in倉庫



「まあ、今からすることをまとめるとだな」
 外ではしとしとと雨が降る。ディーノの金髪も濡れていた。他に、濡れているのは三人ばかりの少年たちで、彼らは一様に眉間を皺寄せて青年の言葉を待った。
「……一人、本隊と連絡を取る。一人、見張りにでる。一人、ツナの手当て」
「はい」すらっと一人が手をあげた。
「おう。六道」
「医療の心得があります」
 けっこういいかげんだが、まぁ、ウソではない。
 対抗してもう一人の少年も手をあげた。全身黒尽くめ、黒髪に黒目、まっくろな彼は静かな声で主張した。
「いっとくけど話すのは苦手だよ。見張りとか、そういう細かいのは僕には向いてない」
「……なるほど」
 言いつつ、ディーノも挙手した。
「さっき、腹に一発当たった。防弾チョッキに埋まってるだけだから、俺は無傷だがイテェ。動きたくねえんだが」
 しれっとして六道骸はうめく。二色の瞳も雨の湿気に煙って見える。
 三人は、互いの顔を見渡した。
「話し合いは平行線のようですね」
「誰か譲ったら? 大人気ないんじゃない」
「おめーら、年上を敬わねーのか」
 口々に呟きつつ、懐をごそごそ。
 10数秒のあいだに、彼らは、各々の武器を手にして仁王立ちをしていた。
「最後に立ってたヤツが残る。いいな?」
 あっさりとディーノが告げる。二人が頷く。
 ……この頃になって、ようやく、コンクリートの上で横たわっていた少年が手を挙げた。よろよろと、3人のもとへと這いずる。
「し、質問いいですか。何でここでそんなバトルが?」
「ツナが怪我してるから」
 当たり前のようにディーノが返した。
「誰が手当てするのか決めるんですよ」
「ついでに、誰が連絡して誰が見張りにいくのかも」
 言葉を咀嚼してから、真剣に意味を理解しよーとするかのように沢田綱吉はしばし黙り込んだ。若きボスは両手で懐を抑えていた。久方ぶりに、キャバッローネと懇親会をしようとしたらこの展開だ。襲撃から逃れるうちに、見事に、このメンツだけが綱吉の傍に残った。
 慎重に言葉を選びつつ、うめく。
「あまり……賢くない選択じゃない?」
 雲雀恭弥が半眼を寄越した。
「君が賢い賢くないをヒトにいうの? へえ。えらくなったもんだね、ボス」
 靴の爪先でコツコツと綱吉の額を叩く。
 見咎めたのはディーノだ。オイと不機嫌にうめいて、雲雀の肩をこづいた。
「オレの前でそういうことやめろ」
「へ〜え。よく言う。ボンゴレ諜報部を舐めないでよね。僕はあなたの隠された趣味を知って……」
「恭弥、あんま喋ると舌が切れるんじゃ?」
 にっこにことしながらディーノが首を傾げた。
 その手中にある鞭が妖しく黒光りする。六道骸は、フムフムと一人で唸りながら終いに愉しげな笑みを浮かべた。実にさりげなく綱吉の脇にしゃがみ込む。
「ボスは痛いのヤですよね〜。きちんとした手当てを受けたいでしょう?」
「…………!!」
 手当てを条件に脅迫される日が来ようとは。
 どこか遠い目をする綱吉だが、骸は、堂々たる仕草で胸に手を当てた。
「ヘタしたら死にますよ。僕なら痛みを軽減できる。君には魅惑的で、たまらなく欲しいものだと思いますがね?」
「い、医者は治療をネタにして患者脅したりしません……」
「医者じゃないですもん、僕」
 あっけらかんとした声で語ると、骸はニヤリとした。
 その肩に雲雀が手を置いた。一瞬で、ぐいっと立ち上がらせる。二色の瞳は特に驚くこともなく雲雀を見返した。
「僕に任せるのが綱吉くんの幸せでもありますよ」
「馬鹿だね。手当てなんて包帯巻けばいいだけでしょ」
「場数踏んでる方が判断できるぜ。そういうのはな」
 ディーノが目を細める。そうして、促すように鞭に片手を添えた。構えの姿勢だ。それを見て、雲雀と骸が距離を取った。
「どこまでやるの?」
 雲雀の問いかけに骸が頷いた。ディーノが答えた。
「互いにエモノを当てられたら負け。いいな」
「オーケー」
「わかりました」
 ちゃきーん。そんな音が静寂にこだまする。
 武器を構えた部下二人、同盟のボス一人を見上げつつも、綱吉は絶望的な気持ちになった。撃たれた脇腹が痛むのも、もちろんだが。
 なんでこう……。なんでこう。
 こういう結果になるんだろう!
 ぜえぜえ言いつつ、倉庫の入り口まで戻る。
 結局、そのまま見張りに立った綱吉がボンゴレの援軍を見つけたのだが。
「あいつら馬鹿じゃねーの!」怒り心頭で、リボーンが頭を抱えた。
「ツナのどこがいーんだよ? こんなダメツナ! どいつもこいつもツナのことだと無能になりやがって! 阿呆が! 無能って言葉の意味を千回噛み砕いて理解しろ!」
 彼のコメントに同意していいのか怒っていいのかは綱吉にもわからないと言う。







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