視聴


 けっこう好きなんでしょうと問われて否定する理由がなかったし腹は立ったが勿体つけてぶらぶらされてるビデオカメラが気になったので案内されるまま視聴覚室の椅子を引いたところ床に染みができているので目で追えば点々した染みがスクリーンの向かいに集中しているし何かをこぼしたようだが後ろの六道骸に訊いてもわかるわけがないので眉を顰めるだけにして上映の開始を待ったが骸は一向に始めず含み笑うので沈黙は退屈に変化するしやっていられなくなって席を立ったところに骸はようやく暗幕を引く。暗転、薄闇。シルエットが制服を着て目鼻をつけてるくらいに見える適度な暗さに満足して腕組みして椅子にふんぞり返ったらいい気持ちになってくるけどあの骸がしもべのように動き回って上映の準備をするから気持ちがいいのだとわかっていたからワケもなくざまァーみろという気持ちになってくるそこで目を瞑っているとじりじりっとテープが巻き戻されて音で現実に引き戻されて視線を感じてすぐにまた戻ってきた不快感でため息をする。にやにやしながら僕を見るな。
「何? そんなに面白いもんなんだろうねえ。それ」
「気に入りますよ」
 再生ボタンを押す指が白いが年代物のビデオカメラも白くて六道骸の立ち振る舞いもどこか年代物っぽくて目障りで眉根を寄せたが再生も投影も始まったし骸は僕の後ろに下がってくるしそこまで気を許した覚えはないしでも骸はたまに面白いものを持ってくるのでこれくらいは許すことにしてこいつの趣味は気持ち悪いと思うほどに歪んでいるので見物でもあるからビデオテープに興味を持っているけど多分あの子の名前を最初に出されたことが大きいのだから視線はスクリーンに固定していたわけで数秒の暗転が開けてあの子の足を映したシーンから始まると心臓はひやりと冷えた。
「何をしたの」
「見ててくださいよ」
 ちらりと肩越しに見遣れば六道骸は爬虫類になっていたそれは正確な例えでないがそんな陰湿な印象を受ける笑みが口角にあるので間違いではないと思うとそこで画面のあの子が小さくうめいて身を捩ったので一つの憶測が閃いたが本気にするのは疑わしいし骸を振り返れば今度こそ奴も僕の反応を伺っていたからこれこそお前の望みだろうと思って
「質問は二つだよ。いつから、どこまで?」
「去年の暮れからですから三ヶ月前からですね」
「僕にこんなもの見せてどうしたいのさ。二つ目を無視したのは故意かな」
「わざとじゃありませんよ。挿入までです」
「充分じゃないか。殴ったの?」
「雲雀くんでも殴るでしょう。君は僕に似てるから大体同じことを考えると思いましたよ。そろそろ誘おうかと思っていたんです。君だってボンゴレファミリーに飼い殺しにされたくないと思っているはず」
 だからこちらから飼い殺しにしてやるって気持ちはわからなくもないし悪くもないし誘いを断わる理由も見当たらなかったが胸の真ん中で疼くものもあるので骸を無視するように装ったがスクリーンを見続ける態度で真意は悟れたらしく六道骸は勝ち誇った声で告げてくる。
「この子は耳が弱いんですよ。こうされるのが苦手なんです」
 スクリーン上にすぅっと人差し指を押し付けて指の腹で映し出された肌色をなぞり聞き入るよう目を閉じるとほとんど同時に猫が鳴いたような甲高い悲鳴が満ちて視線を引っぱられた先であの子が毛布を掻き毟って泣くのが見えたが揺すられる度に不自然に体を振り子にして甘く叫ぶので悪くはないんだと読めるし小刻みな痙攣が大きくなってくことからも悦の深さが予想できたしその通りに数秒待たずにあの子が頭を振り乱して戦慄いて低く笑い声が映像に混じってあの子の後ろから伸びた手は濁った白液を掬い上げてビデオカメラの真前でぬるぬると擦り合わせて赤く腫れた性器を引っ張り出してカメラに突き付けた。余韻に痙攣しつづけている局部を見下ろし冷たい言葉を囁きかけて肌に掌を這わせていってあの子に自分からはどういう風に見えるとか身体がどれくらい貪欲に刺激を貪っているかを丁寧に教えてやってびくびく痙攣する背中を擦りながら語り聞かせる中でカメラを動かして下肢に埋め込んだ玩具を大きく写して黒光りするそれを掴む。絶叫、慟哭。喉を詰まらせたような不自然な悲鳴を追ってカメラがあの子を大きく写すなり耳までを赤くして中止を訴えたがあの子の声から甘さを消し切れない上否定するのも弱弱しくて本当に嫌だと伝えるには迫力が欠けるとあの子は遂にカメラを手で抑え付けて画面が揺れたらスクリーンが映るしそれでピンとくるから視聴覚室に入ったときに感じた異変が蘇って理解が出来るところであの子は玩具による高みを強制されていて毛布に抱きつきすすり泣きながら吐精してまばらな染みを床に散りばめるとぞくぞく寒気がする。こんなところでやったのかと思うと目が勝手に床に付着した染みを追いかける。
「どうですか?」
 声をかけられてハッとしたのは夢中になっていたからとあの子の反応が僕好みだったからだが
「悲惨極まりないね。赤ん坊に教えちゃおうかなあ。だーいじな寵児が悪魔のおかずにされてるってね」
「それは君のことですか」
 にこっと無駄に爽やかな顔を演じてみせるので六道骸とは反りが合わないと心底から思うしビデオのあちこちに写るこの男の手足は実際に邪魔でしょうがなかったので厭味も真正面から受けてやる。
「噛み殺そうか。自分が優位な立場に立っていると勘違いしてない? 確かに君が隠してるものは魅力的だけど、僕は君らの秘密を知ったワケだよ。他のやつに黙っていると思うかな?」
「ええ。君も蜜を吸いたがるタイプだから」
「タイプだって? 骸に僕の何がわかるのか知らないな」
 スクリーンの淫行は電気信号の寄せ集めに過ぎないがにゃあにゃあと甘く喚きたてられると意識は反れるから自然と唇が笑んでくると骸の体を蹴ろうと足を掲げて簡単に足首を掴まれて転げまわって身体を苛む玩具を掴まれたら甲高い悲鳴をあげて石みたいに硬直する。少し自分が照れて来たことを自覚したが、まだ見たかったので衝動的な欲望――つまりは六道骸に殴りかかりたいというのを抑え付けるとそれは完全に消えていったから僕も正直なワケで要するにこの危ない遊びに加わりたいみたい。
「条件は? 本当のことをいいなよ。僕を一味に加えてどうしたいの」
「まずは日本から壊してやりたいと思いましてですね、君が持ってるネットワークにちょおっと……。用がありまして……」
 非現実的なことばかりを口にする六道骸の異常性だとかどこまでが本気かといった論議はおいても言葉通りには受け取ることができないとスクリーンの骸が楽しそうにあの子を苛めて蝕んで嬉しげに触れるせいで見たままの印象なら六道骸は海の深さを知らずにあの子の懐に押し入ってそのまま溺れてる不様な爬虫類のようだけど
「もっと苛めたいの?」
 すぐには返事をしないのでやはり不様な爬虫類という印象が強くなるでも両生類かもしれないと考え直してみれば確かにこの少年は体温が低そうだ。
「そりゃあ憎い相手ですから。でも、これほどあっさり了承するとは思いませんでしたよ。雲雀。もしかして沢田綱吉を好きだったんですか」
「苛めたいと思っていたよ。赤ん坊にはそんなこと思わなかったけど」
 視聴覚室の床に這いつくばってる二人は獣のようで滑稽で面白かったし興味深かったしでも引力に逆らって振り向いて手を伸ばすのも刺激的で胃袋の裏側がちりちりとすると、六道骸は、唐突に右腕の肘に触れられても微動だにしなかったけれど目の奥をギクリと硬直させるので人に触られるのは元来大嫌いな男なのだとわかったから堪らなくなってくる。
「好きっていったかい? 笑わせたいのかな。僕は父の顔も母の顔も知らない。だから君がいうような好きとかの感情は覚えがないな。犬や小鳥は好きだけどね。喋らないから」
 骸は無言のままに後退って冷めた眼差しを向けてくるが僅かに動揺したことは呼吸の間隔が早くなったからすぐわかる。
「この話、乗ったよ。僕なりの抱き方でいいんだね。もう計画はできてるんだろう?」
「ええ。君は何も知らないフリをして僕らの遊びを目撃する。ツナ君を糾弾して、あとは、」
 何とも陰湿でトラウマになりかねないプランを紹介するのを背にしつつスクリーンと向き合っていると僕の鼓動も速くなっていったから致命傷を今すぐ与えてやりたくてうずうずする。本当は惚れたんだろ?! そのときの反応でこいつが爬虫類か両生類かわかるし溺れるまま窒息するのか這い上がってくるのかがわかるし僕の好奇心も満たされるしおまけにスクリーンのあの子もどうなるか興味深いので笑い声が漏れてしまいそう。骸に触れてみても爬虫類か両生類かはわからなかったから僕は僕でその日が来るまで沈めつづけてやるのに集中しようと思う。予想では爬虫類だ。だから溺れて死ぬ。
 嫌いな奴の死に際に臨むのは楽しいだろうから見届けよう。

 

おわり

 

 

 

 

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