第一章 魔王の息子







(ボンゴレなんてむいてないんだから)
 目覚めてすぐ、天井を仰いで思案する。
(もう、やめよう。みんなに言うんだ今日こそは!)
 今日の綱吉は、ポストから戻ったその足で寝室へと戻った。
 トシの離れた兄は朝が弱い。ベッドで寝返りを打った彼は、新車雑誌を放って上体を起こした。タンクトップにトランクスの姿だ。
 綱吉は自信の欠けた声で言う。
「リボーン。手紙が変なんだ」
「ああ。知ってる。がんばれボンゴレ」
「えーと、その……。やっぱこれそういう意味なんだ?」
 リボーンは、歯を見せる。皮肉げなナナメ笑いの似合う青年だった。
「他にどういう意味がある。しっかりやれよ」
「オレ、魔王ってやつと逢ったこともないんだけど……」
「探せよ。写真が二枚あるだろ? オレの仕事はそこまでだ」
 この兄がすることに間違いはない。少なくとも綱吉はそう信頼している。
 なので黙るしかなかった。
 目線は、手元にジッと注がれる。一通の手紙。短く指令の記載。祖父からだ。ボンゴレ十代目としての試練である。
(――魔王の息子を炙りだして抹殺しろ)
 化け物退治の専門家、由緒あるボンゴレファミリー。その次男坊である綱吉が、片目が見えないリボーンの代わりになる。
 祖父はまだ綱吉を跡継ぎに仕立てるつもりなのだ。
(この前はイソギンチャクもどきに消化されかけたから、おじいちゃんも諦めたと思ったのに)
 封筒を小脇に抱えると、写真を両手に持った。
 地面を睨んで歩いている黒髪の少年。こちらは隠し撮りらしい。目が吸いこまれるように真っ黒で、眼光の表面につるりと浮かぶ白光が印象深い。首都にいるようで大聖堂が背景に紛れている。
 もう片方の写真は、隠し撮りに失敗している。
 左右でカラーリングの異なる瞳が、訝しげにカメラをふり返っていた。先の写真と同じく背景は首都だ。観光スポットとして有名なポーランド通り。二十四時間で屋台が開いている。
 ジュースカップ片手に、彼は深く被ったフードの下から撮影者をただ仰ぎ見ていた。
「……フツウの子どもに見えるけど」
「まだまだ眼力がねーな、おまえ」
 放っておいてよ。頬を歪めてふくれる綱吉だったが、仰天した。
 新車のカタログをめくりながら、リボーンは何気なく言った。
「それの撮影したの、オレの使い魔だけどな。二匹とも取り終わった十秒後にはボシャンだぜ」
(い、いやな擬音使ったなーっ?!)
「と。取りあえずさ。オレに首都行けってことだよな?」
「そうなる。近頃は魔王の元側近どもに動きがあるぜ。ヤツらが動きだすんなら狙うは首都だろ? あそこは水脈の中心地だ」
「リボーンはくるの?」
 前後の歴史や背景よりも、綱吉にはこれが重要だった。
 長身の青年は、切れ長の瞳を細くした。戸惑いがちなそぶりでもあった。
「行かねえぜ。九代目から、そういわれてる」
「お、おじいちゃん……!!」
 頭を抱える弟から視線を外し、兄は雑誌をめくる手をはやめた。サイドテーブルからは赤いラベルのついたワイン瓶を取る。
「ま……。せいぜい、生きて帰ってこい」
 くちぶえを吹くときの唇で、ワインの口に触れた。

>>2へ