「リボーンは僕に死ねと言っている。だからを無茶をやらせようとする」
「そ……。そんな! 何かの間違いだよ!!」
目蓋の上で雨粒が砕けて、綱吉は目をこすった。指先に砂利が付着していた。切るような痛みのためか、雨のためか、まったく違うものによるのか。涙が零れた。
骸は静かに首を振った。ゆっくり、綱吉を見つめる。
「君に負けたときから、もう、僕は袋小路に落ちているんです」
「あ……」
視界が霞んでいる。
ゴシゴシと強くこすって、言い返した。
「あなたは死なない! そんなことはオレが許さない」
オッドアイが丸くなる。心臓が、彼に握り締められているような錯覚が強く綱吉の脳裏に浮かぶ。そして彼の指を操るものは、リボーンであったかもしれないし、姿のみえない異国の人々――いつかは、ファミリーと呼びかける人々でもあったかもしれない。綱吉は、震えながら骸の腕を取った。
「ピオーヴェレはオレの守護者だろ……? 勝手に死ぬなんて許さないよ」
「……ボンゴレ……」
少年の手の甲に、水滴が落ちる。
雨ではなかった。骸がまじまじと綱吉を見つめる。再び目をこすった。
「ご、ごめん。ビックリしちゃって」いくら擦っても、次から次へと溢れるものがある。両目が抉れるような痛みがあった。右肩を捕まれて、綱吉は全身を硬直させた。間近に息遣いが迫る。
ほんの一瞬だ。チッと何かが目尻に潜り込んだ。
骸は、爪先で取り出した砂粒を見下ろしてため息をついた。
「こんなことばかりしてると、失明しますよ」
「……、うん」
すぐさま、雨が当たる。
砂粒が落ちていくのを二人は一緒になって見送った。
彼が、思い出したように口を開けたのは、雨がやわらぎはじめた矢先の出来事だった。川の下流を目指して歩き出していた。聞きなれない言葉で、呼ばれた気がして綱吉は首を傾げた。
「フィ……?」
「fiume――、フィウーメ」
二人ともが、びしょびしょに濡れていた。濡れた前髪から、雨が留まることなく滴りつづけている。雲間から伸びた光が、少年たちの背中を覆った。
「イタリア語で川を意味する。僕から、この名をあげましょう」
心臓が縮んだ。綱吉はまたも目をこすった。痛みが理由ではなかった。
「川……。雨が流れる、から?」
「そう。雨はやがて川に流れる。僕に死ぬなというなら、僕を守護者だというなら、あなたは僕の依るべきところになる。僕がピオーヴェレなら、君にはフィウーメが相応しい」
にっこりと笑いかけられていた。骸がそんな顔をするとは思えず、綱吉は両目を瞬かせた。感動であるのか、わからないくらいに胸が熱くなった。頷いていた。
>>それから