*ちょろーっと放った小話やら小ネタやらを収納してる箱です。何でもアリです。


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1つ目:孤独のメロディ  →ヒバツナ
2つ目:野の花 →ヒバリ→ツナな感じ
3つ目: →ヒバツナ
4つ目:引鉄の重み →ヒバツナでパラレル でも中途半端
5つ目:君をご所望だ →ヒバリ+ツナな感じに  >>UP!













孤独のメロディ


「僕に命令しないでくれる」
  乱戦を終えるとヒバリは真っ先に告げた。
  彼に手を貸そうとしたままの体勢で沢田綱吉は硬直する。太陽が砂浜を照らしていた。ヒバリは、海からあがると腰に手をあてた。海パン一丁の姿だ。
「理由は沢田が僕より弱いから。肉体的にもメンタル的にも」
「ひ、ひばりさん……。オレは命令してるつもりなんて」
「へえ? 僕に声をかけるって、そういうことじゃないの? いかないよ。君達と群れる義理はないし、食事なんて一人で食べた方がおいしい」
  思ってもみない言葉に綱吉が呆気にとられる。ヒバリは、彼の手からタオルを引っ手繰ると踵を返した。慌てて、パーカーを羽織いなおして後を追う。綱吉は冷や汗を浮かべていた。
「そんなこと言わないでくださいよ。ご飯くらい……いいじゃないですか」
「君がイヤな原因はあれだろ? ホラ、そこの集団」
  ヒバリは後ろを顎でしゃくった。
  リボーンがイラついた様子で歯軋りしていた。その傍らには、つんとそっぽを向いた骸。骸の周囲には複数のクレーターができていて、獄寺隼人がその一つのなかで倒れこんでいた。
「…………。ご飯はみんなで食べた方がおいしいですよ」
「ちがうね。一人のがおいしい」
  一人、離れた場所に荷物を置いてある。ヒバリは自分のリュックサックを取り上げ、岩場へと向かう。両手を岩について、登って行かないといけないような道だった。ヒバリは迷うことなく進んでいく。チラ、と、綱吉の茶色い瞳は海の家を振り返った。
「くはははははははは。僕にケンカを売るんですか、アルコバレーノ」
「骸……。オレでも堪忍袋の緒が切れることはあるんだぜ」
「リボーン。うれしいわ。アタシの愛妻弁当のために……!!」
  ビアンキが両手を結んで目をきらきらさせている。彼女の足元には無数の弁当が散らばっていた。リボーンは、母さんが作った弁当がひっくり返されたから怒ってるんだよ……。胸中だけで囁きつつ、綱吉は、ゲッソリした面持ちで腹を抑えた。なんとか、自分の分の弁当だけは死守してある。
「待ってくださいよ――、ヒバリさん!」
 ヒバリは、岩を攀じ登ってすぐの場所で腕組みをしていた。綱吉が右手から下げる弁当箱のつつみを見つめ、砂浜で殺気を撒き散らす一団を見つめる。
「君が僕についてくるのは、アイツらに対抗できそうなのが僕だから。ちがう?」
「い、いいじゃないですか細かいことなんて気にしないで! アッ、群れてないですよ?! オレはただヒバリさんの後をおっかけてるだけで……ご飯食べたいだけです!」
「断わる」
 ずんずんと先に進む。
  ヒバリは四つほど岩を乗り越えた。五つ目を越えたところで、丁度よい開けた場所を見つける。陽射を遮るように、林から枝葉が伸びていて、眼前には波打ち際があって絶好のポイントだ。枝葉の下を陣取って、弁当を広げてから、ふとヒバリは思い出した。沢田綱吉がいない。
  ……まあ、体力なさそうだ。途中で力尽きたんだろう。
 軽く流して、ヒバリは両手を合わせた。
「いただきます」
  弁当は、沢田奈々が作ったものだ。ヒバリは彼女はそれほど苦手ではない。母親のような人間だからだ、ヒバリにはどこか新鮮に感じられる人種だった。
 黙々と食事をつづけ、水筒の中身が半分になったころ。岩の上から、人影が転げ落ちてきた。
「うぎゃ――!」
「沢田?」
 傷だらけの少年が砂浜でもんどりを打つ。
「か、カニに足挟まれたっ。カニっ!」
「何やってんの……」
  右足を庇いつつ、綱吉は、ギクリとした顔でヒバリを見上げた。ヒバリは黒目を細くさせる。沢田綱吉は、パーカーのところどころに穴を開けて、鼻頭にまで引っ掻き傷をこしらえていた。両目はうるうると滲んでいる。
「無理ならこなきゃいいのに」
  ぼそり、と、ヒバリがうめく。
  綱吉はあからさまに傷ついたような顔をした。
「そ、そんな。だって……。帰り道わかんなくなっちゃったし」
「食べ終わっちゃったよ」
 空になった弁当箱を綱吉へと向ける。綱吉は肩を落とした。
「はァ……。わかりました」黒目はジッと綱吉の後頭部を見つめた。すごすごと、岩を攀じ登って戻るつもりだ。綱吉なりの気遣いであることは、ヒバリにもわかる。一人にさせてくれようというのだろう。
「待ちなよ」
  深く考える前に、ヒバリは声をかけた。
「僕しばらくここにいるから。隣で勝手に昼飯食べるくらいだったら、別にいいんじゃないの。群れるわけじゃないし。僕はここで休んでるだけだし」
  ぽかん、と、少年は口をまるくする。
「沢田は、ここで食べてるだけだろ? 勝手にしたら」
「――――! は、はいっ!」
  喜色満面で駆けもどってきた。
  ほぼ同時期に、岩を挟んだ反対側の砂浜から爆発音がひびいた。
「……フン。意外と話が通じそうじゃないか、沢田綱吉」頬杖をつきつつ、ヒバリは遠くから立ちのぼる黒煙を見つめる。独りごとに、綱吉は不思議そうに目を丸めた。




おわり





野の花


 一つだけ、愛した記憶がある。
 少年たちが身を合わせるのを眺めながら、彼は唐突にそれを思いだした。
 既に死別した両親が、一度だけ郊外へと連れ出してくれた。草原が広がり、自転車を走らせる親子やキャッチボールにいそしむ親子がいた。はるかに早い反抗期を迎えていたこともあって、幼い彼は、両親から逃げ出した。右へ左へと、好きに歩き回ったはてに見つけたのが野の花だった。
 白い花弁が三枚、不揃いについていた。根元には赤茶けた大地がある。そこだけ草原がハゲている。種が舞い降りた場所が不運だったのだろうと、バカなやつだと思いながら歩み寄った。
 すぐ足元で風に吹かれていた。
 だんだんと凶暴な衝動が沸き上がるのを感じた。
 踏み潰してやろうか。引っこ抜いてやろうか。この小さな植物は、地面に縫い付けられていて逃げることもできないし叫ぶこともできない。花弁のひとつを乱暴に摘み上げた。
 親指と人差し指で挟んで、太陽に透かしながらにやりとした。
 ばらばらに、してやる。決心して、膝を曲げた。
 二枚目の花弁をもぎ取り、執拗に指先で捏ねまわしながら、三枚目へと手を伸ばした。そこで、幼い彼が悲鳴をあげる。指の腹に、赤い線がまっすぐと走っていた。
 呆然と自らの小さな傷口を見て、花を見た。
 脆弱て弱く、ちいさい。しかし。たった今、幼い彼に傷をつけた。
 花弁が縦になって、ビイッと肌を割り開いたのだ。
「おまえ……」混乱しながら呟いたが、何を言いたいのかは、自分だってわかっていない。口の中で何度か囁いて、うめいて、自らで千切り取った花弁を見下ろした。惨めに地面に落ちている。
 ふっと思いついて、花弁の中央を覗き込んだ。まだオシベもメシベもある。メシベには点点とした黄色い粉がある。爪先でつついて、鼻へと持っていった。ツンと鼻腔を刺すような、強烈な香り。花粉だ。
(弱いくせに)(僕を噛むのか)
「……ひとりきりのくせに」
 楯突いたところで、援護をするものは誰もいないのだ。
 花は、たったひとつだけで他と離れたところに咲いている。
 一人で立ち向かうようなものだと思えた。幼い彼の口角が上がる。バカにしてやろうとしたはずが、言葉がでなかった。長々とした沈黙の果てに、一言だけ告げた。
「きみみたいなのが好きだよ」
 少しだけ似ていると感じた。
 大分違うけれど、少しだけ、ほんの少しだけ似ている。
 それがいいのだ。幼い彼は何度か花弁を撫でた。最後に残った一枚だ。ほとんど口の中で、しかし微かに喉を震わせて短く謝罪を呟いた。物心がついてから、初めて、何かに対する謝罪をした。
 つ、と、花弁とオシベとメシベと、順番に口づけて、幼い彼の旅行は終わったのだ。両親は、とっくに日が暮れたというのに、辛抱強く息子の帰りを待ちつづけていた。戻ってくると信じたのだ。
 幼い彼は、拳を固めて彼らへと駆け寄った。後に彼は自覚する。
(あれが僕の反抗期の終わりだった)
(何かに。誰かに、僕を傷つけて欲しかった)
(殴ってすまなかったと、後悔させてくれる相手に出会いたかった。自分が『普通』でいられることの証が欲しかった。両親はあれほど静かで温和だというのに、僕だけがケモノのような衝動に身をやつしているのか惨めに思えてたまらなかった。僕は強いし、カンもいいけど、みんなと同じ――少しは、普通の人と同じ感覚があるのだと思いたかった)
(幼いころには辛かった。僕は違う、もっと凶暴なひとの子供なのじゃないかと)
 けれど、あのときに彼は情動が動くのを感じたのだ。対象はヒトではなかったが、しかしそれは些細な違いだ。雲雀恭弥は目を閉じる。
 数十メートルも離れたところでは、並盛の生徒たちが勝利の喜びに手を取り合っていた。
 円陣の中心にひとりの少年がいた。大きな丸目にブラウンヘアの彼は、名を沢田綱吉という。
 ざわりとするものがある。彼に笑いかけるヒトたちも、それに応える沢田綱吉も雲雀には許しがたいものがある。自制のように繰り返し呟いていた。ひっそり、一人きりで。
(愛した記憶は一つでいい。一つだけでいい。一つだけ)
 それより多くは、いらない。弱みになりかねない。
 沢田綱吉から視線を外せないままに、雲雀は大きく頷いた。


おわり








「間違えちゃったかな……」
 呟いて、少年は自らの指先をペロリとした。
 生ぬるい、喉の奥を抜けて鼻腔を刺す香り、ツンとした痛みが脳髄に侵入する。この瞬間、ぞくりとする。僅かな身震いを自覚しながら、雲雀恭弥は両手を伸ばした。
「うごけないの? うごかないの? どっちかな、救急車を呼ぶ都合があるけど。聞いてるの? 聞こえてるなら、動いてよ」
 気だるげに呟き、ソファーにたてかけていたシャツを引き寄せる。袖を通すと、ボタンをつけた。ベストまでを着込んで、最後に、風紀委員の腕章がついたガクランを肩にかけてヒバリは少年の頭に靴底を押し付けた。
「業務の邪魔。動くか動かないか、ハッキリして頂戴」
「……ヒバリさんは……」
 ヒバリの目の前には、ひとりの少年が横たわっていた。日焼けのあとがない雪肌を晒して、おざなり程度に上半身にシャツをまといつかせている。破られた痕があった。少年の腹部と頬には殴られた痕跡が複数認められる。
 風紀委員の雲雀恭弥は、その獰猛さで名の知られた存在だ。女、子ども、老人、弱者だろうが権力者だろうか対象は選ばず気に入らない相手には容赦をしない。そして彼に気に入られる方法は、実は、確認されていない。
「俺のこと嫌いなんですか……」
「君は、スキだったらこういうことすると思うの?」
「思……わない。だ、だから、聞いてる」
 少年が涙声で訴える。上半身を起こしたが、猫背になって肩を痙攣のように震わせていた。
「どーして、こんなこと。り、リボーンが黙ってないですよ……」
「赤ん坊ね。別に? 僕は赤ん坊の顔色うかがって生きてるわけじゃないけど」
 少年は両目を見開いた。次に、頬を赤くしてそっぽを向く。引き摺り下ろされたズボンを床から毟り取ると、ヒバリと距離をとった。ヒバリは、薄くため息をついて衣を調えた少年を見つめた。
「初めてなんだ?」
「あっ……」
 弾かれたように少年が振り向いた。
 口を丸くする。そのまま、ぱくぱくとさせた末に、消え入りそうな声でうめいた。
「……ったりまえ……じゃないか」
「イタリアは男色が多いと聞くけど。赤ん坊は何も教えないの? ……それって大事にされてるか、どうでもよく思われてるかのどっちかだよね」
 自らの膝の上に肘をたて、頬杖にして、ヒバリ。少年は目尻を吊り上げた。
「オレは……あんたがこんなヒトだなんて思わなかった! あ、憧れてたのにっ」
「…………」
 ゴシゴシと口元を拭う少年を見つめ、彼が出て行こうとするのを見送りつつ、ヒバリは自らの足元を見た。
「沢田は少し変わったね。草食動物だけど、それは変わらないけど、でも今の君は肉でも消化できそうだ。ねえ、またきなよ。一緒に寝てあげるよ、次は」
「……やめてください! オレはそんなこというヒバリさんいやだ!」
「そう? 僕も、あんまりガラじゃないと思う」
 ヒバリが綱吉を振り返る。鬱蒼とした微笑みが口角を彩り、それは、一種背徳的な魅力を少年に与えていた。夜に沈んだはずの太陽が、ヒバリの背後から差し込んだようだ――少年の目尻から、涙がこぼれた。
「やめてよ。オレの中のヒバリさんは汚れたんだ。なのに、そんな顔して見ないで。純粋な――、欲望とか性欲とかそんなもの何も苦にしてないって顔しないで! うそつきだよ、ヒバリさんフツーじゃないか! フツーに……っ、あんたなんかに憧れてたんじゃない!」
「それは綱吉の勝手なイメージだよ。僕はお風呂に入らなかったら臭くなるし排泄もするし。沢田はそんな超人みたいな人間像を僕に求めてたの? 最近、……よく懐いてくると思ったけど。バカだね。思うにさ、君は僕を隠れみのにしたかったんだろ? どんどん変わっていく自分……、ちがう、変わってく周囲に合わせることがつらくて。変わらないように見える僕に縋ろうとしてるんだ」
 下唇を噛みしめて、少年はヒバリを睨んだ。
 太陽なんてない。もう、夜。それも深夜が近い。ヒバリを照らしだす光は、月光だ。美しくなんかない、言い聞かせて拳を握る。
「ボスって呼んでください。ヒバリさん、オレも、もうあんたをサン付けで呼ばない……」
「わお? 大きくでるね」
「嫌じゃないでしょう」
「うん、嫌じゃないよ。沢田に従ってあげる」
 唄うようにヒバリは言う。そして、首を傾げて微笑んだ。
 月明かりが淡く照らした輪郭が、白い。雲雀恭弥という人間はそれほど華奢ではない。荒くれものの集う風紀委員の頂点に立ち、イタリアンマフィアの手練とも張り合う実力がある。節くれ立った指先は、白く縁取られていた。ヒバリはツンと自らの下唇をつつく。
「やめて、ヒバリ。……恭弥!」
「それじゃ、沢田も他のヤツにも僕が変わるのがハッキリ見て取れるんだね……。そういうことになるだろ?」
 少年の茶色い瞳が、傷ついたような色をした。意表を突かれた、というよりも、目の前のヒバリに裏切られたといった顔だ。
「沢田は優柔不断なんだよ……」
 からかうように囁いて、人差し指で唇にクリームを塗りこめるような動作をした。
「血。取れてないよ。ボス」


おわり





引鉄の重み



  ああ、人を簡単に殺せるヤツってどこにもでもいるんだな。
 それが第一印象だった。断末魔を聞いてもヒバリは動揺しない。彼自身、暴力を好んだしそうした場面に立ち会うことも多かった。
 旅のための分厚いマントを頭に被せなおして、ヒバリはその街道から道を反れようとした。厄介ごとにはかかわりたくない――、だが、彼は振り返った。
 彼は、泣きながら死人の懐を漁っていた。
「…………。何してるの?」
 気を取り直して街道を進む。
 さも、今通りがかりましたという態度でヒバリは足元の少年を見下ろした。彼は両目からぼろぼろと涙をこぼした。
「ほんとに死んじゃった。どうしたらいいんですかオレは。これ、使うと、みんなあっという間に死んじゃう。どうしよう。どうしたら」
 混乱に淀んだ瞳には早くも正気の色がない。ヒバリは冷然と少年を見下ろした。十五歳くらいなら、同じ年ごろだ。旅をするにしては軽装だったが、彼が手にした鈍色の物体に眉根を寄せる。不釣合いで、不気味なシロモノだ。
「それは何? 君の右手にあるもの」
「これ……おじいちゃんが死ぬまで開発してたモノ」
 いっそ病的なほどに少年が両目を見開かせた。バッ! と、異常な速さで身を翻して銃口をヒバリへと突きつける。だが、異常に素早いのはヒバリも同じだ。ヒバリは両目を鳥がするようにぎょろりとさせた。
「何の真似かな」
「これ使うとみんな死んじゃう!」
「僕まで殺そうって? へえ。いい度胸――」
「でもこれおじいちゃんがオレに残してくれたたった一つのモノだ。オレはこれを持ちつづける。オレから奪うのは許さない!」
「?」錯乱してる? 胸中で呟いて、ヒバリは両腕を広げた。マントがはためくと同時に、ヒバリは綱吉の背後にたっていた。鳥としての本性を晒せば、ヒバリは風と同じスピードで動ける。背中から風が生える格好になるので、服が破けるのが悩みどころだ。
「あうっ――」
 手刀で気絶させると、ヒバリは倒れた少年をまじまじと見つめた。その手から、大事そうにしていた鈍色の塊を取り上げる。
『これ使うとあっという間に死んじゃう!』
 その言葉を思い出して、ヒバリは街道に伏した死体へと銃口を向けた。手当たり次第に引っかかるようなものを探ってみる。――と、指が嵌まるような穴をみつけた。指を通して、内側に引いてみた。
 バアン!! 死体が跳ねる。ヒバリは目を丸くして、鈍色の塊を見つめた。
「……わお」もう一度、死体に銃口を向ける。
「軽い。このつまみ、これだけ軽いのに一発で殺せちゃうんだ?」
 バアン、バアン、立て続けに射撃した。中から何かが猛スピードで飛び出して死体を抉っていることはわかった――、ヒバリは、弾がでなくなると鈍色の塊をふところにしまった。また少年を見下ろす。
 この技術、使えるかもしれない。まあ、ヒバリは人殺しをするつもりはなかったが――、興味がでた。両手を地だらけにしてぐったりとする彼の、首根っこを掴むと街道を進みだした。まだ名前も知らないが、この少年、面白そうだ。ヒバリはくすりと唇で笑って夜空を見上げた。


おわり




君をご所望だ!

「はい、これ着て」
 手渡されたものは見た事のない制服だった。
 雲雀恭弥は平然として告げる。
「黒曜中の制服だよ。いいから着て」
「…………なんで?」
 下校途中、一人になった瞬間に彼に声をかけられた。沢田綱吉は警戒を露わにして後退る。恭弥は機嫌を損ねたようにフンと鼻を鳴らし、少年の手首を掴んだ。
「ここで脱いで。着て。そしたら行く」
「な、なんでですか?! ヒバリさん!」
「文句があるの?」
「!」零距離にトンファーが迫った。
 綱吉は顎先に冷たいものを感じるのと同時に威勢良く返事をしていた。恭弥は不機嫌を隠さないままで頷いた。
 早くしてね。と、愛想もなく一言。
 コクコクと首を縦にして従い、綱吉は路頭でのストリップショーを行うハメになった。人通りのない場所だったのが幸いだが、パンツ一丁になって着替える姿を恭弥はしげしげと見つめていた。
「君、六道骸とどんな仲なの?」
「はい……? 大したモンじゃないですけど。前に骸が並盛襲ったとき、オレも、ヒバリさんと一緒に戦って……」最終的に小言弾を使って勝利した、が、恭弥は意識がなかったので知らないはずだ。綱吉は余計なことは言わないことにした。
「あとは森で一回会ったくらいで、ろくな接点じゃないです」
 綱吉の勝利後、骸たちは黒曜中で大人しくしているハズだ。綱吉は自らの知識に基づいて返答をしたが、恭弥は、疑わしげに黒目を窄めた。
「何かあっただろ。それだけでこうなるとは到底思えない」
 ワンサイズ大きいが着替え終えた。あとは、このアーミー的な帽子を被るか否かだ。
 逡巡しながらも、綱吉は率直な眼差しを恭弥へと向けた。
 彼は呆れたように肩を竦める。
「六道骸は君をご所望だ。ウチの草壁と交換で」
「え。え、えええええええええええ!!」
 五歩ほど後退り、綱吉が身構える。
 脱兎の如く駆け出そうとしたのは条件反射だ。恭弥が綱吉の手首を抑えた。
「逃がさないよ。来てもらう」
「ひいい?! な、何ですかその条件有りえないっっ!!」
「僕もそう思うよ。まあ、大丈夫」
 恭弥は言いにくそうにしながら、下唇を食んだ。
「僕の学校の生徒だからね。無下にはさせない」
「ヒバリさん」震え気味の声がでた。綱吉は恭弥を見上げる。恭弥はガシリと綱吉の両肩を掴んだ。あ、と、うめき声。綱吉が、捕獲されたと気がついたのは縄でぐるぐる巻きにされた後だった。
「ヒバリさぁあああ――――ん?!」
「そうしないと逃げるだろ」
「だああっ! 助けて――! 考えてみればあの骸ですよ?! オレ殺されちゃうよ! 復讐される!」
「草壁も無事だといいけど」
「た、頼みますからオレの心配もしてヒバリさん!」
「…………」
 咄嗟に叫んだ一言で、恭弥が意外そうに振り向いた。
 そこで綱吉はようやく自分の発言に気がついた。ですぎた言葉か。あわわわ。真っ青になる様子を見つめたあとで、恭弥の黒目は下へと傾いだ。掴んだままの黒曜中指定の帽子をジッとみる。軍隊帽をモデルにした厳ついデザインだ。
「あ、や、草壁さん、無事だといいですね……」
 やっとのことで綱吉がうめく。恭弥は顎で頷いた。それから呟く。
「被れば?」
「こ、これを?」
「そう。いいんじゃない」
 する、と、恭弥はさりげなく綱吉の真前に歩み寄った。
 五指が少年の前髪を掻きあげ、頭皮に手の平を押し付けながら後頭部を辿る。綱吉が戦慄に身を固めたと同時に、帽子を奪って頭に被せた。クセ毛に押し返されないよう、ぐいぐい、帽子を下に向けて圧し付ける。
 綱吉は少しだけ苦しげに唇を丸くした。
「うん。変に自信なさそうにしないでくれる。そんなに変じゃないから」
「ひ、ひばりさ、ん。怒ってる?」
「まさか」
 パンパン、と、母親のように肩口のホコリを払いのけてやる。
 しばし綱吉をじっと見ること一分、恭弥は満足したように顎を引いた。
「うん。どこにだしても恥かしくない子だ。しっかりしてよね、並盛生」
「う?! そ、そんな並盛代表みたいに言わないで下さいよ……?!」
「事実がそうだもの。ちゃんとやるんだよ」
 やはり母親のようなことを言い出しつつ、恭弥はバイクに跨った。
 縛ったままの綱吉を自分の懐にしまい込む。窮屈な姿勢だ。完全に逃げ道が絶たれたことを自覚し、綱吉はどうにか上を見ようとした。
「あの……、申し訳ないんですけど一つだけ確認していいでしょうか」
「?」
「向こうで見捨てられたりしないですか、オレ」
「…………」恭弥は黒目を丸くした。胸元に寄りかかる顔を見下ろしつつ、エンジンを入れた。
「あ、その、いや、つまりまさかホントに黒曜中に取り残したりとか……しない……」
「その点に関しては」
 すいっと黒目が空に向けて漕いだ。
 ドッドッドッ、と、エンジン音があるために綱吉には聞き取りづらかったが、
「保証する。僕を信じていいよ」こともなげに言い捨てられた言葉のニュアンスは理解できた。このいう瞬間があると、雲雀恭弥に心酔する風紀委員の気持ちが少しわかるような気がする綱吉である。
「お願いしますッ、ヒバリさん!」
「フン」
 恭弥は口角を吊り上げた。



おわり



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