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**1のあらすじ**
  夢の中でヒバリと二人きりのツナ。
  サービスシーンを披露しろとの指令により全裸にされてしまう。
  目覚めたツナは、リボーンから「罰ゲームの手紙」の存在を教えられるのだった!

 

 

 ――ゆらりと水面を揺らし、立ち昇る芳香に目を凝らす。
  ツナはティーカップを見下ろし、ヒバリは天井を見上げた。
  二人の間に響くのはチャイムである。
「……また?」
  真向かいに座り、ツナは神妙に頷いた。
  ヒバリがカップを取り上げる。眉根は歪められていた。
  慎重に傾け、口先で舐め取りポツリと囁く。
「確かに前と同じ味だね。ちょっと渋めで若草の香り」
「ヒバリさんて紅茶好きですよね」
「幅の広さが好きなの」
  静かに、喉が上下した。
「綱吉も早く上手に淹れられるようになってよ」
「お、俺は麦茶とかペットボトルとかでいいですよ……」
  はっとした。
  無言でトンファーが組み立てられていた!
「ヒバリさん!」
「何かな」
「実は俺なんです」
「何が」
「ここに呼び出したのは俺なんですっ」
  あからさまに、ヒバリはツナを睨みつけた。
  トンファーにびくびくしながらも、ツナは懐から黒い手紙を取り出した。ボンゴレファミリーが罰ゲームで使用するらしい手紙である。震える手で広げられた用紙には、ただ一言だけが書かれている。
「”この夢が終わるためには サービスシーンを披露しろ”」
「その奇妙に崩壊した文章も同じね。じゃあ、さくっと脱ごうか綱吉?」
「い、いやいやいや、それじゃダメなんですヒバリさん!」
「? どういうこと」
 ごく、と固唾を飲み込んだ。
「脱ぐのはヒバリさんです」
「へえ」
  感慨もなく、ただ眉を跳ね上げる。
「もしかして僕に仕返しをする気かな」
「そ、そ、そんな気は滅相も」
「本当に? 見たとこ君はこの空間に動揺してない。まあ、前の夢とつながってるならっていう仮説の上でだけどね、この前とはえらい違いじゃないの。まるでこうなることを知ってるみたいだよ」
「……そ、それは」
  ソファーの上で、正座を崩した。
  冷や汗を流し蒼白な顔をするツナに、にやりとした笑みが返される。
「わかりやすい反応ばっかりだね、君は」
  ツナは数分ほど固まった。
  ヒバリは紅茶を飲み、少年の動向を見守る。
  さりげなく、動かない指の間から手紙を取り上げた。
  手紙を眺める少年を前に、ツナはようやっと正気に返った。
「なんでヒバリさんが持ってるんですか! と、とにかくですねっ」
「発端はこれだよね? 赤ん坊関連なのかな」
「手紙をだした人に決定権があるんですっ」
「綱吉の意思に従わないと目が覚めないワケか」
「そのとおりですっ」
「ずいぶんと君もえらくなったものだね」
「ゆ、夢ですよ。ヒバリさん、これは夢ですよ?!」
(これっていつもと変わらないどころか、もしかしていつもより悪い?)
  冷や汗混じりにツナは胸中で囁く。
  彼の予定では、ヒバリに脱げと迫るはずだったのだが。
  身に染みた習慣が泣けるのか肩を怒らせるヒバリが怖くて泣けるのか。いつの間にとり戻したのか、罰ゲームの手紙をしまうリボーンを見つけて、かすかな復讐心に身を任せたことがそもそもの間違いだったのだ。
「まだサービスしてない人がサービスしないといけないようになってるんです」
  今回に限っては、ツナがそうした設定をしくんだのであるが。その点はふせておく。 
  夢から覚めたい一心で、ツナは深々と頭をさげた。
「お願いします。サービスしてください」
「別に、脱ぐくらいは構わないけどね……」
  襟首に手がかかる。
  いくらか眼差しは据わっているが、ホッと胸を撫で下ろした。
  額の汗を拭い、思わず晴れやかな笑顔を浮かべたりしてしまっているのだが、本人は自覚することなく宣告した。「ヒバリさん、全部ですからね」
「…………」
  トンファーをテーブルに寝かせ、シャツを被せる。
  露になった上半身は華奢ながらもしっかりと筋肉をつけていた。
  トランクス一枚だけになってもヒバリは動きを止めない。
  堂々たる行動に、果たしてこれが復讐になるのかと――実のところ当初から抱いていた疑問が、ツナの脳裏を掠めないでもなかったが、気が付かなかったこととした。
「脱いだよ」
「えっ、あ! ハイッ」
「これからどうするの?」
「は。……視聴者を意識してポーズをとる、とか……?」
  下半身を隠すことなく佇むヒバリに、逆にツナが視線を反らした。
  意地悪く口角が吊りあがる。
  テーブルを踏み越えツナの前へ赴き、顔の真横に手を置いた。
  小さな身体は、完全にヒバリの影に入り込む。
「あ、あのっ?」
「そういうサービスは求められてないんじゃない?」
  状況についていけず、ツナは引き攣るだけだ。
「裸になってるんだから、サービスしてますよ!」
「わかってないね綱吉は。恥らいのない裸体はつまらないでしょ」
「どーゆー理論ですかそれはっ!」
「過激なくらいで喜ばれる」
「ちょっ。じょ、冗談はやめてください」
  パジャマをめくられ、するりと入り込んだ指は胸元までを這い上がる。
  ギョッとして身体を捩るが、ヒバリが目を細めただけだった。
「本気だよ。せっかく脱いだんだし、試してみない?」
「な……。なにをですか」
  ニコと目が笑う。
「男同士で気持ちよくなれ」
「ぎゃあああああああ―――――っっ!!!」

 

 

「失礼な」
  パチリと目を開けた。
  動かぬままで辺りを見回す。
  元の自分の部屋だ。手の平には温かな肌の感触が残っているようで奇妙な心地である。
  しばらく無言で天井を見上げ、元通りに服を着込んでいることを確認した。
(まあ、今回もそんな悪い夢じゃなかった)
(さすがにいきなり叫ぶのは失礼だと思うけど)
  明日には、何かの腹いせをしようと少年は静かに決意した。


「うぎゃああああっっ?!!」
  獄寺は飛び上がった。どえらい夢を見てしまった。
  ツナは可愛かったが、夢の中でまで見れることができて至福の至りでもあるのだが、そういう問題でなく。
「ヒ、ヒバリの家ってどこだ」
  青筋をたてながらも顔が真っ青だ。
  とりあえずとばかりに、獄寺は枕もとのダイナマイトを引き寄せた。
(ダメだ。知らねえ)逡巡は短かった。(応接室にでも放り込んでやるっっ!!)

 

 仮眠をベッドに取ることにしたのだ。したのだが。
  睡眠開始からわずか十分。隣室にまで、
  ガンッッ!!
  と、打ち付けた音が轟いた。
「ボ、ボスっ?!」
  駆けつけたロマーリオが驚嘆する。
  ディーノは顔を盛大に顰めたまま、ベッドから落ちた姿勢を維持していた。
「何やってんスか! 三日連続の徹夜はさすがに脳にヤバイ影響が?!」
「いや……。たぶん違う。リボーンのやつなんだろーけどよォ……」
  低くドスの効いた声音だ。腕を動かそうとして、ベッドの上にあった下半身が滑り落ちた。
「夢見が……。悪い……。久しぶりのツナでこれって……」
(ヒバリって誰だっての。前にも夢で見た気がするが)
  眉間をこれでもかとシワ寄せる。
  見るからに不機嫌なディーノなど滅多にお目にかかれない。
  恐怖よりも物珍しさを先立たせつつ、ロマーリオが声をかけた。
「ボス。目の下のでっかいクマ、酷くなってますぜ」
 

 

「見事なやられっぷりだったな。笑えねー」
「うああああっっ!!」
  ツナはベッドの上で頭を抱えていた。
  顔は真っ赤である。胸元を這った余韻を消すかのように、パジャマの前をより合わせて転がっていた。
「ちなみに、あのままヒバリのいうサービスを続けてても起きられたぞ。誰かが絶叫するか手紙の指令を実行するかで目が醒めるからな」
「うわっ、続けるとか言うなよっ!」
「想像するか?」
「ぎゃあああああ!!」
  頭を抱えるツナを、リボーンはハンモックの上でにやにやとして見下ろした。十二分にからかいがいのあるオモチャである。早朝の楽しい暇潰しになりつつあった。ツナ苛めとも言う。
 

 

 朝日が昇り、学校に通い。
  風紀委員長とツナができていると一日で出回った噂を消してまわり、なぜだかヒバリに捕まり、当の応接室が爆破されてたり放課後には獄寺が病院送りになっていたりと、多忙な一日を送ったツナだったのだが。
  下校途中に出会ったハルの絶叫が、決定的な一撃となった。
「ここで会ったのも何かの縁ですっっ、お伝えしたいことがありますっっ」
「ええ? もう、俺、今日はクタクタで……」
「ホモで変態で露出狂でもハルはツナさんを愛しぬきますから――っっ!!」
「…………」
  ハルの大声で、辺りの人影がダッシュで遠のいた。
「……うっ」
「はれ?! ツナさん! 何がアンニュイなんれすか?!!」
  仰天するハルだが。ツナがしくしくと泣くので、なぜだか駅前でアイスクリームを奢るはめになるのだった。
「よくわかんないですが、これも未来の妻の務めですのでどうぞ」
「睡眠恐怖症になりそう」
  ミントアイスを受け取りつつ、少年は心底から呟いた。

 

 


 

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