その後の予定

 



「やれよ。撃つ度胸あんの?」
黒衣の少年はニヤリとする。その左右の手には首が握られる。大の男が二人、ぐったりして彼に引き摺られていた。雲雀恭弥はニヤ笑いを止めずに目尻を吊り上げる。
「やれないんだ。弱虫だね。弱虫は大っきらいだよ!」
男を放りつけると、ピストルを抱えていた少女が悲鳴をあげた。年の頃は十歳手前、白いフリルのついたドレスを着て人形のように美しい。
完全に馬鹿にしきった眼差しで見下ろして、雲雀はもう一人の男の首を天井向けて掲げた。
少女がイタリア語で何事かを叫ぶ。最後に叫ぶ。
「ストップ! プリーズ!! プリィーズ!!」
「僕、イタリア語と英語勉強中だから。わかんない」
拳を固めて、雲雀恭弥は一撃を男の顎へと叩き込んだ。みしみしっと軋む音がして、拳に砕いたかのような感触が残って少年は歓喜する。
「しねよ」
バキィン!
左右からのトンファーが頭部を挟み撃ちにする。気が狂ったような絶叫がこだまして雲雀はすぐさま身を翻した。ガガンッとするどく金属音が響く。家人を失いかけた屋敷の中で、その音色は亡霊の慟哭のように怪しく溶けていった。
「…………ッ」
少女のピストルは煙を噴く。信じられないように雲雀恭弥を見上げる。雲雀恭弥は笑いを引っ込めた。
「言い忘れてたけど、僕にそんなもの効くわけないだろ」
トンファーが振り下ろされる。少女は震え上がりながら雲雀を一直線に見上げていた。…………、呟かれた言葉が、打撃音と重なって雲雀にはイタリア語だったか英語だったかわからなかった。
「フン。弱いやつもしね」
トンファーを畳み込んでスーツの内側に潜らせる。ひたひたと忍び寄るように、拍手が鳴った。
「お見事。情状酌量丸っきりナシっていう君のやり方、実はけっこう好きですよ」
「六道か。沢田は逃げたの?」
「家庭教師が連れて行きましたよ」
内開きの扉にもたれかかって、六道骸は腕を組む。そのオッドアイは、雲雀が打ち倒したばかりの少女を見つめていた。くしゃくしゃになった金髪が汚れたカーペットの中に埋もれている。骸は薄笑いを浮かべた。
「彼は同情しちゃいますからね。ああ、沢田が逃がそうとしたのは女でしたけど。ちゃんと始末はつけました」
「おまえが捕まえたんだ?」
「わかっちゃうんですよね。彼の足音はなかなか特徴的です。さて、今度の謹慎はどれくらいの期間になりますかねぇ」
面白がるように骸は喉を鳴らす。雲雀は肩を竦めた。
「顔を青あざだらけにしただろ、前。この案件が終えるまでは沢田に救急車乗ってもらっちゃ困るんだよ」
「彼が抵抗するからいけない」つまらなさそうに囁いて、骸は首を傾げる。
「今回はそんな酷くしてません。僕まで謹慎喰らうのは退屈ですからね」
二人は部屋を出た。廊下は無人だった。
「報復終わったんならかえるよ」
「報告と合流は? 僕でさえ守護者として一応の責務は果たそうと努力してるってわかってますか?」
「僕は殲滅担当だから」
骸を睨みつけて、雲雀は口角を引き締める。欠伸を耐えていた。

「だってもうすぐ出産するって言うんだよ……。お腹の子どもを助けてって言うんだよ……。オレにはそんな人を殴るなんて。流産したらどうするんだよ!」
「どうもしないだろ。マフィアにいるくせに平和欲しがることがおかしい。足洗ったらいいじゃないか」
リンゴを剥きつつ雲雀は欠伸をした。遠慮のない、堂々としたやり方だった。沢田綱吉は白いパジャマを着て、ベッドの上で不服げに眉根を寄せている。その両手、両足には手錠が嵌められベッドの支柱へと繋がれていた。
「ウチはそんなファミリーじゃないっ……。そんなボンゴレはいやだよ。ヒバリさん、変なことしてないですよねーっ?!」
「報告書届いただろ? 変なことしたのは沢田だけだよ」
「な、納得いきませえーんっ」
鎖をジャラジャラさせつつ、綱吉が顔を両手で覆う。さめざめとするのを笑い飛ばして、雲雀は小皿を差し出した。ウサギ耳のついたリンゴが並ぶ。
「食べたら? 別に僕は沢田のやったこと否定する気ないし」
「リボーンは怖いし、獄寺くんまでちょっと申し訳無さそうな顔するし、骸のヤツは思いっきり殴るし」
頬に貼り付いた湿布を抑えつつ、綱吉はリンゴを見つめる。
「ヒバリさんは、そういう顔しながらどうせいつもみたいに裏で手酷いことしてるんですよね……。オレは何も知らないワケじゃないんですよ」
「…………」椅子の上で足組みしたまま、雲雀はただ笑う。
綱吉はリンゴを咥えた。しょり、と、歯で削って少しもしない内に雲雀が椅子を前に引く。
「で。この案件終わったらデートするって話はどうなったんだい?」

 


おわり

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