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 授業のチャイムが鳴りひびく中、ヒバリは優雅にティーカップに口づけた。
 ソファーに腰掛ける隣にはツナが身を縮めている。その手にはやはりティーカップ。
 しかし、カップとヒバリを見比べるばかりで飲む気配がない。
 ヒバリは、気にする様子もなくカップをソーサーに戻してみせた。
「で、今日は僕が呼び出したことになるのかな」
「はぁ……。どんな用件ですか」
 この場合は無断欠席になるか否かを考えかけ、どこかうわの空のツナである。
 やはり気にせずにヒバリは言葉を続けた。
「ウェブ拍手をむりやり設置したそうなんだ。それで、僕らがここにいるわけ」
「微妙につながってなくないですか?」
「とにかくそういった理由でこの空間にいるわけだ」
「はぁ……。ただの応接室に見えますけど」
「そう? 僕にはちがく見えるけど」
「ええっ?!」
 仰天して見回すが、やはり、いつもと同じだ。
 革張りのソファーにモコリとした絨毯、教室の蛍光灯は明らかに一線を駕している照明調度。
 その豪華さも煌びやかさもなぜか風紀委員長に占拠されているという違和感具合も。
「なにも違くないですよ?」
「そういうことを軽々と言うからダメツナ呼ばわりされるんだよ」
  ため息のあとで、嘆くように頭をふる。ヒバリは天井を指差した。
「模様がちがう。デスクの配置もちがう。ソファーも、メーカーがちがうね。もっと座り心地がいいんだよ」
「そんなの、ヒバリさんにしかわかりませんよ……」
「まぁ、もっともだね。でも、その次に頻繁にココに来てるの君なんだけど」
「は、はははっ。で、どうしてこの応接室っぽい応接室に俺らがいるんですか?!」
「僕の記憶が順序良く並んでいるなら、たぶん、これは夢だね」
「ゆめえ?」
 突拍子のない話に、ツナは思い切り顔を顰めた。
 しかし、そうしたとたんに自分がパジャマであることに気がついた。
「あ、あれぇ……?」
「納得できた?」
「……はぁ」
「ちなみに、僕はお茶をいれてないよ」
「ええっ?! じゃあ、これ、誰がいれたんですかっ?!」
「さあ」
「さあって、そんな簡単に終わらせていいの--っ?!」
「仕方ないでしょ。君だって部屋に入った記憶すらないんじゃないの」
「あ……」言われて、ツナは記憶を辿ろうとしたが。
 なにもなかった。気が付けば、応接室でヒバリさんの横にいた。
 ツナはすとんとソファーに座った。チャイムがまだ鳴っていた。
「狐に化かされた気分……」
「さて。で、僕のポケットに手紙が入っていたわけだ」
 パジャマと同じ黒い手紙をとりだし、広げてみせる。ツナも覗き込んだ。
「”この夢が終わるためには サービスシーンを披露しろ”」
「…………」
 でかでかと命令がかかれ、それ以外には変哲のないわら半紙である。
 ヒバリは天井に向けて手紙を透かせてみせた。何も見えない。
「僕は思うんだけどね」
「はあ」
「綱吉が脱ぐしかないね」
「はあ。……――って、なんでっ?!」
「サービスシーンだからだろうね。さぁ、わかったら脱いでもらうよ!」
「うわああぁぁ!!」
 なぜかトンファーを構えるヒバリに、どこからだしたんだ!
 と、内心でツッコミながらドアへと転がるように駆けて行く。
 しかし、ドアを開けるとツナは絶叫した。扉の向こう側はぐにょぐにょと歪曲していたのだ。
「ど、どこだ。ここは!」
「だから、夢だろうっ」
「うわぁっっ」
 頭を抱えてしゃがむツナの襟首にトンファーが差し込まれる。
 そのままビリビリと破かれて、 ツナはぎゃあぎゃあと悲鳴をあげた。
「やめて! ひどいっ」
「あんまり普段と変わらない気がするけど、服装がかわるとなかなかイイね」
「何の感想ですかソレはッ」
「まだツッコム余裕があるわけ?」
「ぎゃあああああ!!」
 最後に、 無造作にトランクスを下げられてツナはその場にしゃがみこんだ。
「ち、痴漢だ! ヘンタイだ!」
「そんなことを言われても。君ってしょっちゅう露出してるじゃないの」
 いつの間にか手からトンファーが消えている。
 愉悦に染めた瞳に見下ろされ、ツナは心底から恐怖した。
「だから、これくらいやって初めてサービスになるわけだ」
 腕をひっぱるヒバリに、ツナは初めて全力で対抗した。ヒバリがニッコリと微笑む。
 黒パジャマで普段より黒い面積が多いせいか、悪魔そのものにみえた。ツナには。
「ここまで来たらムダだよ……」
「ひっ……。ヒィイ!」
「さあ! オールヌードを晒すんだ!!」
 両腕を引き上げられ、すっぱだかで磔のような格好にされる。
 ツナは瞬間的に理解した。誰に向けてのサービスであるのか。誰が見るものであるのか。
 奇妙な夢の効果なのだろう。わかったとたん、ツナは絶叫した。夢をゆるがすような大絶叫だった。
「ぎゃあああああ――――っっ!!」


 ヒバリは、上半身を起こすなりポンと手を叩いた。
 古風な反応であるが、自室なのでそれにツッコム者はいない。
「なるほど。あの大絶叫で、夢の世界をぶち破るわけね」
 時刻はまだ明け方だ。耳には、キィンとくる叫び声が残っていた。
「変な夢……」
 頬を撫で、部屋をぐるりと見渡す。
  クス、と、 口角があがった。
 ごろりと寝転がる。
(でも、また見てもいいかな)

 

「ぶっ!!」
 ベッドから飛び起き、獄寺はティッシュ箱を探した。
 両手で抑えても抑えてもボタボタと血が落ちてくる。明け方だ。カァカァと鳴き声がする。
「な、なんて夢……。十代目!」
 体中がかっかと熱い。ヒバリは気に食わなかったが、それよりも。
 思い出したとたんに血の量が増えた。
 獄寺は、慌てて二箱目を調達に向かった。
 もう眠れそうにない。
 血塗れで笑顔の少年を見つけ、窓辺のカラスが悲鳴をあげた。

 

「…………」
 ディーノは書類の束の上で目を開けた。
 書類処理の激務に疲れて、三十分だけ仮眠をとることにしたのだ。
 それは覚えている。しかし、夢のなかみも覚えている。
「……。まだ、仕事しなきゃなんねえのに」
(ヒバリって誰だ? ツナ、すげえ久しぶり)
(ツナ、かわいかったな。変わってねえ。いいな)
(会いてえなぁ。これ、片したら日本に行こうかな……)
(あああ。だめだ。一週間後の会議は外せねえ)
(しかしヒバリって誰だよ。ツナのとこと制服ちがくないか?)
(ああ、でも嫌がるツナもかわいかった)
(いい夢だったなー。おれのがデカいんだな。へへへ)
 一人で照れながら、ころりと首の向きを変える。目を見開いた。
 大量の書類がうずたかく積まれている。仮眠中に追加されたのだ。
 慌ててペンをとるも、集中力が持続するわけもなく。ディーノは書類につっぷした。
「つ〜〜なぁ〜〜……」


「ん〜……。まぁ、諦めろ」
  リボーンは拳銃片手に赤子らしいコロコロした眼差しを注ぐ。
「あと山本と笹川兄妹とハルとフゥ太と……。まぁ、お前の友人連中全員だな」
「うわあああああ!!!」
  ベッドの上で悶えるツナ。
  飛び起きるなり、リボーンをハンモックから突き落としたのだ。
  もちろんリボーンはひらりと着地したのだが。そのときから、銃口はツナの額に押し付けられている。
「やっぱり、お前の仕業なんだろ?!」
「どうだろうな。世の中にゃ不思議なこともあるもんだぜ」
「ウソだ! リボーン以外に誰が!」
「まぁ、イタリアンマフィアの世界には愉快な罰ゲームもあるってことだ」
「マフィア? ランボとかの仕業ってこと? 俺を辱めたい刺客とか」
「日干ししてた『罰ゲームの手紙』が飛ばされた。拾ったの、ヒバリだったんだな〜」
「やっぱりお前じゃないかー―――っっ」
 体をもんどり打たせるツナに、リボーンは呆れた顔をした。
「うっせえな。ンなビビるなよ。オレなんか、いつもママンに見られてるぜ」
「そーいう問題じゃっ……」
 言いかけて、ハッとする。
「リボーンも見てるのか?!」
 殺し屋は、目をパチリとさせた。
 まじまじとツナを見る。ニヤリと口角があがった。
「見た。モロに」
「ぎゃああ――――っっ!!」

 ごろごろともんどりを打つツナに、リボーンは密かにほくそえんだ。
(やばい。めちゃくちゃ面白いぜ)


 その朝。
 格好が格好か、どことなく態度はおかしいものの。
 夢についてアレコレといってくる者はいなかった。山本少年をのぞいて。
「や〜。ビックリしたぜ。ツナ、フルチンなんだもん」
「ぎゃあっ、ぎゃ、あああっっ!!」
 なぜだか、口止め料としてヤキソバパンをおごるハメになった。
 しばらく寝たくないと思うツナだった。
 

 

 




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最初の拍手お礼小説です。
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