うさぎの時間が来る:3
教室の扉を開けると、六道骸が真っ先に綱吉に声をかけた。
「どうしたんですか。長袖なんて着て」
興味深げにジロジロとぴったり締めた襟のボタンや袖を見やる。ちなみに骸は半袖だしクラスのみんなも半袖だ。移行期間ではあるが、まだ暑いので誰も長袖を着たがらないのである。自然と綱吉はクラスから浮く。
「……怪我したんだ」
首元のボタンがきちんとかけてあるか、手で触って確認しながら綱吉は顔を顰める。
骸は面白そうな目をした。意地悪そうな目とも言う。
着席しても彼はついてくる。いつものように、前の座席のイスを勝手に引き寄せて跨いで腰掛ける。
「どうしたんですか」
挑むように骸は言う。
「なんでもないの。ちょっと酷いんだよ。引っ掻き傷が!」
「なんに引っかかれたんですか」
「…………。そうだ、あんたのせいでイヤな夢見たよ」
話題を変えるつもりで切りだした。
骸は黒い両眼をまばたきさせた。相手の出方を探る眼差しだった。その眼差しにうんざりとしながら語る。
「ウサギに食べられる夢。なんかすっごいデッカイのが……おれにのし掛かってて……。食べようかなどうしようかなって脅してくるの。最悪だった」
「あっ、ははははははははははは!!」
愉快で仕方がないというように、骸がその場で足をバタつかせた。目尻を指でぬぐって浮いた涙を拭う。
「ウサギに食べられる夢ですか?!」
「そうだよ。あんたがなぁ、ウサギが肉食だとか言うから……って笑いすぎだろ!」
「はは、くはははは、ああ、すみません。面白くって」
「同情しろよ! 最悪だこっちは!」
「綱吉くうん。こういう話は知ってますか。三つ子の魂は百まで。幼い頃に手に入れたものは生涯変わらないといった意味ですけど。そういう場合もやっぱりありますよねえ」
「ああ? もう。なんだよ」
顔を近づけてくる六道骸に辟易して綱吉が仰け反る。
「くはは。愉快だなぁと思いまして」
「オレが喰われてるのが?」
「ええ。綱吉くん。そんな目で睨まないでくださいよ……。最後に一つだけ」
ぴ、と、骸が人差し指を立てる。
愛嬌のよい笑顔がある。だが綱吉は騙されるもんかと自らに言い聞かせる。思えば昨日の青年だって最初の当たりが柔らかくていい人そうだったから騙されたんだ……。
「ナニ」
「うさぎって年中が発情期なんですよ」
「…………」
「人間もそうみたいですけどね。くふっ。くふふふふっ」
骸はこれ以上楽しいことはないとばかりに喉を鳴らす。
ワケもなくゾッとして綱吉は骸から目を反らす。
「まっっったく意味がわかんないよ。ああもう。意味わかんなのに酷い目に遭うー!!」
また遠慮無く骸が笑っている。いっそ元凶はコイツかと綱吉ですら疑えるほどに彼は機嫌が良かった。
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