新入生の賛歌

※4月1日に書いたものです
※そういう内容です
※実は…登場人物みんな女の子だったんだ! 気付かなかった!
※と、うちゅうからのでんぱを受信した4月1日でした(※そういう内容です)









「大変! 遅刻しちゃうっ」
 大慌てで階段を駆け下りると、母さんが待ってましたと言う顔で皿を差し出した。こんがり焼けたトーストの上でとろけるバターが美味しそう! でも母さん、走りながらトースト食べるってすっごい高等戦術だって知ってた?!
 オレの眼差しをどう思ったのか、口を開けたらトーストを突っ込まれた。
「……ありがとう!」
  ああっ、ここでお礼を言うからオレはダメツナ子なんだ!
「つっちゃん大丈夫? でも走れば始業式に間に合うわ、ファイトよっ!」
「うんっ。いってきまーす!」
  外には青空が広がっていた。どこからか桜の花びらが降ってくる。隣に住んでるリボ子ちゃんのお宅からだ。思わず、顔をあげた――、そのまま角を曲がったときだ。
「痛っ」鈍い声がした。だああっ、と、ついつい女らしくない悲鳴をあげていた。
「い、いったぁ……」
  額と鼻先、それにお尻。
  強く打ち付けてしまった。でもトーストは咥えたままだからオレもそんなダメダメってワケじゃないと思う……、どうやらぶつかったようだ。ごめんなさい、と、口をもごもごさせようとして硬直した。
  目の前で女の子がひっくり返っていた。身体を大の字にして動かない。
「だ、大丈夫ですかっ?! すいません、よそ見していて!」
「……こ。この僕が……。押し倒されるなんて」
  ショックを受けたように、仰向けになったままで呟く女の子。
  覗きこんでみると、大層な美少女だ。キツく吊り上がった両目は、ヒトによってはマイナスポイントかもしれないけど、意思の強さを表すようで凛々しい。オレの倍はありそうな豊満な胸にはオンナらしいボディがくっついていた。……おかしいとすれば、なぜか、男用のガクランを肩に引っ掛けていることだろうか。
「な、並盛の生徒ですか?」
「そういう君も並盛だね」
  でも、ガクランの下はオレと同じブレザーだ。
  女の子はシュタンッと音を立てて前のめりになった。
  一瞬で仰向けの姿勢から――、オレの目の前に屈みこんだ格好になる!
「?!」ギョッとして後退る前に、女の子がオレの頬に手を添えた。
「並盛風紀委員、雲雀恭子。僕を倒した人類は君が初めてだよ」
「倒したァ? ぶ、ぶつかっただけだけど」
「君のボディタックル……、熱かった」
「いやいやいやいや!」
  恭子ちゃんは据わった目をしてオレを見る。
  その眼差しには尋常でないものを覚えてしまう。後退りしていくと、塀に背中がぶつかった。恭子ちゃんがスカートの裾を揺らして一歩を詰める。ぼいん、と、その両胸が揺らぐ。
  その動きにハッとしていた。
「……恭子ちゃん?! ブラジャーしてない!」
「ああ。邪魔なんだよね。サラシ巻いてるけど?」
「いやいやいやいや、ユルいよ! 動いてるよ!」
  思わず手が伸びる。恭子ちゃんの胸に軽く触れると確かな弾力があった。ちょっと触るだけでぼいんぼいんする。何てことだ、年ごろの女の子なのに!
「…………。これから始業式行くんですよね?」
「? そうだよ」
「その前にもっとキツくしないと!」
  ついつい使命感に駆られるくらい恭子ちゃんは完璧なプロポーションを持っていた。この美女を、こんなあられもないナリのまま中学生男子の群れに放り込むなんて! 同じ女として間違ってる! 恭子ちゃんの手をとって家に引き返そうとしたところで、オレはふと気がついてしまった。
  恭子ちゃんはもっと前から気がついていたみたいだ。
  先ほどからリボ子ちゃんの宅にある桜の木を見上げている。
「あれ、知り合い?」恭子ちゃんが胡散臭そうにうめきだす。オレは頷くしかない。桜の枝の上で、すらりとした肢体の少女がぶるぶると震えていた。怒っている。
「沢田つな子。私ってものがありながら……」
 目深に被った帽子のツバを抑えつつ、少女は控えめ――といっても、控えめなのは声音だけで、実際は怒りに満ちて抑揚ありまくり迫力ありまくりの酷いダミ声なのだけど――に囁いた。
「そんなブスにセクハラを働くなんて! 君の手を汚していいのは僕の体だけなのに!」
「骸――っっ! 紛らわしいこと言うな!!」
  反射的に叫んでしまう。うう、悲しきツッコミ体質。
  少女は気軽に枝から飛び降りた。オレと恭子ちゃんとの間に、見事に、落ちてくる。彼女は腰に腕を添えるフリをして、実にさりげなくオレの肩を突き飛ばした。
  恭子と一対一で向き合う格好になって、少女は、両眼に鋭利な光を灯した。
「くほほほほほ。初めまして、恭子さん」
「? その制服に、右が赤に左が青のオッドアイ……、黒曜中の女王?」
「ええ。その通りです。そして、つな子の幼馴染にしてフィアンセでもある!」
「こらこらこらこらぁ! 何いってんの骸ちゃん!!」
  恭子ちゃんはオレと骸を見比べて、嘲るような声をだした。
「レズビアンでも何でもいいけど、君、その子に嫌われてるよう見えるけど」
「…………」 にっこにこ、と、骸がルージュのついた唇を微笑ませた。天使の微笑みだ。指にはマニキュアがついてるけど、そのツメが、素早く恭子ちゃんの首筋を鷲掴みにしようとした。しゅっ!
「おっと」「チッ。厄介な女ですね」
  恭子ちゃんは、バックステップを踏んだ体勢のままで自らのスカートを鷲掴みにした。思わずギョッとする。恭子ちゃんてば自分でスカートを捲り上げて――、その太腿を露わにした。ってフツーにレースの下着見えてんですけど!! 白か! 黒なイメージかと思った!
「わー! わぁああああ!!」
「ちょっとね。君ね」
  骸が困ったような声をだす。
  思わず骸の両目を背後から隠していた。
  恭子ちゃんは太腿につけていた茶色いホルダーから二本の金属棒を取り出す。トンファーだ。カチャカチャッ。稼動音が響いた数秒後、骸はオレの両手首を振り払って駆け出した。
「その鈍くさい上に的外れな行動、徹底的にダメ子ですね相変わらず!」
  なぜか恭子ちゃんに向かいつつオレの悪口だ。オレは、昔から、骸の真意がわからない。同じ女のクセにやたらと迫ってくるしフィアンセ宣言してくるし。
 骸の放った回し蹴りをトンファーで受け止めて、恭子ちゃんはニヤリとした。
「さすが。ウワサ通りにウデが立つと見た」
「許しませんよ。恭子さんって言いましたか? つな子にヘタな手出しをさせるなんて。さらに僕よりも胸が大きいのは断じて許しません」
「ツッコむポイントはそこかッ!」
  思わず頭を抱える。目に痛い光景が繰り広げられた。
  骸はもともと露出狂の気がある――もしかしたらオレだけに対してかもしれないが――ので、まあいいとして、美女二人がスカートのまま格闘するのはどうか! しかも朝の路上でだ! パンチラだらけだ! 恭子ちゃんぼいんぼいんしまくってるしっ。いつ誰が通るかわかんないのにっ!
「ふ、ふたりともっ。恭子ちゃんに骸ちゃん! やめてよ!」
「止めないでよ。このままアタマ潰してやる」
「言ってくれますねえ。この際だ、その風紀委員のワッペン、引き剥がしてあげますっ!」
  がががっ。目にも止まらぬ速さで二人が打ち合う。いけない、とは思いつつ、舌打ちしていた。
「やばい。骸ってばさりげに勝負下着じゃん。オレ襲う気で来たな。今日は厳重に戸締りしておかないと……。ってそうじゃないそうじゃない!」
  こうなったら、最終兵器だ。口の両脇に手を添え、叫んだ!
「りぃぼこぉお――――っっ!!」
「ウッセェなダメツナ!!」
  リボ子ちゃんの宅めがけて大絶叫すると、一階の窓がガラッと開いて幼女が顔をだした。ひらひらの服、だけど頭にはニット帽。
「どうわっ!」
  登場と同時に足元に発砲された。
「危ないな!」いつものお約束だったけど、このツッコミもお約束だ。りぼ子の興味は既にバトる二人に向かっていた。彼女はつまらなさそうに唇を尖らせた。
「ご近所迷惑なヤツらめ」
  言いつつ、じゃきんっとマシンガンを構える。
  耳を塞ぐのと、恭子ちゃんと骸が飛び退いたのは同時だった。二人は、先ほどまで争っていた位置に空いた無数の穴ぼこを見つめた。りぼ子を振り返る。
  真っ先に口を開いたのは恭子ちゃんだ。
「君、銃刀法違反」
「うるせーな。ほっとけ」
「えええ。ツッコむのそこだけでいいの……?!」
  ショックだ。残念がるオレの隣に骸がやってきた。
「 りぼ子! 今日こそ僕の土地を返してもらいますよ! 僕とつな子の幼馴染ライフを返してください!」
「テメーもうるせー。借家契約だっただろが」
  ちっちっち、と、指を振るりぼ子。と、その仕草に何かを思い出した。オレの足元で無残に落ちてるトーストのことじゃない。まだ半分も食べてなかったけどトーストはどうでもいい、この際だ。じっとりぼ子を見る。その指を振る仕草、って、ああ、
「あああああ!! 時計! 時間!」
「あ」恭子ちゃんがポンと手を打った。が、逡巡したのは数秒らしい。彼女はすぐに諦めた。
「まぁいいか。違反者の取り締まりしてたんだし」
「えっ? 違反者?」
「沢田つな子、だっけ。はい捕縛」
  恭子ちゃんは表情ひとつ変えずにオレの手を取った。
「…………?! あ、あのォ?」
「始業式に遅刻、と。いけないなぁ。違反だよ」
「ちょっと待ってくださいよォオ?! おかしいですよそれ!」
 文句あるの? とでも言いたげに恭子ちゃんが両目を窄める。ヒイイッ。のけぞったオレの肩に骸が手を置いた。恭子ちゃんが視線の方向を変える。ああ、振り返らなくてもわかる。
  バチバチと、そりゃもうバリバリと、火花が散っている……。
「お前、モテるよな」窓枠に肘をたて、頬杖していたりぼ子が言った。ていうか、同性に好かれても困るんだけど。オレはノーマルなつもりなんだけど……。
  そうだ。この絶望的な環境の中にも光が差し込むかも!
「りぼ子ちゃん、お兄さんの京クンは?」
「あ? アイツならもう行ったぞ。品行方正だからな」
 京クン! かれこれ、一年片思いを続けている素敵な美男子だ!
 彼が待っているとわかれば一秒でも早く向かってしまいたい。思い切って、恭子ちゃんと骸との間をすり抜けた。ああっ、と、二人が怒りの声をあげた。
「じゃあそー言うことで! いってきます!」
「つな子! 待ちなよ。捕縛したんだから逃すわけにはいかないよ!」
「今からでも遅くないですから黒曜中に転入しましょうよ!」
  二人の叫びは無視だ。沢田つな子、逃げ足にだけは自信がある。



つづ…くわけがない
おわり!

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07.04.01
もちろんエイプリルフールですとも。