地獄行き
コンクリートに落ちた雨雫は悲しい。土に還るでもなく川に混ざるでもなく下水に堕ちる。びしょ濡れになったスニーカーを眺めながら打たれていた。
背中を打つ雨粒は、服を裂いて皮膚にめり込み体内に浸透する。
無数のつぶてを浴びるようなもので、打たれる痛みに堪えて目を開けた。
その少年は雨の中でも肩を張っていた。醒めた目の色を隠さず、臆さず、睨む。
痛みを堪える。つらい。歯噛みしたが雨は止まない。背中が打たれて打たれて冷たくなる。
視線が交差すること数分、語りだすまでに数分、彼が歩みだすまでに数分。彼が、六道骸が、語るところを掻い摘むとこうだった。
(君を愛する心は真実にある。闇の中にあるということです。僕は博愛主義なんですよ。移り行くことを主命とするこの世のもの全てを愛し、愛しすぎず、愛する。君は? 君は、きっと僕と同じだと思う。嫌そうな目をしてもだめだ。僕は、君が、好きだからだから殺したいと思うんだ。君がこれ以上最も醜い連中に汚されるのを見たくない。大丈夫、地獄で、また会えるから。驚くことはない。君は地獄行きだ。人殺しだろう)
語り終えてから十分ほどの沈黙を挟んで、応えた。
「殺してくれていいよ。でもオマエは勘違いしてる。俺は、まだ誰も殺してない」
「…………!」
「全部、獄寺くんが代わってくれた。ボスになってからもずっとそうだ。獄寺くんは俺に忠実だ。そいで俺を下手に神聖視してて――アイツは昔からそうだったけど、そいで、絶対に手を染めようとさせない。過保護なんだ。俺は直接に人を殺めたこともその命令をしたこともない」
真実を聞いて、六道骸が目を丸める。
――間を挟んでの選択は生かすことだった。雨の中を去る背中。それを見つめる。この雨が真実も彼も自分も全て溶かして、消してしまえば、
「変わるのかな?」
(いやだな、鬱か、オレは)
ボンゴレ十代目は、ずぶ濡れのシャツを正して踵を返した。
これでしばらく幽鬼のように付き纏っていた六道骸も姿を現さないだろう。
おわり
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