図書館

 




「よし、じゃあ行こう。獄寺くんはオレと一緒に」
「うっし」ぱちんと平手を叩くのは山本だ。彼が先発になった。
「任せろ。殲滅していいんだよな?」
「一般人以外なら」
 綱吉は本を閉じた。
 赤い絨毯がしかれた室内に、スーツ姿の少年たちが集結していた。各々で、腰からトンファーをぶら下げたり日本刀を差し込んでいたりする。日本刀の彼は、背中に野球のバッドを背負ってもいた。
 獄寺は綱吉の隣で腕を組んでいた。
 が、さりげなく、彼が机に置いた本を取り上げ、ヒバリへとまわす。
 ページの合い間に挟まれたものを見て、黒目が細くしなった。
「オーケー。この本、返却してくればいいんだね」
「はい」
 チェアに深く腰掛けたまま、司令塔たる彼は目を閉じる。
 ヒバリは、踵を返しながら悪戯っぽく囁いた。
「女子供には手をださない主義、捨てたんだ?」
「捨ててません。……ふつうの、ぜんぜん関係がない人たちを助けたいって、その主義も捨ててません。だからです」
「なるほど」
 面白そうに頷いて、ヒバリは視線を流した。
 たどり着いたのは、デスクの真向かいに佇む少年である。十二、三の子供は、小脇に分厚く巨大な本を抱えていた。フゥ太と名乗る彼、ボンゴレに腰を落ち着けてから二年が経った。
 今ではボンゴレを支える参謀の一人である。フゥ太は本のページをめくった。
「だいじょうぶ。あなた一人の戦力で図書館は抑えられるよ」
「役所どもの抑えは」
「ディーノ兄に打診してある」
 子供に似つかわしくない微笑み。野獣の微笑みがある。
 ヒバリは頷いた。にわかに口角を吊り上げる。
「この島はどうにもならないね。けっこうなことだ」
「……時間だ。行ってください」
「綱吉が着くころには、武器庫は吹っ飛んでるだろうさ」
 デスクから地図を広い、ポケットへと捻じ込む。
 薄っぺらいそれは、観光案内所だ。国立の図書館が赤印で囲まれていた。
「ちなみに、本は、ちゃんと期日以内の返却になってるの?」
 綱吉ががくりと肩を落とす。
 申し訳なさそうに、告げた。
「延滞三日目です」
「そう。ま、代わりに怒られといてあげるから貸しひとつね」
 む。綱吉はうめく。ヒバリは楽しげに笑い、本を抱えて扉に手をかけた。
「じゃあ。死体に再会するなんてゴメンだから、覚えておいてね」
 幸運を。唇だけで囁いて、綱吉は、獄寺が差し出したリボルバーを握りしめた。誰に向けての言葉であるか? 決まってると綱吉は思うのだ。この場にいる全員に向けて、である。





おわり

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06.06.