「快感」の空白
グシャ、バキ、と。耳にするだけで怖気のたつ擬音が扉の向こうで響きわたっている。
動かないノブをガチャチャ鳴らしていた。半泣きである。
「もお、勘弁してくださーい!」
ずるずると床に落ちていく。その後ろで、床に置いたちゃぶ台を囲むのは獄寺と山本だった。
「ツナん家、最近ずっとこうなのか?」
獄寺は答えない。仏頂面のまま茶をすする。その頭には包帯が巻かれていた。先日の爆発事件で負傷したものだ。
「ねえねえ!」
階下から声が聞こえた。
「今から買い物に行くんだけど、皆、まだアイス食べたいっ? 食べたいわよねー。初冬のアイスも格別よねー」
「母さんがアイス食べたいだけじゃないか……」ツナが倒れたままでうめいた。
階段の下から顔をだした奈々が、マァと口を尖らせる。すぐさまフォローしたのは獄寺だった。頬を赤くして湯飲みを覗きこんでいる。
「オレは食いたいッス」
「ほら、獄寺くんは可愛いこと言ってくれるじゃないの。ツナも見習いなさいね!」
「はあ」
「あと、元気なのはいいけど後片付けもやるのよ」
未だにありえない音を響かせるツナの部屋を指差し、平然と言いつける。鼻歌混じりに去っていく背中を獄寺が見送った。ツナがうめく。
「獄寺君、あんまり母さん調子にのらせるようなこと言わないでよ」
「いや〜。十代目のお母さまですから、無礼はできません!」
つきかけたため息は、しかし、その獄寺が突如として真剣な顔をした呑み込んでしまった。
「ヒバリのやつ、本当にファミリー入りしたんですか? やってきてはリボーンさんとドンパチやってるだけに見えるんスけど」
「う、うーん……。まぁ……。色々と思うところがあるみたいだよ」
ツナは頬を掻いた。ヒバリは依然として群れが嫌いと公言している。
(ファミリーから抜けるとは、言いだしてないけど)
扉の向こうはいまだに激しい物音を醸す。ツナにはよくわからないが、ヒバリとリボーンは戦いのなかで通じ合う何かを見つけたようだった。二人とも、争う割りにはどこか楽しげなのである。特にヒバリだ。やられ返されることのが多いというのに、生き生きと立ち向かっていく。
(でも、人の部屋でバトるのはやめてほしいな)
破壊の音は断続的になってきた。そろそろ決着がつく。湯飲みに手を伸ばした。
「そういや、ツナって一週間前にけっこー休んだじゃん。あれ、風紀委員長と一緒にでかけてたってホントなのか?」
が、ガンっとちゃぶ台に額を打ち付けた。獄寺が苦々しそうに舌打ちする。
「噂ってのはイヤだぜ」
「違うのか? なんか、車に乗り込んだっつー目撃情報が」
バアンッと扉が開け放たれて、山本が口をつぐむ。
少年が廊下に転がりでた。長くてスラリとした、しなやかな体躯が床へと這いつくばる。ツナは慌てて部屋に飛び込んだ。
「げっ……」
しっちゃかめっちゃかだ。台風に直撃されたようで本棚は倒れベッドはひっくり返っている。リボーンが、真ん中でヌンチャクを振り回していた。
「ツナか。ヒバリのトンファーに合わせて買ったんだ。カッコいいだろ?」
「ンなもん知るか――っっ。人の部屋をなんだと思ってんだよ!」
「いいじゃねえか。どうせヒバリがまたハウスキーパー呼んでくれるぞ」
「人を便利屋みたいに言わないでくれる」
ツナの後ろで、復活したヒバリが低く呟いた。ツナはぎょっとした。右目にかかるくらいに、ボタボタと出血しているではないか。
「ツナ。そこにいたら怪我するぜ」
ヒバリもツナを押しやった。その目には野生じみた闘争心が灯る。ガキンッ、と、激しい音が響き、次いでヌンチャクとトンファーが連続して火花を散らす。山本が口笛を鳴らした。
「二人とも、香港映画にでれるんじゃねえか?」
バコ、と、ヌンチャクが壁に穴を開ける。
堪らずにツナは飛び出していた。
「余所でやれってーの!!」
「綱吉」
「あ」
二人は手を止める。
だが、二の句を告ぐ前に、蛇行を繰り返すヌンチャクがツナの後頭部に命中した。十代目、と、つんざくような叫び声がこだました……。
終
>で、死ぬ気なヒバリさんの回想に入り 後はほぼ十話目の流れに
>「完」まで書いたものの この序盤の軽いノリでさいごまで突っ走り
> 最終話としてのマトメ的な部分が欠如してたため 没に!
>最後のさいご ツナの「何この状況――っっ!!」で
>買い物帰りの奈々さんが 袋を落とす描写がいれられず 無念でした
>(なぜだか無性にいれたかった
> 没稿 なので決定稿と矛盾するトコがいくつかありますが (山本がいたりとか)
>「凍えた〜」でリボがヌンチャクを所持してるのは こういったことを書いたからでした
>今にして考えると 他にやりようがあるなぁ と
>精進!
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