25×4とか






 ヨイショと抱きあげて、自分の右肩の向こうに顔をだす姿勢にさせる。
 六道骸は嘆息した。
「こんな形で君を誘拐するとは思っていませんでしたよ」
「おれだってこんなふーについてくなんて思わなかった!」
「もっと格好よく決めたかったんですけど」
 幼児を抱っこするパパさんの有り様でスタスタ歩く。いつもよりリーチが長い。夕日に縫いつけられた影も長い……。
「う、ううっ」
 沢田綱吉はみじめに泣声をあげた。
「もうこんな生活イヤらぁあああああ!」
「あー。はいはい。よしよし」
 幼稚園児をあやしつつ、骸は立ち去った。

 ◆◇◆◇◆

 発端は数日前に遡る。
「イテッ!」
 頬に当たったツブテに顔をしかめ、こぶしでもって机を叩いた。
「こらーっ! 何すんだ!」
「あっかんべーっ!」
 綱吉の剣幕に恐がる様子もなく、悪戯ランボがベッドに飛び乗る。勉強机とその周辺にたむろする少年に人差し指が突きつけられた。
「なんだい何だよ! 日曜日にまで宿題なんてダッセーのびぃっ?!」
「だぁああっ?!」
 背後に湧き上がる殺気。思わず綱吉もベッドの上に逃げた。
「頬に当たりました」
 六道骸は、右手をギュウと握りしめて剣呑に眉間をより合わせていた。一応、目と口は笑っている。ゴゴゴとかの効果音も背負っている。
 差し出した右手が開かれた。
 青い飴玉がある。ランボも綱吉もそんなところは見ていない。骸のこめかみにある青筋を見て戦慄していた。
「あ……。あやまれよ。ホラッ」
「びえぇえぎゃぁああああ!」
「いーい度胸です!」
「なんでオレまで怒られるんだぁああ?!」
 手近なところにいた綱吉が取り押さえられた。そのスキにランボはドアまで逃げる。
「たまに付き合ってあげたらすぐこれなんですからっ!」
「ぎゃああっ!」
「ぼ、ぼーりょくはんたぁい」
 情けなくうめく。ランボは教科書を後頭部にめり込まされていた。勢いがついて廊下に額をズザーッと擦りつつ退室する。
 しかし、ほとんど同時に、
「これでも喰らえバカ!」
 ……置き土産を投げ捨てた。手榴弾。
 ドカァンッ! すぐさまに炸裂した。
 数分後、背中に乗ったままだった骸がのそりと動いて、綱吉の襟首をゆすぶった。ランボはとうに逃げたので八つ当たる対象が一人しかいなかった。
「これでもまだアレを殴るなと?」
「い、一発だけならイイかもしんない……」
 げっほげほと咽つつ、綱吉。
 壁のところどころが焦げつき、半分まで終わったハズの宿題も吹っ飛ばされてノートの破片がパラパラ舞い踊った。
 どちらからともなく嘆息する。今日一日の努力が水泡に帰してしまった。
「綱吉くんはガキに甘すぎです。殴ればいいんですよ。僕は体罰を支持します」
「体罰して楽しむだろーが、お前」
「ただ叱るだけのどこが楽しいのですか?」
 平然と言いのける。コイツに子育てとかは無理だ……、思いつつ、綱吉はセロハンテープを出した。
 あらかたの片づけを終えての、最後の仕上げだ。日曜だというのに朝からがんばったのだ――爆撃されましたの一言で最期を看取るのは納得できない。
 やや呆れた声がした。骸は、黒曜中の制服からホコリを払う。ベッドに腰かけていた。
「それを提出するのですか」
 頷く。やり直すよりもノートをパズルにした方が綱吉には楽だ。
 セロハンテープをビビッと引き伸ばした。
「今日はもう帰る?」
「え? まだ終わってないでしょう」
「あと二ページだし。やる気、削がれただろ。お前も」
「ガキもいなくなったんですから、本番はここからでしょう?」
 床に腰をおろすと、緩慢な動きで腕をまわしてくる。跳ねのけたいなら、そうしろと、一応は選択の余地を与えている。
 ぞわぞわときて、綱吉は立ち上がった。
「や、やめろよっ。ほらもーいい時間だ!」
 時刻は夕方だ。素知らぬ顔で、骸は机に置いたままにしていた飴玉をつまんだ。青い包み紙のものだ。
「恋人にその態度ですか?」
「こッ」
 絶句する。かぁっと赤面していた。
「ウブなんですから」
 それを見て、骸もわずかに紅潮した。
 ちゅ、と、取り上げた綱吉の手の甲にキスをする。
 こうした関係になってから日はまだ浅い。
 なし崩しで周囲にも公認されたが、相手が男であるという問題はもちろん、自分が口説かれる側にいるらしいことも、綱吉にはまだ受け入れがたい難題だ。馴れない。
 蘇生処置はあとまわしだ。顔を反らしたまま、急いでノートを片した。
「きょ、今日はありがと。助かった。またな」
 早口でまくしたてるも骸が動かない。
 あぐらを掻いたまま、オッドアイで上目遣いに見上げてくる。
 口の中で飴玉を転がし、手中ではカラの包み紙を弄びながら、
「せっかくの休日ですのに、君が宿題なんかを理由にこもりたいとゆーから付き合ってあげたワケですけど……」
「い、いやならやらなくてもよかったよ」
「なんで目を合わせないのですか? 綱吉くん。そんなに恥ずかしがる必要がありますか? 蛇の生殺しって単語、意味はわかりますか?」
「中途半端になんかしてないだろっ」
 窓に向かって後退りをしていた。
「放課後は付き合ってるし、こ、この前は黒中まで行ってやった……。充分がんばってるよこっちは!」
「昨日の電話、居留守したでしょう」
「あ、あれは、気付かなかったんだよ! 折り返しの電話をしなかっただけだ」
「そこは、フツー、即座にコールを返すんですよ。喋りたかったのに」
 骸が包み紙を手中で潰した。クシャリ。
「僕のこと。好きでしょう?」
「……し、知るかぁっ」
 顔を真赤にして綱吉が猛る。
 誘導尋問か自己満足か、骸は盛んにこれを確認しようとする。綱吉にすれば、いちいち付き合っていられなかった。
 筆記用具を奪うようにして片付け、机に残る飴玉に気付く。
 赤い包み紙。
 先ほど、ランボが頬にぶつけてきたものだ。苛立ち紛れに包みの中身を口に放った。
 即座に、噛み砕く。
 背中を向けて座ると、骸がくっついてきた。平手で背骨の上をナデナデしてきて、甘えるように密着してくる。
「綱吉くん。素直になってくださいよ」
「い、意地を張ってるつもりはないよ。お前の態度があからさますぎてついていけないってハナシ!」
「うれしいくせに?」
「冗談はサンバだけにしろよ!」
 ちょっと別次元のツッコミをしつつ、飴の残りをガリガリ砕いて呑み込む。
 骸が目を細めた。
 遊び相手のネズミがまだ生きていることを喜ぶネコの細め方。ちょうど、綱吉の肩に顔をうずめていたので飴を砕いた音が聞こえて、ぞくぞくしたようだった。
「綱吉くん。ねえ……? ほら」
 後ろから伸びた指が綱吉の下唇をつまんだ。
「好きでしょう? 愛してますよ」
「むっ?! だっ、だああ! ああもう好きだよっ。悪いかよ!」
「いいえぇ? 全然悪くありません」
 くつくつと忍び笑い、首を伸ばす。押し付けあうだけのキスをして、向かい合わせにされて綱吉は目を閉じた。てっきりもっと濃いのがくると思ったからだが。
 胸元に体重を感じた。見れば、六道骸は頭を胸に押し当て、自らの心臓を抑えていた。
 その頬を一筋の汗が伝い落ちた。
 慌てて彼の肩を掴んだ。
「?! む、むくろ?!」
「おや?」
 硬い声だった。普段の骸には――恋人関係となってからはほとんど見せなくなったトゲつき警戒心だらけの呻き声。
「お前、汗が。大丈夫か?」
 と、言った傍から、
「あ、あれ?」
 よろめいて、自らの胸元を抑える。
 ドクンドクンと脈打っていた。五倍の速さでホッカイロでも仕込んだように熱くなっている。体温の急激な変化が頭にきた。
「綱吉くん。しっかり、う、……」
 相手の体を支えようとしたが、骸の手からはすぐに力が抜けた。互いの肩にもたれあって呼吸を荒くしていた。
 オッドアイが白黒としている。
 俯きつつ、視線だけは持ち上げてそれを見て、猛烈な不安感に襲われた。あの骸が声も出せないほどに苦しんでいる。
「骸。落ちついて――。息を」
 彼は呼吸を止めているように見えた。体が左に傾ぐ。無造作に倒れた。呼びかけたつもりが、綱吉も声が出なくなっていた。
 霞んだ視界をむりやりにこじ開ける――。
 精神力の勝負だった。骸は体を丸めて神経質にひくひくと肩を痙攣させている。
 カラの包み紙が落ちているのに気付いた。
 青色と赤色のもの。
 ラ、ランボめぇ……、と、この世で最後に思うにしてはあまりにあまりな断末魔を胸中に残して、倒れた。
 床に額をぶつけつつ、臓器が内側からこね回されるような異物感に苦しんで体を掻き抱く。脂汗が噴出した。
「う、ぐぅ……っっ」
 声が甲高く変わっていた。
 縮んで消えていく思いがする。夢中で手に当たるものを掴んで、だぶだぶの布地を握った。そこでハッとする。
「あっ?!」
 体内の激痛が霧散した。
 まばたきをする。目をまん丸にした。手足が何かの生地にくるまれていて、動きづらい。
「な。なんらこれぇええええ?」
 ろれつが回らなかった。
 さらに上半身を起こそうとしてコケた。周りの家具も巨大に見える。
 むくり、と、視界の端で起き上がる人影があった。
 衣服で――黒いジャケットにいつもの迷彩Tシャツ――六道骸らしいとわかるが、綱吉の記憶とは決定的に違っていた。襟足の髪が伸びて床に長く垂れている。身長も伸びて服が窮屈そうだし、顔立ちも大人びていた。
「おや?」
 自分の後ろ髪を手に取り、唖然とする。引き攣った笑い顔で彼は自分の顔をぺたぺた触りだした。と、ふり返ってくる。
 ギクリとした。
「む、むくろ……か……?」
 おっかなびっくりに尋ねてみる。推定年齢二十五歳といったところで、大分、成長してしまった。
 彼は見たことのない人形でも見るようにオッドアイを皿にする。凝視してくる。
 ためらいがちに綱吉の腋に手を入れた。
 抱き上げると、すっぽりと衣服が抜けた。
「だぁっ?!」
 唐突にハダカになったのに驚いて手足をジタバタさせる。いつもより格段にリーチが短くなっていて、骸にまで蹴りが届かなかった。
「な、なあっ?!」
「……沢田綱吉……?」
 信じられないように喉を震わせる。ふるふるとか細く身震いすると、
「か、かわいいっ!」
「のわぁああ〜〜っっ?!」
 ぐゆうっと両腕で抱きしめられた。あまつさえ頬擦りされる。二十歳中ごろの美青年が頬を朱色に染めた。
「ぷ、ぷにぷにですね。四歳くらい……ですか」
「て、照れるなッ。なんか危険らっ!」
「あー、言葉足らずなのもイイですっ」
 興奮して頭をナデナデナデナデとしてくるのに引き攣った。

 ◆◇◆◇◆

「……というわけで、連れ去ってきちゃいました」
 女子高生ノリでキャッとした口調。
 中型犬を胸に抱える体で四歳児を持ち上げつつ、オッドアイの青年がニコニコする。彼の所有するマンション、扉の前。
 柿本千種、城島犬、クローム髑髏は声もなく後ろに下がったまま動かなくなっていた。
「しばらく我が家で面倒見ますよ」
 玄関に入ると犬が叫んだ。
「む、骸さんの好きな言葉はッ?!」
「完全無欠」
「クロームのきらいな果物はッ?!」
「パイナップル」
「骸さんの頭はッ?!」
「犬、死んでください」
「あ、あぁっ?! ホントに骸さまだ!」
 綱吉を抱えたままで蹴りを入れる。その青年の様子で確信して千種が驚愕する。
「だ、大丈夫なんですか?!」
「さあ。とりあえず、これが綱吉くんです。僕が六道骸。それらは事実ですよ」
 あっけらかんとした言い方。千種は、一瞬、ハッとして眼鏡の奥の両目を見開かせた。骸の度胸の良さに感銘を受けている。
「骸さま。そのお姿は十年後ですか……? う、麗しいです」
「クフフ。綱吉くんは、四歳なんですよねー」
 美貌が台無しの猫撫で声だ。
 高い高いをされて綱吉はウンザリした。だぼだぼのTシャツ一枚を着た姿。
「む、骸さあ。ランボを捕まえて問いただすとかしたほうがいいんじゃ?」
 彼は笑顔で首をふる。
 こ、この状況を楽しんでる……。絶句している間にクローム髑髏の手に渡された。
「ボス、じゃあ、わたしと一緒にアニメ観てようね。骸さまがハンバーグ作ってくれるって」
「こらあああ! オレはマジで四歳児じゃないぞおおーっ?!」
 抗議の悲鳴に、骸青年は歯を光らせつつ笑顔でバイバイをした。
 次に会ったときはクマさん柄のエプロンをつけて、フライパンを手にしていた。出来立てのハンバーグからはジュウジュウと小気味よく肉汁のはじける音色。
「せっかくですから、自慢の手料理を食べさせてあげますよ。つなよしくん」
「お、おまえなぁ……。現状を問題視しろ!」
「慌ててもしようがないじゃないですか」
 食卓には骸一家の全員が集まった。
 いそいそとエプロンを外し、イスの上に積み上げたクッションの上に綱吉を座らせる。それだけで骸は幸せそうにした。目の保養になるらしい。
「いいですね。綱吉くん、はーい、ご飯食べましょうね」
 何も言わないうちからスプーンで米粒をすくい、口元まで運んでくる。
 ブチッとガマンの緒が切れた。
「誰がくうか! 家にかえせ!」
「僕が特別に作ってあげたんですよ? ハンバーグ、大好きでしょう。ケチャップでクマさん描いてあげましょうか」
「ばかにしてんのかっ!」
「可愛がってあげてるんですよ」
 わいわいと騒ぐ二十五歳と四歳に、三人は揃って複雑そうな眼差しを向けた。
 犬がぼそりとうめく。
「む、骸さん、めっちゃくちゃ楽しソー」
「沢田綱吉とずっとああいうことしたかった……のと、可愛いもの好き魂に火がついてマックスなんだろうな。いろいろと」
 眼鏡を鈍く光らせて、千種。ちょっとだけ切なげにまばたきをするのは髑髏だ。
「骸さまがクマさんを描いてくれるなんて、うらやましいけどなぁ……」
「その感性はおかしーびょん……」
「もっとお口を大きく開けましょうね。綱吉くん。アーンですよ」
「しかもおまっ、お前の手からじゃないと食べさせない気らないかっ! ざけんらああ!」
「じゃあハシをどうぞ」
 笑いを堪える顔で、差し出してくる。綱吉はすぐにハシを落とした。指がいつもより小さくてうまく持てない。
「…………」
 絶望に打ちひしがれたりした。
 その頭をナデてナデて、青年はしたり顔だ。
「はい、アーン。おいしいですよお」
「う、うう」
「……なにプレイら?」
 犬が首を傾げたが、千種も髑髏も食事に集中するフリをして答えなかった。

 食事を終えてテレビを眺めて寛ぐこと、一時間。ピピッ。電子音がリビングにひびいた。
 六道骸は、ソファーの上であぐらを掻き、足の間に綱吉を座らせていたが、
「お風呂はいりましょうね」
 電子音と同時、颯爽と立ち上がった。
「らすけてええぇえええ!」
 ずるずると引き摺られていくのを見送るのは三人だ。
 さすがの犬もちょっと青褪めた。
「……強姦とか、ないよな?」
「うーん」
 千種が眉間を抑える。キッパリしたのは新参者の筈の少女だ。
「骸さまはそんなことしない」
「いやいや、する。するびょん。できるびょん」
「しそうだな」
「二人とも、それでも骸さまのファンなの?!」
 少年二人が肩をずっこけさせた。犬がビシッと人差し指を突きつけて訂正する。
「ファンなのはお前だろー! オレらは骸さまのシモベだびょん!」
「二人とも、誇りはないの? 骸さまはわたし達を信頼してくれてるのに」
「いやいや、ファンだっつーのは無関係らっ」
「……ま、ファンもシモベも似た意味か」
 一人、納得して早々に口論の輪から抜けながら千種はあくびをした。彼ら三人は、なんだかんだいっても骸と綱吉の間には立ち入らないのが常だ。
 で、一方、その頃には六道骸は笑顔で綱吉の体を洗っていたりした。
「いい子ですね」
 綱吉は、ぐったりとしていた。されるがまま、片腕を取られてスポンジで腋をごしごしされている。泡を流すと、青年と一緒に湯船に浸かった。
「もう諦めた……」
「四歳児に似合わない達観したセリフですね」
「オレは十四歳らってば!」
「そーですね。ちっちゃい十四歳ですね〜」
 どうでもよさそうに呟きつつ、楕円の形をしたバスタブにもたれかかる。座ると口まで沈むので綱吉はココでも骸に抱えられた。
 彼は自分の長髪が湯に浮いて広がるのを興味深げに見つめた。ついで、鏡を見て、姿を確認する。
「にしても、僕はこんな風に成長するんですか。十年後もこの世界が存在しているとは意外ですが……。綱吉くん。こういう姿も好きといってくれますか?」
「え?」
 何気ない言葉に不穏なものが――、あったように思って綱吉が訝しがる。
 その頬をプニッと押して、骸は笑顔だ。
「ちなみに僕は好きですよ。かわいいです」
「お、ま――。ろ、ロリコンか?」
「かわいいものが好きなだけですよ」
 怪しい。視線に意思が出たのか、彼はフッと鼻で笑った。
 髪を優しく撫でていた手が下がってくる。
 あごを掴むと、鏡を向かせた。
「綱吉くん。君がいま、どんな姿で僕に抱かれているか網膜に焼き付けておくといい。やろうと思えば僕は何でもできるんですよ」
「…………?!」
 髪の生え際を掻き分けて、地肌にキスをしかけてくる。くすぐったい。
 目を見開かせていた。鏡の自分がみるみると顔を赤く染めるからだ。やや遅れて綱吉も気恥ずかしさを直に感じて体を縮めた。
「お、おまえ、犯罪に手を染めてるぞっ。妙な想像しても犯罪らからな!」
「冗談ですよ。くふ。でもこんなことでもなかったら、一緒にお風呂に入ってくれることもなかったでしょう?」
 オッドアイが真正面から覗き込んだ。
 四歳児と青年とが真剣に眼差しを交換する――、綱吉は悪寒を覚えた。相手がでかいせいか自分が小さいせいか。恐ろしい。
 唇同士を軽くくっつけて骸がささやいた。
「わかってないでしょうけど。僕は、本気で君のことが好きなんですよ」
「…………」
 ぶる、と、震えた。
「も、もう出るっっ!」
 やっとのことで叫ぶが、
「ちゃんとジュウまで数えてから出ましょうねえ」
 ぎゅっと抱きしめた上でからかわれた。
 いざ、風呂からあがると骸の私服を渡された。パジャマ代わりらしい。何度か、彼が着ているのを見たことがある迷彩柄のロングTシャツだ。
「や、やっぱりだぼだぼだしっ」
 着てみて、背伸びをして洗面台に顔をだしてみて、絶望する綱吉だが、
「…………」
 不意にまたもや悪寒を感じた。
 骸が、パジャマから顔をだしながら神妙な顔をしている。固唾を呑んだように見えた。
 ま、まさか襲われたりしない……よ、な。
 と、彼の良心に望みをかける綱吉である。ちなみにキス以上のことはまだだ。

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