星
死ねば人は星になる。
大したロマンチストである。少年は夢を見たが、これよりはマシだろうと自負があった。彼は自らの両手を見下ろす。黒。黒と血の交錯。
「まだ生きてますよ。僕は」
(はきだめに横たわり孤独を友とし一条の光のみを見上げる骸のような存在であっても)
生きていれば人は何になるのだろう。地上におりた星に名前はない。この体が朽ち、こころが星として昇華できるならば、今現在いきている我らには何と名がつくのだろう?
「くだらない夢想ですよ」割りいる声で顔をあげる。
黒と血の交錯。ひとつ混じるのだ。
白。何にも混じらない白。その白が彼を破滅させる。
「僕を殺すのは僕自身。そうしたことを言ったのは誰でしたか」
「それもまた僕自身。君を殺すのはぼく。僕は、僕に殺されることしか許せない」
少年は額を擦り付けるほどに顔を近づけていた。視線は真っ直ぐに伸び、ぶつかりあう。やがて、一方がにぃと笑い、片方の笑いを誘った。
「僕の死を悲しむ人間は二人」
「僕の死を理解するのは独り」
『すなわち』
ひたりと声が重なる。
「すなわち僕ひとり」「すなわち浄化を行う彼ひとり」
白夜が溶けていく。少年二人はくつくつと笑い、笑い、やがて背筋を仰け反らせた。
「どうして違うんですか! 僕はあなたであなたは僕なのに」
「そっくり返しますよ。どうして。どうして?」哄笑が夜に溶けていく。すべては白くなり、消え、見えなくなっていった。少年が続ける。
「そんな問いかけすら無意味だ。人がひとつの考えで統一できるなんて幻想だ。ひとは揺れ動き固定されない。ただひとつ、固定を可能にするのは強靭な意志だけ」
「意思」「意思だけです」
少年たちは手を結び合う。
にぃとした笑みはそのまま。
溶け出した夜が、少年の胴体に絡みついた。
「僕は死にたいか?」
「いいや。まだ。まだ生きる」
「ならば取る道は決まってますね」
「そのとおり。死は生誕と隣りあわせる」
片方が、顎をあげた。そして皮肉げに彼を見下ろした。
「いらっしゃい。僕。沢田綱吉を迎合する僕。あなたを受け入れてあげます」
「受け入れは汚染のはじまり。そのことは承知してくださいね、もう独りの僕」
(もう独り。独りの僕は二人になる。二人は独りになる。ひとつの思いを新たにして)ずり、と、顎が触れ合う。重ねた唇の隙間から雫がこぼれた。星の形をしていた。ぽろりぽろりと解けていく。白夜と一緒になって。
――唐突に顔をあげた六道骸に、沢田綱吉は仰天してソファーから落ちた。
「うわっ! なんですか。急に……」口をぱくぱくとさせた末に、眉根を寄せる。
「だいじょうぶですか? おもいきり直撃しましたけど」
「ハイ。あれはアルコバレーノの特殊武器ですか」
「そうですよ。人の深層意識をどうたらーってミサイルです」
「へえ」六道骸はこめかみを摩った。ひりひりとした痛みがある。物理的な痛み。そのあとで唇に指の第二関節をあてた。考えること、五分。彼は言った。
「僕は君を愛してるようですよ、綱吉くん」
おわり