彼女の友情
(これがボスの好きな人)
(ええ、そうですよ。顔を覚えておきなさいね)
(ハイ。骸さま)クローム髑髏はパチリと瞬きをした。睫毛はやや短いが、大きな瞳と丸みを帯びた顎とが女性らしい柔らかさを全体に与えていた。実際にはスレンダーで痩せているが。
部屋にはボンゴレ十代目の友人が集っていた。女性は、三人。リボーンの側にいるのが殺し屋のビアンキで、ボンゴレの右隣で並んでいるのが――右から、三浦ハルに笹川京子。クロームは脳裏で京子の名を反芻した。
(…………)膝を抱えて扉の隣にいた。隣には犬と千種がいる。彼等は退屈そうに小声で何かを話し合っていた。
「まァー、そういうこった。隠密行動しろよ、テメーら」
「並盛町って何でこんなにカタギじゃない人間ばっかり……」
青褪めてストローを摘み、オレンジジュースを掻き混ぜる。ボンゴレの様子をジッと見ていると、三浦ハルが振り向いた。三浦ハルは両目を丸くする。
「ツナさん、浮気はちょっとだけですよ」
「んなぁっ! おまっ、そーゆーコトいうのやめろ!」
「だってハルはツナさんの未来の奥様ですよ?!」
「そんなこと誰も決めてないよ!」
赤らんで叫びつつ、ボンゴレはチラリと笹川京子を見る。京子は部屋の中でボクシンググローブを装着する兄を盛んに注意していて、気付かない。
「マジ、かったるい……」
「骸さーん。いつまでそこにいるんれすかぁ」
ぼそぼそした声が隣から。クローム髑髏は目を細める。
(骸さま。ボスは、敵ですか? 味方ですか)
返事は遅れた。リボーンが解散を告げて、真っ先に部屋を出たのは黒曜中の仲間だ。一呼吸が遅れたため、クロームが慌てて身を翻す。その最中だった。
(利用価値のある男ですよ)
六道骸の返事で足を止める。
「あっ。クロームちゃんって呼べばいいんですか?!」
「!」
ギョッとして振り向けば三浦ハルが手を振っていた。ボンゴレが、肩を掴まれて、迷惑そうにしながらもクロームに笑いかける。
「…………うん」
「わたし、笹川京子。よろしくね」
「うん」
「ハルですー。三浦ハル!」
「うん」自然と、顎が俯く。クローム髑髏は動悸に耐えた。
「あたしは、クローム……髑髏。骸さまの女です」
がしゃああん!! と、テーブル表面に向けてスライディングしたのはボンゴレと獄寺隼人、山本武だった。オレンジジュースのコップを慌てて直しつつ、ボンゴレが叫ぶ。
「何言っちゃってンですか?! 髑髏?!」
「そう言えって、骸さまに言われてる。よろしく。ボスのお友達のみんな……」
言葉を失う一同を置いて、クロームは部屋を出る。頭の中でクスクスと笑い声がした。主は、酷く愉快なようで、陽気に声をかける。
(最初のインパクトとしては申し分ないですよ)
(ありがとうございます。骸さま)
(ボンゴレの女は覚えましたね? 接近しなさい)
(はい。笹川京子に特に)
(そうです。いい子ですよ、クローム。仲良くしなさい。その内、指示を出します)
沢田家を後にして、クローム髑髏はポケットから手帳を取り出した。頭の思考は骸が読み取る。自動的な仕組みだ。なので、彼女独自の思考は紙面でのみ行われる。
――ボスは骸さまにとって利用できる人。敵でも味方でもない。ボスは笹川京子が好き。三浦ハルはボスが好き。
――骸さまは笹川京子を人質にしてボスを捕まえる。
――不安だけど大丈夫。友達より骸さまを取る
逡巡の末に、付け足す。掌に収まるほどの手帳にびっしりとした書き込みがある。最後の行になった。
――情に流されたりしない。全ては骸さまの為に。
おわり
>>もどる
|