彼の死体が打ち揚げられたと聞いて、目の前が黒くなった。
 腐っていてほとんど骨だけで、それが本当に、本当に骸だとわかるまで時間がかかった。死体には右目をほじくられたような後があった。オレにできることはほとんどなかった。泣いて、マーレという男を探すよう獄寺くんに頼んだだけだ。
 マーレは、彼の右目を持っていた。ホルマリンに浸かった眼球には『六』の文字が浮かび上がっていた。マーレを殺すのはオレの仕事だと思った。でも、できなかった。マーレは強かった。
 骸の言葉が蘇る。僕と君でも敵いそうにない、と、言ったのだ。
 結局、殺したのは山本だった。山本と獄寺くんが、意地を張ったみたいなオレの復讐戦に付き合ってくれた。小さなホルマリンの筒を抱えて泣くだけで、オレは無力だった。何も出来なかった。
 死体に会うまで、その死に気付きもしなかった。
 ひどく怨めしい気分になるのに、オレは、オレを恨めばいいのか彼を恨めばいいのかわからなかった。心臓が痛い。
 千種さんや犬さんとは、ついに連絡がとれなかった。
 後を追いかけたのかもしれないな、と獄寺くんは言っていた。オレも同じコトを思う。でも、言葉にはできなかった。何もかもが、遅かった。

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