GWのいべんとぺーぱーでした






 ゴプッ。水の弾ける音。
 骸が来る、ツナは思う。骸が囚わる水の牢獄――
(いや、あいつ出たぞ……牢屋……)
 ツナが、目蓋をこじあけるとベッドに誰かが覆い被さっていた。暗くて何もかも判らない。深夜だろうか。
「おや。いい朝ですね、綱吉くん」
 片手を顔の脇に置いてる影から、骸の声がする。
「ほらゴールデンウィークはでかけたいって話してたじゃないですか。僕、文字通りのゴミの大混雑は大嫌いなんですよ。でも人間ってフシギなもので出かけないと勿体ない気がしたり、大勢に揉まれて疲れ果てるとやっぱ家でヒキコモりゃよかったーなんて後悔したり、勝手極まるものじゃないですか?」
「…………」
 肘で後退り、ベッドの隅へ。骸から少しの距離を取る。寝ぼけたまなこで骸を見据えようとして戦慄した。
「……魚だ……」
「そうです」
 彼は、得意満面に右腕を広げる。
「人ゴミを回避して尚且つ綱吉くんとデートでさらに短気な君が容易く逃げられない箇所――、空の上は残念ながらNGですからこうなりましたよ! どうです、まさしく四面楚歌でしょう!!」
「海か」
「そうです、深海です。太平洋です!」
「アハハッ。スケールばかでっかいなァああああああああああああで済まされると思ってンのかァアアアアアアアホか?!」
「ちなみに、有幻覚で空気の膜を作ってこの膜に対する重力荷重をいじくることで浮いたり沈んだりできるんですよ」黒ジャケットの胸ぐらに食ってかかられつつ、にこやかな解説である。
 いつしかカゴのバスケットが手に用意してある。ぶりっこして言う。
「お弁当も持ってきましたっ。千種が作ったので美味しいはずですよ」
「朝からンなモン作らされるゴールデンウィークの千種さんかわいそっ?!」
「黒曜は365日勤務ですが? 綱吉くん、暗闇に目を凝らしてみてください。人面魚のブロブフィッシュにお人形みたいなオパビニアが僕らを見てますよ」
「むしろピクニックのメシがマズくなるよぉおおお!!」
 怪物魚におののくツナが骸に抱きつけば、すかさず骸の腕も抱き返した。しかし自分たちの顔の間にポツンと懐中電灯を灯したのも、骸だ。
 爪楊枝くらいの灯りだ。
 しかし、漆黒の海にはちょうどいいかもしれない。
 ぼやぁ〜……ふたりはうっすらと浮かぶ。
「ふたりきりですねぇ」相変わらず、骸は、顔だけは酷く整ってキレイな男だ。その顔ですんなり言い切った。
「溺れたくなかったら僕とデートしましょうね。綱吉くん」
「…………!!」
(そもそも約束もしてないしもちろん付き合ってもいないし何でこんな監獄みてーな場所で骸と……)
「お着替えはします? パジャマでデートもオツですが。あ、僕が幻覚で服をつくりましょう。何でもオーダーしてください」
 嬉しそうに唇をめくる骸に、ひとまず頷くツナである。どう考えてもお前の趣味100%だな、という服に包まれて深海の砂にスニーカーをおろした。琥珀を潰したような美しい砂ばかり。
 目に見えない空気の膜で覆ってあるというのが信じがたい。
 骸はいやに楽しげな笑みでツナに並んだ。
「ここならヒトの目なんて気にしないでいいから天国ですよね、綱吉くん」
「監獄…」
「あっ、綱吉くん、足元にハルキゲニア」
「ってゆーかむしろホラーハウスか!! 絶叫アトラクションかああああ!!!」
 歩く触手から逃げてまた骸の飛びつくツナだ。そんなふうにして、ゴールデンウィークは過ぎてしまった。





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