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「はーい、じゃ、じゃんけんで負けた方が洗い物ね」
「…………」はぁ? と、でも言いたげな顔を一瞬だけした。テレビ見てたから、骸さんはオレの方を向いてたわけで、母さんは台所にいるから骸さんの背中しか見えないわけで。超絶につまらなさそうに両目を瞬きさせたあとで、骸は席を立った。
「はーい。わかりました、お母さま! 綱吉、正々堂々じゃんけんいきましょう!」
母さんに向けたままの満面の笑みでオレを振り返る。
すっごい恐い。汗だらだらのオレを置いて、骸さんはぶりっこするように拳を固めて見せた。どうも、母さんの前じゃ清純っぽいような無邪気っぽいうような精神年齢低めなキャラでいくことに決めたみたいだけど、素を知ってるオレには目と耳の毒なだけだ。ごくり、と、固唾を呑んでいた。
「な、何回勝負……?」
「一回ですよ。はっきりきっかり、一度で決めるのが男というもの!」
「わぁ。そうね〜。格好いいわ、骸ちゃん」
「そんな」照れて見せる骸。恐い。
「さ……。最初はグー。じゃんけん、」
「ぽん」「ぽん!」
片方はチョキで、片方はグー。
骸さんは自分の拳をまじまじと見詰めた。チョキ。
「……負けちゃいましたね」
「っぎゃああああ!!」
温度が下がる。笑みに細めた瞳が、ちょこっとだけ覗いて、氷のような煌めきを見せつけた。やることは一つしかない。大急ぎでリビングから逃げ出すと、階段をあがっている途中で声をかけられた。
「綱吉〜。宿題教えてあげますからね。後でまた」
「…………ッッ!!」
いじめる気だ。大義名分にかこつけていじめる気だ!
真っ青になったオレを楽しげに見つめて、――邪悪に見つめて骸はひらりと手を振った。明るい声が聞こえてくる。
「さて、では10分で終わらせるようにしますかぁ」
「骸ちゃんがきてから、つっ君も手伝いをしてくれるようになってくれて助かるわあ」
「そうですか? そりゃーよかったですね。クフフフ」
クフフ笑いするような怪しい中学生、簡単に信じちゃダメだ母さん……。
階段の途中で、ずるずるとへたりこみながら頭を抱えていた。行き倒れてた骸さんを拾ってから、まだ一週間しか経ってない。千種とか犬とか、従えてた仲間たちが彼を迎えにくる気配はなかった。
おわり
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