朝喚ランタ

 六道骸が用があるらしい。わかったのはハロウィンの夜で、クローム髑髏に尋ねられたからだ。
「ボス。元気がないの?」
「……え。そう見えるのか?」
「ううん。違うならいいの。さよなら」
 そそくさと去っていく彼女の背中を見送って――ぴん、と、頭の中でピンが弾かれる。
 直感によって導いた結論は、しっくりと嵌ってオレの胸に篭もった。
 彼女の本当のボスであるのは、六道骸だ。
 だから、夜が終わる前にと、彼女に言ってみる。
「骸はオレにどんな用件があるんだ?」
 するとそこにいたのは六道骸であって、彼は髪を肩口まで伸ばし、身長も少し伸びた高校生といった頃の姿になっていた。
 オレも、そうだ。もう高校生になった。
 ボンゴレファミリー十代目、正統なる後継者としてオレを疑うのはヴァリアーの連中くらいになっていた。
 不本意か、オレの意思でか、なりゆきか。
 わからないけれど、もう逃げられないところまできているとはわかる。
 骸は、クロームのしていたカボチャパンツに白い羽根をつけた妖精の仮装ではなくて(実際、彼女が彼に変化して、オッドアイにギクリとしたのは視覚的暴力がふるわれるかと危ぶんだからだ。カボチャパンツはさすがに見たくない)、襟を立てた紅いシャツ、黒い燕尾服。右の口角からは牙がでている。ヴァンパイアの格好だ。
 つ、つ、と、頭が後ろに後退る。予想していなかったワケではない。
 それだから、わざわざ仲間をまいて一人になって――二人きりになれる、つまり骸はオレの前にしか出てこないから、彼が出てきたがる状況を作ったわけだ。
 引き攣ってでもいいからと、にこッとして笑みを浮かべた。
「久しぶり。骸。お前だったんだな。この頃、妙な夢ばかりを見るよ。なにか言いたいことでもあるのか」
「特には」
 一言だけ言って、ジと、見下ろしてくる。
 オッドアイ。赤と蒼。キレイだけれど恐ろしげで、ヴァンパイアにはお似合いだ。
「まっ暗で声だけがするんだよ。お前がしかけてるんだろ」
「僕は」と、言葉を区切り、オレの胸から膝から足の先までを見やる。
「狼少年ですか。カワイイ姿をするのですね」
「ハルがこれがいいっていうんだから仕方ないだろ」
 仮装好きな彼女に付きあって、買物にでかけてしまったのが運の尽きだ。カチューシャに繋がった獣耳に手をかぶせて、ふせて、ふんとして息をつく。
「似合わないのはわかってるよ。で、お前はなんで――」
 捻くれた性格である骸との会話はけっこう骨が折れる。さらには彼は大してオレの話は気にしないのだ。
「似合うといったつもりなのですが?」
「……いいよ。見ろよこれ。しっぽまでついてるんだぞ。ハルだけの趣味にしとけばいいのになー」
「カワイイですよ」
「いや……」バカにするのはいい加減に、と、思ったが。
 はたとしてみれば、会話がおかしい。しかも骸は手で狼の尾っぽを握った。するすると付け根を何気なく握る。手が、後ろに密着するので気味が悪くなった。
「触るなよ。引っぱるな!」
「取れません」
「ズボンにつけてんだよっ。ちょっと縫ってあるんだって。わ、そんなぐりぐりすんなってばっ」
「カワイイですね」
「はぁ?!」
 さも大事なことのように顔を近づけてくるので後退りをする。
 遠くからは友人達の騒ぐ声。
「カワイイ。君のガールフレンドはいいセンスをしていますね」
「お、オタクなセンスしてるだけだと思うけど……。ってゆうか、シリに触ってるってば。気持ち悪いですよ」
 思わず敬語になった。血の気が引いて、なにするんだという顔をしてるのに、骸はオレの下半身ばかりを見ている。
「馬の尻尾でもよかったのではないですか。ポニープレイ……。クフフ。愉しそうですね」
「はあ? つきあわないぞ」
 じろじろ見られるので、取りあえずは拒否だ。
 骸は、ニヤリとした笑みをようやく浮かべて自分の口に手を入れた。ぐっとして粘膜を寛がせて、歯茎を見せてくる。
「仮装するならこれくらいはしませんとね」
「?!」一見ではわからない。顔を近づけてみると異常性に気付いた。
「おまっ。これ、差し歯じゃないな。ホントに牙が生えてるぞ」
「幻覚もこのように使えるのですよ」
「あ、相変わらず、規格外ってゆーかロクなことに能力使わな……い、な、おまえ」
「言うのはそれだけですか?」
 不満げにな骸を見返し、だからと、オレは言葉を区切る。だから夢でちょっかいかけてくるのはやめろ!
「…………」
 腕組みしたヴァンパイアは、少し考えるようにしてオッドアイを細めた。そして囁いた。
「それ、僕じゃありませんよ」


「クローム!」
 カボチャパンツの後ろ姿は、あれからずっとオレから逃げていた。
 ボンゴレファミリー主催のパーティーで、しかも財力にモノを言わせてホールを貸し切って、なぜだかわざわざイタリアからおじさん達が遊びにきたからあたりは人――いや、モンスターの仮装した人間もどき――だらけだった。
「十代目! あれ? 十代目―っ?!」
「よう、若旦那っ。……どした?」
「すいません、あとでっ!」
 隼人や馴染みの顔に断って、逃げていく少女を追いかける。
「クローム。ちょっと。話があるんだけどっ!」
「…………」彼女の背中には『後ろめたいです』とメッセージでも書いてあるようだ。とことんオレをかわそうとした。
 壁に追いつめられたクロームは、通りがかった顔なじみに飛びついた。
「犬、千種」
 声のトーンだけは、いつも通りに静かで落ち着きがあった。でもこめかみには冷や汗。焦っているのだ。
「あのね、あっちで悪口いってたよ」
 あろうことか、オレを指差す。
「お、おいこらあああ?!」
「犬は骸さまのオマケで腰巾着で口が悪くて乱暴で意地汚くてご飯の食べ方が汚いって、千種はアキハバラにいそうだって!」
「アァ?」犬と千種の仮装をしたゾンビ二人組が、ガンをつけてくる。ヒッとはしたが、また逃げていく少女に呼びかけた。
「クローム! 何を考えてんだよっ。オレに何の用が――」
「ゴリラゾンビだびょん」
「――だあああ!」
 二メートルを越す化け物がにじり寄ってくるので、背走したが。クロームはそんなオレには目もくれずに人の多いところに逃げていった。
「僕もわかりませんねー」
「……おいっ!」次に会ったのは、ヴァンパイアの六道骸だったので、体にワナワナと身震いが走った。
「クロームに戻れーっ!! 話ができないだろっ?!」
「おやおや。手伝ってあげようと思ってでてきたのに。僕のクロームの不始末ですしね」
「ってお前がクロームを乗っ取ってたら彼女と話ができんだろーが! 戻れ!」
 ムッとして骸は眉間に皺を寄せる。
「僕だってハロウィンに遊びにきたのに。君たちの一員ではありませんがたまにはね……。こういうときには……」
「だーもうイベントの毎にちゃっかり混じってら単なる道楽だってわかるよ! いいから戻れぇええ!」
「優しいのがウリの君が僕には冷たくするんですか? 気があるからって、やめてくれませんか、そういうの」
「ちゃうわああっ! 怒ってるんだよ!」
 二十センチほどの高みから見下ろす彼は、くふくふ笑うだけで取り合わない。
 白手袋の右手で、人差し指を立てた。
「さて、僕は、君が好きでしょうか?」
「あ? ……嫌がらせがしつこいぞ。いい加減にしろよ」
「なるほどなるほど。さて、では、クロームを怒らせましたか?」
「え? オレ、なんも言ってないけど」
「では、傷つけた」
「何も言ってないってば」
「ウソですねえ。君は今、僕を三回もドン引きさせましたよ」
「はあああああぁ?」
 スムーズに進んでいたのに何でその結論なんだ。ワケがわからない。
 オレが思いっきり顰め面するのが面白いのか切ないのか、骸は、自分の美貌を顰めて、口元の牙に指の間接を宛がった。
「これが、君じゃなけりゃ、僕も単に笑い飛ばして、心の底からバカにするんですけどね……。はあ」
「さりげに何をひどいことを……。で、クロームに戻ってよ。おい、骸。人前だぞ。ほらほら、マフィアだぞ!」
「マフィア風情がッ」とりあえず、お決まりのセリフは呟いてくれたが、たぶんサービス精神だろう。今日はハロウィンだしイベントだし。
 片腕を広げ、ボンゴレファミリーの皆を示すと、たまにそれだけで骸は帰っていくのだが。
 今日はしぶとかった。ちょっと後ろに下がってオレは骸との距離を作る。心持ちはVS六道骸なのだ。
「クロームを返せよ。オレはあっちに用があるんだぞ。何かお前にも言ってないのか?」
「教えてくれないんですよね。ああ、僕のクロームが僕に秘密を……」
 とか、哀しげに喋ったが、骸のオッドアイはじろじろとオレを眺めているので彼が本当は何を考えているのかは定かではない。
 また再び、人差し指を立てながら、立食テーブルからカクテルを取った。
「冗談は抜きにしても、君が悪いんだと思いますねえ。どんな夢を見るんですか?」
「黒いんだよ。他には何もなくて、ただ話し声だけがする。ブキミだろ。じわじわとした気持ち悪さってか、居心地悪い夢だよ」
 さりげなく、渡されたので、受け取る。自分が飲みたいワケではないようだ。自分の手ではクラッカーを齧るだけ。オレに渡したカクテルは一体。
「不快感はありますか」
「少しだけな。浮いてる感じはする。冷たいけど。ベッドに寝てるのかなんなのか、よくわからないんだ」
「ほう。あ、言っておきますけど、ボンゴレ十代目。クロームは君に預けているのですからね。大事に育ててくださいよ? 正体を知られずに幻術をかけつづけるだけの力量があるとはさすが僕のものです」
「おまえ、なんだかんだいって結論はほとんど自画自賛に落ち着くよな……」
 カクテルを両手で持ちつつ、嘆息をつくと、つい水面を口にしそうになった。
 甘くていい匂いがする。アルコール度数が高そうな澄んだ色。ほんの少しだけ、飲んでおいたら、すぐに言われた。
「もっと豪快に飲んだらどうですか。ほら。おいしいでしょう? 二杯目も持ってきてあげますよ」
「オレを酔わせてどーしたいんだよ」
 何気なく、呆れながら言ってみただけなのだが、骸のポーカーフェイスが微かに揺れた。眼の中の色合いが変じる。
「特には。……喉が渇いているのではと思っただけです」
「……ふうん」
 ピン――と、超直感が何かを報せたが、敢えて無視した。冷や汗が背中に滲んだ。これだから骸は苦手なのだった。
「クロームに戻れよ。クロームと話がしたいんだ。クロームに会いたいんだ。クロームがいいんだよ。クロームがいい。クロームはどこだよ」
「…………。君、実は、ぜんぶわかってたりしませんか?」
 ものすごく不服げに、六道骸。
 不機嫌になったヴァンパイアはオレからカクテルを引ったくると一口で煽ってしまう。
「クロームは?」
 わざわざ、オレが口唇をつけたところから飲んだので、また冷や汗がでてくる。
 はっきり確証が持てているワケではないけれど、骸が、スキがあればオレをベッドに連れていこうとしているのは知っている。というか体で覚えざるを得なかった。
「クロームじゃなきゃやだクロームがいいんだクローム泥棒クロームを返せクロームのがお前より目立ってるんだよ! クロームをだせ!」
 呪文のように連呼していると、やがて彼の心を折るのに成功したようだ。
「……帰る」いつものですます調もやめて、げっそりした青い顔で囁き――、さすがに悪いコトをしたなと思えたが、でも謝るスキもなくヴァンパイアの頭身が縮んだ。
 そこにいたのは、カボチャパンツの白い妖精だった。
 彼女はぎくりとしてオレを見返し――後ろに走りだそうとする。
「だめだよ!」
 すかさず、強く握ったら折れてしまいそうな手首を掴んだ。少女はアメジストの双眼をショックで丸くする。
「……はなして、ボス!」
「だめだよ。離さないよ。クローム。待ってくれよ……。オレは話を聞きたいだけなんだ。なにも怒ろうっていうんじゃないよ」
 骸とのやり取りでは、さりげなくオレも深いダメージを受けたので、ちょっと声に覇気はないが、できるだけ強く言う。
 オレに上目遣いを送り、やがて、観念したのか溜息混じりの鈴の声が唸る。
「ボス。ごめんなさい。元気がないように見えて。もしかしてわたしのせいだったら、どうしようかと思っていたの……」
「なんで、オレに幻術をかけたんだ?」
 テーブルからグラスを取って渡したけど、これは本当にまったくカケラの他意がなくて、チェリーの差し込まれたジンジャーサイダーのグラス。しゃなりとした手つきで受け取った妖精は、言うか言うまいかを、まだ悩んでいた。
 クロームはボンヤリしていて何を考えているかわかりづらい少女だが――、ボンゴレファミリー内部では、彼女は骸の傀儡に過ぎないといった見方がいまだに多く在る――でも、オレは、彼女なりのルールと考えがあって、だからボンゴレにいるのだと知っていた。今みたいな理知的な横顔を見かけるとその思いが強くなる。
「ボスは嫌がると思うよ」
「? あのまっ黒い世界が?」
「あれはね……。知って欲しかったの。わたしは毎日あの夢を見るの。わたしはいつも会いたいと思っているからだよ。少しでも共有していたいと思うから」
 クロームが、いつも会いたい人……。イヤな予感が……。
 予感を裏付けする一言が、滑り出していく。
「骸さまの毎日だよ」
 こく、と、ピンクルージュの唇がジンジャーサイダーを淡く口にする。
「骸さまはとっても寂しい思いをされてるの。……知っていて欲しかったの。ボスだけには」


「……骸! オレが悪かったから! でてこいよ。な? ちょっとだけでいいからでてこい!」
 さっきとはまったく逆で、オレはクロームのあとをついていきながら手を合わせてばかりいた。
「ごめん! 悪かった! せめて一言いわせてよ。骸〜っ。お願いだよっ! ……どう? でてきそう?」
 最後だけは小声である。
 クロームはケーキの乗った小皿片手に首をぶんぶんとした。
「反応ないよ。聞こえないフリをされてる」
「でえええっ……。そ、そんなに怒らせたかなぁ」
「ボスは、優しいね。優しいボスは大好きだよ。でも、わたし、骸さまにもそうしてもらいたくって……。余計なことしてごめんなさい」
「い、いや……」
 そんなコトは――、と、言おうとしたが、本音はその通りだったので言葉が濁る。
 クロームは、ふうと、気鬱そうにフォークを咥えた。
「骸さまはもっとボスと仲良くしたいの。だからわたしをボンゴレにおいているんだよ。わたしは、骸さまの代理人だから。代理人が可愛がられちゃいけないんだよ」
「……クロームは……なんというか……もっと自分のこと考えていいと思うけど」
 と、そんなふうにして話していると、ゾンビの扮装をした少年がやってきた。顔をクロームに突きつける。
「お。なにゼータクなもん喰ってんら。〜〜っぐしゅん!」
 派手に、ケーキに向かってクシャミをして、鼻の下を手で乱暴に拭う。犬はピースサインをしながら謝罪した。
「クソ女! 生意気だびょん!」
「…………あ。ああぁ」
「こっ、こらーっ! 小学生かお前は?!」手を震わせながらも赤舌を見せて逃げていくゾンビに叫ぶ。向こうは勝ち気である。
「ケッ。イイコちゃんが怒っらぜ!」
「あっ。ま、まあまあ。またケーキ貰おうよ。ね?!」
 呆気に取られた思いを引き摺りつつも、急いでテーブルを確認した。
 と。
 ふいに――。思いついた。
 超直感ではなかった。そっちの勘ではマズイだろと寧ろ言う。けれど、オレには、有効だとわかった。
「――背に腹は替えられない、かっ。クローム、ちょっといいか? 骸に一言でも謝れたらそれでいいんだ。手伝ってくれる?」
 ショックで青褪めていたカボチャパンツの妖精は、突如としてとなりの狼少年に後光が差したといった反応をした。
 頬を紅色にして言葉を失い、こくこくと、首を縦にする。


 パーティホールは並盛町にある。オレの家までは十分。
 ハロウィンの仮装のまま出るのは恥ずかしいが、深夜なので人はほとんどいない。わあ……と、たまに騒ぐ声がする。別のところでも誰かがパーティをしているからだろう。
 夜闇の中を、少女の手を引いて走っていった。
「ボス、その尻尾、かわいいね」
「あ。そ、そう……?」
 ゆさゆさと尻尾が揺れている。
 うん。と、クロームは嬉しそうに頷いた。
 今日の月はよく輝く。ハロウィンのランタンのようにして、雲が動く度にゆらゆらと朧に変化した。コンクリートの舗道は、明るくなったり、暗くなったりした。そうして揺らぐオレ達の影はハロウィンの亡霊のようにして長く伸びた。




 そうして人が出払った我が家へ戻り、オレの部屋に行き、ベッドに正座した。クロームは扉のところに立った。
 考えてみたのは数秒だ。よしと、覚悟を決めて、後ろにしなだれるようにして足を崩す――狼の尻尾をベッドに寝かせる――結果として脚は開けなくちゃならない――ものすごくバカらしくて、頬に熱が昇る。
 でも、言ってみる。
「しっぽ、興味あったんだろ? いいよ、好きなだけ触って。朝まで」
 ――みるみると、少女の頭身が伸び上がって彼は姿を手に入れるなり飛びかかってきた。
「……いただきます!」
「コッッ、コラ! そこまでは言ってないだろ!」
「好きにしていいって」許可は出てるといわんばかりに、彼は当たり前のようにズボンに両手をかけてくる。
「ひっ、こらっ、考えりゃわかるだろ! ウソに決まってんだろが!」
「綱吉くん。やっぱり僕を愛してるんですね」
「!」ぎくりと、したのはさりげなく唇で触れあってきたからだ。驚きから立ち直るヒマも与えずに彼は喋る。唇を押付けてきたままで。
「君の気持ちはわかっていましたよ。そこまで言うなら仕方ありませんッ。抱いてあげましょう! クフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
「ちょ、ちょおっ……!!」
 のしかかってきて、狼の尻尾を鷲掴みにして――つまりは下を脱がそうとしてくる。カボチャマーク付きのトランクスが露わになった。
「ひぃいい?!」喉が、裏返る。
 と、とにかく――。目的が果たせりゃそれでいいと思い直して、強く拳を握った。
「よく聞けよ骸!! ごめん!!!」
「ぐふっ!」ハイパーモードに移行しての渾身の一撃は、さすがに、細い彼の体を吹っ飛ばした。ベッドの端によろめきながら骸は鼻頭を手でさする。
「ぼっ、僕の顔になにするんですか。今のは一体なんの謝罪なんですか?!」
「解釈は任せる」
 さすがに、一筋の冷や汗が垂れたが、まあ言い訳できないのでお任せである。
 骸の勢いは削げたので、フウとして、息をつく。
「はふう。スッキリしたー。……って、おま、そんなガッカリするなよ。こええっ」
 ベッドに片手をついて、肩を落として――顔を青褪めさせている――演技にしては上手いが、まあ、演技だと思っておこう。ヴァンパイアは力無く愚痴った。
「君のことは六道輪廻の果てまで呪ってやる……」
 ……いや、愚痴ではなく、呪いだったようだ。
 まぁ似ているものだ。
 正直な感想を口にした。やれやれだ。とんだハロウィンパーティーだけども。
「しつこいくせに繊細だよな。おまえ。わりと」
「君はニブニブで気が弱いくせにたまに極悪ですよね。かなり」
 何をいうか。お互い様だろうと思った。
 実のところ、代理人を立てるのでなく、六道骸本人にボンゴレに入って欲しかった。そうすればしてやれることは増えるのだ。

 


 

 


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09.10.31