春に猛暑がきては蒸し茹だり



「季節感チョー無視してンだけど」
「鬼才っつーか奇才っつーか、ただの馬鹿だな」
沢田綱吉と家庭教師ヒットマンは並んでうめいた。ひらひら、そよそよ、漂うものは桜色の斑点をつけた花びらだ。綱吉は肩にかかった桜の花を叩き落とした。
「人の部屋で何やっちゃってンだよ、ほんと! 信じらんね」
「オレのハンモック……」
うめいてリボーンが懐に手を入れる。ハンモックには花びらが山積みになっていた。
窓を前にして浮遊していた影が慌てて後退りした。
「ひどい! ボンゴレ研究チームが開発した新商品を届けにきただけデスよ?!」
アダムスキー型UFOに乗り込んだ小太り男、ジャンニーニだ。リボーンと綱吉の険悪な眼差しを受けて多量の冷や汗を浮かべる。UFOがジリジリ後退りした。小型なのはまだいいが、浮いている。この際問題ではなかったが。
「人のいねー間に道具の披露か。いつの間にそんなに偉くなった? アン?」
「毎度思うがリボーンの権力って実際ボンゴレの中でどんだけー、だよな。って、こらぁ! 逃げるなよ?! 部屋を戻していけーーっ!!」
「失礼しましたァ!!」
小さな両手で窓を開けてアダムスキー型UFOが飛び出す。慌てて飛び掛り、失敗して床に転がりつつも綱吉が暴れた。
「うわぁっ、花びらの絨毯! 誰がこれを掃除すると思ってんだ?!」
「少なくともオレじゃねー。クソ、今夜寝れなかったらツナ締め上げてやる」
「なんでェ?!」
「文句あンのか?」
懐に入れられていた手がようやく抜けた。ジャキンッ。リボーンの銃口を鼻先に突きつけられて綱吉が引き攣る。花びらに埋もれたまま両手で掻く動きをくり返した。
「あ、ありませェん……。掃除すらいいんだな?!」
「早くしろよ。花臭くて敵わん」
「ああっ?! エアコンの換気口にまで桜がっ……、うっそこの茹る暑さン中で掃除?! 蒸し焼きされるっつの!!」
「オレは下でアイス食ってるぞ」
拳銃を仕舞うなりリボーンは帽子を脱いだ。既に汗が滲んで頬を湿らせている。夏日だ。おまけに外の日はまだ昇ったばかりだ。湿度が高い為にネバつく暑さである。綱吉は身体中に花びらをネバつかせつつ頭を抱えた。
「一人で放置されるって気がしたよどうせ?!! チクショー!!」
叫んだけ分だけ暑さが増す。扉が閉まって、綱吉はガクリと首を折った。
「このクソ暑い日に……。あー、アイス食べたい」うめきつつ花びらを集める。綱吉の部屋はさほど広くない。だが壁と言う壁からミニサイズの桜が生えて花びらを散らしていた。ボンゴレの技術力が巻き起こす不思議現象には免疫があるので、綱吉はさほど気にしなかったが、
「遊びにきましたァってうきゃああ?! ナンデスカコレハ――っ?!」
乱雑に扉を押し開けた三浦ハルには異常怪異である。綱吉よりかは免疫が低かった。
「丁度いいトコに。ハル、手伝えよ! チリトリ持ってきて」
「はひぃっ……?! 桜?! 夏ですよ!!」
「知らないよ生えてるモンは生えてるの! チリトリ!」
ゴミ箱に花びらを押し込めつつ綱吉が喚く。三浦ハルは慌てて室内を出て行った。戻ってくる時には、小脇にランボとイーピンを抱えている。
「ツナさん! 一大事じゃないですか!」
「だから一大事だからチリトリ……」
不満げにうめく。ランボとイーピンは目を丸くした。二人を置いて、さらには制服のポケットから携帯電話を取り出してハルが万歳をする。
「何でですか?! ツナさん、花見しましょうよ!!」
「まっ、前向きだな?! っつーか、おい、オレがこの状況に迷惑してるってどー見たって明らかだろが! チリトリとゴミ袋取ってこいっての!」
「ツナさんは花見にデストロイするんですかぁ? あ、京子さん? 今からツナさんの家来ませんか? 花見が――、そう、花見ですよ!」
ハルが握りこぶしを作る。ランボが騒ぐ声を背中にしつつ、綱吉がウグッと身構えた。
電話をかけ終えて、ハルは目を丸くする。
「はれ? ツナさん?」
「……ナイスアイディア、ハル」
苦渋の表情でうめきつつ、綱吉も握りこぶしを作る。
携帯電話を手にしていた。ヤケを起こせば綱吉も積極的になる。獄寺隼人も山本武もすぐに来ると返事をした。宴会と聞けばリボーンも部屋に戻ってくるだろう。
こうした経緯があったので、結局、桜の幹を抜く時には、綱吉は少しセンチメンタルな気分になるのだった。壁から引き抜くと、桜は全て枯れてしまった。リボーンはボンゴレが自然界を歪めて作ったものだから、と、説明した。


おわり




>>もどる