髑髏になる練習

 


「っ!」
だあん、叩きつけられても少女は悲鳴を耐えた。即座に体を起こすがために片膝を立てる、が、
「きゃあ!」今度は悲鳴が洩れた。その足にヨーヨーが絡まって、身動きが取れなくなった。ごろごろと転がる内に、舌打ちと共に足首を掴まれる。
「落ちるびょん」
「あ」
ヘルシーランド、廃館内の壇上であることを忘れていた。チーターのように全身に毛を生やし、牙を生やしていた少年は、チョンとヨーヨーの糸を突いた。
「……ありがとう」クローム髑髏が体を起こす。
柿本千種は、二人から離れた場所で眼鏡をずり上げた。猫背、微妙な角度で上半身を傾けている。黒曜中学校の制服を着込んだ三人組が特訓を始めてから一週間が経とうとしていた。
「無理だね。あんたが実戦レベルになるまで一年はかかる」
「…………。やる。お願い。犬、千種」
「ケッ。アホらしっ」
  城島犬が牙に手をかける。アニマルチャンネルを取り外すと、全身を覆っていた剛毛が引っ込んだ。クロームは慌てて犬の腕を掴んだ。
「役に立ちたいの。わたし、もっと頑張る。だから」
「骸さんの役に立ちたいのはオレも同じだびょん。でもテメーの役に立つ気はねえの!」
「……今、骸さまは?」
クローム髑髏は首を振る。
「多分、寝てるとは思うけど……。繋がらない」
「やっくたたず。おめぇ、何で骸さんに選ばれたの?!」
一歩を踏み出し犬が早口で捲し立てる。骸に聞こえない今がチャンス、とでも言うように、数分に渡って不満を叫んだ。クロームは一言二言の反論を何度も繰り返し、ついには、三叉槍を握り締めて犬を睨みつけるだけになる。
互いに、無言で睨み合う段階になってため息をした。千種だ。ソファーの上から、コンビニのビニール袋を拾い上げる。
「そのくらいにしたら」
中にはカップ麺とペットボトルが三人分。
「コイツがいけないんだびょん! 生意気! よそ者!」
「骸さまに任されたのは、わたしなの。だから助けて」
「ぐあー! さりげにメッチャムカつく発言! よそ者! 骸さんの好みの食い物も知らんクセに! シャワー浴びる時間も知らんクセに!」
「!」
クロームの両目が丸くなる。槍を持つ手に力が篭る。
「……骸さま、何がすきなの? いつはいるの?」
「バァーカ! よそ者に教えるわけねーンだびょん!」
「!! ……教えて! 骸さまが犬達のことなんて言ってたか教えるから」
「! む、むむむ、交換条件かびょん?! なんつー生意気ぶりだおまえ! ムカツクぜえ」
「…………。メシにしよう」
フ、と、達観したため息を鼻腔で吐き出して、千種はポットを片手にした。事前に水は入れてある。犬のアニマルチャンネルで電力配給をして沸騰させるのだ。
「電気ウナギ。よろしく」
犬は鼻先に突きつけられたポットに半眼を向けた。
「釈然としねーれよ……。骸さん、なんでこんな女を……。いきなり……」
「何か、心変わりしたんだろ」
パチパチと電気が爆ぜる。クロームは、電気の通ったポットを前にして怪訝に眉根を寄せた。
「ウナギは、アニマルじゃないわ……」
「ホラナ? こいつまだ常識持ってるびょん。ダメに決まってらー」
「……常識なんか、俺らには関係ないね……」
  ボソボソとうめく二人を前に、クロームはグッと息を吸った。覚悟を込めて、囁く。
「うん。じゃあ気にしない」これも訓練の一つに違いない。

おわり





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