淀み暗がり往きつけて

 痙攣の末に、綱吉が動かなくなった。
 揺さぶっても反応が薄い。開いた薄目には生気がなく、半開きの口からはよくわからない呻き声が漏れていた。
「随分と理不尽な比率じゃないの?」
 胸倉を掴んでもカクンと首が曲がるだけ。下肢は繋がったままだが、急速に熱が引くのを感じた。
 まだ丑三つ時にもなっていない。ダウンするには早すぎる。
「綱吉ばっか気持ちよくなって。僕はいいワケ」
 引き抜くと、綱吉が震えた。唇が酸素を求めて戦慄く。
 今日は家に帰りたくない。あんなところを家と認めるのも嫌だけど。ホテルに泊まる気にはなれなかった。誰にも会いたくない。
 そんな時、綱吉を見つけた。コンビニ袋を携え鼻歌混じりに過ぎっていく。僕には気づかずに。当たり前のように帰っていく後姿に苛立ちを覚えた。
  狂気じみた嵐のようなものだった。その腕を掴む。学校。応接室。僕だけの場所。たった一つの。
「もう綱吉もここの一部に組み込んでるんだ。ついてきてよ」
 やさしく言葉を吹き込んでも、閉じられた目は開かない。暑くもないのに息苦しい。全裸の少年とちがって、服を着たままだから?
 綱吉が持っていたコンビニ袋が目に付いた。部屋の隅に投げ捨てたままだった。漁ればペットボトルを見つけた。
 500mlの小さいサイズ。漂う日常の匂いに身震いする。虫唾が走る、と、形容していいものか。
 トプトプと顔面にむけて傾けた。ソファーが濡れたが、どうせすぐに乾く。
 綱吉は身震いしてペットボトルを押しやった。
「……――ひ、ひばりさん」
  声がしわがれ目が赤い。破けたシャツをすり合わせた。
「何すンですか。なんで、こんな」
「初めてじゃないでしょ」
「そうですけど。でも、いきなりすぎて酷っ……」
 足を肩に担ぐ。綱吉が息を飲んだ。
「続き。まだ朝になってない」
 ふたつの瞳が戦慄する。体の奥に熱が灯った。
 唇に噛み付けば弱弱しい抵抗に出会う。足を開けば喉で悲鳴。
 綱吉とのセックスは、見えない何かを手探りするようだ。ほぼ野性の感覚で、予感めいてる。
 ずっと欲しいと思っていた場所がここにある。行く途中なのか、着いているのか、通り過ぎたのかが、わからないだけで。
「綱吉。眠らないで、ホラ」
 目が閉じかける。映っていた僕が消えかける。
 ペットボトルに手を伸ばした。まだ、たっぷりと入っている。

 

 

 

 

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