一満の桜がごとく!
第11
話:おもいでは雨ぬれて 

 



「お、覚えてないんですかぁ?!」
「ツナ! 今晩いっしょにディナー行かねーっ?」
 声が重なり、その上にバタン! とさらなる濁音が重なった。
 扉も開け放したままで中央まで進んだ彼は、あたりを見回すに従って頬を引き攣らせた。コリコリと人差し指のツメで頬をひっかく。
「もうすぐイタリアに帰るから、その前にどーかなァって……・思ったんだけど、よ……」
「そんな場合じゃありませんねえ」
「みてーだな」金眼が、窓辺へと泳ぐ。
 六道骸は、窓に体重を預けたまましれっとしていた。
 すぐさま、綱吉は風紀委員長へと戻した。青年と少年のあいだで火花が散ることも杞憂のひとつだが、今は、それよりも。
「夢を見てたでしょう? 大奥とか桜とか、お、オレとのこととか。ヒバリさんがずっと探してた人が――」咥内で舌がひっかかりかけた。
(あああ、ありえないけど、ずっと探してた人がオレだって!)
『愛してる』と、囁きが脳裏に蘇る。腹の底が焦げ付いたようで、綱吉は赤面した。
 したが、ヒバリはさめざめとした眼差しを引っ込めなかった。赤く変化した顔色、そのものを疑うように眉根がよりあう。
「赤ん坊。これが僕への用件なの」
 ベッドには獄寺が横たわっていた。
「あ……」掠れた声が喉を震わせる。
 獄寺の脈を確認していたリボーンが、浅く頷いた。
「もう大丈夫だ。ヤマはすぎた」
「君じゃなかったら噛み殺してるところだ」
 面倒くさそうに言い捨て、風紀委員長が立ち上がる。
「僕を無理やりつれてきてこんなガキに引き合わせようって? つまらないね」
「さ、さっきから何を言ってるんですか」
 違和感があった。ヒバリが目覚めてから。
 まるで、知らない人が目の前にいるようだ……。
「つ、疲れてるんですか? それとも怒ってる? そりゃ変な夢いっぱい見てたかもしれませんけど……」
 眉根を寄せて、ヒバリは頭の左側を抑えた。わずらわしげに綱吉を睨む。
「お、オレたちいきなり夢から追い出されたから心配してて――」
「……うるさい。だから?」
 伸ばした腕は無造作に叩き落された。
 悲鳴があがった。叩き落したのが拳だったからだ。
「ツナ!」ディーノが懐から鞭をだした。
「い、痛くないですっ」
 兄弟子に見つかる前に腕を懐に抱え込んだ。
 目と鼻の先には円形の腫れがある。唇を食んだ。腕を抱きかかえたまま、おそるおそると顎だけを持ち上げる。風紀委員長は、ただ言い放った。
「それ以上、僕に寄るなら噛み殺すよ」
「――……」ぞくぞくとする。背中がしびれた。
(今日までヒバリさんを追いかけた)
(めちゃくちゃ鬱陶しがられたけど、ちがう。これは――、ちがう。ヒバリさん?)
 彼から。目の前の少年から沸き上がるのは、……敵意だ。
 雲雀恭弥は、黒目の輪郭をゆがませた。
「そもそも。馴れ馴れしい」
「なに、言って……」
「君、だれ?」
「――――?!」
 絶句した綱吉だが、ものの数秒で見限られた。
 踵をかえした少年を見て骸はすぐさま立ち退いた。風紀委員長が窓枠に足をかけて身を乗りだす。ガラス窓は雨を満面に貼り付けていた。
「ま、待って! おれのことわかんないっていうんですか?!」
 不審に眉を寄せ、ヒバリは赤子を見遣った。
「この子、頭おかしいんじゃないの?」
「ヒバリさん?!」じろ、と、嫌悪の眼差しを向けられて綱吉がたじろぐ。
 迷った末に、少年も赤子をみやった。一同の視線全てを受け止めながら、リボーンが尋ねた。
「……ツナだけ忘れてるのか?」
「……つな……?」「沢田綱吉だ」
 硬く答えたのはディーノだ。
 眉をさらに引き寄せたあとで、ヒバリが首をふった。
「知らないな。初めて聞く」
「う、ウソでしょっ?」
「ウソついてどうなるっていうの」
「そ、な。言ったじゃないですか。お、オレのこと――。約束したって!」
 怪訝に首を傾げて、ヒバリは両手をゆるく持ち上げた。小ばかにして口角を釣る。
「わかった。赤ん坊、僕を嵌めようとしてるんだろ? その手には乗らないよ。僕は君の相棒にはなっても部下にはならないから」
「な、なんで――?」血の気が引いた。足元から冷気が絡み付いてくる。
「オレのこと忘れたっていうんですか……?!」
 言葉にしただけで、喉が冷たくなった。
 どうして。尋ねても、ヒバリは不可解な顔をするだけだ。
 カッとして声を荒げていた。ぶんぶんと頭をふって、繰りかえす。
「どうして!! どーしてですか、おかしーじゃないですかそんなのっっ」
「うっるさいな。なんなの!」
「ひゃっ?!」「っ、ツナ!」
 振りあげたトンファーを阻んだのは、鞭の先っぽだ。
 ディーノは即座に腕を天上へと掲げた。ヒバリの手から武器がすっぽ抜ける――、それは、獄寺の顔面にまで跳ねた。激突する直前で、リボーンが帽子を脱いだ。
 横に凪いだ動きでトンファーを明後日の方角へと弾き飛ばす。
 露わになった黒目は、隅で傍観するままの六道骸へと突き立った。
「テメーだな?」
「おやおや。なんのことだか?」
 うっすらと、骸が微笑んだ。
「とぼけるな。テメーしかいねーんだよ」
「リ、リボーン……?」赤子の眼差しは、貫くほど激しい。背筋の芯が凍りつく錯覚がした。
 骸を見れば、視線がかちあった。唇で微笑むもののオッドアイに表情はない。
「ち、ちがいますよね」ぞっとした。呟いた途端に、オッドアイが昏く淀んだからである。
「……っく」嘲笑は、綱吉を標的にしていた。
「何が?!」
「む、骸さん」
「くははっ。甘いんですよ。君は!」
 瞳の奥が波立つ。その波紋は憎しみと名が付くのかもしれないが、綱吉にはわからなかった。
 紅と蒼の奥で暗闇が渦を巻いている……。反吐がでる、君と話していると。囁いて、骸はいっそ優しいくらいの微笑みをふらせた。
「そういうことですよ。君の甘さがすべてを招き寄せたというわけだ」
「な、に、言ってるんですか……?」
 半開きになった唇がぽかんとしていた。
「僕はあなたを殺した。雲雀恭弥の記憶から」
「殺し……た」愕然と、綱吉が繰りかえす。
「なんて言うんでしょうねぇ……?」骸は淡々としていた。
 語りながら、懐より棍棒を取り出し、組み立てる。
「口づけしながら首を絞めたくなるとでも言いますか。すっごいムカつくんですよね。――どうせ今も、僕に裏切られたとか思ってるんでしょ?」
 三日月型に笑う唇の上で、両目がぎらぎらと鈍い光をのせていた。ねとりと絡みつくような、眼差しに混ざるのは嫌悪だ。
 無造作に言い捨てた言葉は、だからこそ、綱吉を刺した。
「ばっかじゃないですか」
「…………」足元が崩れ落ちるような心地がした。
 どうでもよさそうに、むしろ、骸の言動に興味を示した様子でヒバリが見守っている。
 リボーンは帽子を被りなおしてその表情全てを覆い隠す。獄寺は未だに蒼白な面持ちでベッドの中だ。ディーノだけが、神妙な顔で一歩を進んだ。
「ナイスタイミング、か? ある意味では」
 骸が向き直る。槍の矛先はディーノを見据えた。
「こんな結末にはならんでほしかったが。骸、取引きを覚えてるな。テメーは自分から破談させたんだ。ツナの好意を!」
「くふ。ふふふふ……」
 鬱蒼とした微笑みには吸い寄せられるような魅力があった。少年は静かに告げた。
「天命、ですよ……」
「あ」耐え切れなかった。綱吉の頬を、一筋の涙が零れでた。
「ツナ。信じたその分を救われないってのが大人の世界だ……って、あー。こんなふうに教えたくはなかったんだがな」
 チラリとリボーンを振り返る。赤子は、俯いたままで言葉ひとつ発さない。喉の奥が震えつづけているのは、声にならないだけで悲鳴をあげているからかもしれなかった。
「ぐうっ」目の前で、骸が苦悶を見せる。
 右目に指が付き込まれていた。六の字を五に返し、骸は、赤い涙をみせながら唇を引き裂いた。
「まるでボンゴレはお姫さまですね。そんなに大事に守って、暖めて、どうしようっていうんですか?」
「はん。泣かせた代償はでかいぜ!」
 くっ。喉を鳴らして、骸が窓を突き破った。
「殺してあげますよ!」「こっちのセリフだ!!」
「あっ、――」赤く濡れた少年と、金髪の青年とが屋根伝いに駆けていく。
 呼び止めたが、雨音に勝てる気がしなかった。空が真黒く覆われている。吹き付ける雨にたじろいだ綱吉の、横からヒバリが顔をだした。傘も持たずに、今度こそ窓枠を乗り越える。
「なんなんだか。みんな馬鹿じゃないの」
「ひ、ヒバリさん、待っ――」綱吉が腕を伸ばす、が。
 黒目だけが、肩越しに振り返って、ギクリとした。
「触らないでくれる。一番のバカ、君だよ」
 一瞬、雨の音が消えた。ヒバリの横顔が見えなくなった。
「――――」 すべてを白に染めかえる爆発が脳裏でおきて、胸の真ん中から足の裏まで指先までを駆け抜けたようだ。ヒバリは、それきり振り返りもせずに雨中へと消えていった。
 ……窓から吹き込む風が頬をさらに濡らす。
 涙と雨との見分けがつかなくなっていく。言葉をかけるものが誰もいない。雨がふきこむ。三人の消えた室内で、ぺたんと、尻餅をついた。



******



 出かけに傘を渡された。
 綱吉は天気予報を見ない。母親が傘を渡せば、それが、雨の降る日である。今日は雨の降る日だった。三日が経った。そのすべてが雨の降る日だった。
「沢田のヤツ、ヒバリにフラれたらしい」
「並盛最大のホモカップルの破局か……。ぶっ、ぶぶっ」
「おいおい。ブタ声で笑ってんじゃねーよ」
 朗らかな笑顔と共にクギを打ったのは山本だ。
 途端に、隅っこで顔を寄せていたクラスメイトが散らばっていく。
 掃除のモップで顎を抑えつつ、溜め息。山本を見上げながら、綱吉はバケツの上で雑巾をしぼった。茶色い瞳に生気はなかった。
「……ごめん」他人事のように、現実感のない囁きだ。ハァッと二度目の溜め息がもれる。
「何であやまんだよ。ワリーのは向こうだろ」
「そうなの、かな」
「ツナぁ。しっかりしろよ」
 うん。気のない返事をしながら、ぎゅうっと雑巾をしぼる。
(――でも、馴れてきちゃったんだよ)投げやりな言葉は胸中だけで抑えた。
 獄寺は学校を休み続けている。何を言われるか、恐ろしくてヒバリには会わないようにしている。
 サボる、サボらないの押し問答のすえに、綱吉は部活へおもむく友人の背中を見送った。山本は、近頃、奇妙な使命感を持ったようでやたらと綱吉の傍に張り付こうとするのだ。
 ひとりで下駄箱にたてば、格好のターゲットであることは綱吉もわかっていた。
「沢田せんぱぁい。オトコの迎え、きませんねー」
「暗い顔して恋わずらいですかぁ?」
 バタン! 乱暴に下駄箱の戸を閉める。
 駆けだしていた。グラウンドにでて、すぐに傘を取り忘れたことに気がついたが五秒で諦めた。振り返れば誰と目が合うのか。どんな眼差しが待っているのか。
 ヒバリを追いかけた数日間。骸にとディーノを加えて大騒ぎをしたあの日。
 それ以来、校内で視線を感じない瞬間などないのだ。
 唇を引き締めて、綱吉は雨中を駆けた。
 雨足は強くなった。
 ボタ雪のような塊がひっきりなしに頭を殴る。
 やがて、足を止めるころには全身がびっしょりと濡れていた。クラクションが耳を打つ。どこにいるのだか、よく、わからなかった。やみくもに走りすぎた。左右には塀がある。
 住宅街だ。だのに、人気はない。だからこそ人気が無いのか。
 見上げた空は雲に覆われている。空からは、雨がふる。
「あっ……」発作的に、喉が震えた。視界のすべてが雨とわかった途端のことだった。
 目を見開けば、さらに雨がぶつかる。いたい。痛かった。
 目が痛い。立て続けに打たれて綱吉が涙した。わかっているのだ。
 本当に痛い場所は。部屋に取り残された気がした。三人とも帰ってこなかった。ぶうんっと何かの羽音がした。内側で、ギリギリで平行線になっていたものが、傾いていった音だ。
「ああああっ」抱きこんだカバンに、指が食い込む。
「なんっで。オレ。オレっ……っっ」
 上向いた顔面が叩かれる。
 無数の雨がぶつかっては流れていく。
 目尻からこぼれたものも、背中に滲んだ冷たいものも、すべてを一緒くたにして流していく。どうして。ひくひくと喉が震えた。どうして。
「何もできてないじゃん……っ!」
 背中が痛い。かすんで、何も見えない。
「ヒバリさんは忘れちゃうし骸は裏切るしディーノさんは殺しにいっっちゃうし……っ、あ、あっ! こんな。こんなことのために頑張ってたワケじゃ――、が、がんばった?」
(ほんとに? わかんない。もうわかんないよ。だって)
「ア、あぁっ。だって、ぜ、ぜんぶ真逆の結果になっちゃったじゃないか、あ、あああっ」
 額の裏側がいたい。きぃいと耳の奥で金きり音がする。頭の内が、ツンとした痛みで満ちていて割れそうだ。クラクションが聞こえた。脇へと避けたが、綱吉は運転席のガラスをじぃと見つめた。そこの内側には、人がいるのだ……。神経質に喉が戦慄いた。
 よろよろと立ち上がって、少年は人気のない場所をさがした。
 自室のベッドにはまだ獄寺が寝ている。あてどなく歩いた。そして綱吉が呟いた。
「雨、いたい……」わかっていた。
 泥にまみれた影が、回転しながらアーケードにぶつかった。
 小さな商店街のただなかにいた。シャッターの閉められた商店の前で、二人は、互いを見つめた。
 綱吉は眉ひとつ動かさなかったが、相手は驚いていた。
 黒いオーラが全身から立ち昇り、ゆらゆら。青みがかった毛筋を揺らす。
 色の違うひとみがけぶる。雨によるのか、感情によるのか。
 それを見ても、不思議と、何の感慨もわかなかった。再会を願っただろうか。綱吉は自問する。が、もはやどうでもいいのだ。
「…………」塀に背中を預けながら、彼は血に塗れた両腕を引き寄せた。
 今度も、綱吉はわかっていた。
 虚ろな瞳を横に凪がせる。目尻から新たな涙がぽろりと零れたが、それでも綱吉は建物と建物とのわずかな隙間を指差した。彼は迷ったようだった。彼が、それほどハッキリした迷いを見せる場面なんて初めてみたが、綱吉はただ指し示すだけだ。
 六道骸は、沈黙の末に、隙間に体をすべりこませた。
「ツナ!」それから数秒で、空からディーノが降ってきた。
「何やってる?! びしょ濡れじゃねーか!」
 ゆるく綱吉が首をふる。
 無言のまま、大通りの方を指差した。
「――。骸か? そっちに行ったか!」
 青年も雨で濡れそぼっていた。ジャンパーを手早く脱ぎ、綱吉に被せると鞭を握りなおす。
 横顔はいくらか血で濡れていた。ディーノも傷だらけだ。彼自身の血液もまざっているのだろう。
「さんきゅ。オレは行くけどツナは家に帰れよ。すっげー顔してるぞ今」
 浅く頷けば、ディーノが踵を返した。シューズが水たまりを撥ねあげる。
 足音が聞こえなくなるのを待たずに、綱吉も踵を返した。ディーノとは反対の道へ。商店の向こうにある、さらに細かく曲がりくねった道へ。すばやい、刺すような問いかけが追いかけた。
「――僕が憎くないんですか」腕から、足から、あちこちから流血している。
「それともまた偽善者気取りですか? 恩を売りつけたとでもいうのか」
 シャッターにもたれる、その少年の足元には雨と血がまじった水たまりができていた。
 綱吉は肩越しに眼差しだけで彼を見つめた。うつろな光が、瞳の表面にある。
「答えろ!!」鋭い声音。鋭いあまりに感情も読めない叫び声。
 ……もう、綱吉は振り返らなかった。
 どうでもよく思えた。よろ、と、不確かな足取りで前へとすすむ。
 そのうちに、低く、わななくような声が雨に混じった。
 ボンゴレ。呟きは鋭さを失っていた。迷いがあった。
「裏切りってことばの意味、わかってますよね……?」
 ざあざあと鳴りひびく雨。雨で街が覆われている。
 それきり少年の声は途切れた。ザーザー、雨音とにわかな耳鳴り。それが世界を包むすべての音色だ。惑うようにゆっくりと歩いていた。綱吉は、やがて公園へと辿り付いた。
 涙越しに見つめた末、立ち入る。知った場所だ。ブランコに腰を落ち着けた。
「さくら。散っちゃったな」
(いつかの花見がウソみたいだ)
(楽しかった。平和だなぁって思った)
 みんながいた。近頃は会ってすらいない。
 呆然と大樹をみあげた。緑にあふれているのに、どうしてか、その樹はハゲているように見えた。公園そのものがハゲ山のように感じられる。自分の声すら、知らない人のものと思えた。
「オレ……、何をやってたんだろ」
(なんで)頬が熱い。
 瞬きをすれば、生暖かいものは指先にまで跳ねた。
(なんで、生きてるんだろ? もうぐちゃぐちゃだよ)
 雨で体温を奪われた体にとって、目尻から生まれる雫は熱のかたまりだ。
 ぽろぽろと熱いものが流れて、伝って、そして冷たい大地へと落ちていく。ディーノのジャンパーが、雨に打たれるたびに、低くパサパサと音色を奏でた。
「…………」うな垂れたまま、どれくらい経っただろうか。
 綱吉は顔をあげた。黒い瞳があった。
 スーツ姿の赤ん坊が、折り畳み傘を手にして立っていた。
「……」「……」 無言だった。帽子のフチに雨がたまっていく。彼は傘を持っているのに広げていない。カメレオンのレオンですら、帽子の上で、震えもせずに尾を伸ばしていた。
「帰るぞ」静かに、リボーンが告げる。
「ママンも心配してる」
 口が半開きになった。茶色い瞳が、よどんだ光を雨中に投げ返す。
 ウン、と。数分後、綱吉は、のっそりした動きでブランコをたった。
 リボーンは、よどんだ光も蚊の泣くような声音も、すべてを受け止めて佇んだ。主を失ったブランコは前後に揺れる。公園の外には一人、待つ少年がいた。
 獄寺はかける言葉に悩んだような沈黙をみせた。やがて、唇の下にいくつもの縦線をつけ、なにかに耐えるよう眉間をシワ寄せる。結局、言葉はなく、傘がさしだされた。
「重傷だな」ボソリとリボーンがうめく。
 綱吉は、傘の裾野を見つめるだけだった。
 

 

つづく!


 

 


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