リングとミリオン:ターン8 


「今昔幼馴染」








 ザザァー。
 横殴りの暴風雨に晒されながら、透明のビニール傘を手にして突っ立っている。
 服はびちょびちょに、靴もぐしょぐしょしている。
 ただ、道路の脇にある側溝を眺める。
 ただ眺めてどれだけの時間が過ぎたが、全身は骨まで凍てつく。
 頭は真っ白く吹雪に呑まれるようで、自分に生命が残っているという実感がもてなかった。どうしても。どうして、生きているんだ。――「こんなの……ぼく、は……」
 ザー、ザー、ザーザー降りの雨に掻き消されながら、なんらかの言の葉を紡ぐ。
 断片的でおぼつかない。びしょ濡れの顔一面に雨だれがつたい、あごからぼたぼたと雨水が流れた。
「…………、……なよし、……、……」
 雨中の曇天を仰ぎ、また聞こえない。届くことのない声が失せる。
 ザー。ザー。雨音のノイズがすべてを掻き消してあぶくにしてしまう。側溝に流れ落ちて行く。ザー。耳障りなノイズが強烈に嫌悪感を呼び込み、綱吉は目を開けた。
「――――、…っ?」
 怖気が染みてきて体の表層が薄らさむい。寝起きの身体を抱きすくめた。
 胸は苦しく、息がつまった。目玉が痛くて熱くて悲しい。
 起き抜けの夢が氷解する。その速度に惑わされながら、おぼろげに誰かの名が口にできた。
「ガイ、……さ……ん?」
 夢での自分は視線が高く、足がやたらに長かった。
 そして一絡げの後ろ髪が雨を含んで重たかった。
 綱吉は自分の喉を抑えた。枕元では、黒い兎がまんまるになってすーすーと上下して眠っていた。
 土曜日の朝である。
 ボトムスを履き、サイズゆったりめのパーカーを探している最中に兎があくびした。台所におりると、テーブルに兎は乗っけて冷蔵庫を探る。
「えっと……、水は皿から飲めんの? 朝ごはんは……ごはん……え? これ? オレのヨーグルト食えそう?」
 自分の口からスプーンを抜き、同じもので掬ってプレーンヨーグルトを兎の口元に運ぶ。
 鼻をふんふんさせながら、鼻先を汚しながらも兎はこれを食べた。
 兎。本物ではなく、あの青年に姿を変えられてしまった幼馴染みの姿だ。
 綱吉は、目を丸くさせながら、二口目も与えた。
 何気なく、プレーンヨーグルトの容器をひっくり返して「あ」とも気づく。
「やべ! これ賞味期限が一週間も前――、って痛っったあああ! 噛むなよ!!」
 指先をかぷっとされるなどの事件は起きるが、三十分ほどもない。
 綱吉は、臨戦態勢を整えて勇んでお隣さんの呼び鈴を押す。六道骸をちぢめて美少女にしたような、クロームが出迎えに現れた。
「ツナさん! どうですか? 女の子楽しんでま」
「おはよ。ガイさんは、居る!?」
 リビングには、サーモンピンクのエプロン(フリルつき)を着用する、偽の従兄弟。
 とりあえずは食卓にデデンとおろした兎を一目見て、
「ん? さばいて欲しいのですか?」
「ちがああう!!」
 兎が、ぷるぷるした。
 ついてきたクロームは、眼の中に星を散らすように両目をぱちくりさせ、Tシャツにキャミソールを合わせているその胸に兎をそわそわと抱っこしようとする。
「……骸様……!? か、…っかわいい!」
「ほう。私も?」
 それならそれで、と言わんばかりに両手を差し出し、デイモンが兎に頬ずりをする。
 兎はクロームに抱かれつつもぷるぷるしっぱなしだ。
「ン〜ッ。キュートになりましたねぇ!」
「ヒィ……っ!!」
 兎の額にまでチュッとキスするので、綱吉は青くなって後ずさりする。骸はとんだ災難だろう。
 と、デイモンはなんてことなくふり返り、綱吉の額にも簡単にキスを贈った。
 ふぎゃああああ! 悲鳴なんてものともせず、
「貴男もキュートですよ? 今は少女の匂いがしますが」
「へ、ヘンタイかぁあああああああ!?」
「おお、酷い反応です。顔こそは私の主人にもそっくりだというのに……彼の女体化なんて輪廻転生でもなければお目に掛かれないでしょうにね」
「はああっ!? 何言っ――」
「おおっと」
 がぶー、と、手首から兎が垂れる。
 ぶらんぶらんさせて、痛くもなさそうにデイモンは楽しむ余裕すらみせた。
「ぬふふふふふふ。スッポンのような子兎だこと。ヌフフ!」
 そんな混乱の現場に、六道ガイも同席してはいるのだった。
 チョコレートが詰まっているアルミ缶を開けて、一粒ずつを口に運んでいる。単に眺めているだけの彼の前へ、綱吉はずいっと詰め寄る。
「で、デイモン、どいてくれ。そんなことよりもガイさんっ……、ガイさん!」
 神妙に、両手を合わせて念じた。
「――おねがいしますからっ!!」
「何の話でしょう?」
「っ、そんな」
 一瞬、出鼻は挫かれた。
 そして実感もする。実際のところ、この六道ガイを名乗る青年って、随分とかなり捻くれた性格の持ち主では……?
 ざっくり編みのニットカーディガン、ワイシャツの首周りにはいつもの千鳥格子のロングマフラーを巻いているこの色男。
 これまでの話からすると、幼馴染みと同じく、人種・六道骸の括りにはいるはずの人物だ。
 綱吉が怯んだ一瞬のうちに、デイモンは台所に立っている。
「食事はどうします? 綱吉。サラダとトーストでよろしいですか」
「よ、ヨーグルト、食べてきたから」
「うさぎさんは?」
「ヨーグルト食べたんで!」
「おやま。ペットですかね〜?」
 包丁を手に、ニコニコするデイモンに兎はぷるぷるしている。彼の視線から隠すように、兎は食卓の端っこに移動させた。
 伏し目がちになるが、話は戻してガイに真っ正面から話しかけた。
「笑ってる場合じゃ、ないですよ、ガイさん……っ。骸を解放してあげてください。人間に戻して、それに右目の赤いやつも取ってあげてください!」
「くふふふっ」
「ガイさん!!」
 綱吉の不安は眉間のしわになる。
 右側の口角のみを持ち上げて、ガイ自身は穏やかであるのに、どこか冷えたムードが散見する。
 綱吉の横で何事かをチャレンジしていたらしいクロームが、溜息して残念がった。
「骸様。……私の魔法じゃ、助けられないみたいです……」
「兎を人にする魔法ではね。元通りの容姿とはいかぬでしょう。呪いの右目といい、こちらの世界の技術も中々ですね」
「褒めていただいてるんでしょうかね。くふふ」
「ガイさんっ。だから、笑ってる場合じゃ――、骸がうさぎになるわ、目がゼロんなったら死ぬわ、異常すぎる話なんですよ!?」
「女体化もしますしねー」
「その話はひとまず置いといてくれっ!!」
 デイモンに目を剥いてツッコミする綱吉に、ガイはくすくすして含み笑う。
 その青瞳の切っ先はずっと綱吉に当ててあった。
 指では、ミカンのスジを剥くような丹念さで、チョコの包み紙を開けている。
「どれもこれも笑い話のようですがねぇ」
「わ、笑えないですオレは! ガイさん、お願いしますよ……戻してっ!」
「綱吉くん。その努力、自分に使ってみるのはどうでしょう? 性別を元に戻してくれるよう、魔法使いに頼んだらいい」
「ガイさん!」
 綱吉にすると、目下の緊急事態は幼馴染みの異常である。
 ガイの目をまっすぐに見つめ返す――、昨日、わけのわからないうちにキスをされて、しかも舌まで入れられた。その感触は生々しく苦く咥内に蘇る。
 なまつばを飲み、強引に恐怖を飲みくだして、綱吉は彼の視線に耐えた。
(ガイさん……、っても、本当はガイさんも骸のはずで、どこかの世界の六道骸……、その世界でオレと何かあったのか? なんでただの中学生のオレがこんなふうに……、それに骸まで目の敵にされるんだよ?)
 骸が、学校でにこやかに生徒会長を演じているときでも、一部の生徒は気味悪がって近寄らないという事実がある。それが胸に焼きつく。
 彼らの生理的な警戒心に限りなく近いものが、綱吉の内部にてシグナルとして明滅している。
 ガイは、最後のチョコレートの一粒を咥内にてとろかしながら、両肩をすぼませる。
「綱吉くん……、反則ですよ、そんな悲しそうな顔はしないでくださいよ」
「……ガイさん。オレ、ガイさんが言ってくれたこと、嬉しかった……。ガイさんがオレに嘘ついてたとしても、嬉しかったですよ」
 知らず知らずに両手を握っている。
「ガイさんのこと、好きです。オレに、勇気と、愛があればって……言ってくれた。ガイさんを信じたいんです。なのにそんなガイさんが今はオレの勇気を無視するなんて、そんなの、悲しいにきまってるよ……!!」
「僕は、君の味方ですよ」
「そんならっ――」
「綱吉くんには何もしてません」
 前半に、発音のアクセントが割かれた。
 ああ……、意味ありげな震幅がつけ足しされる。
「昨日は、ちょっとしたイタズラをしましたけれどね?」
「……、〜〜〜〜っ…で、でも、こいつは。骸は!」
 テーブルにしがみつくようにして、己を奮い立たせる。
 ぷるぷるする兎の毛並みは視界に入った。
「オレの幼馴染みなんです。放っとけないですよ、オレこんな酷いことされてる骸を見過ごせないよ。絶対に、元に戻してもらわなきゃダメです!!」
「愛しのダメツナくんに、そんなに必死になってもらえるなんて。骸は、僥倖だな」
 あまりに優しく言うので、その嫌味っぽさに気づきづらかった。
 ん? と、噛み含めない違和感に引っかかるうちに、ガイはその右手を広げてみせた。
「いいですよ?」
「…――えっ!?」
 クロームとデイモンもガイを見やった。
 ガイは人差し指を立たせて、提案するようにその指をくるりとまわす。
「うさぎから人間に戻してあげても。元々、ちょっとした制裁のつもりでしたし。ただそうですねぇ。そう。今日一日、以前のように、僕に付き合ってくれませんか?」
「……い、以前のよう、に?」
「魔法使いやら科学やらが跋扈するまで、綱吉くんはただ純粋に僕を慕ってくれてたじゃありませんか」
「う、わ――っ」
 綱吉がぎょっとするのは、クロームがどこからともなく例の長い槍を引っぱり出し、先端をガイに突きつけるからだ。
 ガイは、刃の切っ先など気にかけず、のほほんと会話する。
「そうですね、そうしましょう。支度をしてください。待ってますよ、綱吉くん」
「そんなの、阻止します!」
「ま、ま、まって、待ってよクローム! ガイさんの言う通りにするよ、オレ」
「ツナ、さん。でも」
「いいんだよ! ……ガイさん、は、へんなことは……オレにはしないよ」
 断言はするが、嘘は含まれている。昨日のディープキスが脳裏を過ぎって、必死でなんでもないふうをよそおった。
 席から立ち上がって、ガイは、綱吉やクロームをからかうように柔和に微笑んだ。
「せっかくのチャンスです、僕も女の子の許嫁でも持った気分を堪能してみましょう。クローム、私服でも貸してあげてください」
 虎視眈々と瞳をぎらつかせる彼女は、だがそれでも槍は引き下がらせた。
 綱吉は、ようやく肺が空っぽになるまで溜め息できた。
 気分的には酷い徒労感がした。

 

 ×××



「変な夢、ですか?」
 彼女の部屋は暗い星空の真っ只中のような摩訶不思議な空間だった。
 ベッドとクローゼットが浮くようにして存在する。目には見えないが、透明な床が確かにある。
 いざ、命じられた通りに服を選びはじめると、綱吉の目にもクロームはうきうきしているものと見受けられた。
 そんな折り、なんとなく気懸かりな今朝の夢のような不快感を相談してみると、続く言葉に彼女は眉根を寄せた。
「私の夢、も、ですか。昨日……、お昼に?」
「あ。そんな時間だったか、な? なんかあの槍に絡みついてる感じだった……」
 これはちがう、これもいまいち、とハンガーごと綱吉に洋服を当てては、彼女は次々とベッドにぽいぽいとそれを積み上げる。
 そんな服で、もう山ができている。
 綱吉は横目でそれらを眺めて、反応が微妙なクロームに不安を駆られて、自分のほっぺたを掻いた。
「えっと。気のせいだとは思うんだけどな!?」
「今朝は、どんなものでした?」
 問いかけながら、ミニスカートの白ワンピースを綱吉に宛てがってみている。
 全身を眺めて、ううん、と唸ってワンピはベッドに放った。
 綱吉の右肩には、片脚をたまにずるりとさせる、子兎がへばりついている。
「それがさ。さっきガイさん見てて気づいたんだけど、ちょうどあんな感じの背丈だったと思うんだ。背が高くておっきい男の身体だったんだよ、オレ」
「……ボス、……ううん、ツナさん、それは……」
 ややして、ゆっくりに瞬きする。ロングスカートを綱吉の腰に当てた。
「……ツナさんは、縦の時間軸に強いゆかりがある……宿命のある魂だから――」
「私とクロームの世界では、あなたはボンゴレプリーモの他に唯一、ボンゴレリングを原型に戻すことができた人間ですしね」
「うぎゃああっ!?」
「デイモン。女子が着替えてるの!」
「元々は少年でしょうにー」
 にやにやして突如、現れた。
 顔だけは整っている神出鬼没な怪人に、それでも綱吉はツッコミせざるを得なかった。するだけ無駄な気はおおいにする。
「っていうかドアも開けずにどーやって入ってきてんだよデイモンは!?」
 服の山の隣に腰をおろして、ウインクなど寄越してきた。
「宇宙次元の話になるのですよ。パラレルワールドを自在に渡り歩く、マーレリングの後継者なんて男も存在はしますが……、我らのボンゴレリングは、本来ならばひとつの世界線においてのみ、強い縦軸を維持させるものです」
「はあ? ……リング?」
「うん、指輪。……私達の世界だと、指輪はとっても強い力があるの。今の私はボンゴレギアに宿ったデイモンの思念から、夜の炎を間借りしている状況だから、指輪の力はむしろ使えない状況にあるけれど」
「…………」
 無になって途方に暮れる綱吉に、デイモンはなぜだか手拍子を繰り返している。
「魔法です、――『魔法』! 魔法と思っておきなさい、まだ話が通じるでしょう」
「……はあ……」
 曖昧に、相づちする。
 汗する綱吉に、手際よく次々と新たな洋服は差し出された。
 クロームは、それでいて深刻に眉は寄せる。
「でもボス、私に対してすらそんな夢を視るのなら……。その男はガイなのかもしれない。ガイは、縦軸に関係があるのかも」
「……あの夢の男の人が、ガイさん……?」
 その可能性はずっと頭にあったはずだ。が、綱吉は虚を突かれたようにして沈黙した。
 いつだったか、誰かに乱暴をした。今朝は土砂降りの雨中に立ち尽くしては単なる側溝を眺めている夢。
 どっちも、いまいちしっくりこない。
 釈然としない気分のまま、綱吉は、目の前に浮かんだ疑問をひとまずは口にした。
「元の世界じゃクロームとデイモンってどういう関係だったんだ? ほんとの兄妹とか従兄弟じゃ、ないよな」
「……ん〜、それは。後継者……いえ、私が後継人といったポジションですかねぇ?」
「デイモンは。興味があるって言うから。……悪魔の誘いを断れなかっただけ、私が」
 一瞬、クロームは鏡に映る彼女自身と目を通わせた。
 暗い色が去来する。決意するようでもあって、顔を上げると綱吉ににこりっと笑顔を返した。
「最初はほんの興味から……、思念を通して覗くだけだった。でもあまりにボスと骸様がすれ違ったり仲違いしたりあまりにあんまりだったから、」
「そうして悪魔の誘惑に乗ってしまう――、ンンン、おとぎ話ですね!」
「やっと見つけた楽園だと思ったんです、……私の勝手とはわかってるんです。でも一回くらい結婚してもイイと思うの。ツナさんと骸様」
「なんかやっぱりよくわかんねーけどとんでもないことは言ってるよな? なあ!?」
「ミ゛ッ…!」
 肩に乗ってる兎に叫ぶと、兎も両耳を立たせて何やら返事をした。
 ふふふふ。微苦笑するクロームは、ちょっとした魔女のように、捉えどころのない含み笑いをする。物悲しげに嘆息は吐く。
「本当はもっと平和に、少女まんがみたいにラブコメしてもらうはずだったのに。――上手く行かないね、デイモン」
「世界に介入しても、往々にしてそのような結果なんですよ。霧の後継者」
 上から目線で言い放つデイモンは、まるで本当に教官か上司のようだった。
 小一時間ほどして、綱吉は青くなるやら赤くなるやら、忙しく顔色を変えながら六道家の階段を少しずつ降りた。
 足元はすーすー、ひらひらとして、違和感が凄まじかった。
「ああ。綱吉くん」
 ガイと名乗っている青年は、玄関にて、壁に背中を預けて綱吉を待っていた。
 支度が終わった綱吉の全身に目をやって、満面の笑みでにっこりとなる。
 ……カーッ!
 顔から火を噴くようにして、綱吉は、後ろへとよろめいた。
 後ろにはクロームとデイモンが詰まっていて、クロームの腕には兎が抱えられている。
 ミ゛、ミ゛ミ゛ッ、なにやら騒ぐので綱吉は仕方なく話しかけた。
「そ、そんな目で見るなよな! 誰の為にここまでやってると思ってンだよっ……、オレだって好きでこんな格好してるんじゃ」
「大丈夫、ツナさん似合います! 骸様とのデートじゃないのが残念だけど……」
「馬子にも衣装、ですかねぇ」
「どうぞ、綱吉くん」
「!!」
 階段の途中へと、青年は上向きにさせる手のひらを差し出す。
 あ、あう…。力無く喉をうならせて、綱吉はその手の補助を借りて、最後の一段を降りた。
 ふわっ。四段のギャザーをつらねる、真っ白いティアードスカートがフレア状に裾野を広げる。くるぶし丈の黒い靴下はニットの縦目がくっきりと見える。
 今日はスポーツブラまで借りて、黒いキャミソールにもこもこする白ニットカーディガンを羽織って、花柄のミニショルダーバッグまで引っ提げている。女子として万全の姿である。
 髪もブローして整えてもらって、もはや今日の沢田綱吉はいつもとは別人だった。
 事情を知らない者が見れば、どこからどう見ても間違いない女の子である。
 階段を降りればガイが横並びになり、彼はくすりっとして変身を面白がった。
「綱吉くん、天使みたいですね」
「……ん゛な゛っっ!!」
 歯の浮くセリフもなんてことなく、日常会話に織り交ぜる。
 ガイも身支度をすっかり済ませていた。
 長身痩躯をすらっと黒服に包み、ダークベージュのシンプルな上着を着て、いつもの千鳥格子のロングマフラーを首周りに垂らしている。巻き方を広くゆったりと、間口を広くとって服装のアクセントにしていた。
 長い後ろ髪は銀色の留め具で一絡げに束ねてある。
 思わず「芸能人ですか?」なんて、ツッコミしたくなるほどスタイリッシュで落ち着いているのに派手だった。
 自動販売機ほどのずば抜けた背丈もあるから、美男の一言では表現が足らない。完璧な美青年だ。
 そんな彼は玄関のドアを開けて、綱吉が古いスニーカーを履き終えるのを静かに待つ。
 待ちながら、何度か言葉をかけた。
「かわいいですよ。綱吉くん」
「……あっ――、ど、ど、どうも……っ」
 男なんだけどな、思いつつ、口をもごもごさせて赤面してしまう綱吉だった。
 立てば、不機嫌そうに後ろから漏れ聞こえた。
「いってらっしゃい、ツナさん……」
「ん〜。襲われそうになったら、走って逃げるんですよ綱吉!」
 兎は、……骸は、クロームの腕中から両の耳を立たせて綱吉へと耳の内側を向けている。
 再三ではあるが、胸中に念じた。半目遣いになって兎を軽く睨む。
(……だから、お前の為なんだぞ!? 骸!!)
 いってきます。呟くと、ガイも同様にして疑似家族である彼らに挨拶をした。
 ドアが閉まると、綱吉は肩を抱かれるようにして歩く方角をエスコートされた。まるで本物のデートである。
 綱吉ははっと気づきもする。
 並んで歩きながらだ。
 住宅街を抜けて、人通りがでてきた。さりげなく車道側に立っているガイは人の注目を集めている。
「あ、あの、これってオレ、知り合いに遭遇しちゃったら人生終わっちゃいませんか……っ!?」
「くははっ。綱吉くん、だーいじょうぶですよ。顔が似てるからってこんな可愛い少女を男とみなすことはないでしょう」
「ん、んなっ! でもオレ顔は変わってないんですけどーっ!?」
「そこはほら、もとから女顔ですし。服装の先入観も強烈ですよ?」
 自信たっぷりに余裕綽々の美青年に言われてしまっては、それ以上は綱吉も続けられない。黙して頬を染めやった。
(!! がっ…ガイさんて、オレのこと、めっちゃくちゃにへんなふうに勘違いして……ないかーっ……!?)
 思えば、はじめっから猫っ可愛がりされている気もするが……。
 煩悶している間に、公園に差しかかった。
 公共施設が色々と取り入れられた、ちょっとしたテーマパークのような公園だ。
 地べたから水をスプラッシュさせる、変わった噴水がシンボルになっている。児童などが夏場はよく水着姿で遊んでいるものだ。
 当然、綱吉は、そんな光景に昔っからよく馴染んでいた。
「うわ……、なつかしー」
 通りがけについ話してしまう。
「あそこの水がでるところ、あそこでよく昔は遊んでたんですよ。骸もいっしょで。オレなんかよく転んじゃって……、水が出る場所も他のやつにとられちゃったりで。骸にしょっちゅう手ぇ引かれてました」
「思い出の場所、というわけですか。あそこでお昼ご飯はどうです?」
「はい。あ! あそこのジャングルジムも、昔よく遊んでました!」
「元気いっぱいの子どもでした? 綱吉くん」
「はいっ。ほんとに……、ああ、あっちのブランコじゃあ靴投げとかやってて、おっさんの頭にぶつけたのは骸なのになんでかオレが泣いて謝るはめになったんですよ! 鬼なんですよ、骸」
「はは。昔から苦労の連続ですねぇ、綱吉くんは」
「そーなんですよぉ。傍若無人ってやつですよね、あいつ」
 思い出話なら綱吉はいくらでもあった。
 カフェテリアはオープンテラスを広げた優美な場所で、遠目に遊具も一望できる。
 子ども用の遊具スペースが奥にあって主婦や乳母車が目立つ。外席に案内されようが、にぎやかな声はそこらじゅうに満ちていた。
 奇天烈な奇声などが響けば綱吉はビクッとするが、ガイは全く動じずにチョコレートドリンクを口元に運んでいる。
「うん、定番ですねぇ」
 爽やかな風に、目を細める。
 綱吉が注文したジンジャーエールにも視線を配った。
「……君って炭酸が好きなわりに、コーラはあんまり飲まないっていうね」
「あれは、甘すぎなんですよ。ちょっと辛いくらいでオレは」
「ああ、そろそろですか」
「え?」
 両手でチーズマフィンを持ち上げ、囓ってみている綱吉が目をぱちぱちさせる。
 ガイは、長閑な風景に身も心も浸らせていると見受けられるが、その瞳はずっと綱吉にある。
「君への魔法――、永久に続くって思えますか?」
「……女体化の?」
「ええ。クロームは永遠の呪いのように言いました。だが、実態は一日ごとの掛け直しでしょう。幻のような魔法」
「な、なんで、そんなこと……」
「わかるか、ですか? くふ。僕は常に君を見ていますから」
「…」さらりっと爆弾発言をされた気もするが、綱吉の頭が回転しきる前に、ガイは先を続けた。
「昨日、掛け直したのはお昼前でしたよ。ちょうど君は保健室のベッドで仮眠していましたかね」
 ガイが、噴水のさらに向こうにある、時計台を見据える。
 ほんの一瞬のうちに綱吉に目を戻し、いたずらっ子のようなカウントダウンを口にする。
「?」となる綱吉などお構いなしに、
「――…3、2、…はい、僕の綱吉くん、」
「!?」
「おかえりなさい、ですね」
「え……えぇ……っっうぇ!!?」
 危うく跳ね上がりそうになる。綱吉は、大慌てで前屈みになった。
「っ!?」ぼふんっ……煙幕が上がるようにして瞬時に真っ赤に耳まで染まった。膝はすり合わせ、脂汗を掻いてはもじもじとすり合わせる。
 女の子ならば、ならば気にしなくて済むはずの――、感触が。確かに出現した。
 太腿をぴったりと閉じてティアードスカートの股間部を両手で押え込んで、綱吉は冷たい汗だらけになって沈黙する。
 睫毛がやや短くなった両目を盛んに瞬かせる綱吉に、目を白黒させるその横顔を、ガイが苦笑して笑って覗いた。
「ね? でしょう?」
「ひ……いっっ……!!」
 綱吉はもはや、パニックを通り越して恐慌状態にある。
 ガイは、マイペースににっこりする。
「ね? 性別、戻ったでしょう?」
「う……ああ……うああああああっっ……お、おれこれ、だ、大惨事じゃないですかぁああああぁああぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁああああ……!?」
「でも、今じゃなければね。クロームとデイモンを引き離し、君をこうして僕がつきっきりでガードしているからこそ魔法を解除できた。六道骸へのト弾を無効化するなら、僕もこのくらいの対価は返して貰わなければ」
「そ、そんな、それはそれでいいですけどオレはでもでもこんな外でやらんでもぉおおぉおおぉおおおおお……っっ!?」
 これでは、これではただの女装してる変態少年になってしまう!
 身の置きどころがなくてテーブルにへばりついて震えるが、横のガイは一貫してのんびりしている。
 うん、頷き、満面の笑みで肯定する。
「大丈夫ですよ、可愛いから。自分の容姿にもっと自信を持つべきですよ?」
「そ、そそそそそそそおいう問題ですかあああああああっっ!? オレめっっちゃやばい人だよ今!!」
「ふぅむ。思春期は難しいですかね? 綱吉くん」
「てか、それじゃあオレが男に戻るってわかっててこんなカッコまでさせてオレを連れ回してたんですかガイさぁん!?」
「そんな言い方では、まるで僕に悪意があるみたいですが? 綱吉くん、騒ぐと却って目立ちますよ」
「うぐ、うぐぅ……っ!?」
 のほほん、にこにこと正論を吐かれて、綱吉は胸を自分の手でわしづかみにして耐えた。
 や、やっぱり人種・六道骸だ……っ!!
 痛感する。そして、促されて仕方がなくおずおずとチーズ・マフィンの続きは囓る。
 涙目を潤ませて愚痴は漏らした。
「こ、こんな姿、骸に見られたらぜっっったい一生のネタにされる……っっ」
「ああ。クローム達は来ませんよ? 撒きましたから。こう見えて、僕には色々な手段があるんですよね」
「ガイさんって何者なんですか?」
 ひくつく喉をジンジャーエールでなだめて、ティアードスカートの綱吉は悲しさのあまりに直球の質問をぶつけてしまう。
 ガイは、後から思えば意外なことに、はぐらかさずに率直に返答した。チョコレートドリンクは一口飲む。
「稀代の発明家といった所でしょうか? マフィアに武器を卸す、ボックスに圧縮機能を付加する……、色々と手広く商売はやりました。研究資金は必要でしたから。僕ほどの男、そうは居ませんよ」
 綱吉は呆けながらふうん、と頷く。よくわからない。
 このところ、突飛な話が多すぎである。
「発明家……なら、ここにも発明で来たんですか」
「開発には十年以上もかかりましたがね」
「そ、それじゃ、骸の年齢のころには? もう……!?」
「蛇の道はへび。ですよ、綱吉くん」
 四角いクッキーを口に放り込んで、ガイはかりっと音をさせてそれを噛んだ。チョコチップ入りのクッキーだった。
 ひたすらチョコレートなどの甘味を嗜む、非常によくできた端正な顔立ち、色男が板についたこの美青年。
 綱吉は、眺めているうちに、眼精疲労の蓄積を感じた。眩暈がしてきた。
(……な、なにが、なんだか?)
 皿がすっかりと空になって、それなりの休息時間も取ったのちに、ガイはするりと立ち上がって綱吉に手を差し出した。
 それこそ、階段を降りるときに差し伸べたようにして、
「立てますか? 綱吉くん」
「……う、ううっ……」
「僕にくっつくといいですよ。僕、目立ちますから。いい隠れ蓑になれます。まあロングスカートですし、そんなに男とばれるような容姿じゃないですがね」
「……ぜっったい、一発でバレますってば……」
 悪夢だ。げっそりするが、ありがたい申し出ではある。ガイにぴったりと密着して歩いた。
 綱吉は、頭三つ分ほども下になるから、すれ違う人々などは綱吉よりも高いところのガイに注目してばかりだった。
 当のガイは綱吉に歩幅を合わせて歩き、楽しそうに話しかけてくる。
 これはこれで、別の恥じらいが炸裂する。
(ヒ、ヒィ〜〜〜〜ッ!! 拷問かよっっ……!!)
 アリジゴクに足を掬われたような居心地だった。
 ちりちりと焦げるように手足の先っぽが痒くなる。
 混乱はさらなる混沌を呼び、綱吉は、汗だくになってやっとのことで尋ね返した。
「が、……ガイさん、こんな、オレとふたりっきりで楽しいんですか……!?」
「もちろん。楽しいですよ!」
「な、なんでオレなんかにそんなっ……! むしろ骸のがよっぽど――、ガイさんは目の敵にしてますけど!」
「骸をやたらに評価してますねぇー、君は。本当にそんな価値はあるんですかね。骸は別の世界では犯罪者になったり、殺人にも手を染めたりするんですよ?」
「えええっ!? 骸があ!?」
「根がねじ曲がってる男じゃあないですか」
 肩を揺らして他人事のように面白がるガイ。綱吉は瞠目する。
 気づけば、取り繕うように、六道骸へのフォローを口にしている。無意識のうちの言動になった。
「骸、誤解されやすいですけど。……オレが本気で困ってればどうにかしてくれるし、ウチの母さんにもめちゃくちゃ親切なんですよ? あいつ、身内には情が厚くってけっこうちゃんとしてるところがありますよ、わかりづらいですけど……」
「庇うんですね」
 それもまた面白そうに、口笛でも吹くように甲高く洩らした。
 そして、さらりと、
「ねえ。綱吉くん、やっぱり僕を許嫁に据えるのはどうでしょうか」
「ええええええっ!?」
 頭はパンク寸前だ、素っ頓狂に悲鳴する。
 きれいに透き通った青い碧眼とばちりっと目線は交錯する。
 視神経から電気が流入して全身の神経がそばだち、ぴりぴりする。ただでさえ悪化するばかりの赤面症がますます酷くなる。耳まで染め抜く綱吉は、少女が物怖じするように、静かに俯いて視線をそらした。
 くす、微笑んで、ガイは綱吉の頭をなでなでと撫でまわしてみせた。
「まんざらでもないと思うんですけど。ね? 綱吉くん?」
「……お、男同士、……ですよぉ……っ!」
 目を剥き、やっとのことでツッコミする。
 そうして公園を出て、ガイは視界に入ったショップに綱吉を連れて入店した。
「ひえ、が、ガイさん、ここ高そうっ――」
「いいからいいから。更衣室をちょっといいですか?」
 退店してからも、綱吉の頬にはピンク色が定着していた。
 更衣室に押し込んで、洋服を見繕ってきては渡して、そしてガイは綱吉を口説きっぱなしだった。男同士でもイイじゃないですか? 脈はありますよね? などと。
 虫の息になって口からはあぶくを噴きそうになる。綱吉はとにかく着替えることに集中した。
 そして、ぴっちりするレザーパンツに、バスク・シャツとベルト、迷彩柄のパーカーにおまけにちゃっかりと靴まで新調されてしまった。
 女装道具一式はショップの大きな紙袋に詰めて、ガイはその紐を肩に引っ提げる。
 それはオレが持ちます、ありがとうございます、など、言えるはずのセリフはガイの怒濤の攻勢に怯んで綱吉の口から引っ込んでしまっていた。
「実際問題、君の相手が僕でも違和感はないと思うんですが?」
「お、おおありですよ。おおありです!! オレ、男ですからーっ!?」
「でも綱吉くんでしょう? ね?」
「そ、……そ、……あ、……っ」
(し、しっかり、しろ、オレ……! しっかりしろって!!)
「あ?」
「……っ、あ、ありがとう、ございます、ふ、服……っ!」
「ああ。完全に僕の趣味ですがね。ね? 僕のものになった気分するでしょう?」
「が、ガイさん、ほんとあの、勘弁してください!!」
 真新しい服の匂いが、まるでまるごとガイの匂いのように思われてきた。女装ではないとしても、これはこれでとんでもなく気恥ずかしく、綱吉はずっと赤面している。
 感度が増してひくひくし通すような綱吉の肩に、するりっとガイの腕がまわる。
「ひゃっ!? あ、ガ、」
「まだ帰しませんよ。綱吉くん。夜まで付き合ってもらいますよ」
「ガ、……ガイさぁあん……っっ」
 情けなく喘ぐ綱吉とともに路肩に立って、自由な方の手を掲げると間もなく、タクシーが停車する。
 胃を酸っぱくさせる綱吉は、車内からの夕焼け空にようやっとの一息をつけた。
 深く嘆息をつき、そう、とひとつの事実は認識する。
 不快ではない。
 だから困る……。
(……なんかガイさんは本当にオレが……好きなんだろうなって……声、してるんだよな……)
 なぜだろう。そんな気がする。
 タクシーを降車して、綱吉は呆気にとられた。
 精算を済ませて青年は隣に立つ。片手を腰にやって、どこか得意げな面持ち。
「ここは、…――おおもり遊園……?」
「そうです。懐かしいですよね」
 うさぎ、くま、魚類、古くささと懐かしさがぎゅっと詰まったイラストの看板が、入口に乱立する。
 メインゲートがその奥にあって、大人二百円と学生百円の入園券が購入された。
 各種のりもの券も購入。綱吉は終始驚いてしまい、口を挟めなかった。
「お先にどうぞ、綱吉くん」
「…――――」
 チケットを差し込み口に入れると、しゅっ! 飲み込まれる。
 手押しのゲートを押して前に歩けば、デュデューン! 効果音がして、それから赤いランプがまわる。綱吉の記憶にある通りのおおもり遊園だった。
『ようこそいらっしゃーい! おおもり遊園、みんなの楽しい大盛町の…』
 ナレーションがはじまるが、ガイが次のチケットを差し込んだので、リセットがかかってまた始めからのナレーションに戻った。
 この安っぽさ、チープな感じ、どれも記憶のままだ。
 綱吉は、ゆっくりと辺りを見渡した。
 入園してすぐ、案内板がある。
 ちびっこ広場。つりぼり(休園中)。ミニカー王国。動物ふれあいコーナー(今日は終了しました)。しばふステージ。のりものランド……――
(……ここ、よく、来たわ)
 母親に連れられてよく来た。
 さんさんとした陽差しを浴びながら、すべてを見上げていたように思う。
 笑っている母親に、二回に一回は一緒に来ていた幼馴染みに、手と手を繋ぎ合ってのりものランドを行ったり来たりしたものだ。すべてがきらめいていた。
 夕日のせいか、今は赤茶けてどれも錆びて古くみえるが、きらめきは確かに胸に刻まれていた。
(……っていうか、今日、オレ達の思い出の場所ばっかり――……)
 ロングマフラーと長髪をなびかせて、青年が園の中央にある大時計をふり返って仰ぎ見る。
「さて、閉園まであと三十分。やってみましょうか? のりものランドチャレンジです」
「……え゛っ? ほ、本気ですか!?」
「まずはわんわんコースターから攻略してみますか」
 それは、ダックスフントをモデルにしたミニコースターである。
 綱吉でもコースターに乗るのにちょっと苦労した。
 ガイは、長身を折り畳んでブーツで蹴るように強引に収まって、どう見ても窮屈そうだった。
 自分の長髪のしっぽとロングマフラーを掻き寄せて、機材などに引っかからないようにしているガイをふり向き、綱吉が叫ぶ。
 ミニコースターなので、さらに大人であるので、一人一席として乗車していた。
「が……ガイさん! こゆの、乗るって、ちょっとだいぶイメージがくずれちゃわないですかぁあああぁあぁああうあああああ!!」
「くふ、綱吉くんのなかで僕のパブリックイメージ、相当夢見てません? 次はあっちの汽車に、のりま、すよ…――」
「マジっすかぁああああああああああああああ!?」
 ゴゴーッ!
 少年と大人が、猛スピードで駆け抜けるダックスフントにふりまわされてぐるぐると回転した。
 順に制覇していると、親子連れなどともすれ違う。母親も連れの子どもも目を丸くしてガイのルックスにくぎづけになっていた。
 そして、そんな彼は今、メリーゴーラウンドの木馬によいしょと跨がった。
 ひょい、と横に顔を出して、前方を確認する。
「綱吉くん? 手伝いましょうか?」
「だ、だいじょうぶですよぉおおおおお!?」
 足場に靴をひっかけられず、もたもたしている綱吉は赤面しながら絶叫した。
(〜〜〜〜っ、やっぱオレって運がねぇーなあマジで!!)
 などと胸中でも絶叫する。
 綱吉が乗った木馬は、ちょうどいちばん高いところに昇った時点で、運転の終わりを迎えてしまった。
 おっかなびっくりに跨がった木馬から降りようとする綱吉に、その細い腰の両側に当然のように大きな掌がまわされる。
「はい、どうぞ。綱吉くん」
 一度、上に浮かして持ち上げて、それからすとんっと地面に足がおろされた。
 ちっちゃい子のように扱われる綱吉は、頬を真っ赤にさせながら口角をひくつかせる。震える声で礼を述べた。
「ん? つ、な、よ、し、くん? 拗ねない、拗ねない。くふふふっ」
「……っ、お、オレ、今のはちょっと待ってくれたら自分でおりられましたからね!? ガイさぁん!?」
「く、ふ、そぉですね、そーですね」
 言葉尻に音符でもつけていそうな楽しい声色で、ガイが応じる。
 綱吉はムキになってしつこく身の潔白を主張した。
 あの高さならぜんぜん足がつく、大丈夫、問題ない! 連呼してもガイは笑いながら同意するばかりだった。
「ほ、ほんとですからね、ガイさん!」
「わかってますよ」
 やっぱり音符が附随しているような声色だ。
 むぅぅぅ、うなって難しい顔になる。次ののりものに乗って、どんどんと乗って、そのときは綱吉はすっかり童心に戻って水色のコーヒーカップを指差した。
「ガイさん、あれ!」
「ええ。好きですよね、その色」
 なんてことなく応じて、のりもの券をスタッフの若い女性に渡して――目をまん丸にしてガイの顔面を凝視しまくっている――、ガイは、水色のコーヒーカップにあとから乗り込んできた。
 綱吉は、お尻をいざらせて奥へと詰める。
 ふと昔っから、骸は綱吉が選んだ色にあとから乗ってくるから、いつもこうしてきたことが思い出された。
 ブブ…ブーッ! ブザーが鳴る。
 カップの下にて、回転装置が自動的な回転をはじめる。
 徐々に重心が加わってくるから、綱吉はコーヒーカップのふちを手に捕まえた。ぐるぐると景色がまわる。
 コーヒーカップ内のハンドルを回せばさらに、個別に回転力が高まる仕組みである。
 綱吉は、なんとなく目を丸くさせてしまいながら、ハンドルとガイを合わせて見つめた。
 ……舌が詰まって、妙にしゃべりづらくなった。
(……骸は、自分じゃ、回したがらなかった……よな、あくせく、動かすのがイヤだとかなんとか言って――…)
「……ガイ、さん、回さないんですか?」
「綱吉くんがまわすのなら、手伝いますよ」
「い、いや、オレは……」
「遠慮してるんですか? 大丈夫ですよ、僕は気持ち悪くなったりするタイプじゃありませんから」
 回転遊具のなかで悠々たるものだ。背中をカップに預けて、足を組んでいる。
「……骸のやつ、あくせく動かすのは格好悪いとか、小者のすることだとか、変な理屈つけていっつも回さなかったんですよ。回すのはオレの仕事で、……あるいは、オレもいっしょにただ乗ってるだけで、……楽しかったから」
「……へえ。……仲がいいんですね」
 短く、相づちする。ガイは回転に従って顔に飛んできた前髪を横に掻き分けて、片側は耳へと引っ掻けた。
 くるり、くるりとまわって景色が崩れていく。
 青い瞳は飽和するようなゆがんだ世界を見渡し、そしてたったひとり、いつも通りの綱吉を眺めて、ハンドルを回しもせずにしかし充分に楽しんでいる様子だった。綱吉には、そう感じられた。
「…………」
 綱吉は、ゆっくりに両目を瞬かせて、目の前の青年を凝視する。
 先程の女性スタッフのように。
 はじめて、こんな男を目にした、そしてそのルックスに驚く、というように。
 コーヒーカップはゆっくりに減速しはじめてほんの数分間の回転を終えた。
「…………」
「綱吉くん? 酔っちゃいました?」
 のりものに残されて、目を丸くするままの綱吉にガイが不思議そうな顔となった。
 何気なく綱吉の頬に平手を当てる。
「ああ。すっかり冷えちゃいました? 大丈夫ですか」
「……が、……あ、……ううん」
 コーヒーカップをおりると、綱吉は自分の足がふらついていることに気がつく。
 ガイが驚き、綱吉に手を貸した。
「疲れてきましたよね。すいません、そろそろ休憩してお開きってところですかね」
「ううん」
 頭を左右に揺すりながら、今までになく筋肉が緊張にこわばった。
 ガイに手を引かれてのりものランドからは歩き、おおもり遊園の出入り口へと向かう。しかし綱吉はコーヒーカップに自分が座っていてぐるんぐるんと回っているような気分だ。
 冷や汗して、自分に強く言い聞かせようとする。
 錯覚だ。錯覚だろう。あの頃、回さないくせに六道骸はコーヒーカップが好きだった。綱吉が好きな水色のカップにあとから乗り込んできた。
 母親の奈々が疲れ果ててベンチで休んでも、ふたりでぐるぐるし続けては遊んでいたものだった。
 ふらふらする綱吉の手を取って、ガイはゆっくりめに歩き、腰を屈めて綱吉の顔色をやさしく確認する。
「平気ですか? 少し休んでからタクシーに乗りましょうね。今日はもう終わりですから、安心して。ね、綱吉くん」
「…………っ」
 コーヒーカップに酔ってはいない。
 が、綱吉は自分の口を手で抑えて青褪める。
 反対の手は、ガイの上着の裾を強く握り込んだ。
 ぱち、ぱち、ぱち、おおもり遊園の出入り口に施されたイルミネーションが、足元に灰色の影を刻んでは消失する。ぱち、ぱち、ぱち、消えては現れる。
 儚い人影に痛切に胸が締めつけられて、綱吉は呼吸を短く切っては喘ぐようになる。ガイが心配するように声をかけるが、綱吉はそれらをすべて無視して尋ねた。
「――…オレ、の、幼馴染み……の……」
「……?」
 たおやかな微笑を浮かべたままで眉を寄せる。
 上着にしがみついてくる綱吉の腕に両手は添えている。
 ばっ、顔を上げると、綱吉は息せき切ってガイへの質問を連続させる。
「ムクロ? なの、か!? おれの知ってる。おれの、オレの、オレの幼馴染みの骸なんだよなっ!? お前!?」
 ガイの表情は変わらず、しかし青い両目のふちが拡がった。深海の色をした両眼。紺碧の瞳だ。
 その虹彩がさんさんと揺れた。綱吉はそこに向かって続けて叫んだ。
「どこの世界の骸でもないよっ! お前はっ――、オレだけが知ってる、オレの幼馴染みの六道骸っ……!!」
 武者震いに揺れて身体がぶるぶるとして、額が発火するように熱くなる。
 ガイと名乗っている男の上着は、両手で引っぱってぐいぐいと自分にたぐり寄せた。
 すがるように、その整った顔立ちに詰め寄る。
 間違いない――馬鹿げているけど、でもそうだ、そうだよ、だって――、理屈なんて知らないが綱吉の全身がこの男を知っていると叫んでいる。
「大盛みどり公園もおおもり遊園もこの町もずっとオレと一緒に、過ごして、一緒だったよな? ずっと。オレ達は!」
「…………綱吉くん」
 静かな声音だ。
 上着を引かれて前につんのめる彼は、――眉宇をゆがめて苦笑した。
 綱吉は、どうして気づかなかったんだろうと自分をなじった。この青くて綺麗な澄んだ青い眸子、その瞳。
 それは、ずっと、幼馴染みの彼の両目に嵌まっていたものだ。
 なにやら思案するらしい彼に、綱吉は追いすがって詰問する。
 疑問だらけだ。骸なら、なんで? 骸ならどうしてこんなところに。骸なら――?
「じゅ、十年、先から来たっ――、って言ってた……よな!? お前」
「それは。……タイムトラベルを実現させるのに十年以上が掛かった、という話……ですね」
 彼は、喜ぶべきか、困るべきか、決めあぐねているようだった。
 複雑そうに綱吉の手に自分の手を重ねる。
「この齢になって思い出すんですよ」
「!?」
 その声は、今までの声色ではなかった。
 酷く疲れ果てた、老獪な苦渋に満ち満ちた音色である。
「昔のことばかりが。君はいつも僕のいちばんの厄介事だった。でもたった十四年、たった十四年が、その歳月をどれだけ僕は何千回と思い返してきたことか」
「……えっ……?」
「七十年が過ぎても君が忘れられない」
「え?」
「正確には、君からすると七十四年後。現在では考えつけないような技術が大量に生まれて世の中はもっと豊かになる。僕は、……そうですね、二十五歳のときに、十四歳だった君をどうにか現世に戻せないかと希望のように野望を持った。そして邁進した。技術発展の礎の一つと成り果てて、しかし君は結局はどうにもできなかった」
「え。えええ……っ? えっ? え、あれ? あ、オレなんか勘違いして。ガイさ」
 つい、ガイさん、と呼びそうになる。
 すると彼は綱吉を抱きしめた。その肩を両腕に閉じ込めて頭を垂らし、綱吉の視界すべてをその体で封じた。
 切なそうにとくとくと、ガイは自らの正体を認めた。
「間違ってませんよ。僕は六道骸だ。君の、たったひとりの……――」
 でもね。悲しそうに、独白する。
「この姿が、もしかするといちばんの大嘘かもしれない。だが一縷の望みを賭けて時間を逆行させるなら、君に会えるなら、老いぼれた肉体なんかじゃ恥ずかしかった……、僕がいちばん未来に輝いていたときの姿で会いたかった。なんて、僕を笑いますか? 随分と臆病者になったでしょう。でも、歳を取ってしまった。君が死んでからもずっと」
「……死んで……っ?」
 目を白黒させて、青年の胸に顔をうずめながら綱吉は呆けてしまう。
 ガイさんはオレの幼馴染みの骸だった――、そんな驚きだけでは、話は終わらないらしい。
 綱吉に答えず、沈黙する青年の胸元にて綱吉はわたわたして上着を引っぱるなどした。
「あ、あの!? あの!? あ。じゃあ、ガイさん――じゃない、むくろ、えっと今何歳なんだよ?」
「今年、九十歳になります」
「うだわぁああだああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
 率直に、大絶叫をあげるほど驚いてしまって綱吉はひたすらに絶叫する。
 後ろに後ずさろうとするが、青年の力は強い。九十歳のおじいちゃんの腕力ではなかった。
 さらに悶える綱吉を力で抱き潰して抑えながら、彼は独りごちる。
「僕は、……君を死なせない為に、ここにきた。この頃の僕がいちばん幸せだった……一生でいちばん――、確信ができるんです。七十歳頃でしたか、タイムトラベルを決意してあとはがむしゃらに研究して、気が狂うような時間の果てに君に会えたんです。あとは、君を愛でて昔の僕を殺してしまえれば、僕の罪の清算は終わるはずだったんです」
「!? !?」
 頭が真っ白になるばかりだ。整理ができずに固まる。
 件の彼の両手は綱吉の頬を掬い上げて、その顔面を真っ正面から覗いた。溺れに行くような青の深さに、綱吉こそが吸い込まれて溺れるイメージを連想させられる。
「きみには、何もしない。どんなに僕が君に懸けていようが何も。そう誓ってここにきたはずだったんですよ。これでも」
「が……、う……、む……、な、なに、も……?」
 ガイさん、むくろ、どっちで呼んでいいのやら迷っている間に、質問するように呟いてしまう。
 キスなどされているし、思えば最初っからガイはぐいぐいと綱吉に迫ってきたような。
 ふふ、とガイが自嘲するように嗤笑した。
「君が大好きですよ。……年甲斐もなく、中学生の君にそんなことするなんて、とんでもないと、思ってたんですがね。事情が大きく変わったというのは言い訳ですけれど」
「く、クロームとデイモン……の、許嫁って話……?」
「ええ。あれは、許さない」
 ガイの青い瞳に生気が宿る。
 それは、復讐心のような深くて暗い虹彩だった。
 その色を載せたまま、やはり彼は自らを嘲って鼻を鳴らした。
「……でも僕も情けない男だ。幾つになっても。君を一目見て――、それだけで、死んでもいいとさえ思ったのに」
(……ひとめ、って、あのとき)
 覚えている。印象に残っている。
 ――はじめ、ガイに遭遇したとき、彼は骸の家の前でひとりで突っ立っていた。そして綱吉を視界に入れて少しだけ固まった。
(あ)と、粟立つような感覚が走って、綱吉は全身に立った鳥肌にぶるりとする。胸いっぱいに切なさが染みた。
(あのとき)
 ガイの目の色も、声も、仕草も覚えている――。
 どうして優しくしてくれるんだろうと思った。
 どうしてこんなに、勇気づけてくれるんだろうと不思議になった。
 そしてどうしてか綱吉はクロームやデイモンにガイが何者かも分からないと知らされても、ガイを拒絶しきることは不可能だった――
 知らずに、綱吉の目に涙がにじんできた。ガイが青い目をゆがめてその涙に見惚れる。
「ここは、僕にとって、とても美しくて淫らな、最期の夢なんだ。……綱吉、……綱吉、ずっと君が恋しかった」
 青年の瞳が涙ぐみ、そこから漏れる言の葉は青年でも少年でもましてや老人でもなく、幼稚園児のような幼い響きがあった。
 綱吉は、歯をかちかちさせながらも、抱きしめられるのに逢わせてガイを抱き返した。そうしなくちゃならないと全身が思った。
「……君が好きです。物心つく前から、ずっと好きでした」
 息を飲んだのは、ガイだ。
 わずかに顔を上げると端然と整えられた二十五歳の相貌に涙が落ちる。眉をくしゃりとさせて子どものように青年が泣いた。
「……きみに、生きてるきみに、……ぼくは一度たりとも、言わなかった……!」
「……っ――――…」
 顔は無理やり上げさせられているままで、ガイの眼から目が離せなくなる。
 綱吉は、馬鹿じゃないか、と強く思えてきて実際に口にも出した。
「ゆ、ゆわれる、まで、もないだろ、おれたち……はっ」
「違う。そんな感情じゃない。わかるだろう、綱吉、君ももう」
 悔しげに口角をゆがめて、ガイは恨めしそうに奥歯を噛む。本当は告白などしたくなかったようだった。
「――許嫁――なんて、わらえる。そんな夢物語は聞きたくなかった。許せるはずない、綱吉、きみはぼくのせいで死んだのに」
「……そ、んな……、どうして」
「――――…」
 酷く傷ついた目になって、ガイは綱吉の頬から手を離していく。
 総身に密着していた体も離れた。
 濡れた頬に、風が貼りつきひりついた。綱吉が手の甲で目をこすり上げるのを、涙を吹き曝しにしている青年がただ見下ろす。
 じっと、微動だにせずに。
 そのうちに、口の端を笑わせたのは彼の方だった。
 気安く友人相手にするように声をかける。
「君のことだから僕の正体なんてわからないかなと。どこで気づいたんです?」
「……コーヒーカップのところ、で……。でも……、いくらなんでも。気づくだろ。こんだけ思い出巡りしてたらさぁ……!」
「そうですか? 途中までそんなそぶりもなくって……それはそれで面白くて。それでよかったんですが、ね」
 たおやかに、落ち着いた物腰に戻っている。
 言われてみると少しお爺さん臭いかもしれない、綱吉は脳裏でちょろっと思う。
 いつの間にやらイルミネーションの電源は落ちて、メインゲートにわずかな明かりのみが残されている。
 ガイが、歩き出そうとする。半歩進めて、残りの半歩で綱吉を待った。
「帰りましょう。ゲート、まだ人がいるといいんですが」
「……結婚は、してるんです、か?」
「してませんよ」
「…………オレが死んだから?」
「…………。ええ」
 幼い少年を見下ろす彼は、柳眉をほんのわずかに顰めさす。
 また、涙が出て来てしまって、綱吉は自分の顔を手で抑えた。
 何がなんだか、これからの自分の運命も含めてわからないが、だが、
「……なんでだよ」
 喉を搾ると、向こうも搾り出すように返答してきた。
「簡単。君以上に愛せる者なんてこの世になかったから」
「……そ、そんなん、……っ」
 心臓が火の粉に晒されてチロチロと焼かれていく。そんな体内感覚が酷くて綱吉はやっぱり目頭を抑えた。
 苦しい、痛い、きもちがわるい、けれども目が熱くて堪らない。骸のそんな気持ちなんて、知らなかった。
(なん、で――、なんで。そんな、知らない、知らないよ、オレ……っっ!!)
 やけっぱちな気分になって、さらに強く目をこすっていると、その手首が捕まった。
 ガイが泣き笑うような奇っ怪な表情をして、申し訳なさそうに綱吉を覗き見する。
「――綱吉……」
「…あ、ッ、……!」
 わななくように足が震える。
 なんでもいいから、脳裏で吐き捨てて綱吉は口先を急がせた。
「そ、……そのマフラー、なんなんです、か? しょっちゅうつけてる……前は光ってた……、それも発明品、です、か?」
「……はんぶん、僕の延命装置です。この年齢ですからね……」
 自分の先行きのなさを冗談のようにして笑って、ガイはその声をひっそりと闇に馴染ませる。
 暗く、取り残されたように、メインゲートの明かりはまだ遠かった。
 前置きは、あるようでその実、何もなかった。
 綱吉の手首がつよく握られた。一瞬の情を抑圧しがたそうに持て余して、ガイが感情に任せてぶっきらぼうに吐き捨てた。少年だった頃の骸のようだった。
「そんな無防備な顔をさらして、……きみ、……一度っきりでいい。君がいいなら……」
 僕を、骸として――…
「…――――」
 自分でも驚くほど、あっさりと簡単に、そして早く、綱吉は頭を頷かせている。
 熱が予感ではなく期待として体内にじんわりと響いた。
 骸の太く長くなった手指が綱吉の下顎をさすりあげて持ち上げて、ナナメ上向きにさせるとほとんど同時にすぐさま唇が重ねられた。
 綱吉は、暗がりに沈むような相貌を直視してしまって急ぎ、自分の目を閉ざす。最後に見た青の目玉は水色のような浅い色になっていた。
(……あ……、……な――、…)
 なんでだろう、形にならないこころの声がひとかたまりになって疑問の熱をまとう。
 なんでだろう、初恋のような味がする。







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