*ちょろーっと放った小話やら小ネタやらを収納してる箱です。何でもアリです。
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1つ目:別れ話 →ヒバツナ・+凪、骸
2つ目:なりそめを語る →山本とツナ(アニメを見て
3つ目:帰還待ち →骸ツナ・ハル
4つ目:月光作戦 →骸とヒバリ
5つ目:空冠 →ベルツナ・スクツナ(スクアーロの出番はナシ
6つ目:留守番 →ヒバツナ+骸、髑髏
7つ目:お礼と感謝 →拍手お礼なツナ・骸・ヒバリ・ディーノ
別れ話
――腕を伸ばす。
肩を掴む、手首を握る、その体に抱きつく。
とにかく何でもいいのだ。無理やりでも連れ戻せるならば。なのに、それすらもできない現実に愕然として、綱吉は涙をこぼした。言葉が、でない。何かを。何かをいわなくちゃならないのに!
「待って――。待ってください。まって!!」
彼は立ち止まらない。綱吉など知らないフリをする。
「――ひばりさあああああん!!」
黒髪が風になびく。
白い肌、夜と同じ色をした二つの瞳。
振り返った少年は、静かに目を笑わせた。
「さようなら。永遠に、だよ。永遠にさようなら。綱吉」
「違う……。俺はイヤだよ。来て、ヒバリさん!」
「僕はいくよ。さようなら」
「いかないで!!」
そこまで叫んで、綱吉は後悔をした。
ヒバリは笑う。そこにあるのは、絶望と希望の両方だ。両方をぐちゃぐちゃに混ぜながらヒバリは笑い続ける。祈るように拳を握り、綱吉は一歩を進んだ――跳ねるようにして走り出だす。ヒバリが叫んだ。その声が、あまりにケモノじみていて綱吉の両足がすくみ上がる。
少年は、トンファーを両手に持って目尻を吊り上げていた。
「来るな! 僕はもう、雲雀恭弥じゃない。君なんか知らない」
「おいていかないで下さい。ヒバリさん、お願いだから」
「僕は……。君の手が届かないところにいくんだ」
トンファーを持ったままで雲雀が踵を返した。
綱吉の両足が震える。
距離は――三メートル、五メートル、十メートル……。だんだんと増えていって、やがてヒバリの背中が霧の向こうに消える。朝の冷気の中に見えなくなっていく。
「ひばりさぁん……」
しゃくりあげて、綱吉が目尻を拭った。
「好きなんです。あなたが」冷気が肌を刺す。
肌を通り抜けて体の底までを冒して行く。
「それがこうなるって、こうなるなんて思わなかったんだ。俺があなたを好きなせいで、あなたがボンゴレから去らなくちゃならなくなるなんて。存在を抹殺されるようになるなんて」
呟く声は、段々と綱吉本来のものから離れていく。
「ヒバリさん。俺を置いていかないで。ヒバリさん」
涙声で、掠れて、幽霊があげるすすり泣きのような声に変わる。
うっすら、意識が遠のくのを感じて綱吉は膝を折った。イタリアから飛び立つ便は、朝の八時から東京を目指す。とある組織をクビにされて、無理やりに名前を変えられた一人の東洋人が、その便で本当に行方をくらましてしまう。今となっては、最後の密会だった――。
夜に二人でじゃれついていたけれど、不意に、ヒバリは呟いたのだ。
『立派なボスになればいいよ。僕は、その便りを楽しみにして生きていくから……』
視界が白く染まっていく。引き止める言葉も、引き止めるための行動も、何もわからない。ただ手足が痺れて視界が白に埋め尽くされていく。今までの経験が、自分が失神することを訴えている……。
「ボス。もう、気がすんだ?」
傍らに人の気配がした。
黒髪の少女が、瞳を丸めてすぐ隣にたっている。
「骸さまから言われてるの。目を離すな、って。……わたしもそうしたかったから、ここにいる。ボス、たてる?」透明感のある声音だ。綱吉は、霞む視界の中からガラスのような少女の瞳を見上げる。それが、徐々に濁っていくのを見守る。そこに立つのは一人の人間だが、性別と服装がくるりと反転して、黒衣のコートを身に付けた少年が立っていた。
「見張りをつけて正解でしたね。沢田綱吉……。諦めなさい。君と彼は、もう、住む世界が違う」
冷酷な二色の瞳。綱吉の意識がさらにぼやけていく。
六道骸は、屈みこむと綱吉の胸に両手をついた。
「心臓がすごい音たててますね。落ち着きなさい」
「っづ」ドクン、と、全身が震える。
幻覚がゆるやかに少年の体内で躍動をはじめた。
心臓が、さらなる誰かの心臓に重ねられるようなイメージに近い。
第三者に、無理やり鼓動を抑制されているのだ。息苦しさに綱吉は眉根をよせた。体の中が強引に作り変えられているようで、吐きそうになる。目の前に立った影が縮みだす。
乾いた冷や汗を浮かべて、綱吉は少女を見上げた。
心臓はいつものように伸縮していて、もう、目眩もしない。
「ボス。かえろう」
「…………ヒバリさんは」
「あのひとは、もう、死んだの」
少女は、笑みすら見せずに綱吉の手首を掴んだ。
おわり
なりそめを語る
「なんでか?」
疑問の声と共に、少年は歩行を止めた。
振りかえった眼差しに色はない。純粋に、不思議そうで、それだけだ。だからこそ向き合った少年は身を固くする。彼は野球帽を被っていた。それで前髪を隠して、夕日の明かりからも顔を隠す。
「理由なんかねえけど」
肩からスポーツバッグを下げている。
少年は、慎重な声で質問を繰り返した。
「教えてほしいんだ……。なんで、オレに仲良くしてくれるの? オレ、……山本は気付かなかったのかもしれないけど。本当に、オレはリボーンが来る前はさ……」
「ああー。うん? リボーンは面白ーけど、だからってツナが面白くない理由にはならないぜ! ツナは面白ーよ! それに、なかなか熱いヤツだよな、お前って」
「山本」
沢田綱吉は、痺れたように山本武を見上げた。
「オレたち、友達だよね。そうなんだよね」
「? ああ、そうだ。友情っ!」
白い歯を光らせて、山本は拳を突き出した。
一瞬、意味がわからずに沢田は両目をぱちぱちとさせる。つーなー、と、からかうように、山本は間延びした声で呼びかけた。
「ぶつけてくれよ。ツナの拳も!」
「あ。ああ。うん……友情!」
やや気後れした声音だったが、沢田は山本の拳をなぐった。
互いに痛みは無い。軽く、こつんっとぶつけた程度だ。山本はニヤニヤして、照れたように鼻頭を掻いた。その様子に沢田も頬を赤らめる。傾斜した太陽が、町の向こうに消えていく。分かれ道にさしかかった。山本の帰宅路は右で、沢田のは左だ。二人は、躊躇うように互いを振り返った。
「…………じゃあ、明日」
「ああ。また明日な、ツナ」
山本が手をふった。決断したように、沢田はうなづいた。
左の道に消えていく背中は、いつもよりも小さく見える。山本武は、見えなくなるまで見送った。口の中だけで、つぶやく言葉があった。
「インスピレーションだな。恋っつーか、そんなモンじゃねーけど。ビビビッてきた? 歯車がカチッと合う気がしたんだぜ、ツナ。おめーさんとならカチッといけるってな」
脳裏には申し訳無さそうに声をかけてくる少年がいる。一緒に帰ろう、と、珍しいことをいうと思った。沢田綱吉が自分から声をかけてきたことと、女子がやってるような誘いをかけられたこと、その二つが珍しいことだ。沢田は隣に並びながら、言いにくそうに、不思議そうに問うた。
――山本、なんで突然、オレと友達になろうって思ったの?
「突然、かぁ……」
一人、右の道に進みながら山本は頭を捻った。
沢田綱吉のことを、今まで顔も見ていなかったワケではないに違いない。意識せずに顔をあわせていたに違いない。なにせ、沢田も山本も転校生ではなくただのクラスメートなのだ。
山本は野球帽のツバをひっぱった。夕日が目に当たるように、位置を調整する。明るく、すこしくすんだオレンジ色。それが、目を閉じてもよく見える。この色が好きだった。
(走りこみとか、苦しいとき、ガンバレって応援してくれてるみてーだよな)
どこか、沢田に似ている。山本は自らの考えが少し面白くなって口角をあげた。
「オレ、野球に恋してたからなァ。これが一番楽しーし、オレのすべてだし」
だから周囲も見えなかったのだろう。沢田も埋もれて、きっと、そのときは色褪せて見えたのだ。山本は、くつくつと肩を揺らした。
「今はもっと大きい恋をしてるから、……スイッチが入ったとか? ああ、だから、カチッ、か。ツナに切り替わったんじゃねーの、そんとき、はじめて」
帽子を取れば、目といわず鼻といわず、顔面いっぱいに陽光が当たった。その光りはやがて町に呑まれて、とおくの、見えないところにいってしまう。そんなところも少し沢田に似ている。彼はやればできる子だと――例えば、死ぬ気にでもなれば、何でもできるに違いないと山本の直感は語る。その半面に危うさがあって、沢田はきっと、近い将来には誰かの助けが必要になるに違いない。直感は語る。
「いつでも近くにいるようにしないとなっ」
拳を振りあげて、山本は小さくつぶやいた。
「なんてな。こんなの、マジ恋みたいでツナにはいえないって」
おわり
帰還待ち
もうすぐ帰ると報せを受けた。それが二ヶ月前になる。
「どこが、もうすぐですかツナさん……」耐え切れず、真っ先に弱音を吐いたのは沢田綱吉の愛人だった。ハル、と、その通称だけが六道骸の知るところであった。彼女に応えるかたちで弱音を呟いてみたら、どうも、沢田綱吉に関するところでは意思が合うようだと自覚したのが二ヶ月前でもあった。
六道骸は、玄関先でハルと肩を並べて夕日を見つめていた。ハルはパンツルックでブラックスーツ、骸は渋青のジャケットを着ていた。
「これはお仕置きしないといけませんね。とびきりキツいのを」
「ツナさんに酷いことしないでくださいよぉ?! 六道さんのってホント非道なんですからー!」
どこか冷めた瞳を返して、骸は両腕を組んだ。
だだっ広いボンゴレの私邸ではあるが、丘の上にあるので、門から誰か入ってこようものならすぐわかる。骸は、隣の女性が最もこの玄関前に通いつめた回数が多いのだと知っていた。男性連中の中では骸が一番回数が多かったが(理由は簡単だ。報告以来、あらゆる手段を講じて外出の機会を潰したからだ。もう一ヶ月ほどボンゴレの敷地から外にでていない)、ハルは大抵先にいて、退屈そうに玄関の扉に背中を預けていた。
五回ほど、玄関前でパスタを食べているのを見かけた。さすがに骸は自分はそこまで馬鹿ではないと思ったので真似はしなかった。しかし良い案だとは思った。
「問題はどこにいるか、ですかね」
門を見つめながら骸が囁いた。ハルが頷く。
「今回の出張、最終場所が日本ですよ! きっと浮気ですよ! 京子と何か……何か、何か何か何かァーーーーー!!!」
ハルを振り返ることもなく、骸はため息を吐いた。
「何かイイコトしてるんでしょうねえ」
「ううっ。そうならそうで事前に言ってくれればまだ腹の虫が治まりますのにっ。ツナさんのいけず!」
「千種がちゃんと尾行できていたら、よかったんですけど……」
「二週間でバレたんでしたっけ? 残念ですぅ」
「ええ。千種も個人的に押されると弱くなりますからね。もっとこう、心を鬼にして貰わないと……綱吉くんに泣きつかれたくらいで赦すなんて甘い」
「ハルだったら許しちゃいますのに〜。でもツナさん、ホントに……。今どこに」
「番犬がちゃんと働いてることを願いますよ」
ボンゴレ十代目は獄寺隼人と山本武を連れて行った。
「鉄砲くらいハルも撃てるのに」
悲しげに囁くのを聞いて、骸は鼻を鳴らした。
小馬鹿にした吐息だったが、女性は気にした様子もなく自らの目頭を抑えた。ツナさぁ〜〜ん、涙声でうめきつつ両足をバタバタとさせる。骸は首を傾げた。
「ほんと、出発前に守護者全員を襲撃しておくべきでした」
「あ。六道さん、いい案ですけどNG発言ですよぉそれ。リボーンさんに報告しちゃいます」
「でも僕以外の守護者が床に伏せざるを得なかったら僕を連れて行く以外にない。理想ですね」
ハルは骸を見上げた。マルッとした瞳の上には長い睫毛がある。骸は一瞬だけハルと目を合わせた。ハルはにこりとする。
「理想だけどハルは賛成しません」
「くふ。そうですか。まあ、机上の空論はこのくらいにしますか。薄情者がさっさと帰ってくるように祈るとして」
「……今のままでも、充分幸せですけど」
むくれた声でハルが言う。
骸の存在を無視したような、独りごとじみた言い方だった。
「賛成しません。酷いことしちゃダメなんです。ツナさんは……、ツナさんには。でもハルがもし男性だったらツナさんの力にもっとなれてたかも、と、思うとちょっと悔しいです〜。そしたらハルは全力でツナさん守れます」
「ほう。君が男だったら綱吉くんに絶対近づけませんけど」
ハルはギョッとして肩を下がらせた。慌てて尋ね返す。
「ハル、女でラッキーですか?」
「ラッキーです」
骸は口角を吊り上げた。
夕日が沈み終わると、辺りは暗くなる。朝日の中に帰宅する姿も、夕日の中に帰宅する姿も美しいだろうが、六道骸にとっては闇の中に帰宅する姿が好みだった。今帰ってくれるなら遅れたことを忘れてあげてもいいのに、と、何度目かわからない呟きが胸中からこぼれそうになる。
ラッキーなんだぁ、と、しみじみと呟く声を聴きながら闇を眺めていた。骸は唇だけで呟く。
「早く帰れ」
「まったく、その通りですよぉ」
「……ああ、間違えました。それくらい苛立ってますか僕は」
「? 六道さん?」返事はない。骸は、白けたような、つんとした顔で闇に目を凝らしていた。
おわり
月光作戦
空の向こうにあるものを知っている。
あれは火星、あれは星。星の光は星が爆発を続けるから生まれるもの。星が光らなくなる時は、芯までが爆発して、何も残らなくなってしまった時。
六道骸が月を見上げたのを見て、雲雀恭弥は足を止めた。その手はニメートル越えした大男の首を掴んでいる。
「どうしたの。センチメンタルになった?」
「まさか。今日は満月だったと知らなかったもので」
この男でも本当にセンチメンタルな気分になることがあるのか。内心で驚嘆しつつ、雲雀は、わからないフリをして口角を吊り上げた。
「お前が天体好きとはね。変なの。嫌いそうだよ」
「ほう? 僕は、ロマンチックな方だと思ってますが」
「どこらへんが?」
「この笑顔が」
振り返り、ニコリとしてみせる。
雲雀は眉根を寄せてうめいた。
「聞いた僕がバカだった」
「おやおや。まあ、君がバカなのは知ってますが……」
「咬み殺すよ。あるいは、」
大男の首を放す。男の首には赤い手形が付いていた。六道骸はさりげなく右手を腰の後ろに回した。
視線だけは、依然として月を見る。
「体力を温存したいんですが。夜が長い」
「――あるいはツナに不在中の暴動を教えてやる。僕だってお前とここでやり合うのはゴメンさ。ただでさえ、死ねって言われてるのに」
六道は両目を窄めた。
咎めるような仕草だった。雲雀は続ける。
「僕とお前。厄介払いじゃないの、これって」
「まあ、そう見るのが一般的な見解でしょうけどね……」
「納得いかないんだ?」雲雀は面白がるように目を微笑ませる。意地悪な眼差しだったが、どこか、意固地になったような輝きを秘めていた。
「あれだけ好き勝手やってたクセに。実際、処分される時は後悔するなんてやっぱりバカだよ」
「その論理でいきますと君は納得済みで?」
つんとした顔を雲雀に向けて、六道。
「どこの男でしょうかね。居合わせた使用人まで顔がわかんなくなるほどボコボコにのしたヤツは」
鬼の首を取ったような含みがある。雲雀はその件を恥じてはいなかった。寧ろ、自らの誇りだとでもいうように胸を張る。
「むしゃくしゃしてたんだ。悪い?」
「…………。悪くはありませんがねえ」
「大体、お前と二人ってのが気に入らない。ツナなら僕と骸を二人きりにするようなミスキャスティング絶対にしない」
「僕らの自滅を誘っているんでしょうねえ」
投げやりに六道がうめく。
忌々しげに頷きつつ、雲雀は星空に背を向けた。廃工場の、狭い入り口に右足を入れる。腰を屈めて中へと潜りこんだ。
六道が後に続く。
雲雀は、入り口のすぐ傍で待ち伏せていた。
「先に言っておく。僕は、不本意だけど絶対にお前に手をださない」
「協定を求めているんですか、それは?」
にへら、と、小馬鹿にした笑みが張り付く。その表情を見て、雲雀はゆっくりと腕組みをした。苛立っている。六道は、普段ならばありえないが、咄嗟にイヤミを吐いたことを後悔した。
「僕も手出ししませんよ。絶対、生きて帰ってやる」
早口で告げる。
雲雀は蔑むような視線を投げたが、無言で頷いた。
トンファーを腕に添えて歩き出す。六道は手ぶらだったが、彼は得意の幻視能力で戦う気だった。五分も経たない間にどちらからともなく足を止める。人の気配がする。それも、数十人もの気配。
(……この男に自ら背中を向ける日がくるとは……)
全く同じ感慨を抱きつつ――こんな日が来るなんて信じたくないといったニュアンスだ、共に――、駆け出す。
六道が右目に中指を添えた。同時に上体を捻る。ひゅっ。銃弾が過ぎると同時に、そこら中に散らばった廃品の影から悲鳴が轟いた。
「ぎゃあああっ。蟲が!!」
「どっから火が?! 何だ、なっ、ぶ!」
打ち捨てられ、マフィアのアジトと化したこの工場でも窓はある。窓に走ったひび割れに月光が溜まっていた。淡く光るジグザグの前に影が躍りだす。
薄く笑い、六道は指先で弧を描いた。
一人、暗闇に跳躍する雲雀へと指を向ける。
かつてならば彼に何かするといったら暗殺をしかけるくらいであったが――、指先が雲雀と直線を結ぶと、月光が線となって雲雀を取り囲んだ。空気が爆発する轟音が響く。
雲雀の黒目が探るように六道を振り返った。素早く。
「今だけですよ。稲妻の竜です」トンファーが発光し、小刻みに空気を爆発させていた。芯に稲妻が通っているのだ。
「気持ち悪いこと、してくれる、じゃないかっ!」
トンファーの一振りで廃品諸とも雑魚を吹飛ばす。
ボンゴレ十代目、沢田綱吉が、経営に躓き、さらには信任投票で敗北したのが一週間前であったりする。暫定的にボスの座についた男は、元ボンゴレファミリー幹部にとって殺したい男ナンバーワンである。
ボンゴレファミリーを去って久しい家庭教師が再びやってきたのが二日前。
沢田綱吉を探すのに全力を注ぐという。沢田綱吉は、幹部でない部下には支持されなかったことがよほど堪えたらしく失踪中だ。
六道が再び月に目をやった時、雲雀のトンファーから稲妻が消えた。全て倒したからだ。屍の群れに立ちつつ、雲雀は面倒臭そうに呟いた。
「組織とか群れとか嫌いだ。マフィアだなんて粋がったって、所詮、草食動物の集まりだよ。今回の件でよくわかった」
その言い方にひっかかりを覚えた。
「イタリアに帰ったら、ボンゴレから抜けるつもりで?」
「ああ。ツナがいなかったら用がない」
「それは、それは。君がそこまで彼に恋してるとは知りませんでした」
「……何、その言い回し。喧嘩売ってんの?」
いささか殺気が滲んでいる。六道は澄ました表情を崩さない。
「九割は正解ですが、今は間違いだといいましょう。喧嘩なんて売ってませんよ。全く少しも」
「へええ。へええ?」
トンファーを回転させて、雲雀は再び両腕に添える。しかし、動かない。ただ足元の山を蹴って崩した。
二階への階段を探る傍ら、六道は、ぼそりと呻いた。
「しかし沢田綱吉は戻ってくる」
「いつさ。もう一ヶ月も待つ気ない」
「僕としては君がいなくなるのは一向に構わないんですがね……。だが、ハトとフクロウ五十羽余りと契約をした。先ほどから月を見てるでしょう? 別にロマンチックとかどうでもいいんですよ……。鳥どもに意識を移して捜してる」
雲雀はまじまじと傍らの六道を見た。
まるで、初めて、彼が存在していることに気が付いたと言わんばかりの顔をする。驚愕とも言える。
黒目が丸くなったのは数秒だ。雲雀は、少し経つと、怒った声をだした。
「つくづく、設定破綻したキャラじゃない? 何でもアリじゃないか」
「喧嘩売ってますよね、それは。僕に。そっちこそ最強の並盛生じゃないですか」
「僕はいいんだよ。まあその話は置くとして、」
階段は建物の東側にあった。トンファーを横に構えて昇る。
「鳥類は大事にするもんだよ。敬意を持って接してくれなきゃ」
「あれを1羽づつ撃つのは愉快でしたよ。どこぞの鳥の名前がついた男を思い出すとさらに爽快で」
「…………」「…………」
雲雀と六道は互いに無表情に見詰め合った。
とにかく、今回の作戦は二対二百なので、争っているヒマが無いことだけ確かだ。
おわり
空冠(からかんむり)
「ツナちんってさァ。人殺して楽しい?」
きっちり十秒の沈黙。ボンゴレ十代目は静かに横目を向けた。
「何でそんなことを俺に聞くんですか」
「オレが楽しーから?!」
けらけら、大口を開けて青年が仰け反る。
汚らわしいものを見る目つきを一度だけして、ボンゴレ十代目は瞬きをした。開き直した両眼には嫌悪も憎悪も何もない。マシンガンを肩の上から降ろして、室内を見渡した。
「ヴァリアーの他の人達はどうしてるの? ……スクアーロが来ると聞いてるんだけど」
「アー。来るんじゃん? 知らねぇなあ」
大広間だ。巨大な屋敷の、上層階から慌しい足音が響く。
「スクアーロは俺との約束まだ一度も破ってないんだけど。彼に何を?」
「んー。気になる?」
青年は金髪を揺らして首を傾げる。
同時にニィッと笑って八重歯を見せた。
「ツナちんがえっちなことに付き合ってくれたらイイかも」
「冗談に付き合う余裕はあんまりないよ」
半眼で睨みつつ、踵を返す。右の廊下を小走りに駆ける背中を青年も追いかけた。じゃりん、と、ワイヤーで繋がられたナイフが彼の後を追いかける。
青年は手首のスナップだけでナイフを手繰り寄せ、ジャケットの中に素早く仕舞いこんだ。
拍子に血が壁に跳ぶ。飛沫が足元に飛んできて、ボンゴレ十代目が隣を走る青年を見つめた。
「ベルフェゴール」
「ベルっつってイイよ。水くせーじゃん」
軽く首を振って、言い直した。
「これでいいの! ベルフェゴール。俺、あんたの戦力期待していいの?」
「いいぜ。ツナちん、オレが血ィ好きなこと知らないの?!」
「知ってるけど。後から変に……揉めて欲しくないん、だよ。俺は」
口ごもったのを見て、ベルフェゴールがにやりとする。同時にボンゴレ十代目の前に滑り込んで、ジャケットの中に手を入れた。
ギクリと顔を強張らせて十代目がマシンガンを向ける。
ベルフェゴールはにやにやしながらナイフの一本を取り出した。
「誰に?! オレと誰が揉めると思ってンの?!」
「…………。ボンゴレの暗殺部隊がボスに刃を向けていいって――」
「思うぜ。だってツナちんだもん!」
「どういう理屈だっ!!」
マシンガンの銃口を掲げて殴りかかると、ベルフェゴールが横に跳ねた。
しゅっとナイフを投げる。ボンゴレ十代目がいるのとは違う、当てずっぽうな方角だ。しかし充分だった。ナイフの尾っぽについたワイヤーが十代目の腕を絡めとり、拍子に彼はマシンガンを落とした。
「ひゅ〜〜。ツナちん、苛立ってるね。そんなにスクアーロに来て欲しかった?! ツナちん、アイツと付き合ってるの? あれ、男だぜ。けっこう甲斐性ねーし」
「お前も男だろーが!」
至極マトモなことを叫びつつ、腕を振る。
ワイヤーはきつくスーツに食い込んでいた。それに、と、十代目が苛立った声で続ける。
「俺をツナって呼ばないでよ! 今の俺は、ボンゴレ! もしくはボスって呼んで!」
「あー。わかるわかる。思い込みで自分を慰めようってヤツだろ? ツナちん、健気なんだから」
すいっと背後に吸い付くと、ベルフェゴールが十代目の顎を掴んだ。上向かせて、その後頭部にぐりぐりと自らの顎を押し付ける。逆立った髪の毛を寝かせた。
「ベル! いい加減にしてってば!」
十代目がいくらか甲高い声で叫ぶ。
「お。それって演技じゃなくてツナちんだろ。元気ィー?」
「馬鹿にしないでくださいっ。あと、状況を見て!!」
「ツナちんはボスだろ。オレ、ちゃんと、わきまえてるつもりだぜー? ただオレが誰が相手でも同じ態度取るだけ。だってオレ、王子だもん」
楽しげに喉を鳴らし、ベルフェゴールは自らの頭上に手を伸ばす。
金色の冠をボンゴレ十代目の頭に乗せた。体を離し、それと共に十代目の腕に絡んでいたワイヤーを引っ張って取り除く。マシンガンを拾い上げつつ十代目は不服げな顔をした。
「何の真似だよ、これ」
「それ、落とさずにここクリアして」
「なんで?!」
少年のように憤る姿にベルフェゴールが満足する。
ツナちん、と、小さく何度も唇の中で囁いた。
「あっちのクールなツナちんも痺れるけど、こっちのがツナちんって感じ」
「冗談じゃないよ。取るからな!」
冠を取り上げ、ベルフェゴール目掛けて振りかぶる。
ベルフェゴールの纏う空気が瞬間的に鋭さを増した。彼の両目は厚い前髪に隠されているが、十代目は、感覚的に睨まれているのだと悟る。
「それ落としたら即座にゲームオーバー。罰ゲーム。ツナちんメタメタになっても寝かせねーかも」
「なっ……!!」
「コロス、じゃないのがオレのツナちんへの愛ね」
大広間の方から怒号が聞こえた。侵入に気付かれたのだ。にたー、と唇を吊り上げて、彼は何のことは無いというように続けた。
「確かにこの任務、スクアーロのもんだったぜ。ただちょぉーっと出発前に監禁しちゃってー。アー、間違いでな。つい、物置に突っ込んで鍵かけちまってさァ」
「おい……。いつの話?!」
「おととい」
「二日経ってるじゃん!」
愕然として腕時計を見下ろしつつ十代目が駆け出す。
ベルフェゴールも並んだ。不可抗力だとでも言いたげに肩を竦ませる。
「そ。だってアイツ、久々にツナちんとの任務なのに譲らねーんだもん。ムカツクっしょ? アー、そろそろ飢えてンだろなァ〜。ツナちん、ゲームに勝ったらご褒美に場所教えたげるよ」
「ああああ、当たり前っっ!」
目を見開かせたボンゴレ十代目からは、完全にボスとしての殻が脱げていた。ベルフェゴールは満足げにくすくすと喉を鳴らす。ポケットから取り出したナイフをべろりと舐めた。
「アアー。ツナちんと暴れるの、久々でチョー楽しい」
「落とさきゃいいんだな。約束、破るなよ」
居心地が悪そうに、慎重に走る十代目を横目にしてますます愉快そうな笑みをする。ベルフェゴールは婚約者に自分の王冠を送ろうと決めていた。
おわり
留守番
「生き残るとしたら、どっちがいい?」
問い掛けられた意味がわからず、口がポカンとした。
ヒバリさんは真面目だ。だからこそ、奇妙だ。そのまま黙っていると、ベッドの上で寝転んでいた人物が顔をだしてきた。クローム・髑髏。リボーンに伝言があると言って、オレの部屋に来た――。それで、もう一時間はごろごろしている。
髑髏は興味深げに腕組みをして成り行きを見守りだした。
何かに気がついたようにヒバリさんがチラリと振り返る。さすがに、オレも気がついた。
「六道骸?」彼は、度々、唐突にクローム・髑髏の意識を乗っ取る。
「ええ。面白そうだなと思ったので」
少女が、その華奢で可憐な外見に似合わない豪気な笑みを浮かべる。口角をナナメに強く引き上げて、髑髏は首を傾げた。くすくすと肩を揺らす。
「何の相談ですか? 僕が聞いて楽しい?」
「知らない」
「邪険にしないでくださいよ」
髑髏がにやにやとする。
オレはというと、髑髏がそうした仕草をするのに馴れずに硬直していた。顔を青褪めて、白眼視すると何を思ったのか――、多分、見抜いたんだろうけど。髑髏が上体を起こす。扇情的に、腰のラインを突き出してミニスカートを揺らめかしてみせた。ワザとでオレにあてつけてる、絶対。骸はそういうヤツだ。
「沢田綱吉。お久しぶりですね。元気ですか?」
「お前がそういう日常会話みたいなこというのって……」
「似合わないですか」
「うん」
髑髏の瞳が冷ややかになる。慌てて首を振った!
「ヒバリさん! オレが言ったんじゃないよ!」
「六道がいると話がこじれる。綱吉、でよう」
「外に?! あ、雨ですよ」
濡れた窓枠を指差す。リボーンは傘を持ってでなかったから、今ごろ濡れているんじゃないかと少し心配だ。ヒバリさんは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「だから何。綱吉……」
その口角がヒクヒクとする。
怒りを抑えているみたいで、ギクリとした。
「今、向こうを見たね。窓の向こう。誰か思い出しただろ!」
「ひ、ひふぁりはぁん?!」
何てことだ! いきなり掴みかかってきた両手が口角を摘んだ。そのまま、逆の方向にムィーッと引っ張る。無理やりイの形に唇を広げられて、慌てて後退るが、悲しいかな相手の腕力のが圧倒的だ。
「む、むは――っ。はぁりはんっっ」
「赤ん坊だろ?! いい加減にしなよ――。何なの綱吉は。この前、僕は測定したんだよ。一週間ほど綱吉が僕と赤ん坊どっちの名前を多く言うか――」
何やってんですか! ギョッとしている間にヒバリさんが顔を近づけてくる。
「この小憎たらしい頭は赤ん坊のことばっか考えてるの? 最悪。僕はどうしたの!」
「くははは。所詮、そこらのアリと同レベルと推定しますね」
「むふぅおふぁん! ふぁふれへよ!」
助けてよ、と、言ったつもりだ。
だが髑髏はニヤーっとするだけで腕組みをする。
「他人の修羅場ほど見てて楽しいものはないですね。もしかして、君たちって」
「人の恋路に口突っ込むな! パイナップル!」
ぴしり。髑髏ちゃんが硬直する。
「……僕は水牢にいるので余計な力を使いたくありませんが……」
ぶつぶつといいつつ、視線を流して天井を見る。その片手がぷるぷるしている。ヒバリさんはどうでもいいというように、軽く頭を振って再びオレの口角を引き伸ばす。痛い!
「むううううっっ」
「綱吉。このまま愛してるって言ってみてよ。そしたら許してあげる」
そんな無茶な! 思ったけど、ハッとした。ヒバリさんの悪いクセがでた。
どうもこの人は自覚がないままにサドだ。しかもかなり重度の。仲良くなってから気がついたのが運のツキか。いや、もともと、暴力的な人だしサドっていうなら納得するくらいではあったけど。
「…………」一度、このクセがでるとヒバリさんはタチが悪くなる。
特にオレに向けてクセがでると殺人的にタチが悪い。オレにとって。
「はふ……。ふぁい、ひれま」
髑髏が両目をにこりとさせるのが見える。
彼女の手はしなやかに伸び上がり、ヒバリさんの後ろ襟首を掴んだ。鬼の形相でヒバリさんが両眉を吊り上げる――、そのまま、オレを睨む!
半泣きでとにかく首を振ると、ヒバリさんは振り向きもしないままで背後目掛けて拳を突き出した。きゃあっと髑髏が悲鳴をあげる。……きゃあ?
「な、何するの……?!」
髑髏がヒバリさんの足元に倒れた。
鼻先を抑えている。ギクリとしていた。
「ふぉふろひゃん」骸じゃない。さらにギクリとした。
同じく威勢を削がれたヒバリさんを押し出して、駆け寄る。大変だ。髑髏は赤く腫れた鼻を抑えて、混乱したようにヒバリさんとオレとを見比べた。
「ボス。なに……。何事?」
「だ、大丈夫? 殴っちゃったの?」
後半はヒバリに向けてだ。一瞬、嫌そうに眉根を寄せて、ヒバリさんが明後日を睨む。
「僕は女子どもでも容赦しない。……っていうか、アイツ、最悪。六道骸」
「そ、そんな……。やめてくださいよ。ウチで女の子を殴るなよ!」
「…………」黒目がジッと見下ろしてくる。
髑髏の背中を支えたまま睨み返すと、彼は、やがて苦々しくポケットティッシュを取り出した。その時になってようやく髑髏が鼻血を出していることに気がつく。
「そこに背中かけて。横にならないで」
短く指示をすると、ヒバリさんは今度は物言いたげにオレを見る。
「……綱吉の馬鹿……」
「えっ」
じゃあね。と、それだけで彼は窓の向こうに飛び出していった。
なんなんだ。スネた?! 愕然としている間に、左手で撫でていた背中がくつくつと動くのを感じる。見てからまた愕然とした。髑髏が鼻を抑えながらにやーっとしている。
「どうです。邪魔者は追い出してあげましたよ、沢田綱吉」
「お、おまえ」
それだけのために髑髏を犠牲にするとは。
「まあ、別に僕は二人きりになりたかったワケでもなんでもないんですけどね。くふ、ふふふふ」
鼻血を抑えつつ妖しく笑うクローム・髑髏。とりあえず、その背中を撫でつつ、何でこんなことしてるんだろう……。と、考えた。リボーンは傘がなくて大丈夫だろうか。
おわり
お礼と感謝
お辞儀をしろと言われたので沢田綱吉は頑張ってみることにした。とにかくお礼をする場面になったのだ。上からの命令だ。不思議と綱吉もお礼したくてたまらない気持ちだ。左右の人間と手を繋いでいる。それをギュッとしてみる。だが、なぜ、よりにもよって彼らなんだろう? 六道骸も雲雀恭弥も微動だにしない。いわゆるモデル立ちみたいな立ち姿で堂々しつつ、呆れたように、沢田綱吉を見下ろしている。綱吉はついに肘で彼らの背中を押した。小突かれたのがイヤだったのか、彼らは反対の手で綱吉の後頭部を押さえつけた。そのときである。
「こういうときに兄弟子の出番、てか」
後ろから伸びた手が六道骸と雲雀恭弥の後頭部を掴んだ。
ぐぐっと無理やり前に押していく。彼らは両目尻を吊り上げる。沢田綱吉の超直感が発動した。
「拍手ありがとうございましたっ。それじゃっ。失礼します!!」
「じゃー僕らのお辞儀が済んだんだから、次はあなただけど、あなたは土下座しろ!」
「さーわーだー、つなよしー。クフフフ。放しませんよ」
「いぎゃああ?! むしろオレよりちゃんとお礼できないアンタらのが罰ゲームっぽくなるはずなのに!」
なんでオレが! なんで?! 叫ぶ綱吉だが、それは、もちろん沢田綱吉だからである。ちなみにこの超空間に四人を置いていったリボーンが帰ってこないとここから真には脱出できない。そのリボーンは、ちゃんと感謝表明できたら帰すぞ、と、いったものだが…。
「どう考えても連帯責任でオレだけ不幸じゃないか?! リボーンのバカヤロォオオ!!」
なぜだか上から金だらいが落ちてきた。昏倒した沢田綱吉を見て残りの三人が動きを止める。
「……こうなったら、彼に全身で感謝を表現してもらいましょうか」
提案したのは六道骸だった。ディーノが顰め面をする。でもすでに服に手をかけている。
「ごめんなさいってプラカードかけて裸で土下座させればいいんじゃないの?」
「おいおい。恭弥、おまえ、どういう神経してんだよ。詫びじゃなくて感謝の気持ちだっての」
「似たようなモンだろ。相手を感動させるのさ」
ディーノと雲雀恭弥が睨み合う。六道骸は満足げに手を叩いた。
「デコレーションは僕に任せてください。こういうときの為の幻覚能力です」
才能の無駄遣いでは…とは、誰も指摘しなかった。最初から一番不幸だった人間が結局やっぱり一番不幸になったが、三人は超空間から脱出した。三人とも心なしか口角がゆるい。機嫌がよかった。気絶はほんの数分で、意識を取り戻した沢田綱吉はべそをかいていた。
「う、ううっ。なにコレ……。なんのイジメ……?!」
素っ裸で首輪をつけられてさらに いーとみー とかの落書きを頬にされた。イジメか。
「てゆーかこれで感謝って何考えてんの!? りぼぉおおん!!」
「フ。ばっちり写真も撮れましたし指輪戦の借りは回収したと考えてあげましょう」
「まあ、なかなか楽しかったかな」
「わー、焼き増ししよっと。さんきゅーな、ツナ」
「……え……?!」
感謝ってそっち?! 何この超展開…、
と、一人たそがれる沢田綱吉だけが残った。綱吉の部屋である。
六道骸がきっちり幻覚を放置したまま帰ったので、彼に再び会う約束を取り付けるまで、綱吉はフードを深く被った生活を余儀なくされたとかなんとか。幻覚でできたマジックペンとか、ほんと、あいつの立ち位置が詐欺だと思う沢田綱吉である。
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