その一瞬のため

 


片足がめり込んだ為につんのめった。少女の顔が恐怖で引き攣る。恐れていた事態を起こしてしまった。失敗だけはしたくなかったのに、と、罪の意識を抱く前に、
背後から少年が飛び出した。足元にできた分厚い雪層など彼には関係なかった。
「うおおおお!!」
両手の炎が大気を燃やし空気を熱し辺りを水蒸気で包み込む。イタリア地方、雪原の奥地で繰り広げられた激戦が終わることを予感した。クローム髑髏は、三叉槍を握り締め、雪原から上半身を持ち上げる。
(決めたんだもの。骸さまを助けるって)
見上げればボンゴレ十代目の拳が復讐者の拳とぶつかり、それによって生まれた風圧で雪が舞い上がっていた。吹雪のように辺りが白くなる。
ブーツを膝まで雪に埋めたまま髑髏は三叉槍を構えた。
「ボス! いいのっ。わたしできるから! ボスは先に行って。骸さまのところにいって」
守護者が復讐者の足止めをすることになっている。この雪原のどこかで、他の守護者も戦っているはずだ。クローム髑髏は自らの右目に触れた。眼帯がある。六道骸は、髑髏の臓器を再生したが、右目は再生しなかった。
〈骸さまがわたしに残してくれた傷跡。お願い。骸さま、力を貸して)雪からブーツを引き抜き、体重の移動に気を配りながらも雪原に立つ。ボンゴレ十代目が傍らに着地した。辺りの雪が解けて、水蒸気で視界が白くなる。
その白い煙幕が髑髏には頼もしく思えた。眼帯を外すと、水蒸気の奥にいるはずの十代目に手渡した。
「ボス。これを骸さまに届けて。これが、わたしが骸さまを助けたいっていう覚悟なの」
「クローム……」
「もう振り返らないでね」
右、眼球があるはずの場所は、ただ薄黒く窪みを露わにする。躊躇ったが、ボンゴレ十代目は踵を返した。クローム髑髏の顔を見ようとはしなかった。
「…………」
髑髏は三叉槍を復讐者へと向ける。
水蒸気が収まれば、彼女を隠すものは何もなくなった。それでよかった。
「小娘一人でわたしが倒せるとでも?」
復讐者が包帯の下からくぐもり声で告げる。髑髏は頷いた。
「やるわ。わたしは、骸さまのためだけに生きてるの。骸さまを助けて、生身で抱き締めてもらえるなら、わたしは何だってする」
ボンゴレ十代目を陥れることだって。胸中で付け足して、クローム髑髏は最後の交信を試みた。雪原の地下、水牢で縛られている筈の主に向けて、
――沢田綱吉が行きます。骸さま。わたしも行きます。もしかしたら、さようならかもしれないけど、わたし頑張ります――
脂汗が滲み出る。クローム髑髏は、三叉槍を振り被る。夢見る一瞬を必死で脳裏に思い描いた。何がなんでも勝たなければ未来がない。

おわり





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