おしょうがつ



「つーな!」
「あー。はいはい、おみくじな。オレはお前のATMじゃないんだぞ? ってか、母さんもおこづかいくらいさぁ……」
 ランボ達と別々にしてくれてもいいのに……、呟きつつも千円札の塊をポケットから出した。
「おや。ゴミがしゃべっている」
「!」
 甘さの含蓄がある声音――低くて、セリフの中身は大抵いつも大問題だ。
 ふり向けば、六道骸はブルゾンのポケットに両手を突っ込んでいた。オモチャみたいな色のオッドアイで、片眼には『六』の傷が付いている。
 綱吉の足下を確認していた。
「ほう。ほう」
「お、まえ、何でここにっ?!」
「子守ですか」
 ランボとイーピンが、呆けた顔になる。
 後ろの神社から、明るい声が走ってくる。
「ツナさーんっ! おみくじ、どうでしたぁっ?」
「さらに虫もつけてる」
「はひぃっ?! ろくどーむくろさんですねそこにいるのは!!」
 レース付きのダッフルコートのハルが、宿敵見つけたりと骸の房を指差した。
 空は晴れ晴れとひろがって雲は一つもなくて、骸の立ち位置は逆光なのだった。
「む、むきーっ。なんてことですか。せっかくのデートにお邪魔虫がくるなんて!」
「デートっつうか子守を一緒に頼まれただけっていうかな?!」
 言い訳めいた口調になっていた。汗も頬を滑った。
「…………」
 骸が、白々しいぞという面持ちで、少年と少女を見比べる。
 綱吉にはわかっていた。ハルもわかっているから強調する。
「デートですよこれは! ねぇ、ツナさんっ」
「えっとぉ……そのぉ」
「君って僕の――」
「そ、それ以上はここでいうなよ!」
 綱吉が焦りながらも人差し指を立てた。こうしよう――、我ながらなんてマズい提案だ、言う前から後悔するが言うしかなかった。
「骸も一緒に子守、するか?」
「で、」
 河原では、持参した凧の紐をほどいてハルがお手本を見せてくれた。糸を引っぱって走り、空の高いところまで持ち上げる。
 忍者みたいですね。どこまでマジメかさっぱり見当がつかない調子で、骸はハルたちを見つめていたものだが。土手に並んで腰掛けている綱吉の顔は青かった。
「で。これが、僕との初詣を断った理由ですかねぇ?」
「……母さんに頼まれたんだよ」
「僕と君って何なんでしょうか?」
 扱いにくい女の子かよ、内心でツッコミはしたが綱吉は喉でこらえる。骸は平坦な声でもって愚痴をつづける。
「キスもしたし、体の関係もあるのに、君は女子どもをいちばんに大事にする。それって男としてどうですか」
「男としては正解なんじゃ……」
「僕を恋人にしてる身分としては、どうですか?」
「…………。何が正解なんだ?」
「僕は、君と過ごしたかったんですよ」
 糸が瞬きのように光ってランボの凧があがっていった。
 骸は綱吉を見つめていた。手を這わせて土の上から手を探り、上から、握る。綱吉はいかんともしがたくも胸を焦がした。
「恥ずかしいから、そーゆうのイヤなんだけど……。お正月くらい、ゆっくりしたいよ」
「ゆっくり別々に、というわけですか」
「家族水入らずっていうだろ」
「僕をのかすんですか?」
「いいだろ、お正月くらい……」
「納得できませんね。君って僕のものなのにどーしてそう可愛くないんですか?」
「ほっとけ! あ」
 骸の頭すれすれに凧が落ちた。ハルだ。大漁の網でも引き摺るようにして、糸を両手で引っぱっては操作している。
「ツナさんと何を語らっちゃってるんですかーっ!! ゆるしませんよ!」
「……ッそもそも君は単なる友人でありながら、何を初詣に混じってるんだ! 立場を弁えたらどうだ!」
「ツナさんは、まだ誰とも付き合ってません! もうすぐ私を抱くんです!」
「はぁあっ?!」
「いい加減なことを叫ぶなーっ!!」
 愕然とふり向くどころか掴みかかってくる骸を、両手で押しのけながらも頭を左右に振り回す。
 ハルは聞いちゃいなかった。自分の言葉に照れてほっぺたを両手で押さえている。
「きゃーっ、そしてハネムーン! ふたりはラブラブなんですぅ」
「くっ、妄想されてるだけでもムカつく! どう考えても綱吉くんは抱くより抱かれる方が好きでって痛っ、何をするんですか」
「おおおお前もいい加減なことを叫ぶなぁあああああ!!」
 額まで真っ赤にさせて綱吉が骸の胸ぐらに掴みかかった。そんな正月の昼である。ハルと骸は、綱吉の自宅でおせちを食べてから帰って行った。
(あのふたり、似てるよなぁ)
 見送ってから、一生、胸に秘めておくだろう一言をこっそり胸中で呟いた。






>>>もどる