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「あ。ヒバリさん。骸が」
いい終わらないうちに、宙に吹っ飛ばされていた。
がつんっと後頭部に打ち付けて、四肢を強張らせたまま硬直してしまう。動けない。額を押さえつける腕が二本。右側からヒバリさんが、左側から骸が、本能的にぞっとくるくらいの笑みを浮かべて凄んできた。
『僕の前でその名前ださないで』「くれる?」「くれますか?」
ぴったりと言葉が重なる。骸のが字数が多いからはみ出した。二人は、眉間に谷ができるほど強く眉間を寄せ合わせ親の仇かのよーに互いを睨みつけたあとで、再びオレを振り向いた。
ちょっと泣きたい。オレは何も悪くないと本気で思う。
「沢田綱吉。僕は君に伝言を頼みましたが、頼んだ五秒後にこの場で言えとは一言も」
「そいつの顔見てるだけでも死にそうなのに僕の名前を一緒にだすなんてケンカ売ってるの?」
顔が動かせないので、ぶんぶんと両手だけを左右に振った。
つまらなさそうに鼻を鳴らしたのはどっちか。ヒバリさんが、速やかにオレから離れた。
「やだね。近くにくると頭おかしいのが移る」
「…………」
(ぎゃああああ!!)
オレの額を掴む手のひらに、ぎりぎりと力を込めて骸が歯を見せる。
その笑い方は、殺意があるとしか言えないもので、多分ヒバリさんに向けてるんだろうけどオレを睨みながらするもんだからすごい恐い。ヘビに睨まれたネズミ状態で、戦慄したまま背筋を強張らす。骸がため息をついた。
「くふ。君たちのような似たもの同士が仲良くしてるところに割ってしまってすいませんでしたね」
「似たもの同士?」
「出来が悪いもの同士ですよ」
「…………」
(ギャアアアア!!)
こ、このままココにいたらとばっちりで殺されかねない。
応接室は氷点下の温度に包まれた。必死で口をパクつかせ、なんとか言葉をだした。
「ヒバリさんっ! 骸が、日曜の八時ジャストにオレん家くるようにってリボーンからの伝言を伝えようと!」
「赤ん坊の?」ヒバリさんが高い声で聞いてきた。
必死で頷くけど、伝言を持ってきた本人は失望したようにオレを睨んだ。
「だーから僕がいなくなってから伝えればいいだろうが!」
理不尽――! 内心での絶叫を終える間もなく、ヒバリさんが嘲る声がした。
「霧の守護者としてすることはなにもない、なんて、えらそうなこと言っておいて伝言係? アハハハ。面白いね、君」
「……僕の予想では、将来的にはもっと楽しくなりますよ。例えば、雲のリングまでもが僕のものになるとか」
「へえ。何それ。ケンカ?」
「リングの持ち主が死亡したら、他の人に渡さないとならないだろう?」
ヒバリさんが黒目をしならせる。いい加減、骸が額を離してくれないと本気で殺される。
「あ、あのっ。そういうことで、オレは失礼したいなーなんて……」
激しくにらみ合っていた二人が、同時にオレを振り向いた。
骸が手を離す。赤い痕がついたよーな気がしたけど、構わずに扉に向かってダッシュした。追いかけてくる足音はない。かわりに、ちゃきっと金属音が聞こえた。
「フェアにやるの?」
「まさか」
「……だよね。じゃ、はい。レフリー」
当たり前だと言わんばかりに、首根っこを掴まれた。
ソファーに押し付けるよう、無理やり肩に体重をかけられた。そのまま、座り込んだところ、頭上から呪いのような言葉。
「伝言は了解したよ。そこのゴミに伝えておいて」
「は……。と、いってますけど。骸さん」
「馬鹿か君は!」
ばしんと後頭部を叩かれたところで、骸が動き出した。
火花が飛び散って、慌ててしゃがみ込んだ。がしゃあん、ばりんと割れるような叩き壊すような音が続く。テーブルの下に逃げ込みながら、オレは携帯電話を取り出していた。ヒバリさんと骸が、ケンカをおっぱじめるのは今に始まったことじゃない。それに巻き込まれるのも今に始まったことじゃない。
(何でオレばっか巻き込まれるんだろ……!)
半泣きになりつつ、コール音が続くのを聞いた。
「あ? リボーン? 助けてッ。またヒバリさんと骸が!」
時折り、どうして二人ともリングを受け取ったんだ! と恨みがましい気持ちになるのは真実だ。ドタバタと走り回る二人の足と、なんでか血痕まで飛び散る絨毯を見つめて、リボーンが駆けつけてくるまでの時間を潰すことにした。窓の外にある青空が、いっそ平和すぎて少し腹がたつものだ……、と、静かにひとりごちていた。
おわり
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