ひばりのたまご
「きずあと」
テレビで奇蹟の特集をやっていたのを見た。
信じられないけど、段々と、テレビに説得されて最後にはなんとなく納得する。科学じゃ説明できないことがあるんだから。ま、ありえるかも。そんな結論に行ったきりで止まる。奇蹟への認識なんてそんなものだった。
今、沢田綱吉の脳裏には一言しか浮かんでいない。他は真っ白だった。
(奇蹟だ!)
押したり引いたりして海岸線がすぐズレる。波打ち際の内側で抱き合っていた。
濡れた目尻を潮風が乾かそうとするから顔の皮膚は張ったような感じになる。その感触も今は恥ずかしくなかった。彼の胸元に頬を押しつけた。
「雲雀さん。オレ、外しちゃって……、ごめんなさい。わからなくて、わかってあげられなくて。スイマセン。ごめんなさい」
抱擁を受け止め、抱き返し、雲雀恭弥は動かない。簡単な呻き声が帰ってきた。
「綱吉のせいじゃないよ。あれは」
「……雲雀さん! ホントに雲雀さんなんですね。あ、会いたかったです。死んだなんて信じたくなかった!」
赤く腫らした目をあげた。
「そんなに、泣かなくていいよ」
恭弥は目を反らした。
綱吉には恭弥の心の内はわからない。
彼が、複雑そうに下唇を噛むのをただ見上げた。恭弥の後方には恐竜の影がたゆたう。白いモヤが海面を這う。水中と空中で、緑のつるが泳ぎまわる。
「今朝、起きたら思いだしたんだ。君たちのこと。今日が僕の命日だってこと」
命日、と、その単語に涙腺がゆるむ。
「奇蹟か。奇蹟なんだろうね。死ぬのが運命だった筈なのに。通過儀礼は成功しなかった――、それは事実だろ?」
「オレ、会いたかったんです」
理屈じゃあないと綱吉は思った。理屈をつけたら、奇蹟ではなくなる。
「また会いたかったんです。みんなだって!」
両手を広げた。クォオオ……。恐竜が咆える。地肌にビリビリと微かな振動をもたらす。
恭弥の黒目は静かな輝き方をした。
宵闇を吸い込んで、鈍く光る。
恭弥は、ごく自然に、自らの右の首筋に指を添えた。
目を凝らせば、ラプトルの頭部が見えた。
太古の肉食竜は自らの首を恭弥にくっつけ、すりつけ、満足げに鼻腔をふくらませる。
雲雀恭弥がゆっくり目を閉じる。
唇には笑みを広げる。
「父さん。心配かけたね。母さんも」
声につられて高いところを見上げた。巨大な白い影が、頭をもたげていた。
綱吉は恭弥のシャツを掴んでいた。
不意に、不安に襲われた。
「雲雀さんは、今は――、どうなっているんですか? 違う生活を送ってるの?」
伸びた分のシャツを見下ろしつつ、返してきた。
「今は? うん。そうだね。違うね。両親は死んだ。僕が小さい頃に」
「し、しんでるっ?」
恭弥は単に頷く。綱吉はしばし呆然とした。
いつの間にか、波の音色が復活していた。
そこでようやく冷静になれたと気づく。慌てて目尻を拭った。一呼吸遅れて、みっともない顔をしていると思い至ったからだ。
静かな眼差しが向かいにある。
つまりは静かで底のない――意志のわからない目つきだ。綱吉は彼がそんな目をするのを何度も見てきた。また不安がぶり返す。さざ波と同じだった。
「雲雀さん……」
「確かに僕は雲雀恭弥だけどね――……」
そのとき、サウロポセイドンが頭を下げた。特大級の図体を持つ種族だ。しかし、割りには頭が小さいので、恭弥が両手を広げれば竜の口をどうにか覆うこともできる。彼はそうして母親に抱きついた。
ポセイドンが微かに口を開ける。
掬い上げるように、恭弥は母親の前歯にキスを送った。
恭弥が段々と黒目を窄めていく。その姿に、綱吉はいたたまれなさを感じた。家族で水入らずの場面に混入してしまったような気だ。
「お、オレ、また側にいてもいいですか」
「別に構わないけど」
恭弥は肩越しに綱吉を見る。
と、腕章に目を奪われた。恭弥の右腕には赤生地の腕章が巻かれ、金糸で『風紀』と縫いつけてある。
綱吉には意外に思えた。あの雲雀恭弥が人とつるんで委員会活動をするとは。
視線を追って、彼はなんのことはないと告げた。
「風紀委員は……、いや、並盛中学校は、僕がいないとはじまらないからね」
「そ、そうなんですか……」
(……ん? んん?)
ザァザァと波が足元に押し寄せる。足は勝手に後ずさりをしていた。――綱吉の口から、素っ頓狂な悲鳴がでた。
「ちゅ、ちゅうがっこうっ?!」
「あ。綱吉、高校だっけ」
少し驚いて恭弥も目を丸くした。
◇◆◇◆◇
「この子は僕の管轄だから。徹底させておいて」
言葉と同時に、綱吉は山盛タナカ高校の指定カバンを胸に抱えた。冷や汗がにじんで体が冷たくなった。
校門前は人の流れが厚い。下校途中の生徒たちは風紀委員にギョッとする。次に、他校の制服を着た少年を訝しげに見る。そして慌てて逃げていく。
(ど、どーなってるのこれぇっ?!)
綱吉の前には、雲雀恭弥の背中があった。
向かいには、恭弥と揃いの学ランを着た学生――強面で、ガタイのいい連中ばかりだから不良軍団だまるで――、風紀委員が一列に並んでいる。一人は顔面が腫れていた。
校門前にいた綱吉を尋問した男で、つい今しがた、恭弥がこぶしで殴った相手だ。
「返事は?」
恭弥が挑戦的に催促する。
「ハイッ!!」
「謝罪は」
「委員長、失礼致しました!! 来客の方、無礼をどうかお許しください!!」
「ホントにね」
ハッと息を吐いたあげくに、
「もう行っていいよ」
「ハイッッ!! 失礼します!!」
風紀委員は腰を九十度に折り曲げた。たっぷり十秒は維持した後で、校舎へ走っていく。
後ろ姿を睨みつつ、恭弥が嘆息した。
背後に潜む幻想のつるが、彼の視線の先を追って綱吉に絡みついた。
「悪かったね。僕の客がくるとは言っておいたんだけど。思ったより早く来たね」
「あ、きょ、今日は午前授業だったから……」
「そうだっけ? 覚えてないや」
明後日を見つつ、踵を返す。
綱吉は小走りになって後を追った。
控えめに質問してみる。目に見えるもの全てが信じがたく思えた。
「今のって、委員会のメンバーなんですか?」
(まるきりヤクザぽかったけど)
「そう見えなかった? ……まあ、他校の生徒がきたらまず尋問しろって言ってあるからね」
「ぶふゥ!」
「一応、センパイだよ」
「でえええ?!」
「僕は二年だからね」
隣に並ぶと、黒い眼光が落ちてきた。
ゾクッとするほど鋭利だ。
冷たいものが綱吉の喉にひっかかる。急いで飲乾した。見たくないものにフタを与えたような、奇妙な罪悪感が瞬時にわき上がって消えた。
(雲雀さん?)
雲雀恭弥がどうして検分するような目で自分を見るのかわからなかった。
(……なんか、雰囲気がちょっと違う)
前と。まえ? それってどういう意味だろう。
昨晩の再会を思いだす。と、同じ背丈で顔の造形も変わらないのに(髪は短くなったが)、今の彼は年齢が違うと思い当たった。年下だ。この雲雀恭弥は二歳年下になる。
(奇蹟ってのも、何から何までフォローしてくれるワケじゃーないみたいだな。ビミョーなズレが起きてる……)
「綱吉、バイクの経験は?」
「はえ?」
思考がよそにズレていたので、綱吉はキョトンとした。
校舎裏だ。恭弥の傍らにはバイクがある。路駐してあったらしい。バイクのグリップを右手で握り、彼は苦い顔をする。
「ないワケね」
「の、乗っちゃうんですか?!」
意外だ。綱吉のイメージでは、恭弥は文明の利器を好まない。だが、彼はウンと軽い調子で頷いた。後ろをあごでしゃくる。
「乗って。鳥の生まれを知りたいんだろ」
昨日、雲雀恭弥は約束をしてくれた。綱吉の質問攻めに応じたカタチだ。
「…………っ、はい」
「父さんが発掘された場所に行くよ。あの海岸をずっと先に行ったとこ……、この並盛町に近づいたとこの岩窟。フクイラプトルのツメが出てきたのが七年前だ」
バイクの後部にまたがり、掴むものを探して綱吉は頭をキョロキョロさせた。恭弥はヘルメットもないままでエンジンをかける。
「僕に捕まっといて」
「え? あ、」
ブルルルッ。唐突に車体がすべる。
「だぁああああ?!」
急いで綱吉は恭弥に抱きついた。
学ランの背広に頬を押しつけギュウッとしたが、まだ足りないとばかりに、恭弥がグリップから手を放す。左手で綱吉の腕を掴んで、さらに前へと引っぱった。
「そんな控えめだと振り落としちゃうよ」
「ひ、雲雀さん?! かかかか片手運転はあぶないんじゃあ?!」
「二人乗りは初めてなんだよ。加減がわからないから。本気で落ちたくないだろ」
「ま、前! 前を!!」
景色がビュンと音をたてて飛ぶ。
肩越しにふり返るのをやめて、恭弥は風中に声を張り上げた。
「喋りすぎると舌噛むからね!」
グンとスピードが増した。スピード感が強烈になって喉で悲鳴をこらえる。と、熱風が髪を梳く感触。幻想のジャングルが道路に網を張っては分解するのが見えた。綱吉は幻想的で美しい光景だと思った。
二人は、最終的には博物館を訪れた。
綱吉がこの博物館を訪れるのは初めてだ。町営で、小さくて、町外れにある。よほどの物好きしかこんな場所には来ない。
時刻はもう少しで夕方の五時をまわる。閉館を予告するわらべ歌が館内放送で流れたが、綱吉の耳には聞こえなかった。
「こ、これが、雲雀さんの……。ラプトルのツメ」
二階の奥が資料室になっている。壁際のガラスケースに両手をついて、綱吉は目を丸くしていた。
赤地の布はビロードで光沢がある。その上に一直線に化石が並べてある。その中の一つを指差したのは雲雀恭弥だった。
「さっきの岩窟から出てきたの。……ああ、うん、そうだね。そっちが母さんだ」
後半の言葉はラプトルに向けてだ。ラプトルは、尾を振り立てて館内を闊歩していたが、今は資料室中央に置かれた正方形のケースに鼻をこすりつけている。
そこには歯の化石が展示されていた。
移動して、まじまじと古びた白灰色の塊を見つめる。手前に掲げられたプレートにも目が留まった。
「アメリカから、寄贈?」
「六年前だよ。母さんが日本に来たのは」
ガラスケースの足元に、緑色のつるがわだかまり始めた。ゆるゆるとケースそのものに巻きつきだす。森に取り込もうと意志を持って蠢くようにも見えた。
「六年前……」
ガラスケースに触れた指先にも緑のつるが迫ってくる。綱吉は半ば反射で指を離した。恭弥を見上げる。
「それで、雲雀さんが生まれたんですか?」
「そうだよ」
腕組みをして、恭弥は目を伏せる。
無色の瞳だと綱吉は思った。感情が透けない。彼に習って、視線を戻してみる。綱吉は感動に胸を焦がして吐息をついた。
(この化石から、奇蹟が生まれたんだ)
目頭が熱くなった。
「…………。沢田綱吉?」
顔をあげれば、恭弥の黒眼球は物憂げな翳りを浮かべていた。
「? 雲雀さん?」
「君の名前は、沢田綱吉っていうんだろう」
「え? そ、そうだけど……。どうしたんですか、突然」
「おかしいと少しくらい思わない? 僕は、昨日、初めて君に会ったんだよ」
「え……?」
フイと目をそらされた。
――しかし、すぐに驚きに目を丸くする。理由は綱吉にもわかった。驚きは恭弥よりも大きい。
「リボーン?! 何してんのこんなとこでっ」
「ツナ。……あ? 雲雀恭弥?」
従兄弟が、資料室に入ってきた。
黒髪に黒目で皮肉げな面立ちをした長身の少年だ。ブレザー姿で、カバンを肩から下げている。リボーンはこちらに向かいつつも怪訝な顔をする。
「あっ?! こ、これは」
綱吉は冷や汗を交えて恭弥を庇った。
「ひ、雲雀さんが遊びに来てくれたんだっ。転校先から!」
「……その制服……。並中じゃねえか?」
ゲッと引き攣る綱吉だ。が、恭弥は顔色一つ変えずに小首を傾げた。
「僕の学年がどう動こうが君に関係あるわけ?」
「…………。ねえな」
こりゃ面白ェ、とリボーンがニッとする。
事態についていけない綱吉を置いて、恭弥に並んで腰に手を当てた。
「興味あるのか? こういうの」
「さあね」
「そっけねえ男だな」
言ったきり、二人は沈黙する。
綱吉は後ずさった。
(お、大物なんだか大雑把なのかわかんないんだけど二人とも?!)
「そういや、ツナ」
「あ? なに」
「部活を欠席しといてヒバキョーとデートとは大した身分じゃねーか」
「ぶぅっ?! なっ、だ、そ、それはっ」
「オレは部活があったからこの時間なんだゾ。おめーらがこんな場所に興味があったとはオドロキだが」
(オレの台詞だよそれ)
咎められた気分になって綱吉は唇を尖らせる。
館内放送も終わりに差しかかった。
わらべ歌が段々とか細くなって、やがて、閉館のアナウンスが上に被せた状態で放送された。
「終わり、か。はやいな」
言いつつ、リボーンは恭弥の肩を叩いた。
「まあ気が向けば新聞部にでも顔をだせよ。テメーの演武、評判よかったゾ」
「……それはどうも」
「髪の毛、切ったんだな」
「どうも」
「でもツナはバカだからあんまからかうなよな。マジにしちまうだろ?」
「だああ?! 何言っちゃってんの!」
慌ててリボーンのジャケットを掴んだ。後ろに引っぱり、そのまま資料室の外に押しだす。
「オレはオマエを心配してだな。雲雀恭弥は厄介なヤツと思うぜ?」
「リボーンがどーこー言う問題じゃないだろっ」
「そーかぁ?」
従兄弟は、意味ありげに後ろをふり向いた。
ひとまず、部屋の外にやって一方的に別れを告げる。そうした後で綱吉は雲雀恭弥に睨まれていると自覚した。
背中にツララが突き刺さっている。視線のツララだ。
「今のヤツ、きらいだな」
恭弥が小さく呻いた。
「悪気はないんですよ……。からかう気があるだけで」
「それって悪気に近いと思うけど」
肩を竦める仕草も不機嫌だ。恭弥は目を窄めてリボーンの去った方をあごでしゃくる。
「どうせなら一緒に帰ったら? 方向、同じだろ」
「え? ……送ってくれないんですか?」
綱吉としてはごく自然に言ったつもりだ。
だが恭弥は口角を噛んだ。苦しげに眉間を寄せて、声をうわずらせる。
「べ、別に、綱吉がそうして欲しいならそうするけどさぁ。電車使っても一時間はかからないだろ」
「まあ……。そうですけど」
恭弥が駄目というなら電車で帰っても構わない。順路を計算しはじめたところで急いで付け足された。
「送るから。暗くなるしね」
「いいんですか?」
「逆らうの?」
ギロっとした目つきを送られて、綱吉は首を左右に振った。勢いよく。もはや自動的な動作だ。この雲雀恭弥は、以前にも増してドス黒い迫力を持つような気がした。
博物館を出た。ここに来るには、車道の脇道に入って、突き当たりまでタイヤを走らせなければいけない。周りは林で辺鄙な場所だった。そのせいで人通りは皆無だ。
月が浮かんで鈍くあたりを光らせる。
幻想のつるが、白いモヤの中から輝いた。恭弥は空を見上げて目を細める。綱吉にはサウロポセイドンの頭が月に被って見えた。月が幻想にけむる……。これを見るのは恭弥と自分だけと思うと、特別な関係になれたことの証明に感じて少し嬉しい。けれど同じくらいに怖かった。
恭弥がバイクにまたがる。来たときと同じように、綱吉は後部座席にまたがって、恭弥の胴体に腕を回した。
「雲雀さん。あの。また、突然、消えたりしないですよね……?」
「僕に、そんなことを聞くの?」
なぜだか彼は少し傷ついたようだった。
十秒ほど、沈黙した末に首を振る。
「知らないよ。それは僕が決められることじゃない」
「雲雀さん?」
「走るよ」
エンジン音がこだました。
加速に置いていかれて背中がグンと反り返った。乱暴な発進だ。綱吉は胸中で冷や汗を掻いた。彼の気に障ったらしい。
(?! ひ、ばりさん。どうしたんだろう)
バイクは山盛タナカ高校に向かった。そこから、速度を極端に落として、綱吉の手差しで沢田宅に向かった。
「綱吉は、さ、」
雲雀恭弥は胃袋になまあたたかなモノでも詰めたような声で言う。綱吉がバイクを下りて礼を告げたときだった。
「はい?」
丁度、ポセイドンの幽霊が自宅にめり込んだときでもあったので綱吉はそちらに気を取られていた。愉快なんだか気味が悪いんだか、微妙な気分である。
「朝、起きて、思いだしたって言っただろ。おかしく思わなかった?」
視線を恭弥に上向ける。
すぐにはピンと来なかったが、ものの数秒で体内に電流を感じた。
(そ、ういえば、雲雀さんが来てくれたのって――)
夕方だ。日が沈んですぐの、夜に変わった直後の。
朝に思いだしたのならタイムラグが生じる。
バイクにまたがり、ハンドルに片肘をついて恭弥は頬杖を作る。その横目は深くて黒くて底が見えない。幻想が絡みつくからバイクはオブジェのような見た目になっていた。金属製品の継ぎ目からつるが伸びてタイヤは白いモヤに埋もれている。
「…………。どうしようかと思ったんだ。だって君たちに出会わなければ、僕は、今までと同じ僕でいられるだろ……。風紀委員の雲雀恭弥として生きていける」
鳥の啼く声がした。
電線に一羽のカラスが止まっている。ピィーッ、と、その鳴声は幻想のジャングルから聞こえたと理解するのに数秒かかった。
恭弥も同じなのか、カラスを一瞥するとクスリと自嘲した。
心臓を削られた気がした。もしかして、
「……雲雀さん……?!」
「またね。今日はもう帰る」
バウッとエンジン音がとどろいた。それに驚いてカラスが飛んでいく。沢田家にめり込んでいた恐竜の影がすっぽ抜けてバイクと同方向に流れていった。
綱吉は唖然とした顔で見送った。
絶句から立ち直るには数分が必要だった。その頃には思いだしていた。雲雀恭弥に見初められて幻想を共有するようになった――、あのとき。決して、うれしいとは思えなかった。
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