ShotLife! 『泥沼に嵌まってく編』
色の薄い闇が、店内を覆っていた。
白光を行うパネルを前に、骸は肩を竦めた。
プラスチック製のピストルを座位に戻す。彼を取り囲む人垣がある。固唾を呑んで拳を握り、しぃんとして誰一人言葉を発しない。ようやく、にわかな歓声が広がったのは、ゲーム画面の点滅が収まりランキングが表示されたときだった。
「すげえっ……」「ガキのレベルかよ」
さして感動した様子もなく、骸が指を伸ばす。
人差し指と中指が、交互に入力キーを叩く。
「犬、両替いってきてください」
「え〜……」ジロリと睨まれ、少年は背筋を伸ばした。
「いくらぶんれすかっ」
「これだけで」
「は〜い」
うめくのは、背後から首を伸ばした綱吉である。
骸は、振り返ると秀麗な微笑みを向けた。
「これだけあれば朝まで遊べるでしょう?」
「だ、だからって。三万も!」
「余ってるんですもん」
平然と答えて、骸はエンターキーを押した。
ピピッと短いシグナルが応答し、画面が切り替わる。ランキング表のトップが表示されて、再びどよめきが沸いた。入力した名前が一位の座で点滅するのはもとより、一位から五位までを、すべて同じ名前の『SIKABANE』が占領していたからである。
綱吉はあからさまに画面から目を反らし、人ごみの中に身をうずめようとした。
しかし手首が捕まった。
「ダメですよ。今日は一日、付き合ってくれる約束でしょう」
背後から向けられる歓声も注目も気にせずに、機体に乗せたままだったジュースカップを拾う。何事もなかったかのように、骸は人垣をすり抜けて談話スペースへと向かった。当然、手首を掴まれたままの綱吉もズルズルと引き摺られる。頭を垂れて、死んだように動かない彼は哀れな人質のようでもあった。
綱吉を助けるでもなく、半眼で後に続いたのはニット帽の少年、千種だ。
しかし彼だけではない。ギャラリーから飛びでて、数人が骸に追いついた。
「なぁ、おまえ! スゲー鮮やかだったぜ。あんなハイスコア、叩き出せるもんなんだな」
「シカバネっていったら、アレなんじゃないか? 黒曜の伝説の無敗神話――」
それはどうも、と、気のない返事を中断して骸が足を止める。
綱吉がビクリと体を震わせた。意味ありげにオッドアイが細められて、唇が釣り上がっていたからである。後退ろうにも、すでに腕をめいいっぱいに伸ばして骸から遠ざかろうとしている。
「神話は破れちゃいましたよ」
「だからっ! そーいうこと言うのやめてくださいよっ」
男たちの視線が綱吉に集中する。顔を赤らめて、勢いよくかぶりを振った。
「誤解ですから! あれはどう見ても無効試合――」
「いわば僕は綱吉くんの舎弟ですね」
「あんた堂々とウソつくなよ!」
「プラトニックの話ですよ」
口をあけて笑う骸に、綱吉が奥歯を噛んだ。
「勘弁してくださいっ……。オレ、ほんとにアーケードはダメだし深夜だしゲーセンだし、その、目をつけられたくないんですってば!」
「わかってますよ」くつっと喉を鳴らし、骸が向き合った。
「すいませんね、対戦の申し出ならお断りですよ。正直なところ、君たちレベルじゃ僕の相手になりませんから」
ウグとブラウンヘアが硬直する。
綱吉が恐れたとおりに、男たちはあからさまに嫌な顔をして骸を見つめた。
暗がりのなかを一筋のイナズマが走る……、まさにその場面を目撃していた。
引き攣らせた喉もそのままに、綱吉は骸の指先をつまんだ。気がついただろうが、当然のように制止の合図は無視された。骸は明らかな嘲笑を浮かべていた。
「雑魚なりにランキングを変動させてから出直してください。ありえないでしょーけど」
「骸さん。次はレーシングとかどうですか!」
「できるんですか?」
睨み合いからするりと抜けて、骸が目を丸くする。
自己犠牲の精神がふんだんだなァと胸中で自らを呪う綱吉だが、甲斐あって、骸の関心は完全に綱吉へ移っていた。さりげなく、察した千種が男たちと骸との間に体を滑り込ませた。
「悪いな。そういうことだ」
「君から言うなんて珍しい。何を賭けますか?」
「や、やっぱり賭けるんですか」
「僕はお金で。一万」
(ケンカ売ってんのか!)
この場合は綱吉からケンカを売ったといえる、が、引き攣りつつも綱吉はかぶりを振った。そもそも、アーケードをやらないのは、サイフが出費に耐えられないからなのである。
骸はニヤニヤとしながら顎を撫でた。
「冗談ですよ。せっかく、君からいいだしたんですから軽くしておきます。例えば、――二人きりでのデートだとか」
「聞いておきますけど、それ以外のものっていうと」
「カネです」
にこっと無邪気な笑顔だ。
後退る少年の腕をしっかり掴んで、骸は踵を返した。ちょうど、視界の端で犬が巾着に大量の貨幣をいれて戻ってきた。
「僕も鬼じゃないですからねー。十回のうち、一回でも勝てたら許してあげますよ」
(十回も骸さんの相手をしろって言うのか……!)
くらりとした。綱吉の肩を支えたのは他ならぬ骸だ。
おわり
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