Shot Life!   『隣町ボーイズ現る!』

 



「くっそ! また上書きされた!」
 獄寺隼人は、ダンッと、ボードに手のひらを叩きつけた。
 点滅するカーソルが右へとズレて『BOM』と書き込んだところだ。人の笑い声やら歓声やら。ライトと電子音がこだまする店内は地下室のようだ。少年がうめき返した。
「……じゃ、そろそろ帰る?」
「オイオイ。来たばっかじゃんか」
  肩にしなだれかかるのは山本武だ。
「テメェと意見が合うなんて珍しいな」
 眉根を寄せた獄寺だが、ブラウン頭の少年にはニッと破顔してみせる。
「山本の言うとおりですよ。十代目もやってみましょうよ!」
「オレ、家庭版でいい気が……」
 もごもご、居心地が悪そうに少年が言う。
 拳銃型のプラスチックが取り上げられ、カチカチと引鉄が引かれた。
「そんなことないス。コレ、スポーツ系の射撃ゲームで、スピード感バリバリっす。コンシューマとは違った面白さッスよ」
  銃口が指差すタイトル画面にはコウモリが飛び交っていた。
 マッチョなバンパイアが闊歩する町をハンターが突き進むストーリーだ。
 コブシを握りこみ、獄寺は力説した。
「いわば訓練ですよ! 沢田さんはいずれボンゴレファミリーをまとめなさるんですからっ。射撃の練習にもなりますって!」
(ま、また無茶なコト言ってる――……!)
 両手で頭を抱える、そんな仕草がほどよく似合う。
 彼の名は沢田綱吉だが、ツナの愛称で呼ばれることがほとんどだ。
「最新モノっすから。銃声もいいんですよ」
 ちゃっちゃっちゃ〜。
 いささか呑気なファンファーレと同時に、画面がランキングへと切り替わる。……BOMは獄寺。BAD――は、野球少年の山本だろう。きっと。と、そこまで考えてツナは眉根を寄せた。目立つ名があった。
「SIKABANE……。DOG、YO-YO?」
「あ〜。最近でばってきた奴ら」
 ツナがキョトンとした。苦虫を噛みしめたような響きがあったからだ。
 山本はつまらなさそうに頭を掻く。
「ちょっと前まで、十位までオレと獄寺だったんだぜ」
「十位まで……って、一位から十位までぜんぶ?!」
「やり込めば二週間くらいで出来ますよ」
 山本と同じく、苦々しい顔だ。獄寺がぼやく。
「現に、シカバネだって一位から三位まで独占してます。こいつ、ランキングの更新がやたら速くて、しかも一気に桁あげたりするから厄介なんスよね……」
 思案顔で顎を抑えて、獄寺は山本を見上げた。
「ついでだ。今、追い出しちまうか」
「ああ、いいぜ。ツナの応援がありゃイケる気がする」
「って、十位までぜんぶ?」
 ツナが後退るのをおいて、山本が両手を合わす。すっかりやる気になっていた。
(ま、負けず嫌い魂に火がついてる!)
 ちゃりん、コインが機体の内部へと滑り込んでいった。
 極めて自然に、山本はプラスチック銃を握りこむ。照準を画面に向け、ばひゅんっとタイトル文字を打ち抜いたのとほぼ同時に、
「わっ」画面の向こうからバンパイアが殺到した!
「演出がイイんだよな。サスペンスホラーっぽくて」
「わっ、わわっ。数が多すぎないっ?」
「それが醍醐味っ!」
 黒目を画面から反らさず、山本。
 五分と経たずに獄寺が訝しんだ。
「ン。回復ドリンク取らねえのか」
「ピンチになったら回収するんだよ。バンパイアドッグは全滅直前に猛攻があるだろ」
 なるほど。神妙な声音で頷く獄寺だが、ツナは呆けた眼差しを送っていた。口がピクピクしている。
(な、何のコトについての会話コレ……?)
 しばし立ち尽くす。十分後には、少年は諦め混じりに呟いた。
 獄寺と山本の会話にまったくついていけていない。
「……オレ、ジュース買いに行ってくる」
(オレもゲームはするし、面白そうだったけどさ)
 腕は心臓を抑えていた。気が気でない。一階へとおりて、改めて溜め息ひとつ。
(やっぱゲーセンって落ち着かないよ〜〜!)階段の中ごろには、ひょろ長い眼鏡男が座り込んでいた。店内にひしめく人種は、オタクから金髪からミスニカと幅広い。
「怖いし〜〜っ、なんかフツーの中学生って絶好のカツアゲ相手じゃん」
 自販機の前で二度目の溜め息。
 天井に張り付く時計、その短針は『6』を差していた。
「あ〜〜っ。テストが終わったからって浮かれてる場合じゃなかった!」再三にわたって嘆き、ハッとする。自販機に影が差していた。背後に誰かが立っているのだ。
 それも、わざわざ覆い被さるようにして。
 自分で想像した、『カ』から始まる四文字が脳裏に点滅した!
「か、カネがなさすぎて買えないなァ!」
 ツナはパチンと両手を合わせた。白々しい演技である。
 振り返れば、サングラスをかけた二メートルの大男だっ。慌てて階段へと向かい、しかし綱吉は地下へと進路を変えた。階段で座り込んでいた筈の男に道を阻まれたのだ!
(グルかっ。なんて運ないのオレ!)
 地下の最奥まで逃げた。肩を弾ませた。
「けっ、けーたい。助けて獄寺くん――って圏外ィイ!」
 ひいいいっ。慄き頭を抱え――、直後、響いた歓声に気を取られた。
 地下は細長い造りになっている。床板が蛍光灯を四方へ反射し、天井よりも床板のが明るい。左耳を貫く三つのピアスを艶やかに光らせて、少年が楕円の伸びた人垣の中心に佇んでいた。
 ここにあるのは、二階よりも古い型の機種ばかりだ。音は調子外れでCGも荒っぽい。
 それでも、ツナは釘付けにされていた。
「うわ……」(うまい)
 尋常でなくすばやい。
 銃口がブレただけでモンスターが灰になる――。
(獄寺君たち以上なんじゃ)
 不思議な目の色をした少年だった。ドンッとひときわ大きな銃声が響く。
 画面を覗き込む一同は、その心をひとつに束ねていた。わぁっと歓声をあげ、拍手を送る。ゲームクリアだ。
(すごい!!)ツナも観客の一人だ。純粋な賞賛でもって拍手していた。
 にわかな興奮が漂うなか、当の少年だけはクールだった。
 眉根も口角も動かさず、無感動な眼差しをランキングへと向けている。
 カーソルは一位を指していた。
 しばし、沈黙の後に。S、I、K、……、
「――ってえ、しかばねぇっ?!」
 ギョッと目を剥く。
 と、少年がピアスを揺らして振り向いた。
 驚いた顔で、サッとツナ全身を見渡す。彼は、左右で色の違う瞳を実につまらなさそうに歪めてみせた。この間わずか五秒。端正な顔立ちのため凄みがある……、おまけに、彼をカテゴライズするなら、どうあっても不良少年な分類だ。
 一体感はどこへやら。ササッとギャラリーが霧散した。
(ひいいいっ。裏切り者!)
「むっくろさーァん、飲みモン! ん、って、アラ」
 すぐ後ろからの声だ。硬直して動きづらいが、必死になって首だけ振り返らせた。
 金髪を逆立ちさせた少年。隣にはニット帽のメガネ男。シカバネも含めて、彼ら三人は深緑色の制服を着ていた。ニット帽が、コーヒー缶をオッドアイの少年に手渡した。
「知り合いですか」
「いいえ。屍に興味があるようですけど」
 低い声色だ。やはり凄みがある。
「ん〜、テメーって地元のゲーマー?」
(まさか!)腹の底が、みるみると冷たくなった。シカバネが顔をあげた。
「ランキング名は? ちょうど、今から対戦相手をさがそうと――」
「十代目!!」
 ダンッ。階段が力強く踏みしめられた。
「大丈夫でした?! 何か、妙なのが――」
 獄寺だ。近づくにつれて、眉根を寄せていた。
 ツナを囲む少年たちの制服をジロジロと眺める。
「どうして黒曜中のヤツらがここにいるんだよ。隣町だろ」
「おや。そういう君達は並盛とお見受けしますが」
 遅れて山本が駆けてくる。彼は気忙しげにあたりを見回した。
「どーなってんだ?」
「コッチにも妙なのがいた」
 金髪が、真っ赤な舌をダラリと垂らす。
「妙って、誰のことダヨ? まさかオレのことじゃないびょん?」
「おお……、妙だ」
 カケラの悪意もなく、山本。
 ぶ、と噴いたのはシカバネだ。
「傑作ですね」「テメーも妙なんだよ!」
 叫び返し、獄寺は怒りの形相でツナの右腕を掴んだ。
「絡まれてたんスか? 行きましょう」
 目尻をヒクヒクさせていた。シカバネがツナの左腕を掴む。
「待て。大した度胸ですね? 言い逃げするつもりですか」
「黒曜中は不良の集まりってんで有名なんすよ。ミジンコくらいな脳みそのやつらです」
「くふふふふふふふふ。君は少々、躾不足のようだ」
「あ、あのぉ……?!」
「オレは躾不足なんかじゃ……って、アア?! なんだとコラ! その手を離せよ汚らしー手で十代目に触ンなミジンコ!」
「僕をそんな呼称で呼ぶと後悔しますよ」
(お、おれを挟んでケンカしないで――ッッ!)
 ぎりぎりぎりぎり。腕を握りこまれて、肌が皺寄っていた。
「く、ふふ」ニヤリとするのはシカバネだ。目は笑っていないが。
「申し込んだ側が引いてあげるのも礼儀のひとつと思ってあげましょう。僕は六道骸。あっちは犬、ニット帽子が千種。そちらは」
「……獄寺隼人、あれは山本。こちらは十代目!」
 骸と犬、千種。三人の視線がツナに集中する。
 獄寺が自信たっぷりに頷き、さらに力強くツナの腕を握り締めた。
「テメーらミジンコが触れていい存在じゃねーんだよっ。十代目の偉大さを思い知りやがれっ」
「ほ、本人の了承とらずに宣言しないでっ。ていうか痛! 腕がいたい――ッッ」
「ああっ?! す、スイマセン!!」
 パッと獄寺が手を離す。骸がいまだに力を込めていたため、引き寄せられていた。骸はそれでも腕を放さなかった。しれっとして、尋ねる。
「思い知らせてくれるということは、対戦を了承したってことですかね」
「へ……?」獄寺がポカンと口を開ける。
 ――その時だ。真っ先に反応したのは、傍観していた千種だった。袖口からヨーヨーがこぼれた。
「がっっ?!」
「!」顎に命中だ。
 金髪がひとり、昏倒した。
「追いつかれてんじゃん。おまえが揉めてるからだぞ」山本がうめく。
「そう思ってンなら止めろ! 十代目、ここは任せてくださいっ」
「?」「な、なにごとっ」
 居合わせた客もざわめていた。
 階段を降りてきた五人組は、ヨーヨーに倒された男を抱えてツナと獄寺とを睨みつけた。
「いつのまに黒曜の六道とボンゴレが手を組みやがったんだ……?!」
「あ!」リーダー格に見覚えがある。
 自販機の前で出会った、サングラスの大男だ! ツナは喉を震わせた。
「ま、またボンゴレ絡みかよ〜〜っ」
「事情がよくわかりませんが……」
 口を挟んだのは骸だ。
 大男をまっすぐ見据えている。
「アナタ、いつから並盛町に進出したんですか」
「六道さん。見損なったぞ。ボンゴレファミリーなんざと手を組むのかっ」
「……?」薄ら笑いを口角に貼り付けて、しかし骸は首を傾げた。ゾッとするような笑い方だ。
「よくわからない間に侮辱されるのは、とても不愉快ですが……?」
 ちらり、千種を窺う。彼は黒目を伏せた。
「そいつ、ナイフを持ったまま忍び寄った」
「!」獄寺と山本が飛び退いた。
 確かにあった。昏倒した男の足元に光るもの。六道骸のピアスと同じ色だ。
「いつか、決別するだろうとは思ってましたが」骸が目を細める。
 握ったままのツナの腕に、彼のツメが食い込んだ。
「ひぃ?!」
「こんな展開とはね」
「なっ。オレたちの目当てはボンゴレだ!」
「喋らないでくれますか? 耳が腐りそうだ、君達とは関係を断ちます。出資の話もゼロに戻そう」
「んなぁ?!!」
「ジャパニーズマフィアごときが天下の十代目を刺そうってか――」
 ギリ。唇を噛むのは獄寺だ。その瞳は、ナイフを見初めた瞬間から燃えていた。
「ざけんな! 果てろ!!」
「あっ。ダイナマイトはダメだよ?!」
「わかってます!」獄寺がコブシを掲げる。
 振り仰げば、山本も同様にコブシを掲げて見せた。
 いささかヒョウキンな仕草だ。頭上から声がした。
「君、何者ですか?」
「えっ」
(何者って……、アンタこそ何者ですかって感じなんだけど……)
 ぎゃあっ、とか、バキ! とか、店員すらもなぎ倒して地下室はちょっとした修羅場だ。犬がさりげなく暴動に混ざって男を殴り倒していた。骸が質問を繰り返す。
「……、カツアゲにあいそうなフツーの中学生ですけど」
「へえ。それはまた」
 左右で色の違う眼球が、ギャアギャアと騒ぐ一同を見渡す。
 少年はニコリとしてみせた。愉悦の笑み。芯から嬉しげで、――初めてみる本物の笑顔に思えた。ツナがぼうっとしたのは一瞬だ、が、その間に六道骸に顎を掴みあげられていた。
「ふざけた問答をすると殺しますよ。ここまでコトが起きてタダの中学生なワケがないだろうが」
「――――っっ?!!」
 ニッコリ、ニコニコと笑みの質は変わらない。
 ツナが驚愕して目を見開かせ、どっと冷や汗を噴出す。ドスの効いた声がそのきれいな形をした唇から出たとはとても思えない。彼は、「けれども」と一転して柔らかな声をだした。
「面白い答えですね」
「ガキども、警察を呼ぶぞッ!!」
 最後、サングラスの大男を獄寺と山本と犬と、三人がかりで張り倒したところで絶叫が轟いた。ゲームセンターの店長だ。一瞬、静まり返った店内で、スッと振りあげられた一本の腕。深緑色の制服。どこか洗礼された身のこなし。
 骸は、綱吉に向けた笑みそのままで切り返した。
「すいません。絡まれただけなんですよ、見逃してもらえますか?」
「ろ、六道さん?!」
 虚をつかれて、店長が後退る。
 骸の表情そのものに驚いたようで、ヒタリと顔を凝視している。
 彼が去った後で、骸はようやっと左腕を解放した。
「さて、機種はどれを使いますか?」
「おまえ……、ただのゲーマーじゃないだろ」
 獄寺が五指を広げる。どさり、と、大男が崩折れた。
「同じ言葉を返しますよ。さて、で、ただ者でないゲーマー同士で一戦しようじゃないですか。機種は?」
「……バンパイアハンターズ」
 山本が後ろ頭の向こうで腕を組んだ。
「いいでしょう。でも、君たちこそいいんですか?」
 バンパイアハンターズは獄寺と山本で使っていた台だ。骸がニッコリと、頭上のゲーム画面を指差す。ランキング画面。先ほど、入力し終えた『SIKABANE』の文字が輝く。
「僕、その台の記録保持者ですけども」
「!!」「ま、まさか屍ェっ?!」
「ハイ」
 くつくつと喉を鳴らしていた。
 綱吉が、ようやく解放された左腕を撫でつつも後退る。
 驚きに硬直する獄寺と山本にコッソリ囁いた。
「ホントだよ。あれ、アイツがいれてた」
「屍って並盛のヤツじゃなかったのか」
「隣町じゃ、もう対戦相手を潰し尽くしちゃったものでね」
「道理で、ポッと出で荒らしまわるワケだ」獄寺が苦しげにうめく。
 ツナは、あっけに取られて少年たちを見上げた。千種と犬は骸の隣で獄寺たちと睨みあっている。
「上等だ。そういうことなら、受けてたつぜ!」
(そ……、そんなにオオゴトなの?!)
 獄寺がボムと名乗り、山本がバッドと名乗った。千種と犬が驚いた顔をした。
「犬、あのバッドなんじゃない?」
「あ。野球のバットだからな。間違えて入力しちまってるけど」
「ほう」骸が感心したようにうめく。
「レアな対戦になりそうですね。BADとBOM、一度手合わせしたいと思ってました」
 彼はツナへと向き直る。ニコリと、一見して人が良い笑顔だ。
「君も有名だったんですか?」
「えっ。オレぇ?!」
 隣から、息勇んだ叫び声が起きた。
「十代目のネームはボンゴレだ!」
「……ほう。聞いたことはないな」
「隠し玉だからな。滅多なことじゃ顔をお見せにならねーんだ」
「ちょ?! 獄寺くん!」腕に掴み、訴えると獄寺はウインクをした。
 山本とツナにだけ聞こえるほどに声量を落とす。
「任せてください。勝ってみせますから」
「そおじゃなくてっ。オレ、ここのゲームなんてプレイしたことないよ?」
「ハッタリ効かせた方がいいんス!」
 無茶だ! 綱吉が仰け反るが、一同は二階へと移動した。
 例のゲーム機の前には先客がいたが、獄寺を見初めて後退る。
「ここの界隈で少しは知られてるってとこですか」
 慌てて遠ざかる先客を見送り、骸が腕を組む。犬がニヤニヤとした。
「何を賭けるんれすか」
「負けた方が勝った方の行くことを聞く」
 人差し指と親指のあいだでコインを挟み、獄寺が言った。そしてビシッと骸を指差す!
「オレらが勝ったら、テメーらは並盛からでてけ! トラブルの匂いぷんぷんバラ撒きやがって!」
「くふふ。その条件でけっこうですよ。三回戦といきますか。一人、大将を選びません?」
「大将?」骸が顎を引く。
「大将戦は二ポイント。他は一ポイント」
「あ」ツナは手を叩いた。ナルホドと脳裏でうめく。
 全部で三回。二回続けて勝てば、三回戦目の意味がなくなってしまうことに。
「いいぜ。面白そうじゃねーか」山本がうなづいた。
「ハハ。さすが骸さま。テメーらが二回続けて負けることを考慮してんだぜぇ!」
「コチラの大将はもちろん僕だ」
 フ。骸が視線を流す。
 それを受けてツナは目を丸くした。
「へ……?」
「そちらは、ボンゴレでしょう?」
「ええええええっ?!!」
「? 君がボスじゃないんですか?」
 驚いた声に、獄寺と山本が顔を見合わせた。冷や汗が浮いている。
「い、いや」獄寺は、すこしだけ曇った瞳でツナをみた。
「沢田さんは立派なボスになるぜ! 十代目が大将でいこうじゃねーか」
「何いいだすのさ獄寺くん?!」
「や。だってですね……!」
 何やら葛藤のにじんだ呻き声。獄寺が頭を抱え、山本が頬を掻いた。
「仕方ないわな。ファイト、ツナ!」
「し、屍なんかに勝てるワケがないじゃないかぁ!」
「いいや!」喉を張りあげたのは獄寺だ。
 バンパイアハンターズのゲーム画面をばしんと叩く、ちょうどランキング画面に移ったところだ。
「見てください。勝機はあります!」
 二位にはBAD、三位にはBOMが割り込んでいた。
 先ほど、新たな記録をだしたのだ。骸がわずかに目を丸める。
「だそうですよ。千種、犬?」
「大丈夫です」「負けねーれす!」
「いや、獄寺くん、それはオレには救いになってないんですけど……?」
 うな垂れてツナがうめく。その背後にはマンガじみた黒い波線があったが、完全に放置して一回戦が始まった。獄寺と犬だ。
「先に死んだら負け、ラストまでいけたらスコアが高い方が勝ち」
 整然と千種が呟く。獄寺と犬が睨み合い――、タイトルが撃ち抜かれた!

 

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