じゃじゃうまならし

 



「あっはは!」
常には無い無邪気な笑い声をあげて、六道骸は冷や汗を浮かべていた。ぶんっと振りあげた右腕は、肘の内側に歯形がついている。
「やられちゃいましたね」
まじまじと歯形を見、足元を見下ろす。
「うぐっ……」沢田綱吉が苦渋の面持ちで辺りを睨みつけていた。後頭部を抑える手も六道骸のもので、背中を踏みつける足も六道骸のもので、両足の膝を裏側から抑えるのも六道骸だった。一人、しゃがみ込んで綱吉の横顔を覗き込む六道骸もいる。すべては幻であり分身で、大元の六道骸は、一人でソファーにふんぞり返って、傍らに漫画を積んでいた。全てが成人向けのアダルト書籍である。
「さて……。お勉強はどこからはじめましょうかね」
くすくすと陰気に笑いつつ、六道骸は漫画のひとつを取り上げる。表紙は猫耳をつけたメイド服の少女だ。いわゆる萌えを扱った内容で、和姦を主題にしているが、
「骸。こっちのは?」
肘を噛まれた骸が口を挟む。首輪をつけた女性が、狂気に染まった笑みを浮かべて股を開いた表紙が目を引いた。六道骸はぱらぱらと漫画を捲り始める。
「へえ……。肉体の限界は超えてそうですね」
邪悪な笑みを口角に乗せる。骸は、その本を傍らの分身に手渡した。
「ページ52、再現してください。フェラから最後のスカまでばっちりね」
「…………っっ、ざけんな! ざけんなぁあああ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ沢田綱吉には笑みだけを返す。アダルト本を片手に綱吉の前まで戻ると、分身の彼は指示されたページを捲った。綱吉の鼻先へ突きつける。
「?!」女性が蕩けた笑みを浮かべて奉仕に励む。漫画ならでは、折れるほどに背中を反らせて、仰向けのままでむしゃぶりついていた。
綱吉は顔色を失った。六道骸は、分身を含めてくすくすと笑った。一人が、綱吉の額に手を当てる。流れ落ちた脂汗を、指の腹で辿って、最後に上唇に指を圧しつけた。
「大丈夫ですよ、ゆっくりならしてあげますから」
「まっ、ま。待ッ――」
最後の懇願を無視して、後ろ襟首に手がかかる。シャツの破ける音が無情に響いた。


おわり

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