観光
お花畑でお花を摘む。一昔前の少女漫画か子ども番組かでよくある光景だが、真実として一体どれほどの人が花畑に来たときに花を摘むのか? 六道骸は応えた。
「焼き払えば同じですよ。やってみてください」
ボンゴレ十代目は首を振る。顔色が青い。
「花が可哀想だろ」
「あ、花を摘むなというヤツは大概そういいますよ。偽善的ですね」
言いつつ、骸はコスモスの密集地にずかずか上がりこむ。ローファーで踏みつけられて華奢な花弁が飛び散った。真っ二つに首を折るコスモスもある。ボンゴレは、何も言う気になれずに俯いた。人は多い。六道骸が特別に無作法というわけではなく、庭園が観光地として開放されているのだが、
(何だアイツ、オレをねちねちいびる為にココに決めたのか?)
怨めしい思いで、ボンゴレは眉根を寄せる。 骸は振り返りもせずにさっさと丘の上を目指していた。
家族連れやら恋人連れやらが行き来を繰り返す。地元に人気があるようで、犬を連れた女性もいる。彼ら彼女らの囁きを背中にしてボンゴレ十代目も花畑を踏み出した。
「骸っ。ふざける気はないんだぞ。金を寄越せーっ!」
「不粋極まりない発言ですね」
追いついての互いの第一声だ。丘上で片手を腰に当てて六道骸はふんぞり返る。勝者の眼差しで辺りを眺めた。
「デートが終わったらって言ったでしょう。あそこの門を出るまでは渡せません」
「元々はボンゴレの金だからオレのだろっ」
「で、も、今の名義人はボク♪」
ぶりっ子のように肘を腹にくっつけて自分の頬を抑えてみせる。乙女じみてて語尾上げしたのと相成ってボンゴレの背筋に雷が落ちた。ビリビリッとして、目眩がする。
「ひっ……、ひいいい!!」
「ドン引きですか? 冗談ですよ」
逃げたのを指で引っ立てて捕獲する。後ろ襟首を掴まれてジタバタするボンゴレに向け、六道骸は舌を出した。
「演技でもそういう演技をすること自体がドン引きなんだよっ! きもっ! きしょいことすんな目が腐るっ!」
「ここ、いい場所でしょう? 君は花が好きと聞きましたが」
「ん?! すっ……好きっていうか」
間近で見せられた他人の舌にボンゴレが怖気づく。ブラウンの瞳は怯えていた。コートの前で両手を結んで、気後れしながら、
「京子ちゃんが教えてくれるから」
「あ、お昼の時間ですね」
骸はボンゴレの額を押しのけた。舌も引っ込める。
「イッテエ!」
尻餅をついて苦悶する。肉体的な痛みというより精神的な苦痛が募ってのものだ。くねくねと身を捩じらせ、がばりっと跳ね起き、骸の前へ立ちはだかる。
「六道骸っ。不当な要求もオレへの過剰なイヤガラセもどうにかしろっ。迷惑してるんだ!」
「……僕もですよ」
骸は目を細める。ため息をついた。鼻頭についたゴミを吹き飛ばすように、フゥ、とした気障ったらしいやり方だった。
「迷惑してます。何をやっても眼中に入れてくれない」
「アンタの奇行は目に入りすぎてイテーんだぞ?!」
怒ったままで骸の腕を取る。六道骸は、つんとそっぽを向いた。
「そちらには行きません。こっち。昼食を食べる場所は決めてますから」
「ええ? そうなの?」
ポッケからガイドブックを出したまま、ボンゴレ十代目が眉を寄せる。骸は頷いた。ボンゴレと同じく眉間に皺が寄る。
(半年前からココに目をつけてたとか教えたらどうすんだ? タチの悪い冗談だとでも思うんですかね……)
パチッと瞬きするとオッドアイは涼しげに流れて一面の花畑を捉えた。
薄く笑んでボンゴレの腕を掴み返す。
「きてください。まだ迷惑かけたいんですか?」
「な、なんだよ。どこの店だ? ちょっと……、コラーッ! 一人で遊びに来てンじゃないってわかってるのかよ骸!」
「この状況下でひとりで来てるなんて考えてるって有り得ると思うんですか? 本気で? 頭のおかしい子ですね」
「ぶっふぅぐ! モノの例えだよ?!」
「ンなこたぁわかってますよ」
「うぐあぎあうあーっ!!」
「からかっただけです」ボンゴレが頭を抱え悶絶するのを置いて骸は道を戻る。彼は晴やかに声を弾ませ自らの胸を撫でた。
「まったくねえ。迷惑かけてるんですから少しは報復を受けてもらわないと」
「……ほっ、報復って言った?!」
愕然と、ボンゴレ。
六道骸は丘を降りた。隣に追いつきながらボンゴレ十代目は質問を繰り返す。信じられないように口角を引き攣らせていた。
「か、帰らせてくれっ。これ以上アンタと一緒にいたらどんな目に合わせられるかっ」
「どんな目にあいたいんですか?」
「誰が注文をつけるって言ったよ?!」
「おや、つけていいですよ。面白そうなら従ってあげますから」
「アンタにとっておもろいモンはオレにとって不幸だっちゅに!」
ボンゴレは歯噛みする。どう見ても骸が聞き流しているからだが、不意に気がついてみれば彼はコスモスを避けて歩いていた。ローファーに擦れて花がゆらゆらしている。
「……わけわからんヤツだな!」
「? 綱吉くんでしょう。それは」
タイル製の舗道を歩くころ、奇妙な顔をして互いを見た。
おわり
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