拍手お礼で書いた小話、
「ね、綱吉くん。もうすぐ9月27日ですね」
「はあ……。そうですね。新学期が始まるんですよねえ」
「まぁそれもそーなんですけど、2006年9月27日ですよ」
「はぁ……。そうですね」「何か、僕に言うことは?」
「いや、べつに……」「伝えるべきことは?」
「無いけど……」「僕に好き嫌いはありませんよ」
「何を言ってるんですか、一体」
「何でもご自由に贈ってくださいということです」
「何語を喋ってるんですか、一体」
「見事に人気投票でダブルトップをとりました」
「会話をしろ会話を! むーくーろーさーん! 聞いてンのか!」
「聞いてますよ。で、式の日取りはいつにしますか?」
「…しー、し。し、死期のひどり? 四季のヒバリさん?」
「……無理のあるボケですよ、それは……」
から、発展した話です。「ヒトフタ」「一人と二人」
ヒトフタ
「つなよしくーん! やっぱり純白ですよねウェディングドレスは!」
どこから持ってきたのかわからないが、ページがボロボロでやたらと古びた分厚い雑誌を持ち込んできて、彼はそのまま夢見る乙女のような眼差しで綱吉を振り返る。部屋の中央で、ひとり漫画を読んでいたが、綱吉は機械じみた動作で跳ね起きた。綱吉はポケットを探った。
「ちょ、ちょっと待って骸さん。オレ、まだ用意が……」
「そんな。用意だなんて。君の身ひとつさえあれば!」
本当のことを言えばハダカでもいいんですよー、と、猫なで声で続ける彼が、狂ったと周囲のウワサになっているのは有名な話で、綱吉がつきまとわれのストーカー被害を受けてるというのも有名な話で、周囲で彼の身の上を心配するものが多数あるというのも有名な話だ。
よし。綱吉が、張り切って赤笛を骸に見せた。
「? なんですか、それ」「不審者出現の合図にならすためのフエです」
にこにこ。骸はひときわに笑顔を見せる。危険信号だ。綱吉は振り切るつもりで汽笛を鳴らした。ぴゅーうぅぅううぅぅ、……っ、と、笛の音は徐々に小さくなった。
綱吉が青褪める。笛の反対側、空気の出口を骸が両歯で摘んでいた。
「いやらなぁ。ほふはひみのはんなはんれしょう?」
「ふぅ……っ、ふっ」
強く笛を吹いても、骸に吸い込まれるだけだ。
骸の笑みがにこにこからにやにやに変わっていた。
こうなると危険信号どころではない。地震で信号機ごと倒れるのだ。綱吉が後退るが、それより早く骸が肩を掴んで、綱吉の上体を押し倒した。
「ふむっ……?!!」
親指と人差し指でラクに摘めるほどの汽笛だ。
がばっと大きく口を開けたのを綱吉が見る、そのとたんに、笛を伝って生暖かいものが咥内に押し入った。がちゃっと鈍く音を立てて笛が上の歯列に叩き付けられた。
「んぐ、んん?!」半泣きで骸を押し返す綱吉だが、すでに組み敷かれた後で、抵抗するには遅すぎた。遠慮せずに自重の全てを綱吉の腹に乗せて、骸は思いのままに蹂躙をつづけていた。がちっ、がぢゃっ、と、二人の口唇のなかを行ったり来たりとしながら、汽笛が窮屈な音をあげた。
十分を越えた児戯は、骸が笛を咥えたことで終わりを告げた。
「…………」好色で赤く濡れた瞳と、欲望で青くぎらつかせた瞳と、二つのものが吟味するよう綱吉を見下ろす。右の手の甲で、顎を伝った唾液を拭い取る。ぜえ、っぜえと息する綱吉の上から、骸はまだどかない。
霞んだ視界で見上げながら、綱吉は、再び汽笛を差し出されて当惑した。
骸の両目が語る。受け取れ、と言っていた。
両手の手首を、体の脇に添える形で骸の両手に拘束されていた。途切れがちな息をしながら、綱吉がおそるおそると骸の口が差し出した汽笛を齧った。歯と歯のあいだに挟むと、コリ、と感触がした。
「…………、うん」上体を起こして、骸は再び手の甲を持ち上げる。
綱吉の顎を濡らす唾液を拭う。先ほど、骸のものを拭った手のひらと同じなので、奇妙に生暖かく湿っていた。
「やっぱり、色のついたものがいいですかね。綱吉くんは僕のお手つきなんだし。何色がいいです? ヨーロッパでは、色のついたウェディングドレスは『二回目』だってことの証なんですけど……」
「……ひ、ひとの人権を無視しないでくださ……」
「やですね〜。君の人権まできれいに娶ってみせますから!」
それってつまり人権なんか知るかーって意味ですよね!
胸中だけでツッコミをいれて、綱吉はパタリと脱力した。もはや、付き合っていられない。リボーンにもらった汽笛も、使った直後でこうなるんじゃ、今後も期待のしようがない。
「そもそも、常識の範疇で作った護衛品なんて常識がない人には……」
ぶつぶつとうめく綱吉をおいて、骸は自分の世界に戻っていた。なんだかんだと言って、彼とまともに話せるのは情事の直後だけかもしれないと気がついて、恐ろしくなる綱吉だった。
おわり
ひとりとふたり
「……――――っはぁ」
ベッドの上で力尽きて、骸が倒れこんだ。
その下敷きにされるほうは堪ったものではない。暴れる綱吉を不服げに見下ろして、しかし骸はコロンと横に転がった。そのために建てられたホテルにはそのためのベッドがあって、とても広いので、そのまま四回転をして転がっても落ちそうにないほどの大きさがあるベッドだった。
「さすがに、五夜連続はキツいですね……。寝不足で」
あくびを噛み殺し、頭上の時計を確認する。綱吉がよろよろとしながら骸の肩を掴んだ。
「あ、の。む……くろ、さん」
「寝た方がいいんじゃないですか? 今日も可愛かったですよ、綱吉くんは」
甘さを含んだ声音とともに、綱吉の頬を平手がなぞる。ぶるり、背筋を震わせながら、綱吉は意地を見せた。語尾を強めて、骸を怒鳴る。
「ウェディングだとかドレスとか、そーいうこと以前に男同士は結婚できないしオレは骸さんと付き合ってるつもりですらないんですからね?!」
「あれ……。今更、そんなことを聞くんですか」
このときだけは、骸はテンションが低くなる。疲労と眠気と、満足感が彼をそうさせる。
「そんなことじゃないでしょっ。何なんですか骸さんは――、一人で話を進めて!」
「そりゃあ……、君の了承を取るつもりがないからですよ」
「んなぁ?!」
「だって言ったら綱吉くんやだって言うでしょ……。そんなのに、いちいち付き合ってらんないですよ……、僕だってそのたびにいちいち傷ついてくの面倒でしょうがないんですから……」
枕を探しながら、うつらうつらとしながらの問題発言だ。綱吉の二の句が、胃の中まで引っ込んだ。な、な、と、『な』を十回も言うころには、骸は、枕の替わりとばかりに綱吉の腕を掴んだ。両目が据わっている。
「うだうだ言わないでくださいよ。僕だって怒りますよ」
「そ、それは、どっちかっていうかモロにオレのせり……ふ……」
「ああ、まあ、君が怒ってんのはわかりますけどね。ふつうなら怒るでしょうし……」
「…………」もごもごとした語り口で、骸は綱吉の両腕を引っ張った。自分の頭を抱きこむ形にさせて、ねだるように胸板に額を擦り付ける。ネコのような仕草だった。
「そう、わかってますよ……。怖いんでしょう? 不安なんですね」
寝ぼけながらも、受け答えはきちんとしていた。綱吉が息を呑む。
その気配は骸に伝わった。オッドアイを上向けて、彼は力なく目尻を笑わせた。
「だいじょうぶですよ。幸せなんて後からつければいいだけのもんですから」
綱吉は半眼を向けた。それくらいで誤魔化せるほど事態は甘くないと綱吉は思うのだ。が、骸は完璧に寝る体勢に入っている。
「ちょっと……。まだ会話が終わってないです、よ」
後頭部の髪を、グイグイと引っ張るが、それも無視された。
「おーいってば……! ふあ……っ」あくびを零しつつ、ばしばしと頭を叩くが、やはり無視だ。あげくの果てにスースーとした音が聞こえてくる。腕の中の身体が、重みを増していった。
「も……っ。骸さん!!」
睨み付ければ、あどけなさの残る寝顔がある。
口ごもりそうになって、しかし、綱吉は苦々しく呟いた。
「この人、実は悪魔憑きとかそういうオチじゃないだろーな……!!」
昼間は悪魔に体を乗っ取られているのでマトモに話ができませんとか。
せめて、フツウのときもマトモに会話が成立できるひとだったらよかったのに。
そうすれば態度も違うのに、顔もいいんだし頭もいいんだし勿体の無い、つらつらと綱吉が考えるあいだに、眠気がいよいよ壮絶な勢いを持ってきた。よくわからないあいだに結婚することになってるこの事態。やめようと、骸を説得するまでに何回寝なくちゃいけないのか綱吉には見当がつかなかった。
「……説得自体……、できるか、ものっそい微妙だけどな……」
苦々しくうめきながら、こてり。骸の頭の真上に顎を置いて、綱吉も眠り込んだ。
おわり
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06.09ごろ
ちなみに、拍手話には
「……なんで、君がここにいるんですか?」
「呼ばれたから」「呼んでないですけど」
「ひ、ヒバリさん! 助けてー! 犯される!!」
「人気投票でワンツーフィニッシュしたのは、僕だよ」
「は?」「君と綱吉は、ダブルトップだろ」
『……あ゛……』
なんてオマケもありました(笑)