、血に染まっていた。
「ひい!」
「君の血ですよ」
呆れたようにうめく。
「ぱっくり裂けてますね……」
複雑そうな眼差しが覗き込んでくる。
なぜだか、彼に焦点があわせ辛かった。ひどく寒気がして、足元から冷えてくる。ツナが黙り込むと、骸はもう声をかけようとしなかった。手早く、制服のジャケットを脱いでツナの頭に被せる。袖口を強く結び合わせれば、不恰好ながらも包帯のように巻きついた。
「……、骸さん?」
道路脇は仄かにパニックとなっていた。人だかりを分けて、獄寺と山本が飛びだした。ツナの姿に息を呑む彼らに、骸が淡々と告げる。
「救急車を呼んでください。あと警察。スリを捕まえました」
薄く開けた視界で、骸が男のポケットからサイフを取り戻した。意識が遠のきかけていた。半そでになった骸の、二の腕が白くぼやけて見える。体温が秒刻みで抜けていた、その腕にあるだろう体温が恋しく思えた。視線に気がついて、骸が振り返った。肩を抱き寄せられていた。
ずるり、頭に巻きついたジャケットがずり下げられて、視界が赤い裏地に包まれる。
誰かの匂いが染み付いている。やさしく頭を抑える腕がある。あやすように、片手を握られた。手袋越しにでも体温を感じた。汗すら滲んでる。
「できるだけ速くさせますから。我慢してくださいね」
鈍痛といっしょに声音が溶けていく。ツナは目を閉じた。
「……え?」
病院からでて、目を丸めた。骸は唐突に言ったのだ。
「君の勝ちですよ。黒曜は一ポイント、並盛は三ポイント」
「ど……。どうして?!」
すでに深夜だ。針で縫ったこともあって、ツナの手当ては長引いた。
人通りのない夜道を並んで歩いていた。胸を張り、誇らしげに獄寺が言う。
「物陰に隠れたままだったでしょう」
「アレ、五分以上動かなくてもゲームオーバーになるんだけど、それより先に天下のど真ん中にいた骸がやられちまったんだよ」
「君が、僕の腕を引いて連れ出したりしたからですね」
どうでもよさそうな口ぶりだが、内容はイヤミだ。
ツナは眉を顰め、後退りした。巻きつけられたばかりの包帯が、夜風に揺れていた。
「無効試合だろ、そんなの。骸さんの勝ちでいいよ」
獄寺がずっこける。山本は苦笑した。
「みんな、サイフは?」
「おかげさんれ」
呟いたのは犬だ。ツナをじろじろと見る。
「気にいったキーホルダーついてたから助かった。さんきゅーな」
悪意はない、純粋な感謝だ。ツナがニコリとして頷いた。
「…………」
骸が目を細める。もちろん骸サンも!
犬の言葉を当然のように受け止め、しかし、少年は物言いたげに顎を撫でていた。
「? 何か、言いたいことあるなら言ってくださいよ」
「いえ……。君が、そういうなら僕らの勝ちに甘えようかと」
「骸さまが?」千種が驚いた声をだす。
一同に見返されて、慌てたように口を噤んだ。ツナはなんとなく察しをつけた。
(この人、相手に情けかけられたり譲られたりしたら逆ギレしそうだもんな……)
駅に向かってはいたが、きっと、着くころには電車も止まっているだろう。夜風は生暖かい。もうすぐ春も終わろうとしていた。ツナがどこで夜を明かそうかと考え始めた頃に、骸が言った。
「うん、そうですね。君、名前は?」
「へ……?」
「ずっとボンゴレと呼べと?」
(あ。本名、教えてなかったんだ)
沢田綱吉。名乗ると、骸は満足げに頷いた。
血に塗れた制服を小脇に抱えているために、いまだ迷彩の半そで姿だ。彼は噛みしめるように「綱吉くん」と囁いてから、礼を述べた。「一応、僕からも礼を言っておきますよ」
「取り返せたのは君のおかげだし、僕が無傷なのもね」
ハッとしてみれば、確かに骸は無傷だ。半そでから伸びた腕には引っ掻き傷ひとつない。
「ど、どんだけ強運なんですか……」
「僕にしてみれば綱吉くんがめちゃくちゃ運ないって話ですが……」
コホン。堰をついて、骸が手のひらを広げた。「面白いものですね。君は、自分を捨てられても人が捨てられるのは見過ごせない。僕はその逆」きゅっ。手のひらを握りこむ。
そして、拳をツナの肩へと当てた。友人にやるような、気軽な仕草だ。
「僕らは真逆な性質をしてるみたいですよ。奇遇だと思いませんか」
骸の澄んだ声音は、黙り込んだ町へとシンと染みこむ。奇妙なニュアンスが込められた囁きだった。力強いような、纏わりつくような。オッドアイが神妙な色をみせた。
「…………」
「……?」
ニッコリ。
前に見たのと同じ、芯から嬉しげな笑みを浮かべる。
「忘れてるでしょう。負けたチームは勝ったチームの言うことを何でも聞く」
『アッ?!』並盛の三人が、揃って悲鳴をあげた。
「さあ、というわけでコッチに来なさい」
「え、えええっ?!」
素肌がするりと絡み、引き寄せられていた。
むき出しの二の腕が首にひっかかる。指が這いすすみ包帯を撫でる。
「っづ?!」途端、鈍痛がひびいた。
「君は明日から黒曜中の生徒だ。あ。本気で言ってますよ?」
「は、はいいい?!」
「なんじゃそりゃあああ!!」
絶叫は獄寺だ。山本は声もでない。
「言うことを聞くんでしょう?」
「や、次元が……、次元がちがっ」
「細かいことは気にせずに。綱吉くんは取りましたからね」
「はないちもんめじゃないですからね?!」
「懐かしいな」千種がうめく。
「僕はもっと君といたいんです。これが有効でしょう」
「あのですねっ。オレなんかに構ってもろくなことないと思いますけど……!!」
「くふふ。説得は無駄です。そんなこと言ってると、塞いじゃいますよ」
「――――」何か。おかしかったような。
(主語……は?)戯れるように左の耳朶をいじられて、肌の内側が煮え立った。クニクニと、児戯のように揉むのもなんだか妖しげだ。骸が言う。
「まぁ、病み上がりですし、とりあえずどこかで夜を明かしますか。酒屋は綱吉くんの身体を思うとダメですし、順当にいってカラオケですか。つらいようなら寝られますし」
え。このメンツで? ツナが引き攣る。獄寺がコケた。空にコブシを掲げたのは犬だった。
「よーし、ウサちゃんとワンコと野球とカラオケだ!」
「オイコラ。それ、誰が誰、だ……?」
ずるずる、這いながら獄寺がうめく。山本は呑気に千種と話していた。ゲーム話だ。
すぐには声がでず、代わりに必死にブンブンと頭を振る……、ようやっと喉が震える。意図的に声量を小さくした。
「さ、さっきからおかしくないか。オレを許さないんじゃあ?」
同じく声音をさげて、骸。オッドアイがわずかに嘲った。
「ええ。君の性根は許しがたいものがある。けれども綱吉くんは僕を助けたでしょう。言葉で何かを言ったり言われたりするより、行動でみせてくれた方がずっと重みをもつ」
「ゆ……、ゆるしたってコト、です、か」
理解しきれず、首を傾げる。
骸が苦笑した。
「許してません」
「ええ……?」
「君、全部がひらたく一様に割り切れるとでも思ってんですか。そんなのただの理想ですよ」
上機嫌に罵倒じみた言葉をかけられて、困惑するのはツナである。
「わからないなら、別に構いませんが。要するに、綱吉くんの行動に感動したってことです。君といっしょにいれば、いつか、屍を名乗るのとは違う意味が見つけられる気がする」
「そ……、な」
(はた迷惑な!!)
ツナが青褪めるのを見て、骸が顔を寄せる。
心細さを滲ませた手つきでもって包帯を撫でた。縫い合わせたばかりで敏感である。
「痛いでしょう? すいませんでしたね」
(そう思うなら触るな!)とは思うが、いえない。
「責任もってアフターケアしてあげますよ。黒曜中にきましょうよ?」
「いやっ。いかない! 大体、ケアってアンタどう見てもガラじゃないだろ!」
「おや。生意気なコトをいうと、こういうことしちゃいますよ」
「んぶっ?! ひゃ、ひゃめれー!!」
「じゅ、十代目のお口になんてことしやがる!」
犬と言い合いしていたが、獄寺が慌ててツナと骸の間に割り込んだ。
さり気なく山本が背後を取るが、骸は気にした様子もない。無理やり広げられた両側の口角を抑えて、ツナは涙目で骸を見上げた。遠慮なくグイグイと引っぱられてしまった。
腕組みをして、骸はにっと優しげに微笑んだ。
「僕の誘いを断ると、そういう目にあうんです」
鼻歌でも歌いそうなほどに能天気な口ぶりだが、付随する行動が鬼だ。
「ひゅくろさん……、実はオレのこと嫌いだったりしませんか……」
「やですね。好きだって言いまくってるつもりなんですけど」
疑わしげに眉根を寄せるツナだ。骸が、人差し指を立てた。
「ま、僕は諦めませんけどね。打開策がひとつ」
「マトモなのにしてくださいよ。マトモなのに!」
「……次の土曜日もあそこのゲーセンにきてくださいね。あとメール番号も教えること」
この言葉で、ようやく悟った。この奇妙な少年たち、もしやかなり長い付き合いになるのではないだろうか……。雲に隠れていた月が、サァッと辺りを照らした。骸のピアスが銀色に光る。
(し。試合に勝って勝負に負けた気分)
射止めたのはバンパイアでなく不良少年の心だったようだ。
やがて。ツナは、大人しく携帯電話を差しだした。それ以外にどうしろというのだ!
おわり
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**骸ツナカーニバルさまへの献上品です。
**ボンゴレ十代目なツナと部下になるつもりな獄寺・山本、
**隣町ボーイズで不良三人組でゲーマーな骸・千種・犬でした。微パラレルです。
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