転生

 



 落ちていく、その暗闇の底で誰が待っていようが構うつもりがなかった。僕は実際には足を止めてまじまじと見つめていた。少年に見えた。見覚えがある。彼は、死した僕を労うでもなく、一番に、
「お前を殺すよ。オレは」
  と言った。僕は再生への遠い道を背にして彼を覗き込む。白い法衣に白い絹を頭にまとうとは、神の僕か小鬼のような格好だ。少なくとも裁かれる側の格好ではない。
「ボンゴレ。何を? あなたの人格のまま?」
「来世でオレを庇って死ぬよ。予言してやりたくて来たんだ」
「……僕が君を庇う? それは自然だ」
  魂とはいえ久方ぶりの再会だ。思わず、優しく言ってやると、彼は不服と言いたげに眉間を寄せる。
「不自然だ。次の世では不自然なんだよ」
「僕の魂にとっては自然だ」
「そうじゃない! オレにとって不自然になるんだ」
「……おや? 次は、君と一緒に生まれ変わるんですか」
「そうだ。オレとおまえは敵になる。……おまえは、味方にもなる。オレはお前の行動が理解できずに苦悩して自殺する。そういう運命なんだ。だから頼む。オレを庇うな。オレにも好意を寄せちゃだめだ。これ以上、おまえとの繋がりを濃くしたくない……。お互いにとって不幸になるだけだ」
「…………。願ってもないんですよ。それ」
  ぽつり、呟いて、微笑んでやる。彼は可愛らしい両目をさらに可愛くする。傷ついたように見開かせる。
「楽しみだ。君が苦しむように、たっぷり、未練がましく死んでやる。君は僕に懺悔して血反吐を吐くような痛みで全身を苛まれるんだ。苦しむんだ。僕のために」
「おまえ、なんでそう可愛げに欠けるんだ?」
「女じゃあるまいし。けっこうですよ」
  軽く切り返して、背中を向けた。
  再生への道のりは長いのだから、道草を食ってはいられない。次は彼のもとに行ける――それがわかれば、尚更。


おわり

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