※人によっては大嫌いなs…のあのネタです※
※スペード×ツナです※
※スペジョ・骸ツナも含んでます、かなり扱いが酷いめ※
※パラレル・みんな(一応)ふつうの人※
※両思いのスペツナ…?と悩んだら変なふうに軟着陸しましたという※
光は、
聞いたわけではないが、感じた。本当の報せは自分よりももっとその人と仲がいい他人から聞かされた。
アイツは死んじまった。赤毛の男が本題から入る。
「そうですか」
表情もなく青毛の男が返す。
向こうが睨んだ。ずいぶんと長い時間だった。ようやく溜飲を押し下げると自分を納得させるように荒く吐き捨てた。
「あのバカは、オマエも葬式に呼べって説教した。だから、出ろよ。少しでもジョットに救われてたと思うンならな!」
「あの病気は」
「あん?!」
ジャケットを引っつかみ、乱暴に喫茶店を出ようとした背中がふり返る。
テーブルには、葬式場の案内状が放ってあった。
「投薬を続けていればもっと長く生き長らえたかと思うのですがね」
「…………。拒んだんだよ!」
「なぜ? 身寄りがない彼でも寄付する者はたくさんいたでしょう。それこそ私だって彼に頼まれれば腰を上げたかもしれない。どうして愚かな選択を許す必要が――」
「うるせえ。アイツは馬鹿なんだよ。どこも馬鹿ばっかだ!」
店中の注目を集まるが、青毛の男だけが残る。
しばらく窓を眺めていて、睫毛を繰り返しはためかせた。一時間もするとコーヒーのおかわりはいるかとウェイターが尋ねに行った。
それを断って、伝票を手に取った。
冬の空は遠いところにあった。
くしゃくしゃの緑色のジャンパーはフードがついていて、モノトーンで色味を抑えている洋服と合わせると灰色の冬にポツンと取り残されたようになる。普段の帰り道とは違う道を進んだ。まったく知らない道をずんずんと歩いた。知らない町だ。
地下へ続くクラブの看板を見かけて、その黒板色で葬式状の案内を忘れてきたと気がついた。
「…………」
頭の芯が呆ける。何も考えられなくなった。どうしてこんな場所に歩いてきているのだろうか。店に戻ろうかと真剣に悩み始めたときには日が暮れていた。
(はやくしないと店が閉まる――)
ぞっとした。普段なら大したことがない心配の筈なのに息ができなくなった。
(だが、)あそこには。行ったとしても。
「また明日な」
「ばいばい」
近くにある学校から生徒が出てきた。焦躁から目を見開かせてハァハァしながら彼らを見送る。息が荒い。脂汗がにじみでてきてこめかみから一筋垂れた。動悸がする。
不審げな眼差しが尽きることなく突き刺さる。頭のほうに特に。
そうして唐突だった。喫茶店に忘れたものが吹き飛んだ。一歩を踏み出せばもう止められなくて手に掴みに行く。
細い、絹のような手触りのする細くて小さな手首だった。
(ジョット!!)
握りしめる。あまり暖かくなくて冬の寒さに感化されている肌だ。見たことのない学生服――チェック柄のジャケットに青いネクタイ――、見たことのない目の色。髪の色も違っていて、記憶のなかにいる人物よりも髪が短く切ってあった。
薄いブラウンに、青い影がぼんやり滲んでいる。目と口を呆けさせている人がいる。
「……あ……」
「――――」下校中の、少年だった。ブラウンの髪の男の子。
手首を掴まれたまま、こちらを見上げて、それきり沈黙している。驚きで正円にちかく瞳が丸くなっていた。
(……――――)ぐるん、天地が逆転するような不快感が喉に押し寄せた。不快感以上に吐き気がして仕方がなくなる。胸が押し潰されそうになった。だが喋らなければならなかった。
「これは、失礼しました」
「…………」ブラウンの髪の少年はまだぽかんとしている。
食い入るように見返す。青い髪の男は、手を離し、踵を返した。しかし視線は少年から離せなかった。粘着テープかなにかで貼りつけたような――、日差しの入る病室で、外に咲いている花を見つめていた横顔を思いだしてしようがなかった。面差しの似ている少年が、脳に貼りつくのか、それとも記憶の彼が脳にこびりついているのか、判別がつかないが耐え難い痛手だった。
たった数秒のあいだで打ちひしがれてこうべを垂らした。いないことは分かっている筈だったのに、女々しさに腹が立った。
「……わたしの知っている人に、似ていたものですから……」
凝視していても驚くほどソックリだった。
目の形。輪郭。体――、は、身長がかなり低いが、だがあの男を若返らせたような姿だった。
似ている。生き写しにちかい姿が、それだけで衝撃的でしばし呆けるが。通学路である。突っ立っている男には視線が集まる。
――では、短く伝えるつもりの言葉が、違う意味をも持った。
「サヨナラ」
「待ってください!」
ジャケットの後ろを掴んできたのは、それまでずっと唖然としつづけていた少年の方だった。
彼は髪を揺らして両手で縋りついた。
「あ、あなたっ……」じいと、食いつくような力強さで顔を見つめてくる。熱心だった。一目見ての気弱な印象とはガラリと変わって彼は必死になって叫んだ。
「お、お茶でも。オレといっしょにどこかで休みませんか?!」
少年は誰かを誘うのは苦手な様子だった。
*
ブラウンの髪の少年は金がないと言った。初対面の、しかも学生をホテルに連れこむわけには……というのは建前だ。あの男にこうも似すぎている相手を誘いだすのは気がひけて、来る途中で見かけた公園まで戻っていった。
青い髪の男が缶ジュースをふたつ持ってベンチに座る。少年は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「…………」
みればみるほどよく似ていて、ジュースも開けずにただ少年を見た。
「……」缶ジュースを開けて、オレンジジュースに一口をつける。少年は何度もこちらをうかがう。髪型をひどく気にしていた。
「あの」ようやく口火を切っても、髪型についての内容だった。
「その髪型は、あなたが……考えて?」
「ええ」
「昔、から? ここの近くに住んでいたんですか? 誰かのマネをしたりとかしました? それとも誰かに教えたりとか?」
「門外不出ですよ」
「どうなってるんですか、分け目は」
「企業秘密ですよ」
手をやり、前髪を軽く整える。今日は風がないので後頭部の房は乱れない。
少年は、まじまじ、髪ばかり見てくる。
「…………」青い髪の男も少年の容姿が気になっていた。ベンチにかけながら見下ろしているとかなり長い時間を思いがけずに見つめ合っていた。
ぽつり、青い髪の男が語り始めた。
「私を変わった男だと思いますか。確かに変わっている自覚はありますが、だが私以上に変わっている輩が実在したのですよ。過去の話ですがね」
「あなた、以上に?」
少年は傷ついたように眉を寄せた。
飲むつもりのないジュース缶を両手で持て余しながら、空を見やる。
冬の空はいつもよりずっと高い。吐き出す息が、暖かい。
「決して友人ではなかったのですが……。騙して騙してだまして、だまされて。裏では意地を張り合って表では仲良くしていた。私がきつねなら彼はたぬきというように。つまらない、けれど私が私らしく過ごせる時間だった」
男を注視していた少年は、五分ばかり黙ったあとで最初の質問を肯定した。
「変わって、ますね。ほんとに」
「そう思いますか?」
「ハイ。変なのにな。なんで、そういう人達の言葉のほうが、胸に届きやすかったりするんでしょうね。そうおもいませんか?」
「私にはわかりませんね。あなたの言う『変』の部類に入っているなら尚更」
「憧れちゃうからかなァ」
囁きは思いつめていて、なかば動物の勘でもって男は悟る。
この少年は自分に語りかけてはいない。
男も、そうだった。出会ったばかり。他人。彼とそっくりの男の子に身の上話をしているつもりはなかった。
頭に残り、体に刻んである思い出に語りかけていた。
「……………………」
あかね色の帯が空から薄くなっていって、次第に夜が近づいてくる。あたりの外灯がジジッと鳴ってから光をつける。
たまに男が喋り、それに少年が感想をもらす。
互いにやや的外れのことを答えていて、空か相手かのどちらかしか見なかった。ときには見つめ合ったまま語らった。
「私はイグアナを飼っているのですが、彼らを撫でていると安心する。水槽のなかで皮を光らせる彼らにいやされる。爬虫類は苦手だという知り合いがいたが、彼がカエルを見ただけで嫌がる場面は見応えがあった」
「嫌いだっていってるのに、わざわざ見せにくるやつって、いますよね」
「反応を見にきているのですよ」
「いますよね、そういうやつ。性格悪いの」
「その相手に見せるのでなければ、その相手からの反応でなければ、いけないこともあるのでしょう」
「そうなんですか……。イヤな感じな……」
「…………」暗くなってくると、少年の目尻がにわかに光っているのがよく見えた。
電光を浴びて、きら、きら、機械的に光る。
ふと思いだそうとしてみれば、男は、その人の苦しんだ顔をほとんど覚えていなかった。物理的な理由ではなくて、精神的な理由において。泣いている場面なんてまず無かった。
どんどん暗くなる。
また、ぽつんとどうでもいい類の話を始めようとしたときだ。
「あそこです! 先生!」
公園に悲鳴のような声がとどろいた。
黒い髪の女生徒が、肩を弾ませて指差してきている。公園の外から走ってきていて赤ジャージの成人男性がとなりにいた。
「沢田! 無事かぁっ」
「不審者がツナさん連れてっちゃったんですよぅ! 助けてくださいっ!」
入り口の坂を駆けあがって走ってくる。
青い髪の男がベンチを立った。逃げようとするが。だが少年は缶ジュースをこぼして後につづいた。
(何……?)ふしぎにはなったが、放っておいた。行きずりの相手には変わりなかったからだ。
公園の柵を越えて、手近なフェンスをよじ登って工場の敷地を横断する。軽々とやってみせる男とは違って少年がモタついた。フェンスを昇ったものの、足で跨ぐのに勇気が足りないようで、コアラの子どものようにしがみついたまま動けなくなっていた。
「…………サヨナラ」
心臓を筋肉のクッションから引き剥がされるようだった。顔が、つらかった。あの顔が。痛みがはげしくて心臓にクる。
だが、潮時だろうという思いが強かった。踵を返せば少年がはじかれたように叫んだ。
「骸!!」
(……む、く?)
聞き慣れない響きで、何を言ったのかわからなかった。
きちんとふり向けば、男を不審者と糾弾した少女と、教師が、フェンスまであと数メートルの距離にきていた。学校近くを徘徊していた不審者として捕縛されるのは人聞きが悪すぎてさすがに男も嫌だった。
「――骸っ!! 置いてかないでっ」
フェンスから転げ落ちそうになりながら、手を伸ばしてくる。
ブラウンの髪の少年、その目は正気ではなかった。動転して我を失って、この世にないものを追う者の執念の目つき。
青い髪の男も同じようなものだった。助けを求められている。その顔を苦しげにクシャりとさせて、涙で叫び、求め、渇望してくる指先に。どうして反射反応を起こさずにいられるのだろう?
駆け寄っていって両手を広げた。静かにうめく。
「飛びなさい」
かばんを捨てて、少年が胸に落ちてきた。
*
いよいよ通報されるだろう。青い髪の男もさすがに額が青褪めた。
まだどの犯罪も発覚していないが、よりにもよっていちばん発覚が危ういものが未成年略取だとは――、華麗な略歴とは程遠すぎて眩暈がする。
しかも、知り合いによってはブラウンの髪の少年をひと目見られただけでアウトだ。色々な理由で。知られたくない。
(似すぎている)いっそ憎々しくもなってそっとうかがう。少年は従順だった。文句も言わずに走ってついてきて、夜の工場の一室に身を隠した。
「大通りに出たら、金を渡しますからタクシーで帰りなさい」
「…………」
冷えてきている。事務所は暗い。先程からろくな会話が成立せず、少年はあきらかに落ち込んでいた。イスにかけて、誰のものとも知らない事務机に両腕を寝かせ頭を隠している。
「…………」不法侵入だ。
勝手に湯を沸かしてカップラーメンも食べたし、飲み物にも手をつけた。場所がわからないが朝になる前に出て行くつもりだ。
カタん、かたかた、窓が揺れた。
青い髪の男は少年を眺める。恐ろしいほどに似ている。それだけで価値が。
(……あるのか?)自問する。日だまりによくいてよく食べてよく眠っている人だった。決して仲が良いワケでも、信頼しあっているワケでも、なかったが。
(…………)
少年が、もぞっと動いた。
机に上半身を寝そべらせたまま目線を持ち上げる。息が止まるような、扇情的な信号を受けたのは彼の目が涙を浮かべているからだった。
「むくろは、」
それから少しずつ語られた。
今度はブラウンの髪の少年の番だった。大事だったけれど大事だと思っていなかったクラスメイトがいたのだという。
「うっ。う。す、すみま、せん。似てたから……、よく似てたから」ひどく残酷な言葉をかけられている気がする。けれどお互いさまだと男も身の上話のはじめから分かっていた。
距離が、一メートルもない。窓を背中にダンボールにかけている男と、机に突っ伏している少年と。
「つい……、いっしょにいるだけでも、い、いたくて」
「……わかりますよ、その気持ち」
深く共感できる一方で、まったく無味乾燥な砂漠に立つ気分にもなった。
この少年とは恐らく誰よりも分かり合えないだろう。
「そ、そばにいたくて。違うって、意味ないってわかってるのに。でも少しでも一緒にいたくて……、すみません」
「分かりますよ。私も、君から離れたくない……、それは本心でしょうから」
心を重ねるとは、本来は癒しの役割を持つのに。他人どころか敵と会話を保つような子憎たらしさが同伴する。
「すみません……、すみません」
「…………」泣きながら机に額を擦りつけて少年はどこかを見る。
その横顔がそっくりだった。窓をよく見ていた。外に焦がれていた。いつか自由になりたいと言っていた。あの燃えるような色の眼差しが記憶に鮮やかに沁みる。
(自由に……)男が思い返してみれば、確かに、報せを聞く前に感じるものがあった。彼は好きに歩いていたのかもしれない。この、現世へのお別れに。
「――私も、あなたも、」自由意志において空に飛んでいく小鳥を胸に思い描いた。
現実には、世界は殺風景で木の一本もなくろくに外灯もなくあたりは闇夜に支配されていた。
「自分勝手な馬鹿どもに取り残された側というだけ。みじめですね。こんな時間を過ごさなくてはいけないなんて」
「……骸、は、おれのかわりに……」
「泣かないほうがいいですよ」
「でも……っ」
「戻ってはきません」
「……っ」噛みしめるような悲鳴がする。嗚咽に変わった。数分で止んで、それから長いこと沈黙する。ブラウンの髪の少年が、顔をあげた。思い出の影とそっくりな顔立ちが、力無く微笑んでみせる。目元は真っ赤だった。
「おれ、は」笑っているのに涙がまた新しく頬を伝っていた。
「……現実を受け入れるのに時間がかかってしょうがなくて……、もう四年も前なのに……、でも、だから、あなたをみたとき、生まれ変わってきたのかなとか、ちょっと考えちゃって。すみませんでした」
「贋作は、贋作にすぎませんよ」
強く見つめながらそう言う。本気で喋っているつもりだった。
通じあう気配はある――、それこそあの人そのものよりも格段に。互いに似た傷を持っているから。だが男には世界でいちばん遠い相手なのだとわかっている。あの人は恋人のような存在感があった。
「うん。ニセモノ……って、わかって、るんですよ。これ、でも。ハイ」
「そっくりさんに、……求めたところで、」
悲観もしすぎない。楽観もしすぎない。それが信条の筈だった。
しかし少年から目が離せない。目元をごしごしと手で拭って、あどけない顔で男を見返してきている。思い焦がれるような眼差しを向けられるのすら胸が騒いだ。
「ごめん、なさい。おれが自分のために区切りつけたかったんだ。先生とか、ハルに、変な誤解させちゃったけど頑張ってといてきますから!」
「…………」息がつまってやるせなくなる。
手を伸ばした。少年の右手を取り上げるための自分の手が震えている。青い髪の男はぎりぎりした音を不思議がった。歯軋りしていて何かを耐えていた。いつも。窓にうつる眼差しがこちらを見ている。何か物いいたげにしているときが。どうして。言って欲しかった。
少年の腰は、細かった。そんな些細なところまであの男とそっくりで、抱きしめていると彼もそうだったのかと狼狽する。こんなに暖かかっただろうか。息を止めたままキスをしたので向こうがヒュッと喉を鳴らしたのが鮮明に感じ取れた。
少年は、涙の上から顔を崩して悲しんでいた。キスそのものに対してではなかった。
「……あなたの人に、こういうのしたことあるんですか」
「なかった」
肩に震えが走る。
「一度も」乾ききっている両眼に、血走る痛みが駆け抜ける。カラカラに乾いた砂漠の大地は地割れが酷い。頭のなかまでヒビ割れて砂にまで崩れていく。何も残らない。
少年は、またぽろりと泣いた。あの男とはまったく違う情けなさで、贋作もいいところだ。少年にとっての男もそうだろう。
躊躇いがちに、少年が、胸に顔を埋めた。褪せた色のジャケットが開いているから、下のシャツにまで顎をうずめる。
「おれ……も……、好きだって言ってくれてたのに」
「……………………」
認めがたい、耐え難い熱が下半身をいたぶった。少年が背中に腕を回してくる。男の方も背を抱いて小さな体にしがみついていた。膝が崩れると縋りつくかたちになった。ジャケットの背中に指が立てられる。しがみつきあって、震えているだけで時間を止められる錯覚がした。必死になって抱きしめているとやがて朝がきた。
朝は、今までのものと変わらなかった。
*
「沢田」と、少年の名を呼べば彼は驚いた。いつ名乗りましたっけと自分のことを訊いてくる。
「呼んでいたのを聞きました」
「あ。そっか……。あ……。お、おれも、聞いてもいいですか?」
一晩が過ぎてみると、なぜだか、あれほどジョットに似ていると感じた少年があまり似ていると見えなくなった。名前を呼んだせいか。個人として認識したせいか。
沢田は、ツナとも呼ばれていたと思いだす。青い髪の男は両眼をしならせる。
「……必要なのでしょうか?」
「教えてくれないんですか」
ショックを受けたように、ガァンと、すぐ額を青くする。
その素直な反応は少しだけ面白かった。これほど似てるのに違うなんて。あの金髪の髪に炎の色をした瞳を持った男を思う。少年のなくした人も思う。
工場のフェンスをよじ昇り、敷地を出た。朝日がまばゆく殺風景だった夜を取り払う。数時間とまたずにここも人で満たされる。なぜだか清々しい。
気が変わったと前置きしてから青い髪の男は少年に手を伸ばした。ジャケットのポケットから引っこ抜いた万札の束を握らせる。
「私はデイモン・スペードでどうぞ。あと、これ。また会ってください」
「……な、なんでお金払うんですかっ?!」
ぎょ、と、少年が目を丸くした。後に彼が語りぐさにするエピソードだ。
11.3.20
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