七色の光が弾ける。衝撃はなかった。少年はパイロット席にいながら、スコープを覗き込んでいた。拡大鏡の奥には、爆発を繰り返しながら傾く戦艦があった。黒いなかに散らばった星々が、爆発に紛れて見えなくなっていく。少年は、赤い固めで沈んでいく船を見送った。最後に大きな爆発が起きて、すべて、塵になった。
ふうっ。大きな溜め息を履いて、肩から力を抜いた。
『帰艦命令でてるびょん。いきましょーよ』
ヘルメットの右耳にイヤホンが備え付けられている。
少年は短く了承を告げた。スコープを押しやって、操縦桿を手繰り寄せる。傾けようとした手のひらは、しかし、握りこむだけで動かなくなった。
『? どうしました?』
先ほどとは別の声だ。
パイロット仲間である。少年は、先ほどの返事に付け足した。
「すぐ行きます。先に、母艦に戻っていていいですから」
『はぁ……。ハイ』
『あっ! ハイハーイ、祝杯あげませんれすか? オレらだけで! せっかく移民ども潰せたんだしィ……。絶対、今のは――』
(今のは、僕の一撃が決め手になった)
目を閉じる。砲弾の一つが、操縦席に命中したのだ。
一言、二言のあとで、二機が遠のいていく。外付けのカメラで見届けて、少年は二度目のため息をついた。後頭部へと腕を伸ばす。
ぎっ、と軋んだ悲鳴がする。ヘルメットから頭を抜かして、三度目のため息をついた。口で息を吸い込む、そんな当たり前の仕草がやたら懐かしい。作戦に入ってから三日が経った。ずっとヘルメットをつけて、スコープの中を睨みつけていた。指先で自らの前髪をつかむと、汗で湿っていた。
かすかな震えは、驚きによるものなのか、それとも胸にすくった虚無感によるものなのかハッキリしない。少年は、自らの目尻をぬぐった。
濡れている。透明な粒が、指先を包んだスーツの上に乗っていた。
(なぜ……、泣いて)
ひとり。一人の少年が、脳裏にいた。
作戦に入ってから二日目だ。スコープ越しに、戦艦の窓に張り付いた少年を見た。母親に付き添われて、宇宙を見上げる彼の不安げな眼差しを忘れられずにいた。
(ずっと。ずっと、探していた気がするのに)
無数の星が光りかがやく空が、少年の残像に覆いかぶさった。
あの爆発では誰も生きてはいないのだ。自らの両手を見下ろした。この手のひらで殺したのだ。彼と、彼にまつわる者のすべてと、月にわたった多くの人々を。
歌を。か細く、うめいた。ホタルの光のように頼りなくも儚い瞬きを繰り返して、少年は頭を抱えた。
「……歌でも唄いたい気分ですね」
(何の?)(わからない)
(あの子の声を、知ってる気がする)
両手の中指が目頭を抑えている。次から次へと滲んでくるものがある。
乱雑に振り払って、少年は操縦桿を握りしめた。もう、どうしようもないのだ。後悔をするガラではないのはわかってる。一時の気の迷いは、自らの死を招き寄せるだけともわかっている。緩やかに、機体を発進させた。
終
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