六道骸が顔をあげた。反応を確かめようとしている。それがハッキリとわかったが、綱吉は怒ることも嘆くことも出来ないでいた。
ワケがわからなかったからだ。徹底的に。
「ちょっと……。実名報道とか駄目だろ」
「怪談話に過ぎませんよ。怖かった?」
「待てよ。ヒトの名前を勝手に……っ、しかも殺されてるじゃん! 最悪な気分になるだろーがっ」
「最悪な気分で?」
「当たり前だ!」
綱吉は腹を抑えた。そこでハッとする。
奇妙な冷えが腹の底にあった。アイスのために冷たくなったのだ。だが、コタツに入った両足から、上半身に向かって人工的な温もりが競ってくる。
「どうしたんですか。顔色を変えて。そんなに気持ち悪かったんですか? 綱吉さん、しっかりしてください」
「?! しっかり……してる。大丈夫だよ」
「まさか、そんなに嫌いだとは知りませんでした」
骸はアイスカップを置いた。空だ。オッドアイは、容量を半分ほど残したカップを残した。反射的に、綱吉はアイスカップを握りしめていた。
「怖がりなんですね。それとも臆病風に吹かれました? 震えているのは僕の話が怖いからでしょう」
「骸……クン。やめてよ。からかうな」
微かな目眩を覚えてカップを置いた。
「もう食べないんですか?」
「うん、ちょっとお腹下しそう」
確かに体が震えていた。それどころか怖気を感じて、綱吉は庭かな混乱状態に陥っていた。何が起きているのか、理解できない。それが混乱の原因だ。
異様に高まった心拍を意識して深呼吸をついた。骸はコタツの連結式のスイッチを手にした。
「もっと暖かくしましょう。アイスで、体、冷えちゃったんですよ。……ところで」
温度調整を最高にまで高めて、骸はコタツに身を寄せた。その両腕までもコタツの中に入れる。
綱吉は眉根を寄せた。
コタツ越しに身を乗り出されたからだ。
「僕は、人間の姿をして人間ですけれど超常的なところがありまして。ここではない別の世界に連絡を取ることも可能です」
「骸クン、それも怪談?!」
嫌気を含めて綱吉が叫ぶ。骸は、ただ目を細めた。
「さあて、今までの話。全部がウソでしょうか?」
「何言ってんだ……。怪談だろ。お前の作り話。それも相当、悪趣味なヤツ」
「くは……。どうして、そう言えるんですか?」
「常識――」
と、言葉を完全に言い切る前に絶句した。
その刹那、視界が歪んだ気がした。ここにいるのは沢田綱吉と六道骸だけではなかった。六道骸の友人たちがいるが、その二人が、一瞬だけ揺らいで見えた。
彼らと入れ替わりに見えたものは氷だった。ヒトの形すらしていない、巨大な氷の塊だ。コタツの下にあるはずの両足が痺れるくらいに緊張した。
「…………っっ?!」
弾けたように身が仰け反った。
咄嗟にコタツから出ようとしたが、痺れた足が何かに抑えられた。骸の手が、足首を掴んでいた。
「どうしたんですか?」
オッドアイの少年は訝しげに目を丸める。
「あっ」足首に冷たい体温を感じて驚いたが、しかし、綱吉はあったであろう二の句を告げはしなかった。喉に競り上がったのは疑問だ。
「あれっ?」
骸をまじまじと見つめた。
「お前、本当に俺のいとこだっけ」
骸がさらに目を丸くする。数秒の経過で、綱吉はとんちんかんな発言をしたのだと気が付いた。いや、ゴメン――、謝罪をうめいた。だが、またも終いまで言えなかった。
六道骸はゆっくりと唇の両端を上げたからだ。
息を呑んだのと身を引いたのが同時だった。しかし動けない。足首を掴まれていたことを思い出した。いつの間にか両足とも掴まれている。
「骸クン、冗談……だよ。怒ったか?」
微笑を浮かべたまま骸が手に力を入れた。
コタツのヒーターに熱せられていることが服越しにもわかる。
「あ。あ、熱いっ……っての……」骸はクスクスとした。
下半身から立ち昇る灼熱と、腹の底にある冷気。苦悶の呻き声をたてていた。自分の体に何かが起きたような錯覚を抱く。綱吉が、よろめきながら床に手をついた。
がんじがらめの思考を断ち切るように、ピシャリと声が聞こえた。
「最後の怪談、しましょうか」
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