ハロウィンに訪ねておいで

 

 

「ボスは、骸さまを招くの?」
 質問にツナは面食らった。獄寺隼人と三浦ハルがハロウィンだと騒ぎ出してパーティしようと言い出してリボーンが同意して、あれよあれよと言う間に、31日に集まろうと決まったばかりだ。夕方である。クローム髑髏は、悲しげに眉根を寄せ合わせてツナをじっと見上げていた。捨てられた小動物のような目をしてくる。
 しかしツナには意味がわからなかった。
「六道骸? なんで?」
「骸さまの名前が一言も出なかったから」
「だって、アイツは、マフィアの牢獄に捕まってて、水の中に」
 かつてのビジョンでは全身を鎖で縛られ筒の中に浮いていた。パーティーだからって釈放される筈がない。
 クローム髑髏は両目を潤ませた。ツナは動揺する。
「えっ? 来るの? 別に。来たって構わないけどさ?!」
「おーい! 女! はやあく!」
 城島犬が叫んだ。獄寺隼人たちとは別方向、黒曜町の方角へと帰宅する途中だ。クロームは頭を下げて、すぐさま身を翻した。
 ツナの頭には疑問符ばかりが残った。
 六道骸は来る気なのだろうか? 彼は、何かをクローム髑髏に話し掛けたんだろうか? 来たところで何をどうするっていうのだろう……。まぁ、別に、構わないけれど。そんな思考を一頻り巡らせて扉を閉めた。これが10月25日の出来事。
 10月30日、ツナは一人でスーパーに出かけていた。明日はみんなが遊びに来るので、お菓子を買っておくのだ。資金はリボーンのポケットマネーだった。いつの間にやらボンゴレ共催ハロウィンパーティーと化している模様である。
「ハァ。みんな、お祭り好きなんだから」
 大袋のお菓子を物色しながらツナはカートを押した。菓子棚は、オレンジにブラックが交差した垂れ幕でデコレートされている。
「当日、誰が来るんだろ」
 じゃあとにかくボンゴレ主催でイベントだって伝えてくる。そう言って、リボーンがどこかに消えてから数日が経った。
(やっぱり、甘くないのもいるよな。カキのタネとか、いい感じかな)
 棚を漁ったところで、横合いから声がした。
「このチョコレートは? お兄ちゃん」
「ん?」
 隣に小学生ほどの子どもが立っていた。
 黒いランドセルを背負って、ニコニコとツナを見上げている。
「ハロウィンの準備? この時期にそんなに買うってことは!」
「そうなんだよ」
 ツナはくすっとした。元気な男の子だ。
「オレの友達、イベントが好きなやつばっかだからさ」
「へえ〜。ボクもね、遊ぶのが大好き」
 ランドセルの肩ベルトを掴んで、少年はツナに笑いかける。晴やかで、愛嬌たっぷりだった。
「いいなぁ。ボクもお兄ちゃんの家にいきたいっ」
「?」一瞬、奇妙な悪寒を感じて、ツナは微笑んだままで眉根を寄せた。
「もちろん。いいよ……。うち、わかるの?」
「ううん。わからないよ」
 子どもは即答した。また悪寒が強くなって、
「君、誰?」ツナは、自分でもわからない内に質問していた。カートのグリップを強く握り締めていた。
「…………」
 小学生は、つまらなさそうに下を向いた。
「ちょっと早すぎですね」顔をあげる。ツナはぎょっとした。
「六道骸!」
「お久しぶりです。沢田綱吉」
 子どもの右目は赤く染まっていた。先ほどまでは両目が黒だったはずだが、がらりと変化して黒文字で『六』の刻印まである。六道骸の幻覚能力で隠してあったのだ。
 ツナは警戒して後退りした。カートも引いたので、カゴの中にあったお菓子が一つ、小学生の足元に落ちる。彼はそれを拾った。ハロウィン仕様の包装がなされたキャンディ袋だ。
「どいつもこいつも、人の不幸も知らないでまあ」
 子どもは心底から軽蔑するように呟いた。
 思わず、ツナも口を挟んだ。
「自業自得だろ、六道骸」
「僕を非難するんですか? 君の守護者を引き受けてあげたのに」
「それは、ありがとう。大丈夫なのか? こんなところにいて」
「全然大丈夫じゃありませんよ」
 軽い調子で応えながら、笑いをこぼした。
「礼を言わないでください。だから君は甘いんです」
「……くんっ。みーくん、どこー?」
 聞こえてきた女性の声で、六道骸は眉根をぴくりとさせた。ツナを見上げてくる。ツナは、困惑するばかりだった。
「骸。今は、その子どもに憑依してるのか」
「ええ」
「ハロウィンパーティーの話、クロームから聞いたか?」
 赤い瞳と黒い瞳がツナを凝視する。
「うちの場所、わかってるだろ。パーティーに来いよ。遊ぶのとかイベントとか大好きなんだろお前」
 先ほどの物言いを思い出してみる。
 単に演技という可能性もあったが、骸は、否定せずにオッドアイを細めるだけだ。
「クロームも、体を渡すから明日一日を楽しんでと僕に言う」
「いいんじゃないか。たまには」
「彼女はパーティーに参加させる。僕の代理としてボンゴレ内部にお披露目をしたい」
「じゃあ、別の誰かに憑依してくればいいじゃないか。少しの間でも」
 六道骸にアドバイスをするなんて変な気分。思いつつも、ツナはお菓子の大袋を手に取った。目の前の小学生が最初に薦めてきたチョコレートだ。
「これだっけ? 用意しとくよ」
「みーくん! こんなところにいたのね。アラ、お兄ちゃんに遊んでもらってたの」
 六道骸もとい、みーくんはカゴに詰まれたチョコレートの袋を見つめた。
 母親に手を取られても、軽く首を振った。
「ウン。お礼言ってくるね」低い声で告げて、ツナに駆け寄る。一瞬、ドキリとしたが、ツナは大人しくみーくんに抱きつかれることにした。
 みーくんはグイっとシャツを引っ張った。
 仕方なく、ツナは膝をついて六道骸の小言を聞くことにする。
「なんだよ?」小声だ。骸も小声だった。
「行き方がわからないというのは真実です。この体は、もう使えない。契約の傷痕が完全に治癒してしまうから」
 見れば、子どもは右手の甲に切り傷をこしらえていた。皮が被ってほとんど治る直前である。ツナはすぐに悟った。
「オレはどうすればいい?」
「ハロウィンは現実が霊界に繋がる日だ……。カボチャをくり貫いてランタンを作って、それを玄関に。夜に」
 声が段々と耳に近づく。唐突に、頬に触れるものがあってツナは驚いた。みーくんはフレンチキスだけして体を離した。
「灯りが道しるべになる」
「?!」
 ツナは目を丸くして硬直した。
「まっ。みーくんったら」
「この前、こういうお礼をテレビでやってるの見たんだ」
 小学生は上機嫌に言った。母親に手を引かれて、菓子売り場から遠ざかる。見えなくなる前にツナに一度だけ手を振った。薄く、微笑んでいる。その笑い方は六道骸じみていた。
「…………?!」キスされた頬を抑えつつ、ツナは、しばらく呆然と立ち尽くした。
 ハロウィン直前とあって、スーパーには大小様々なカボチャが用意してあった。ツナは胸で抱いて包めるほどの中くらいのカボチャを買うことにした。
(なんだか骸に来て欲しくない気もしてきたんだけど)
 記憶を辿れば、クローム髑髏にキスされたときも中身は骸だったような気がする。こういうとき、超直感は不便だ。知りたくも無いのに知ってしまう。しかしまぁ、黒歴史だと思うことにして、ツナは買い物袋を両手から下げた。カボチャを買ったせいで大分重くなった。

 

「はっぴーはろういん! おめでとうございますーっ!」
 ハルの音頭がパーティーの始まりだった。
「んー! はろうぃんばんざいっ」
 城島犬が拳を振り上げる。犬の尻尾に犬の耳、それに黒いマントをつけていた。背後には魔法使いのローブ姿で柿元千種。
「敵陣だってこと、忘れないではしゃいでよね」
「わぁってる! でもでも、タダ飯なんらぜ」
 クンクンと鼻を鳴らし、犬はグビグビやってオレンジジュースを空にした。彼らの隣でお菓子袋の開封作業に追われつつ、クローム髑髏は心配そうに時計を見上げる。ピーターパンの仮装をしていた。
 太陽が夕日に変わって沈み始めるころが、夜の始まりだ。つまりはパーティーの始まりだ。ツナは、リビングの片隅でオレンジジュースを掲げるハルを眺めていた。苦い笑みが浮かんでいる。
「ハロウィンなのに、またナマハゲなんだな……」
「ツナくんのそれ、かわいい! 吸血鬼?」
「う、うんっ」
 ツナはドキドキして傍らの笹川京子を見つめる。猫娘だ。顔にヒゲまで描いていて、きっとこのチョイスと演出は三浦ハルのセンスなんだろうと思うが、カワイイので細かいことはどうでもいい気分だ。
 頬が熱くなってきて、ツナは背中につけた黒マントで顔を隠した。そのままそそくさとリビングを後にする。廊下では獄寺隼人がタバコを吸っていた。
「あ。獄寺くん。フランケンシュタイン?」
「! じゅ、十代目。お似合いッス!」
 慌てて携帯タバコ入れにタバコを突っ込んで、煙を振り払う仕草をする。ツナはくすっとして玄関に向かった。
「いいよ。みんな、どんどん来るだろうし、扉開けておくから」
「十代目、マジで似合うッスよ」
「そ、そう?」
 衣装は沢田奈々が用意したものだ。ちなみに、奈々は魔女の衣装で料理に勤しんでいる。
 外は空が黒く染まっていた。夕日が完全に落ちた。リボーンの宣伝を受けて、知り合いが次々にやってくるだろう……。ツナの予感は命中だ。
 山本武は、寿司職人の仮装をして握り寿司と共にやってきた。
「そ、それは仮装ってか本業っていうンじゃない?!」
「お待ち〜っ。カボチャ寿司もあるぜ」
 フゥ太は頭に王冠を載せて王子の格好だった。ビアンキは、白いドレスの背中に羽根をつけて天使である。彼女はツナを押しのけ速攻でリボーンに見せびらかしにいった。そのリボーンは、レオンの仮装と称して光学迷彩スーツで全身を包んでいる。このスーツを着ると体に光が当たらなくなって不可視になるのだ。
「どこなのぉー、りぼおーん!!」
 いつの間にか手製のカボチャケーキを手に怒号をあげるビアンキである。ツナと獄寺は即座に逃げた。
「おっ」
「! ランチアさん?!」
「久しぶりだな。パーティーだって?」
 外に飛び出したのは、ちょうど、長身の狼男が玄関を叩こうとした瞬間だった。
「うわああ! お元気ですか? あれから!」
「ああ。おかげでな」口角をしならせ、狼男は頭につけた両耳を摘んだ。
「こんな格好で再会するとは思わなかったが」
「あ、あはっ。ホントだ。ランチアさん、似合ってますよ」
「おまえもな」
 ランチアが沢田家に入る。
 後に続こうとして、ツナは足を止めた。玄関脇に置いたカボチャのランタンが視界に入ったのだ。
(骸のやつ、遅いな)
 ランチアの登場は意外だったが、もう、大方の友人知人は家にやってきた。ランボは王様の格好をしてリビングでふんぞり返っていたし、イーピンはくの一の格好をしてどこかに潜んでいる。シャマルも笹川了平もいる。
 雲雀恭弥は最初から来ないとわかっている。ので、足りないのは六道骸くらいでは? ツナはランタンをそっと持ち上げた。
「まさか、見えない……のか?」
 両目と口をくり貫いてある。覗けば、中ではろうそくがユラユラしていた。
(何か間違えてるのか?)
 夕日は完全に落ちた。早く来ないと、パーティーも終わるというものだ。ツナはカボチャのランタンを塀の上に置くことにした。
 少しでも高いところにあれば、骸にも光が届くかもしれない。そして全く偶然に、ツナは仰け反った。
「うわぁああ?!」
 塀に乗せた瞬間、お化けがヌッと姿を現したのだ。
「!」お化けは沢田家に入ろうとした足を止めた。硬直する。綱吉は、ドクドクする心臓を抑えながら後退りした。
「む、骸か?」
 思っていた仮装とかなり違う。
 大分古典的なお化けだ。人間がシーツだけを被ったような姿だ。
 お化けは、手らしきものを突き出して、手招きをした。
 こくりと頷きながらである。ツナは動揺した。
「な、なんだよ……? また妙な仮装で」
 恐る恐ると歩み寄る。お化けはシーツの足元を掴むと、裾野を僅かに持ち上げた。入れという意味か。ツナは青褪める。
「脱げば?」
 お化けは頭を振る。
 なんだコイツ。お化けの頭を睨みつけるツナだが、やがて、妥協した。六道骸はよくわからないがココにくるまでかなり苦労していると思うからだ。
「変なこと企んでるんじゃないだろうな」
 毒づきつつ、中に入ってからもツナは何が起きたかわからなかった。シーツの中には誰もいなかった。
「え?」言うなれば、六道骸は透明人間だった。
「ぎゃっ、ぎゃあああああ!!」
 慌ててシーツを出ようとしたツナだが、
「待ってください。ここでないと姿が出せない」
 肩を掴まれた。実体だ。
「?!」振り返れば、六道骸は背後にいた。幽体であるからか、輪郭が薄く光る。黒いシャツに黒いスラックスの簡単な格好だった。
「なっ、ななっ、なっ」
 骸は、フゥとため息付いて、頭上のシーツをガサゴソ揺らして見せた。
「時間がなくてこれしか用意できませんでした」
「お前っ、今っっ。幽霊なのか?」
「幽体離脱ってやつですよ。包帯男にしようとしたら、まぁ、都合よくそこらへんに包帯は転がっていなかったっていう」
 じゃあそのシーツは都合よく拾ったものか! と、ツッコミしかけて、ツナは心底から青ざめた。シーツの中で骸とピッタリくっついてるこの状況、つまりは、幽霊とピッタリくっついて……。
「うっ、ぎゃあああっっ」
 逃げ出そうとするツナの肩を抑えて、骸は冷たく目を細めた。
「待ちなさい。このまま行きますが、正体をバラさないでくださいね。このシーツを捲ってもらっちゃ困る」
「っ、お、お前の仲間にも言わない気か?」
「気が付いたらその時ですが、まあ、言いませんね。夢の移動ならまだしも幽体離脱となるとハロウィンの魔力を拝借しても少々苦しい。ボンゴレ十代目なら、元から直感が強いので、こうして姿が見えるわけですが」
「オレ以外には見えないのか?」
 骸は頷いた。綱吉はくらりとしてよろめいた。心霊現象が目の前にあるのだから無理は無かった。
「じゃあ、そういうことですから……」
 六道骸がスーツの裾野を掴む。出て行っていい、という意味だ。だが今度はツナの意思で出て行かない。骸が奇妙そうに見上げてきた。
「お前、どっかしらで不幸になるっていう運命を背負ってるんだな」
 オッドアイがやはり君は奇妙だと告げてくる。が、ツナは同情の眼差しを向けたままで黙った。骸がうめく。
「自業自得なんでしょ。否定しませんよ」
 ツナは鳥肌が立っていることに気が付いた。シーツの中が異様に寒いのだと気付く。外に出れば、秋風が暖かく感じるほどだった。
 シーツのお化けはツナの後をついてきた。ツナは、玄関に入りかけたままで足を止める。今更に後悔したのだった。
「骸。明日からいいことでもしたらいいんじゃないか」
 お化けは玄関口に立ったまま硬直する。シーツの中に入らなければ会話すらできないのだとツナも気が付いた。
(……あ……)
 さらに、もう一つ、気が付く。
「すぐ戻るっ。ここで待ってて!」
 一度、リビングに行ってから、ツナは右手を拳にして戻ってきた。ヒョイとシーツに入れば六道骸は不機嫌な顔をしていた。
「平和主義みたいな考え方、対極にありますからね。言っときますけど」
「根本的にそこを直せばいいじゃんって言ってるんだよオレは」
「それはいやです」
「お、お前なぁ……。まあいいや。はい」
 右手を突き出して開いてみせる。
 骸が小さくうめいた。むぅ、と、捻りだしたような声だった。不用意に漏れたとも言える。
 ツナの手にあるのはチョコレートだ。骸が、みーくんと呼ばれた子どもに憑依していたあいだにせがんだお菓子である。
「シーツ、被ってたら食べれないだろ。ハロウィンなのに」
 骸は、指でチョコの包みを摘んだ。
 顔の前まであげて、じろじろと眺めて同じ目つきでツナを見る。あまり楽しい気分ではない様子だ。
「トリックオアトリート?」
 やがて、唇だけでぽそりと呟く。
 ツナは白歯を見せて笑った。
「お菓子、やっただろ」
「ほう。これしきで僕が満足するとでも?」
「?!」冷えた声に息を呑み込む。六道骸は、投げやりで曖昧な笑みを称えて頭を低くした。ツナと目線を合わせて、からかい混じりに囁きかける。
「……お菓子をくれなきゃいたずらしますよ」
「うわっ、ちょっと!」
 腰を触られて、ツナが背中を仰け反らせる。骸は気が付いたというように目を丸めた。
「細いですね」
「ひっ? っ、や、やらしい触り方すんな!」
 もがくのもモノともせず、六道骸は薄く笑みながらツナを捻じ伏せた。シーツ越しでも自分が壁に押し付けられたとわかってツナが動揺する。
「いやなんですよね」骸が独りごとのように呟いた。
「君とは接触しなくちゃならないのですが、本当なら、一番近づきたくないタイプなんですよ。君は甘すぎる。チョコみたいだ」
「っ?!」背中に冷たい体が密着する。
「僕……は、チョコは好きですよ」
「はっ? あ?! まっ、待てええ!!」
 ツナはビクリとして背筋を反らせた。膝ががくがくと震える。相手が霊体だと今更ながらに痛感した。マントもシャツも突き抜けて、水のように冷たい指先が地肌に直接触れたのだ。
「うあっ、んっ」指先で、背中に真っ直ぐな線が引かれると悲鳴が漏れる。ぞわぞわして堪らない気持ちになった。と、
「十代目ェエエエエ?!!」
 絶叫がこだました。骸が体を離す。
 となると、シーツが後退りするので、壁にもたれてずるずるしゃがみ込むツナだけが残った。
 フランケンシュタイン獄寺は、メイク以上に真っ青な顔をして、ツナとシーツのお化けを見比べた。
「誰だテメェエエエ!!!」
「あ、あああ、獄寺くんっ。ダイナマイトはダメ!!」
 慌てて制止するが、獄寺隼人は納得がいかんとばかりにお化けに噛み付いた。
「ツラ出せ! 十代目に何しよーとしてた今?!」
「か、顔はそのっ。ねえ?!」
 窮してツナも思わずお化けを振り返る。
 しかしお化けは無情だった。肩を竦めて、知らないとばかりにジェスチャーするとさっさとリビングに向かってしまう。
「こ、この薄情者―っっ!!」
 獄寺はしつこくツナから相手の名前を聞き出そうとした。

 

 そして翌日。家に泊まりこんだ数人の仲間と共に、昨日の片づけをしていてツナは気が付くのだった。玄関に空になったチョコの包み紙が落ちていた。六道骸に渡したものとは違うチョコレートだ……。いつの間にか、他のお菓子に手を出していたとは驚きだが、
(ありべでるち――、だったっけ)
 包装紙の裏側には、赤色のペンで、Aから始まる筆記体が殴り書きしてあった。骸の置手紙に間違いない。

 


おわり




>>もどる