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 振り返れば、太陽の光が当たらないところで彼が待っていた。わだかまった闇。その色と同じ翳りが瞳に映る。
 嘆けばいいのか、悲しめばいいのか、喜べばいいのか、わからない。
 ともすれば自分の名前すら、顔すらわからなくなりそうだった。手の中で鉄が震えている。自らの腕が震えているからだ。
  長らく握りしめるあいだに、鉄を冷たく感じなくなった。心地良くさえ思った。
  天命。その言葉は、いつからか脳裏に染み付いた。空から与えられた人への使命があると言う。けれど、例えば変わることはないのだろうか。
  両足までもが震える。体の芯が、何かに突き動かされたように蠢く。蠢いて、自らの両目を内側から突付く。或いは、もうとっくに変わっていたのだ。恐らくは、
(――この目が死んだそのときに)
 彼は、机の上にそれを置き去りにした。
 長らく使い、長らく人を殺し、長らく盾にした。自らの半身を置いた心地がした。
 目を閉じた。真っ暗になったはずの視界が、窓の向こうから降り注いだ陽光によって白く泡立てられた。声がする。呼ばれていた。頷いていた。今、そちらに行く。
「……はい」

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