スクールHIGH!

 

 




三日目・開始

 今日の暗黒デルタ地帯は朝早くから完成していた。
 前学期にはないほど早くにやってきた骸と、いつも通り校門が開く時間には学校にいる雲雀と、チャイムの十分前と言うおよそ平均的な時間にやってきた綱吉とが揃っていた。
「…………」
 ピリピリとしていた。
 骸はつまらなさそうに足を組んで雲雀を見つめ、雲雀は、上半身を振り返らせて骸を睨んでいる。射抜くような鋭さがあった。
「つなよしく……」
「授業中」
「…………」
 骸が言い終わらないうちに、雲雀が告げる。
 これの繰り返しだ。すでにチャイムは鳴り、一時間目の担当教師もいるのだが、英語担当の彼女はポソポソした声で黒板の板書を解説しているのだが、教室中の誰もが凍りついて身動きもろくにできない状況だ。
「……な、なんでしょおか……」
 今にも死にそうな声で綱吉がうめく。一応、小声だ。その両目には涙がたまる。完全に青褪めて、現実逃避するかのように必死にグラウンドを見下ろしている。
 雲雀と骸は、互いに横目で睨みあっていた。
 さらに、三十分が経つ。
 教師は居合わせた不運を怨み、教室からの脱出を全力で望みだす。生徒も同様で、異様な緊張感に満ちていた。
 ようやく、雲雀が言葉らしい言葉を語った。
「綱吉。昼にどっか外いかない?」
 骸がすぐにニコリとする。
 凄みの効いた微笑みを雲雀に返した。
「授業中ではなかったんですか?」
「綱吉がしゃべりたそうにしてたから」
「ほお。しかし、いつも屋上で食べてるじゃないですか、僕ら」
「うん。昨日は三人でだっけ? でも今日からそんな気分じゃないかもね」
「奇遇ですね。僕も同じような気分です」
「お、……れ。一人で食べようかな……」
 ぼそぼそと涙声でうめく綱吉。
 雲雀と骸が同時に席を蹴りあげ、綱吉の襟首を掴んだ。
「ひいっ?!」
「僕の誘いを断わるの?」
「僕の誘いを断わるっていうんですか?」
 ピタリと声が重なる。少年二人は、互いに互いをギラッと睨みつけた。忌々しげなその眼差しは、一年前の再来を彷彿とさせる――いや、教室の誰もがそれ以上の嵐を予感した。
 呪いかけるような低音で雲雀がうなった。
「なんなの、その手。綱吉に触らないでくれる」
「君こそ。なんですか? 僕を牽制してるんですか?」
「そーだよ。言っただろ、これ、僕のエモノ」
 雲雀ががくがくと綱吉の襟首を揺さぶる。
 負けじと、骸は掴んだ襟首を握り締めた。うえっ、と、ひしゃげた悲鳴があがる。
「これが恭弥のエモノだっていうなら、昨日から僕のオモチャになったんですよ。そういう醜い独占欲やめてくれません? 目障りだ」
「わぁお、骸が目障りっていうの? 何でも自分に都合よく解釈するクセあるだろ、おまえ。そういう傍らでそういうこと言っちゃうんだ? ……、昨日だって? 変なことしてないだろうね」
「恭弥こそ。もう食べたなんていわないでしょう? 君、そう見えてやることやってるのは知ってるんですからね」
「だから? 別に隠してないし」
 ツンとして雲雀がそっぽを向いた。
「堂々とサドで変態の誰かとは違うだけだよ」
「よく言いますよ……。同じ穴のムジナが」
 ばぁんっ! 骸が、辛抱たまらないといった様子で壁を殴りつけた。綱吉の顔の真横だ。すでに綱吉は真っ白で、涙すらもでない。ガタガタと戦慄しながら身動ぎもしないでいた。
 雲雀は、強く意思をこめて骸を睨みつけた。
「ムジナはムジナでも骸ほど腐ってる自覚はないんだよ」
「恭弥よりも腐ってる自覚はありますが、だから何ですか? 沢田綱吉には関係ないでしょう?」
「はん。気に入らないね」
「……ま、待って……」
 真っ白になりつつ、どうにか、綱吉は二人の手に指をかけた。
「俺は二人の喧嘩そのものに関係ないような気がするんですけど……」
「喧嘩?」
 雲雀が目を丸くする。
「…………?」
 骸も、不思議そうに雲雀を見つめた。黒目とオッドアイが見詰め合うこと数秒。合点がいったというように、彼らは同時に空いた腕で相手の襟首を鷲掴みにした。
「なるほど、そういうことね」
「まったくもって簡単な答えですね」
 ギリギリギリギリ。
 互いの首を絞めあいつつ、少年二人は歯が見えるほど高く口角を吊り上げた。
「君との友情は今日限りね」
「ハッ。上等!」
 チャイムが鳴ると同時、教室から三人を残した全ての人間が逃げ出した。綱吉を放り、二人はすぐさま互いの拳を固めて相手の顔面を狙った。互いにきまった、カウンターパンチだ。
「やっぱり趣味似てるじゃないか骸! 最悪! 一度死んだら?!」
「冗談っ。死ぬのはそっちでしょう? それから二度と人間に生まれ変わるな!」
「あはっ、何それこっちのセリフ!!」
「…………」
 へなへなと床にしゃがみ込みつつ、綱吉は二人を見上げた。
 殴りあいだ。今すぐ逃げねば、と、直感はつげるが腰が抜けて動けない。転校しなきゃよかった、とは、思っても後の祭りである。後悔後先たたずというヤツだ。
「リボーン……。うらむよ」
 ようやっと搾り出した声すら掠れる。
 とりあえず、綱吉は恐怖に耐え兼ねて気絶したフリをした。
 



以下・無限サドンデス!









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07/01/22




>>つぶやき
骸さんとヒバさまの友情(?)がぶっ壊れるまで! でした。