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「計算してるんですか?」
「……は?」
「そういう発言、全部」
「…………?」
「だから、さっきの。あれ……獄寺隼人に言葉で言わずに頷いたり、山本武を一人で喋らせておいて音頭を取らせ、リボーンに同意の言葉をはかせて雲雀恭弥をその気にさせる。あの、丸刈り頭はどうでもいいとして。全てが打算ならば君はたいした男だ。狡猾で、しかも誰にも気がつかれていない」
「お、おれが? こうかつって。ズルいってこと? オレが?」
「そう。君が。沢田綱吉。何もわからないふりをして、馬鹿なふりをしている」
「何を言ってるんだよ。オレのどこを見たら、そんなふうに考えられるんだ」
「物事には、発想を転換させるという行為も必要になる。君の本質を見ようとするなら、この解釈は、それなりに近いところにあるようにも見える」
「そんなことないけど……。さっきは、食べかけのアイスが冷蔵庫にあったなァと思ってボーッとしてた」
「……それもウソ、ですか?」
「あのな。骸さん。全部計算してるとか、そんな頭イイことオレにできるわけ――」
宵の香りが辺りを包む。うすめられた闇があたりをつつむ。身にまとった闇をそのままにして、少年二人は遊歩道を歩いていた。守護者が順番に綱吉の護衛につくようになって三日と数時間が経った。今日は、骸の番だ。宵闇の中では指輪は光らなかった。六道骸の首から下げられた鎖、そこに、無造作にぶらさがったひとつのリング。彼がそれに指を通さずにいる……通す気が、恐らく、当人にないことを綱吉は感じ取っていた。
闇の中には影もない。赤と青のオッドアイは静かに綱吉の腰のとなりを見つめている。
沢田綱吉を見ているようで、見ていないようで、見ているような絶妙のライン。骸はそうした位置に視線を置くことが多い。視線があうことは、実は、滅多にない。綱吉にはそれもわかっていた。
風が吹く。前髪が右に揺さぶられ、綱吉は薄目をした。
(うそをついたら。このひとは。この人は、)
胸を、何かが、ゆっくりと貫いていく。ちりちり、焦がすように心臓が炙られている。
骸は再び歩き出すのを待っていた。綱吉は足を止めて、片脚だけを骸のほうへと向き直していた。生ぬるく、頬のとなりを風がすり抜ける。目の前が白く滲み出したように見えて、綱吉は大きく瞬きをした。指先に力がはいらない。
(……『、』の、続きがわからないや)
心臓の真上あたりがずきずきと疼きはじめた。
宵闇が薄くなっていく。輪郭をはっきりさせていく月を頭上に構えていながら、骸は、綱吉の腰あたりを見つめたまま動いていなかった。そこに表情とか、感情とか、人間らしさとか、そうした名称を与えうるものはなにもない。
(でももっと)月がある。骸ではなく、綱吉は月を見上げていた。風がぬるい。
(もっと仲良くなれたらいいのに)
「そうだよ。骸、全部、わかっててやってるよ」
「嘘をつくんですね。僕に」
意外とすばやく、骸が返事をした。
おわり
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