BIRTHday!






「……!!」
 何気なくカレンダーを視界にいれて、ツナはぎょっとした。
 手にしていた書類がばさりと落ちる。目に留めたのはヒバリで、面倒くさそうに両目を窄めてみせた。ぱん、と、硬い音をたてて手元の誓約書に判を押す。
「あと123枚。順番を一つでも間違えたら酷いからね」
「かわいそうな綱吉くんですねえ」
 手伝うわけでもなく、かといってヒマというわけでもなく、六道骸はひたすらツルを折っていた。ソファの傍らで、多量の折鶴がヒモからぶら下がっている。
 はたから見たら千羽鶴を作っているように見えた。
「今日って13日でしたっけ?!」ツナが喉を震わせる。
 よくも発言したな、とばかりに骸を睨みつけていたヒバリが眉を顰めた。
「そうだよ。あと10分で、14日だけど」
「あああっ?! 明日誕生日なのにツイテネーとか思ってる場合じゃない!」
 荷物を掻き集め、応接室の扉にかじりつくとヒバリが声を荒げた。
「どこいくのさ?! 終わるまで帰さないっていっただろこの連続50回遅刻魔!」
「罰は明日また受けなおします――!」
「なっ。ダメですよ。明日は僕と一緒にいるんでしょう?!」
 動揺したのか、骸が息がつまったような声をだす。一瞬、怯んだが、ヒバリは扉に殺到した二人のうち、長身の男目掛けてテーブルライトを投げつけた。がっ。短い悲鳴。ツナは、肩に置かれた骸の腕を振りはらい、脱兎のごとく駆け出した!
「しまった――! ケータイ家に忘れたし全然気付かなかった!」
「まあ、そういう事情ならわからないでもないし……」
「まだ綱吉くん事情喋ってませんけど?! どけ! このままじゃ零時に最初におめでとうっていえないじゃないですか!」
「はぁ……」気鬱げな溜め息が廊下の奥から響く。
 校舎をでて、下校路を一気に駆け抜けた。肩からかけたカバンが、ばたばたとはためくたびに胴体と強くぶつかりあった。大股でコンクリートの上を走るので、足の裏に衝撃がきて痛み出していた。
(っ、はぁっ、やばいな。間に合うかな?!)
 腕時計は、23時57分を差していた。
 背後から闇夜を無理やり明るくさせたような盛大な足音。
 ゾクッときて、振り返れば千羽鶴を持ったまま走ってくる骸と、その後を追うヒバリ――トンファーをだしている――が見えた。
「で、ええええ?!!」
 ギクリとしてスピードが落ちる。
「綱吉くん! ダメですからねっ、14日は0時から24時まで僕といると――」
「赤ん坊から変なの近づけないよう言われてるんだよねっ。ていうか、君、綱吉に迷惑かけすぎって思わないの? 常識がないよ!」
「はあ?! サルが常識を持ってるとは意外ですね!」
 ぶわ、と、膨れたどす黒いものは殺気と呼べるはずだ。足を止めたらトバッチリで絶対に間に合わない――、
(ひいい! なんでこーなるんだ!)両腕をさらに大きく前後させ、猛ダッシュすること1分! 汗だくになりながら、ツナは急ブレーキをかけた。きゅきゅきゅきゅ! 上履きの裏側から砂埃を吹き上げつつ、我が家の扉を両手で押し開けた、
「リボーン!! 誕生日おめでとう!!」全部屋に轟くほどの大絶叫だ。
 数秒、しんとした静寂が廊下に立ち込めた。玄関には、友人のものらしき靴がいくつか落ちていた。女ものも混ざっている。
「……おせーよ、馬鹿が」
 リビングからチョコンと顔をだした赤ん坊に、ツナは引き攣りながらも頷いた。
「ぎりぎりでセーフ……って、ことにはならない?」30秒前だ。
 リボーンは、僅かに唇をほころばせて首を振った。
「アウトだ。死んでこい」赤ん坊の後ろから、目をこすりながら奈々が顔をだした。寝ぼけたように両目をぱちぱちさせている。
「今の、クラッカー? つっ君、遅いわよ。みんなもう寝ちゃったわ」
「…………っ」
「赤ん坊の誕生日?」
「綱吉くん」意外そうに目を丸める二人の少年。
 彼らに倒れかかりながら、ツナは両目を虚ろにさせた。額に、黒ずんだ穴がある。しゅうしゅう、煙が立ち昇っていた。リボーンがにやりとする――、間をおかず、ツナの両目に光が戻る。
「――死ぬ気でっ、リボーンの誕生日を祝う!!」
 あと10秒! あらまー。呑気に拍手する奈々を置いて、ツナはダッシュでリボーンの両手を握り締めた。
「おめでとう!! 何歳か知らないけど! ワガママなヤツだなんて思わないから好きなこといってね! オレ、いうこときくよ! いつもリボーンには世話になってるから!」
 ボーン、と大時計が音をたてた。正気を失い、炎を滾らせる両目。リボーンはニヒルに口角を吊り上げた。
「ま、テメーには苦労させられてるよ。ほらよ。ハッピーバースデー」
『あ』ヒバリと骸が、同時にくぐもった悲鳴をあげた。
 額から煙をたてつつ、さりげなくその煙を拭いつつ、ツナは目を丸めた。
「何? これ……。プレゼントか?」片手で握れるほどの小さな箱だ。白い包装紙に包まれている。
 ぽん、と、ツナの頭を撫でるように叩くと、リボーンは踵を返した。友人たちの寝息らしきものがリビングから聞こえてくる。おそるおそると包み紙をめくる――、すでに14日になっている。今日は、リボーンではなく自分の誕生日だ。
「……弾丸?」金色に光った、小さな円柱状の金属だった。
(どういう意味だろう)首を傾げる、が、直後に背後からアッパーめいたものをぶつけられた。しばらくして、ガクガクと揺さぶられてからツナは骸に抱きつかれたのだと気がついた。
「酷い! 僕がいちばんに言うって言ったじゃないですかー!!」
「む、骸さん」「はい! どうぞ!」
 突き出されたのは、千羽鶴だ。驚いて骸を見返すが、彼は、もの悲しげに瞳を上向かせた。
「病気とか怪我とかしないように。僕はずっと君の傍にいられるわけじゃないですから」
(千羽鶴ってちょっと効力ちがくないか?)日本文化を変なふうに勘違いしてないか……、と、思った直後にヒバリと目があった。フン、と、少年が鼻を鳴らす。
「僕から君にあげるものは何もないよ。また、こきつかってあげる」
「…………」はは、と、口角が引き攣る。リビングから呼ぶ声がした。
「……、ヒバリさんと骸さんも、泊まってきますか?」
 尋ねると、彼らは少しだけ驚いたように目を見開かせた。間を挟んだのは数秒で、そろって頷くので、ツナもにこりとして頷いた。






06.10.13
リボ&ツナの誕生日に捧げて!

>>>もどる