少年が二羽

 




「ん」
 目を開けて、すぐさまクシャミをした。
「うわっ。なに!」布団が大きく肌蹴られていた。
 なぜだかパジャマのボタンまで外れて……いや、取れてる。
 胸から酷い圧迫感がして苦しい。黒い固まりが二つ、乗っていた。
 ゆっくりと身体を起こし、二匹を抱え込む。
「ヒバリさん、ムゥ……?」
 パジャマの中で、オレにしがみつくような格好で二人とも眠り込んでいた。背中の下に潜り込もうとしたみたいに、ムゥが丸くなって壁とのスキマに上半身を落としている。反対側で、ヒバリさん。よほど疲れているらしい。触るとすぐに起きるのに、今日は微動だにせず鼻をスースー言わせてる。耳を摘んでみても無反応だ。すごい。面白い。
「いや面白いのはいいんだけど、なんでまた二匹して服んなかに入るかなー」
 耳をピコピコさせつつ、うめく。ムゥが寝返りを打って、だらりと上半身を反らせた。
「ははっ。可愛いーっ。二人とも、夜中にまた喧嘩してたの?」
 最後には二匹でベッドに潜ったということは、仲直りしたんだろうか。
 それならよかった。いくらなんでも四六時中ドタバタされてたら困るし、ヒバリさんかムゥのどっちかを人に譲らなくちゃならないのかな、って、少しだけ考えてたんだから。
 ギュウと二匹の間に頬を埋めて、ベッドに横たわらせた。
「今日は特別だからな。二匹とも、そこで寝てていいよ」
 ハンガーから制服を引き寄せる。
 出る間際に、布団をかけた。ヒバリさんとムゥが向かい合って寝息を立てて、顔だけをちょこっとだしてて、まるで人間みたいだ。
「兄弟みたい。写真でも撮っちゃおうかな」
 昨日の険悪ぶりとはえらい違いだ。携帯を取り上げたところで、母さんが階下で叫んだ。
 電子音をたてた携帯を胸ポケットに押し込んで、鞄をとって部屋をでた。
 目玉焼きのジュワーって焼ける音が、リビングいっぱいに広がっていた。心配事がひとつ、減ったせいかやたらと美味しく感じる。けども学校が終わって、部屋の扉を開けてギョっとした。
 ベッドの上で暴れたみたいに、布団が窓の下でぐちゃぐちゃな形で丸められていた。ガラス窓も開けられていて、北風がカーテンを上下左右にはためかせて唸り声をささやかせていた。
「ちょ。あれ?」枕は、入り口近くでしなびていた。
 ひっくり返ったバスケットの下に黒い影がある。寝そべる形になりながらも、ムゥは首を伸ばして毛づくろいをしていた。
「仲直りしたんじゃなかったのかよ?」
 にゃあ。答えたのは喉からひり出したみたいな声だ。
 ヒバリさんは四隅のひとつで丸くなっていた。
 悪びれた様子もなく、尻尾でパシパシと布団を叩く。けども眠いようで、首をもたげる動きに普段の機敏さはなかった。二匹とも怪我はないようだけど。なんか、すごくくたびれてるみたい。
 手近な黒毛を見下ろしていると、ムゥがバスケットの下から這い出てきた。
 艶やかな黒毛を風で揺らめかす。窓をピシャリとしめた。
「……まぁ。喧嘩しないならいいけど。二人とも、仲良くね」
 耳の間を撫でてあげる。
 と、左右で色の違う瞳が細くなった。
「あ。そーだ。これお手本だぞ」
 携帯をとって、朝の写真を表示させる。
 背後から擦り寄ってきたヒバリさんも捕まえて、ハイと写真を掲げる。二匹はしげしげと画面を見つめた……と、ヒバリさんがバシっと機体を右前足で叩き落した!
「うわっ?! 何す――て、あたた。ムゥ、噛むな!」
 も、もしかしたら二匹の仲が悪いっていうより。
 二匹とも、それぞれ凶暴な性格してるってだけなのかも。しれ、ない。
 とんでもない拾い物をしたかも。
 思いつつ、ベッドの上に逃げ込んだ。

 




 

 



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>>つぶやき(反転
ほそぼそ続けていく連作二歩手前くらいのシリーズです
話のすじは二の次でホノボノ?なパラレル三つ巴をかきたいなーと思ってます