ターミナルを小走りに駆けてくる影に気がついて、顔を明らめた。
「ヒバリさん! 来てくれたんですね!?」周囲を囲んでいた青年たちが振り返る。ニヤリと笑って帽子のツバをさげる者、ゲッと後退る者、片手をあげて歓迎するものと、反応はさまざまだった。
 ヒバリは一同に片手だけをあげてみせた。
「ああ。綱吉、僕を置いてくつもりだったの」
「まさか」ぶんぶんと頭を振る。髪の毛が揺れた。
 あげられた顔は晴れ晴れとしていて、ヒバリは目を細めた。
「チケットは用意してあります。きっと、来てくれるって信じてました!」
「そう。ありがとう。色々と待たせたね」
 ゆるりとした足取りで歩みよる。
「? ヒバリさん?」
「どうしたの」
「なんだか」
 口ごもる彼に笑みが零れた。
 何年かぶりに再会したかのような。慈愛に満ちたものだ。
 頭が沸騰したかのような錯覚がした。慌てて、言い切った。「感じ、変わりました?」
 ヒバリはニヤリとした。楽しげに。薄く開いた黒目には深々とした溝がある。
「彼ね、ショック受けちゃったみたいで。奥まで引っ込んじゃった」どよりとした黒を称えたまま、腕を組む。
「敗因は色々とあると思うけど。僕が内から綱吉が外から、両側からやられたのは初めてだったんじゃないの」
 意味がわからないというように首を傾げる、その脇を黒服の子供がすり抜けた。
「ヒコーキ、そろそろだぜ。行くぞ」
「わかった。……ヒバリさん、彼って?」
「まあ、でも君に会えて満足してるみたいだよ」
「満足? 俺に会えて?」にっこりと笑みがますます深まった。
「こっちの話。ホラ、行くんだろ? 乗り遅れちゃうよ」
 ワケがわからないと、目蓋をパチパチとさせる。ヒバリがその手をとった。
 とって引っ張りだす。眉を不審に顰めてヒバリを見上げる瞳は、やがて、いつもと同じ体温に安堵して緊張を解いた。手の甲には乱暴に包帯が巻いてあった。面倒くさそうに巻きつける姿が浮かぶ。十年前と同じだ。それから三年、五年と経った間も同じだったもの。今日まで同じだったものだ。
 ギュっ。と、握り返す。ヒバリもまた、握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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